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第二部 少年期のはじまり

第百三十一話 後処理と治療、そして旅立ち①

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 その後、ついつい(?)怪我をさせてしまったマッスリー君を医務室に連れて行こうとしたが、泣きわめいていてどうにもならず、シュリの予言通りにちょっぴりお漏らしもしていたので、ここは学校側に任せることにした。
 そっちの対応はヴィオラに任せたが、正当防衛を主張するために、自己治癒能力を向上させるスキル[自動回復]を無効にしておく。
 そうしないと、有無をいわせずに、せっかくあえて受けた傷が、きれいさっぱり治ってしまうから。
 少なくとも、事情を聞きにきた学校側の職員がシュリの怪我の具合を改めるまでは残しておく必要があるだろう。
 ということで、ジャズが心配そうに見つめる中、シュリはだらだらと血を流したまま、先生達をお待ちしたのだった。

 そうして駆けつけたのは、学校側のそこそこ偉い人だったらしい。
 その人は、王都の冒険者ギルドでもかなりの要職のようで、ヴィオラとも顔見知りだった。

 彼は、ヴィオラから事情を聞き、泣きわめくマッスリー君とシュリを見比べた後、深々とため息をついた。
 そして、シュリに向かって頭を下げて、学校の生徒が申し訳なかったと謝ってくれた。
 中々立派な人である。
 見た目もロマンスグレーで中々イケメンだ。
 ジャズも、頼れるタイプが好きなら、こういう人を好きになればいいのになぁと思いつつ、ご結婚はと聞いたら、まだ独身だと返された。
 その時に、ちらりとヴィオラに向いた眼差しを見て、彼の想い人を知る。

 彼をジャズに紹介することは出来なそうだが、とりあえず、スキルの影響を気にせずおつき合いは出来そうだと、シュリは愛想良く彼の質問に答えた。
 彼曰く、どうやらマッスリー君はそれなりに問題児だったらしく、正当防衛も認められ、シュリがとがめられることはないようだった。


 「これを機に、彼も少しは更生してくれるといいんだがなぁ」


 彼はやれやれと大きくため息をつきつつ、マッスリー君を引きずっていった。
 学校運営も苦労するねと同情しつつ彼を見送っていると、おずおずと近づいてくる人の気配を感じて、シュリは振り向いた。
 そこにいたのは、マッスリー君の取り巻き3人衆。
 マッスリー君の敵討ちか、と身構えたが、どうやらそういう訳でもないらしく、彼らから妙に熱い眼差しを受けて、ちょっぴり背筋がゾワゾワした。


 「き、君の戦いぶりに惚れた!!」

 「お、お兄さまと、呼ばせて下さい!!」

 「俺の兄貴になってくれ!!」


 目をキラキラさせてお願いされたが、間に合ってますのでいりません、と丁重にお断りして、ジャズの手を引っ張ってヴィオラの元へ避難した。
 そんなシュリ達を、ヴィオラはにやにやしながら出迎える。


 「モテモテねぇ、シュリ。よっ、この色男!!」


 かけられたそんな言葉に、シュリは心底いやそうに顔をしかめる。


 「男にモテても嬉しくも何ともないよ」

 「ふぅん。じゃあ、女の子になら嬉しいんだ?」

 「ん~? まぁ、反射的に拒否反応が出ることはないと思うけど」


 別に嬉しいも嬉しくないもないよ、と正直に答えかけて、隣から突き刺さる視線に気がついた。
 ちらりと横目でそちらを見れば、明らかにどきどきしながらシュリの答えを待つジャズがいる。


 (ここで嬉しくないなんていったら、ジャズが悲しんじゃう、ような気がする!)


 まずいと思って慌てて軌道修正。


 「えーっと、嬉しいか嬉しくないかといわれたら、どちらかといえば嬉しい、かも、しれない、よね?」

 「はぁん。やっぱりシュリも男の子ねぇ」


 この女ったらし、とヴィオラから人差し指でほっぺたをうりうりされつつ、シュリはちらりとジャズを確認。
 よし、悲しそうな顔はしてないから、答えの選択は間違えていないようだ。


 「そっかぁ。相手が女の子なら、嬉しいんだぁ。わ、私も一応女だし、大丈夫、だよね?」


 斜め上から聞こえてくる小さな声。
 丸聞こえだけど、聞こえてない振りをしてあげつつ、


 (っていうか、今の答えはまんまジャズに向けて言ったようなものだけどね)


 心の中で呟いて苦笑。
 そんなシュリとジャズの様子を、ヴィオラはちょっと複雑そうに見つめた。
 ジャズが変な男に引っかからなくて良かったのは嬉しいが、その次に恋心を向けた存在が問題だ。
 自分の孫が、とにかく異性を引きつける存在だと言うことは大分わかってきたが、目の前で純粋な恋心が孫に向いている様を見せつけられると、なんだか胸の辺りがもやもやするのだ。
 ちょっと前から、感じていたことではあるが、少しずつその感じが強くなってる気がして、ヴィオラは困惑する。


 (う~ん。孫バカすぎるのかしらねぇ? でも、それもこれもシュリが可愛すぎるのがいけないのよ~?)


 唇を尖らせ、シュリのほっぺたをむにっと痛くない程度に摘んだり揉んだりして弄びつつ、シュリの身につけていたグリフォンの着ぐるみに目を落とした。
 さっきの戦闘で、見事にぼろぼろで血塗れである。流石にこれ以上着続けるのは難しいと思った。
 どうしようかなぁと考えつつ、シュリで遊んでいると、


 「あの、ヴィオラさん?」


 ジャズから呼びかけられて、やっとシュリを解放する。


 「どうしたの? ジャズ?」


 小首を傾げて返せば、


 「あの、シュリの治療をして上げたいので、医務室に連れて行こうと思うんですけど、いいですか?」


 返ってきたのはそんな質問。
 ヴィオラは1も2もなく承諾し、


 「あ、そうしてくれると助かるわ。なら、私はひとっ走り、シュリの着替えを確保してくるから、それまでシュリの事をよろしくね?」


 シュリもジャズの言うことを聞いていい子にね、そう言ってシュリの頭を撫でて、彼女はすごい勢いで教練場を飛び出していってしまった。
 それを2人そろってぽかんと見送り、目を見合わせる。
 そしてどちらからともなく笑いだし、


 「じゃあ、シュリ。治療、しにいこう?」


 言いながら差し出されたジャズの手と手を繋ぎ、シュリはにっこり微笑んで、


 「うん」


 と素直に頷いた。
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