♀→♂への異世界転生~年上キラーの勝ち組人生、姉様はみんな僕の虜~

高嶺 蒼

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第二部 少年期のはじまり

第百二十一話 決闘の決着

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 ゆっくりした足取りで、フィリアとリメラの元へと戻る。
 フィリアはきらきらした目でうっとりとシュリを見ているし、リメラもなんだか、潤んだ目をしているような気がする。
 更に、その周囲の女の子達の目も、なんだかギラギラしていてちょっと怖い。
 更に更に、女の子達に混じって熱い視線を向けてくる男子生徒がちらほらいて、それもなんだか嫌な感じだ。


 (お、おかしいなぁ~。正直、全然かっこよくない勝ち方だったと思うんだけど)


 みんなは一体、あの戦いのどこにうっとりしてるんだろう?と内心首を傾げつつ、取りあえずその他大勢の熱視線はさらっと受け流して、フィリアの元へ歩み寄った。


 「勝ったよ、姉様」


 微笑み、そう報告すると、フィリアのきらきら笑顔がちょっとしょんぼりする。
 あれぇと首を傾げると、


 「さっきはフィリアって呼んでくれたのに……」


 とねだるように見つめられた。
 こうなってはもう、名前で呼ばなければフィリアの気持ちはおさまらなそうだと思い、シュリは苦笑を漏らす。


 「フィリアの事、姉様って呼ぶの、好きだったんだけどなぁ。姉様じゃ、だめ?」

 「私もシュリに姉様って呼ばれるのが嫌なわけじゃないのよ?でも、今は名前で呼んでほしいの。シュリは私のことを名前で呼ぶの、いや?」


 切なそうな顔でそう言われてしまえば、拒否することなど出来るわけもなく、シュリは仕方ないなぁと大人びた顔で微笑んだ。


 「わかったよ、フィリア。これでいい?」


 そう呼びかければ、フィリアは花がほころぶように微笑んだ。
 フィリアの笑った顔が大好きなシュリは、その可憐な笑顔につかの間目を奪われ、ほんのちょっぴりほっぺたを赤くした。
 そんなシュリの体をフィリアは優しく抱き上げて、


 「勝ってくれてありがとう。私の為に頑張ってくれて嬉しかった」


 心からの言葉を告げる。
 それを受けたシュリが苦笑して、


 「きれいな勝ち方は出来なかったよ?格好悪かったでしょ??」


 そう言うと、フィリアはそんなことないと首を横に振った。


 「すごく、素敵だったよ?目が離せないくらい」

 「そ、そう??」


 うっとりとそう答える従姉妹あねの顔を見上げながら、フィリア、目が曇ってるよ……と思いつつ、シュリは何とも微妙な表情を返す。


 「そうだな。すごかった。シュリのえげつなさは、見ていて清々しいくらいだったし、その容赦のなさは、その、中々格好よかった、と思うぞ?」


 横からリメラも誉めてくれたが、なんだか素直に喜べない。


 (普通に考えて、えげつなさも容赦のなさも、誉め言葉じゃないよね……)


 シュリは内心ため息をもらしつつ、それでも誉めてくれたのだからと、ありがとうと微笑みを返すのを忘れない。


 「シュリ君、すごいじゃないか!」


 そこへ今度は審判をやってくれていたフィリアの担任の先生がやってきた。


 「魔法は得意じゃないので、ちょっと見苦しい戦い方になっちゃいましたけど……」

 「いやいや、五歳という年齢であれだけ使えれば大したものだよ。それに、君は詠唱をしていないね?」

 「えっと、魔法に詠唱が必要な事を知らなかったので……」

 「ふむ。魔法は、独学かな?」

 「家にあった本で覚えました」

 「そうか、なるほど。だから、ちょっと変わった魔法の使い方をしているんだね。しかし、無詠唱で魔法が発動しているんだから素晴らしい。さすがは史上初のSSダブルエスの冒険者、ヴィオラ・シュナイダー殿の血を引くだけの事はあるか。特に、あれはすごかったね?」

 「あれ??」

 「ああ。左右の手でそれぞれ別の魔法を発動していただろう?あんな魔法の使い方が出来る人を、私は見たことがない。本当に、素晴らしい。シュリ君、大きくなったら是非この高等魔術学院に来てほしい。君が来てくれるなら、学園長に掛け合って学費はすべて免除にしよう。だから、いいね?進路に迷ったら、必ずここの事を思い出してほしい。君はきっと、素晴らしい魔法師になれるはずだから」


 先生はすごく熱心にシュリを誉めたたえてくれた。若干の勧誘も織り交ぜながら。
 だが、魔法は苦手だという意識のあるシュリは、誉められても素直に喜べなかった。
 シュリはちょっと困ったように笑い、先生にお礼の言葉を告げる。進路のことは追々考えてみる、との言葉を添えて。
 先生は頷き、とにかくよく頑張ったねと、頭を撫でてくれた。

 その時、だった。

 強い魔力の動きを感じて、シュリは慌てて後ろを振り向いた。
 そこにはボロボロになったエロスの姿があり、彼の唇はぶつぶつと何か言葉を刻んでいる。
 そして、彼の周囲には無数の炎の光。
 うわぁ、なんかやばそうだと思っていると、遅ればせながら先生もエロスのやっていることに気が付いて目をむいた。


 「あれはファイア・レインか。エルフェロス!!なにをやってる!?バカなことはやめろ!!」


 先生が叫ぶが、エロスの唇の動きは止まらない。
 あれは、呪文の詠唱なのだろう。今から止めるには、少々気づくのが遅すぎた。
 詠唱を終えたエロスがニヤリと笑い、手を振り上げる。


 「僕は負けてないぞ!シュリ!!この僕の最大の魔法を受けてなお、立っていられたら、僕の負けを認めてやろう!!」


 その言葉に、シュリは唇を噛む。
 自分一人であれば、恐らく耐えられる。
 怪我はするかもしれないが、恐らく死にはしないはずだ。だが、周囲の生徒達はどうか?
 シュリには、己を守ってくれるスキルはあっても、他者を守るためのスキルが欠如していた。
 魔法には魔法で対抗すればいいのだろうが、その魔法の威力は致命的な低さなのである。


 (こんな時こそ便利なスキルが手に入る場面だと思うんだけどなぁ)


 そう思うものの、いつもの奴はまだ来ない。
 一応先生達は生徒の安全を守るために動き始めてくれているが、果たして大丈夫だろうか。大丈夫だと、思いたいのだが。


 「水よ。守りのとばりとなり我らを守りたまえ。ウォーター・ヴェール」

 「風よ。我らを覆い隠し、その猛き風の力で我らの守りとなれ。ウィンド・バリア」


 フィリアとリメラの声が相次いで響き、三人の周りを水の幕と風の防壁が囲い込む。
 びっくりして二人を見上げれば、


 「大丈夫よ、シュリ。絶対に守るから」

 「ああ。水と風、二つの守りを重ねていれば、それなりに耐えてくれるはずだ。いざとなったらこの身を盾にしてでも守ってみせるさ」


 二人はそう言って、りりしく微笑んだ。
 更に、周囲でも、生徒達が身を守る為の魔法を唱えるのが聞こえる。
 それを聞いて思う。
 曲がりなりにもここは、国内の魔術の粋を集めた場所なのだ、と。
 教師達も、広範囲を守るための魔法を発動させ、エロスの魔法に備える。
 その準備が終わるのを待っていたかのように、


 「燃やし尽くせ!ファイア・レイン」


 そんな言葉と共に、エロスの腕が振り下ろされた。
 それを合図に、無数の炎が、文字通り雨のように降り注いでくる。
 守りはある。守りはあるのだが、やはり自分に炎が降ってくるというのは怖いものだ。
 シュリはフィリアとリメラの間に挟まれ抱きしめられたまま、ぎゅっと目を閉じた。
 その時、


 「こらぁ~~~!!こんな大人数がいる場所で、範囲魔法なんか使っちゃダメでしょうがぁぁ~~~」


 なんだか聞き覚えのあるそんな声。


 「えーっと、えーっと、こういう時はっと。反対属性の水か氷で対抗するのが定石だけど、威力を間違えるとひどい事になるしなぁ。うーん。考えるのが面倒くさいから、とりあえず風で吹き飛ばしちゃえばいいか」


 その声は更にそう続け、そして、


 「エア・サイクロン」


 たった一言で、あっさりさっくり事態を収拾した。シュリと同じ、無詠唱の魔法を用いて。
 目を開けると、目の前に銀色の髪がひるがえっていた。
 シュリ達を守るように立つその人が放った魔法の竜巻は、エロスが放った炎の雨を飲み込んで、一瞬で吹き飛ばしてしまった。
 彼の炎は、一つとしてシュリの元へ届くことなく、空の彼方へと消えてしまった。
 そのあまりの急展開に、周囲のみんながぽかんとする中、


 「もぉ~、炎系の魔法は殺傷能力が高いんだから気をつけないといけないのに、教師陣はなにを教えてるのかしらね!?」


 ぷりぷりしながら、さっそうと現れてみんなを守ってくれた人物はくるりと振り向いた。
 褐色の肌に銀色の髪のその人は、美しい蒼の瞳を優しく細めてシュリを見つめた。


 「シュリ?大丈夫??怖かったでしょ??悪い奴は、おばー様がちゃんと退治したからもう安心よ?」


 にこにこと、そう告げるのはシュリのおばー様、ヴィオラ・シュナイダー。
 シュリは目をぱちくりし、おばー様の綺麗な顔をぽやんと見上げた。


 「おばー様??」

 「はい、なぁに?」

 「二日酔いは、もう平気なの?」

 「ええ~??いきなりそっち??もうちょっと、ほら、助けてくれてありがと~、とか。おばー様大好き、抱いてっ、とか。そういうコメントが出てくる所じゃないの???」


 不満そうに唇を尖らせる様子に、シュリはくすりと笑いをこぼす。
 それをみたヴィオラも、また嬉しそうに微笑んだ。


 「うん。良かった、笑ったね。怖かったねぇ、シュリ。側にいなくて、ごめんね??」


 そんな言葉と共に、頭をよしよしと撫でられる。
 子供扱いだなぁと思いつつ、子供だからこれでいいのかとも思う。
 シュリは頭の上を行き来するヴィオラの手の平の暖かさを心地よく思いながら、しばらくは彼女のしたいようにさせておいた。


 (そうだ。おばー様を姉様……フィリアにも紹介しないとね)


 考えつつ、シュリはふと、さっきまでエロスがいたはずの場所に目をやった。
 だが、そこに彼の姿はなく、慌てて周囲を見回すも、その姿は影も形も見あたらなかった。
 まさか、と思い、にこにこしている祖母の顔を見上げる。


 「おばー様??」

 「ん?なぁに??」

 「つかぬ事をお伺いしますけど」

 「うん?どうしたのよ、改まって??」

 「さっきの魔法の術者はどこに行っちゃったか、ご存じでしょーか??」

 「ん~、さっきの火属性魔法をぶっ放した子なら、そこに……って、いない!?なんでっ!!」


 ヴィオラもまた、エロスがさっきまで居た場所に目を向けて、驚愕の声を上げた。
 取りあえずは、故意に抹殺しようとしたわけではないらしい。


 「僕の推測なんですが……」

 「う、うん……」

 「恐らく、おばー様のさっきの魔法で、一緒に吹っ飛んでしまったんではなかろーか、と」


 シュリのその言葉を聞いたヴィオラの顔色がさーっと青くなった。
 そして慌てて魔法を派手にぶっ放した方向へ目を向けると、あっと声を上げた。
 どうやら、彼女の目には、絶賛吹っ飛び中&落下中のエロスの姿が見えたらしい。


 「うっわ、やば!!落ちる前に拾わないと!!!ちょっと拾ってくるわね!!!!」


 言いながら駆けだした彼女は一瞬で音速を超え、あっという間に見えなくなってしまった。
 それを呆然と見送りながら、リメラがシュリにぽつりと問いかけた。


 「えっと、あれは、シュリのおばーさんなのか?」


 と。シュリはこっくり頷いて、


 「うん、そう」


 と短く答える。


 「随分若いんだなぁ」

 「ダークエルフ族なんだって」

 「なるほどなぁ。あれが、国王陛下の信認もあついヴィオラ・シュナイダー殿か。なんというか、とてつもない人物だな」

 「知ってるの??」

 「王都に住んでいる住人で、彼女を知らない奴なんていないさ。ま、姿を見たのは初めてだけどな?」

 「ふぅん?」

 「彼女がシュリのおばーさんとはなぁ」

 「驚いた?」

 「ああ、驚いたなぁ」


 二人は淡々とそんなやりとりを交わし、それを聞くともなしに聞いていたフィリアは一言、


 「あの方が、シュリのおばあ様……。大変。後できちんとご挨拶しなくちゃ」


 とそんな言葉をこぼすのだった。
 
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