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第四部 王都の新たな日々

第349話 蒼い影の正体は?②

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 「蒼い髪の女、じゃと?」

 「うん。心当たり、ある?」

 「その女は、妾の名前を知っておったんじゃな?」

 「彼女は、イルルヤンルージュを探してたみたい」

 「名は?」

 「サフィラって、ジュディスには名乗ったみたいだけど、本当の名前かどうかは分からない」

 「サフィラ……あ奴の通り名じゃな」

 「やっぱり知り合い?」

 「うむ。恐らくは。十中八九そうじゃろうな」


 神妙に頷き、イルルはちょっぴり青い顔をする。
 その横にいるポチとタマも浮かない顔だった。


 「えっと、あんまり良くない知り合いなの?」


 彼女達の様子から推測し、そう尋ねる。
 もし、訪ねてきた女性がイルル達の敵であるなら、飼い主……いや、主である己がイルル達を守ってやらねば、と思いつつ。
 だが、イルルは首を横に振って、否定の意を示した。


 「いや、悪い奴ではないのじゃ。生真面目すぎて面倒な奴ではあるがの。しかし、妾を探しにきたのが里の龍どもならどうとでも出来たが、まさか奴が出てくるとはの。面倒なことになったのじゃ」


 うむむっと唸り、イルルは難しい顔をして腕を組む。


 「里の人じゃないなら、その人はいったい何者?」

 「奴はの~、妾と同じなのじゃ」

 「イルルと、同じ?」

 「うむ。妾と同じ、上位古龍ハイ・エンシェント・ドラゴンじゃ。妾は炎龍で、奴は氷龍と、若干属性の違いはあるがの。ちょうど同じ時期に上位古龍ハイ・エンシェント・ドラゴンと認められたせいか、あ奴はやけに妾に構いたがるのじゃ」

 「幼なじみみたいな感じなのかな?」

 「幼なじみ?」

 「ほら、僕とリアみたいにさ、小さい頃から一緒に過ごしてた相手の事をそう呼ぶんだよ」

 「ふぅむ。そうじゃの。奴とは年の頃が近いし、里は違えども、同じ年頃の龍同士、それなりの交流があったことは確かじゃ。そう言う関係性を幼なじみと称するなら、妾とシャナは幼なじみなんじゃろうな」

 「シャナ?」

 「奴の本当の名はシャナクサフィラ。じゃが、少々長ったらしいじゃろ? じゃから妾はあ奴をそう呼んでおるのじゃ。奴も、妾の事をルージュと呼ぶしの」

 「幼なじみ同士の特別な呼び方、みたいな?」

 「ふむ? そうなのかのう?? 言われてみれば、この呼び名を使うのはお互いだけじゃの」

 「そっかぁ。仲がいいんだね。じゃあ、きっとその人はイルルのことを心配してるよ、きっと」

 「心配ぃぃ~? あ奴が、妾を?」

 「そうだよ。幼なじみの行方がしれなくなったら、普通は心配するもんでしょ? 僕だって、リアが家出とかしたら、必死に探す自信はあるもん」

 「そういうものかの?」

 「そういうもの、だよ」

 「じゃがな~。探されても妾は戻るつもりはないし」

 「戻らなくて、いいの?」

 「んむ? もちろんじゃ。戻る気なんぞ、全くないぞ? のう、ポチ、タマ」

 「もちろんであります。たとえイルル様が連れ戻されたとしても、ポチはシュリ様の側から離れないでありますよ」

 「タマだって同じ。イルル様はサフィラ様に引きずって行かれても、タマはシュリ様の側を離れるつもりは毛頭ない」

 「お主等っ。なぜ妾が里に連れ戻される前提で話しておるのじゃ!? 妾だって絶対に戻らんのじゃ!! シャナがなんと言ってこようと断固拒否、なのじゃ!!」

 「いいの? 眷属契約を気にしてるなら……」

 「妾がシュリの眷属じゃろうとなかろうと、そんなのもう関係ないのじゃ。妾は己の居場所を、シュリ、お主の隣に定めておるし、これから先もそれは変わらぬ。お主か妾、どちらかの命が尽きるその時まで、の」

 「ポチもそうでありますよ!」

 「もちろん、タマも」


 イルルの言葉に、ポチもタマも頷き、己の意を示す。
 自分の居場所はシュリの傍らにある、と。
 そんな彼女達の言葉と姿に感動して、シュリはちょっぴり目を潤ませた。


 「シュリだってそうじゃろ? 妾に、妾達に、側にいてほしいと思ってくれておるじゃろ?」


 イルルの問いに、シュリは即座に頷く。
 イルルとポチとタマ、彼女達がシュリの傍らを己の居場所と望むなら、何があろうと彼女達を離すつもりはなかった。
 イルルの幼なじみだという、氷の上位古龍ハイ・エンシェント・ドラゴンが彼女達を取り戻しに来たとしても。

 相手の出方次第では、戦いになることもあるかもしれない。
 それでもシュリは引く気はない。
 ただ、戦う場所を選ぶ必要はあるだろうし、戦わずにすむ道も模索するべきだろう。

 そう考え、シュリはイルルに問いかけた。
 件の上位古龍ハイ・エンシェント・ドラゴンはどんな人なのか、と。


 「シャナの人となり、のう。そうじゃな、さっきも言ったとおり、ものすごく生真面目な奴なのじゃ。あと、弱いものいじめも嫌いじゃの。そういう意味では、奴に人を害そうという気持ちは全くないはずじゃ。とはいえ、頭に血が上ってしまったら、どうなるかはわからんがの。いっても奴は龍じゃ。人とは違う。己の目的の為に、人が邪魔になると判断したら最後、なんの躊躇いもなく人を殺すじゃろう。この場合、奴の目的達成の邪魔になるのは、シュリ、お主のことじゃな」

 「うん。そうなるだろうね。彼女は恐らくイルルを探して連れ戻そうとしているんだろうし、僕はそれを阻止したいと思っているわけだから」


 基本的にはいいひとそうだし、出来れば音便に済ませたいなぁ、とこぼすシュリに、イルルはまじめな顔をしてさらに言葉を継ぐ。


 「シュリのその優しいところは美点じゃが、あ奴と戦うことになったなら、容赦などしてはいかんぞ? あ奴を殺せ、とまでは言わん。妾とて、シャナが憎いわけではないからな。じゃが、手加減をしてどうにかしようなんて事は無理じゃし、本気で屈服させるつもりでかかるのじゃ。妾もじゃがあ奴も、半殺しどころか9割殺しでも死なぬくらいには丈夫じゃからの。そう簡単には死なぬ。じゃから、なんの心配も容赦もいらぬのじゃ!」

 「9割殺し、って。流石にそれは可哀想じゃない? その、サフィラ、さん? に会う時までに、どうすればいいか、僕なりに考えておくよ」


 苦笑しつつシュリは答え、会うのが怖いような楽しみなような気持ちで、まだ見ぬ氷の上位古龍ハイ・エンシェント・ドラゴンを思った。
 イルルと闘った時の事を思うと、楽な相手ではないのは確実。
 しかし、あの時は精霊達は側におらずほぼ1人だった事を思えば、それほど労なく何とかなるんじゃないかとは思うのだ。

 眷属となったイルル達も5人に増えた精霊達もいるし、愛の奴隷達もシュリの影響を受け軽く人を越えてしまっている。
 シュリ自身、順調にレベルを伸ばし、人のレベルって打ち止めはないんだろうか、と己のレベルを見る度に少々遠い目をしてしまう今日この頃。
 相手が誰であろうとも、負ける気はしない、というのが正直な気持ちだ。
 少なくとも、誰かを守るための戦いで負けるつもりはなかった。


 (サフィラさんがどんなに強くても、イルルは僕が守る! だって僕、イルルのご主人様だしね!!)


 決意も新たに拳を握る。
 そんなシュリの横顔へ、3人(匹?)の眷属がご褒美はまだか、と暑い視線を注いでいることに、シュリはしばらく気づかなかった。
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