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第四部 王都の新たな日々

第340話 悪魔の獣っ娘メイキング

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・野生の悪魔が仲間になりたそうにこちらを見てます。仲間にしますか?YES/NO

 目の前のウィンドウに現れたその選択肢のYESの方を選び、シュリはウィンドウの向こうに見えるオーギュストをこっそり見つめた。
 見た目は間違いなく男性なのに、シュリのスキルの判定では女の子に含めることが出来ちゃったようだ。
 悪魔が精神生命体で基本的に決まった性別がない、というのはオーギュストの思いこみではなく、本当のことらしい。
 そんなことを考えているうちに、目の前には次のウィンドウが現れていた。

・新たな眷属・悪魔を手に入れました。名前はオーギュストです。名前を変えますか?YES/NO

 目の前に現れたウィンドウに目を細め、しばし考え込む。


 (オーギュストって男名前だよね。女子形態でもその名前でいいものかなぁ)


 と。
 変えた方がいいような気もするが、今更呼び名を変えるのも面倒くさい。
 シュリはしばし黙考した結果、NOを選択した。


 (どうせオーギュストは普段は男形態で過ごすんだろうし、そのままでいいよね)


 そんな判断の元。
 選択と同時にウィンドウが消え、また新たなウィンドウが現れる。

・オーギュストの獣っ娘メイキングを開始します。それぞれの選択肢の中から1つずつ選択して、最後に完了のボタンを押して下さい。

 身長→特大・大・中・小・極小

 おっぱい→特大・大・中・小・極小

 すっかり慣れっこな選択肢に、シュリは対して迷うことなく指を動かし選択する。
 男形態のオーギュストの慎重はかなり高いので、その感覚があまり狂わないよう身長は特大。普段のオーギュストは、身長大のポチより背が高いから、この選択肢で間違って無いはずだ。
 胸は、まあ、中くらいでいいか、と適当に中を選ぶ。
 べつにおっきくてもいいのだが、男生活の長いオーギュストにとって、大きな胸は邪魔になるかもしれない、と判断した。
 選択が終わると、次のウィンドウが現れる。
 そこにはいつもと同様、人の全身像が載っていて、

・先ほどの条件を組み込み、おすすめの容姿で作成しました。細かい調整をしたい場合はそれぞれのパーツをタップして、好みのものを選んで下さい。最後に終了ボタンを押せば出来上がりです。

 もうすっかりお馴染みとなった説明文を読み飛ばしつつ、獣っ娘メイキングで作り上げられた女の子なオーギュストを見つめた。
 いかにも人間然とした男性型のオーギュストと違い、くるっと巻いた乳白色の角が頭の横についていて、お尻からはアガサのものに似た光沢のあるしっぽが生えている。

 角と尻尾がある姿も可愛いが、いかにも悪魔然とした姿では普段生活しにくいのではないだろうか。
 そう考えて角パーツをタップすると、他の形状の角が表示される選択肢の1番下に、[表示無し]のチェックと[出し入れ可]というチェックがあった。
 へぇ、こんなチェック項目があったんだ、と新たな発見に感心しつつ、


 (出し入れできるなら角と尻尾があってもいいかぁ。角としっぽ、意外と可愛いしね)


 シュリは[出し入れ可]の項目にチェックを入れ、角と尻尾はそのまま残すことにした。
 それ以外は特に変更することなく、終了ボタンを押す。
 シュリの選択を受け最後のウィンドウは即座に消えて、その向こうには新たなオーギュストが立っていた。

 基本的な造作は男版のオーギュストと同じ。
 だが、顎のラインや頬のラインが少し柔らかくなり、唇は男の時よりやや小さく、艶やかにふっくらと。
 その唇は紅を塗ってもいないのに鮮やかに色づき、抜けるような白さの肌と相まって、なんともいえぬ色香を感じさせた。

 長いまつげにふちどられた切れ長の瞳がシュリを見つめる。
 その姿は、オーギュストと基本は同じなのにしっかり女の人に見えた。美しく魅力的な女性に。


 「シュリ」


 耳に響くその声は、なぜか甘く聞こえるしっとりとしたアルト。


 「ん? なぁに?」


 獣っ娘メイキングってほんとにすごいなぁ、と改めて関心しつつ反射的に返事を返す。


 「俺はどうなった? ちゃんと女になっているのか? 声はちょっとおかしい。いつもと違う。胸は……あるな」


 シュリに問いかけながら、オーギュストは己の手で己の姿を確かめている。
 その手がわしっと己の胸の膨らみを鷲掴み、オーギュストは驚きに目を見開いた。
 そしてそのまま、自分の胸の感触を確かめるようにわしわしと揉みしだく。


 「柔らかいな。悪くない」

 「えーっと。オーギュスト?」

 「なんだ??」

 「自分で自分の胸をそんなに揉むのは、ちょっとどうなの?」

 「自分のを揉んでダメだったら、俺は誰の胸を揉めばいいんだ? 他人の胸を揉んだ方がいいのか?」

 「ええぇぇ~。それも、ちょっとどうかと思うよ? 今のオーギュストは女の人なんだし。どうしても揉みたいなら、男の姿に戻って、部屋に夜這いにくる女の人の胸を揉んだらどうかな? それならきっと、相手も喜ぶだろうし」

 「それは……面倒くさいな。手を出すと、我が物顔で居座ろうとするだろう? ただ胸を揉むだけで終わるとも思えん」


 オーギュストは苦虫を噛み潰したような顔でそう返し、しぶしぶ己の胸から手を離した。
 そんな彼……いや、彼女の様子に苦笑しつつ、


 「1人の時なら好きにしてもいいと思うよ。ただ、人前では気をつけた方がいいかなって。変な人に見えちゃうし」


 そうアドバイスをし、オーギュストはまじめな顔で頷いた。


 「そうか。なら、1人の時に揉むことにする。だが、すごいな」

 「すごいって、なにが?」

 「お前のスキルだ。まさか、こんな簡単に女性形態になれるとは。普通なら生け贄の100や200は用意して貰わないと……」

 「そんなに!?」

 「ああ。俺はそこそこ高位の悪魔だからな。家畜ならそのくらい用意して貰わないと受肉できない。人間ならその10分の1程度でもいいんだが……」

 「オーギュスト」

 「なんだ?」

 「オーギュストが今までなにをしてきたかを問うつもりも責めるつもりもない。どんな風に呼び出され、どれだけの血を流させてきたのかも。僕と出会う前の事だからね。でも、これからは……」

 「分かっている。無闇な殺生はしない。お前の命を守る、それ以外の為に他人を害さないと誓う。俺は、お前の眷属になったのだからな」

 「ありがとう、オーギュスト。でも、自分の命も大事にするんだよ? 身の危険を感じたら、きちんと全力であらがって欲しい。僕は、僕の大切を1つも失いたくない。こう見えて、結構欲張りなんだ」

 「分かった。なら俺は、自分の命も含め、お前の大切なものもみんな守ることにしよう」


 オーギュストはひざまづき、シュリと目線をあわせて微笑んだ。
 シュリの頬に手を伸ばし、いとおしそうにその頬を撫で、ゆっくりと顔を近づけてくる。
 そしてそのまま、唇と唇が触れ合いそうな距離で見つめあった。

 なんだろう、と首を傾げる。
 なんか、変に甘い雰囲気が吹き出してるんだけど、と。
 その発生源は目の前にいる人物、オーギュストで。
 彼……いやいや彼女は、心底不思議そうに首を傾げた。


 「シュリは、女に対する特殊なフェロモンでも出してるのか?」

 「う?」


 意味不明の問いかけに、シュリも再び首を傾げる。
 オーギュストはそんなシュリを熱のこもった眼差しで見つめ、頬を撫でていた手を顎へと移動させた。
 そして。


 「男の時はそこまででは無かったが、女になったとたん、その、なんというか……」


 言いながら、シュリの顎をくいっとし、


 「お前が愛しくて、欲しくて仕方がない。お前のせいだぞ」


 今にも唇が触れ合いそうな距離で軽く睨まれ、そんな文句を聞かされる。
 その瞳も声も、表向きな意味とは裏腹に、甘ったるくとろけきっていた。


 「僕のせいって言われても……」

 「うるさい。男らしく、責任をとれ」


 反論しようとしたが遮られ、次の反論を口にする間もなく、オーギュストの唇が覆い被さってきた。


 (責任をとれって、言われてもなぁ)


 もふもふじゃないオーギュストを眷属ペットにしてあげただけでも、むしろ感謝して欲しいところだ。
 でも、まあ。


 (ペットは可愛がるもの、だしね)


 オーギュストの熱い唇を己の唇で感じながら、シュリはそんな風に思って、ふっと笑う。
 そして、顔の角度をかえて唇のつながりを深くすると、本格的に可愛がってあげることにした。

 マスター称号の恩恵を駆使し、くったりしたオーギュストに部屋の鍵を渡しながら、角としっぽの注意事項を告げておく。
 出し入れできるから、普段はしまっておくように、と。
 けだるそうに頷く彼女を抱き上げ、ベッドに運び、


 「まだ女の子の体に慣れてないんだから無理しないで少し休むといいよ? 現地に着いてすぐにオーギュストの出番がある訳じゃないし。助けが必要になったら呼ぶから、それまでは部屋でのんびりしてて」


 そう告げて、頭を撫でてあげる。
 そして、物欲しげな顔で見上げてきたオーギュストに苦笑しつつ、もう1度、今度はさっきより軽めにキスをして。
 それでも十分息も絶え絶えになってしまったオーギュストの頬を労るように撫でた。
 でも、それすらも官能を呼び起こしてしまう事実に困った顔をしつつ、それ以上の接触を避けるようにシュリはオーギュストのものとなった部屋を後にしたのだった。
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