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第一部 幼年期

第六話 ジョゼの手紙

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 拝啓。
 兄さん、お元気ですか?
 俺は相変わらず適当に元気に生きています。
 俺が家を出てから、もう十年近くになるでしょうか。
 こんなに長い間、手紙一つ出さずにすみませんでした。

 父上や母上は元気にしてますか?あの人達はきっと、二度と俺の顔など見たくないと思っている事でしょう。
 俺も、以前はそう思ってました。二度と、戻るつもりも、会うつもりもありませんでした。

 ですが、この十年、本当に色々な事がありました。
 そのせいで、俺も以前とは少し変わったんでしょうね。
 最近は、少しあの人達の顔を見に帰っても良いような、もう一度くらい、あの人達の顔を見ておきたいような、そんな気がするときもあります。

 兄さんは、俺がこんな事を言い出したらびっくりするでしょう。でも、神に誓ってこれは俺の正直な気持ちです。
 俺も人の親になって、少し落ち着いてきたのかもしれません。

 兄さんに報告ですが、嫁さんを貰いました。
 俺には勿体ないくらいのいい女で、俺の事を愛してくれてます。もちろん、俺も嫁さんを愛してます。

 それから、子供も産まれました。男の子です。もうすぐ1歳になります。
 俺の事を見るといつもすげぇ可愛い顔で笑って、もう目の中に入れても痛くないくらい可愛い息子です。
 名前はシュリナスカってつけました。
 髪の色は嫁さん譲り、目の色は俺と同じの愛すべきちび助です。

 で、ここからが本題なのですが、シュリももうすぐ1歳になるので、一度そちらに顔を見せに行きたいと思っています。
 財産とか地位とか、今更そんなものを望むつもりはありません。

 ただ、俺の嫁さんと息子に、俺が生まれて育った町を見せてやりたい、それだけです。
 その後は、またこの場所へ戻って、親子三人で静かに暮らしていきます。決して迷惑はかけません。

 来月、水の月の7番目の日に乗り合い馬車でそちらに出発する予定です。
 兄さんの顔くらいは見たいなと思いますが、忙しいようなら無理なさらずに。
 滞在中は、宿を取る予定でいるので、そっちも心配しないで下さい。
 もし暇があったらちょっと会ってくれるだけで十分です。
 後は自分達で勝手にやりますから、安心して下さい。

 そうそう、風の噂で兄さんも結婚をしたことを聞きました。
 娘さんも4人いるそうですね。おめでとうございます。
 今までお祝いの言葉一つ言えず、すみませんでした。
 もし会えたら直接、もう一度きちんとお祝いの言葉を言わせて下さい。

 この手紙がそちらに着く頃にはもう村を出発しているでしょう。
 なので返事はいりません。
 ここからそちらまで、1週間もあれば着くと思います。
 一週間後にお会いしましょう。兄さんの都合があえば、ですけど。
 それでは、また。

 不肖の弟、ジョゼット・ルバーノより。愛を込めて。





 兄への手紙を一息に書き上げて、ジョゼは大きく息をついた。
 10歳年上の兄は、小さい頃からジョゼを可愛がってくれていたが、ジョゼが15歳の年に家を飛び出してから10年、連絡一つしていなかった。

 この手紙が届いたら喜んでくれるのか、それとも怒り出すのか、今のジョゼには判断がつかない。
 10年前の兄であれば、きっと手放しで喜んでくれたとは思うが、離れて過ごした歳月の中で兄がどう変わってしまったかは分からないからだ。
 出来れば変わっていて欲しくはないが、こればかりは会ってみるまで分かりようがなかった。


 「ジョゼ、手紙はかけたの?」


 後ろから、最愛の妻の声。
 ジョゼは丁寧に手紙に封をし、ゆっくりと立ち上がった。


 「ああ。まあ、素直な気持ちを記せたと思うよ。シュリは?」

 「おっぱい飲んだらまた寝ちゃったわ。今日の午後はリザリーがシュリをみてくれるっていうから、手紙は午後、一緒に出しにいきましょ?」

 「ミフィーの友達にはいつも悪いなぁ」

 「うーん。悪いからいいわよって断ると、すごく残念そうな顔をするのよ、みんな。シュリのこと、すごく気に入ってくれてるみたい」

 「そうか。じゃあ、素直に甘えて、午後は手紙を出しながら少しデートをするか」


 いいながら、ミフィーの身体を抱き寄せた。
 子供を産んだ事があるとは思えないような華奢な身体。
 思い切り抱きしめたら折れてしまいそうなのに、ミフィー身体はしっかりとジョゼを受け止めてくれる。


 (俺には、勿体ないくらいの嫁さんだよな)


 そんな風に思いながら、エルフの血を受け継ぐ彼女の美しく整った顔を見つめ、可愛らしい唇にキスをした。
 彼女の舌をからめ取り、情熱的なキスをする。
 彼女もしっかりと答えてくれた。
 たっぷりと彼女の唇を貪った後、唇を離してからもう一度抱きしめる。


 「ミフィーと結婚できて、シュリが生まれてくれて、俺、本当に幸せだよ」


 心からの言葉を彼女の耳にささやき、ジョゼは妻の顔を真っ赤に染め上げたのだった。

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