上 下
379 / 545
第四部 王都の新たな日々

第331話 説得、そして

しおりを挟む
 リリシュエーラや愛の奴隷達の授業参観を受け、ジェスと再会した日の翌日。
 学校が休みな事を幸いに、シュリは朝から悩みに悩んでいた。
 なにを悩んでいるのか。

 目下のシュリの悩み事、それは、昨日高等魔術学園でアガサから依頼された件について。

 依頼を受けることはもう決めていたが、問題はそれをシュリ命の愛の奴隷達にどう伝えたらいいだろう、という点だ。
 依頼が近場の事ならこれほど悩む事はないのだが、この依頼、場所が国内じゃない、と言う点でまずハードルが高い。

 国内の依頼じゃないと言うことは、まず移動だけでもかなりの時間をとられる、と言うことだ。
 更に、依頼の内容も中々にハードで。
 政治中枢に紛れ込んでいる悪魔を探し出して、あわよくば討伐を、というもの。

 悪魔の知り合いは1人しかいないし、戦闘的な能力を一切見たことがないので何とも言えないが、古今東西、悪魔というものは凶悪な生き物というのが一般常識だと思う。
 たぶん、強いのだろう。
 いや、きっとものすごく強い生き物のはずだ。
 シュリの知る悪魔は、日々レース編みの技能習熟に忙しくて、全く危険な感じは受けないが。

 そんな、恐らく危険な生き物であろう悪魔を探してやっつけるとなると、それにだって時間はかかるだろうし、そう考えるとトータルでどれだけ時間がかかるのか。
 恐らく、移動時間含め、1ヶ月ではすまないんじゃないだろうか。
 まあ、その辺りはもう少し少なく見積もって伝えるつもりではあるけど。


 「1ヶ月、かぁ」


 言葉にすれば大したことない日にちのように思えるが、実際に体感するとなるとかなり厳しいのではないだろうか。
 前回、シュリが愛の奴隷と離れて過ごした時間は1、2週間程度。
 状態異常こそおこさなかったが、正直かなりきつかった、と後に彼女達から聞かされた。

 本当は5人とも連れていければいいのだが、隣国からの依頼だし、連れて行く人数は最小限で、とアガサからは言われている。
 2人くらいまでなら、という事だったが、2人だけ特別扱いする方がまずい気がするのだ。
 それに、2枠のうちの1つは、レース好きの悪魔を連れて行くつもりでいるし。

 どうしようかなぁ、シュリは眉間に可愛らしくしわを寄せて悩むが、悩んだところで依頼を蹴るという選択肢はない。
 結局は腹を決めて愛の奴隷のみんなに話す他ないし、どんな文句が吹き出そうとも、我慢してくれ、と言うしか無いのである。

 なんかいい方法無いかなぁ、と往生際悪く考えるが、そう簡単に名案が降ってくるはずもなく。
 シュリは諦めて、まずはジュディスの元へ向かうことにした。

◆◇◆

 「高等魔術学園の学園長から、悪魔退治の依頼への同行を求められた、と。場所は、自由都市連合国家、ですか」

 「う、うん。そうなんだ」

 「国外、ですか。でしたら確かに、あまり大人数を連れて行く訳にはいきませんね。悪魔関連の依頼ですから、オーギュストを連れて行くというシュリ様のご意見にも頷けます。いいんじゃないでしょうか?」

 「え? いいの??」

 「もちろんです。シュリ様が何でダメと言われると思っていたのか、むしろそちらが気になります」

 「えっと、だって、隣の国だし、移動に時間がかかるし……」

 「そこはイルルに乗って行ってしまえばいいのでは? 彼女なら、他の面々もまとめて運べるでしょうし、近場の森から夜に出発すればそれほど目立たないと思います。それでも不安なら、シュリ様の精霊の力を借りて目くらましをしておけば万全でしょう」

 「で、でも、イルルの事がバレちゃうよ? アガサとか、[月の乙女]のメンバーとか」

 「アガサ様がシュリ様の秘密を無闇に吹聴するとは思えませんし、その[月の乙女]とかいう傭兵団も、まあ、大丈夫じゃないかと。女性だけの傭兵団なんですよね? 話を伺った様子だと、要の団長と副団長はほぼシュリ様に落ちているでしょうし。まあ、シュリ様の女が大量生産される危険性だけがネックですが、それももう今更ですしね」

 「い、今更……。そ、そぉかなぁ?」

 「そうですよ。現実を見たくないシュリ様のお気持ちも分からないでもないですが。あ、一応年の為、口止めだけはしておいた方がいいでしょう。そうすれば完璧です」

 「うん……分かった」


 シュリはしょんぼり肩を落として頷く。
 でも、すぐにはっとしたように顔を上げて、


 「でも、相手は悪魔だし。対処するのに時間がかかるかも……」


 一応そう主張してみる。
 だが、それでもジュディスの余裕の表情は崩れなかった。


 「まさか。シュリ様がわざわざ出向くのに、そんな事態が起きるはずもありません。オーギュストという悪魔側のアドバイザーも同行する事ですし、瞬殺ですよ。間違いありません」

 「そ、そぉかなぁ? 悪魔って、強い生命体だと思うんだけど」

 「別に悪魔が弱っちぃと言っている訳じゃありません。シュリ様が圧倒的に強い、と申し上げているだけです。ジュディスはシュリ様を存じておりますし、それ以上に信じておりますから」


 絶対的な信頼を込めた眼差しを受け、シュリはちょっとくすぐったい気持ちになりながら、照れ隠しのように頬をかく。


 「じゃあさ? ジュディスは僕がどのくらいで帰ってくると思ってるわけ?」

 「そうですねぇ……」


 シュリの質問にジュディスはしばし黙考し、


 「移動が片道2日程度とみて往復で4日。事態の収拾にかかる時間は、余裕をみて3日として。恐らく、1週間もあれば足りるのではないでしょうか」

 「ええぇぇ~? 1週間~?? ちょっとタイトすぎるんじゃない?」


 ジュディスの事は信じてるけど、流石にそれは無理でしょ、と微妙な顔をするシュリを見つめ、クスリと笑った。


 「シュリ様でしたら大丈夫ですよ。ただ、もし誤算があるとすれば……」

 「あるとすれば?」

 「事態解決の感謝の宴を発端に、シュリ様に目を付けた皆様が連鎖して開く宴に捕まって身動きが出来なくなる可能性もないわけでもない、という事でしょうか」

 「え~? まさかぁ」

 「まさか、とお思いですか?」


 己の秘書の懸念を笑い飛ばそうとしたシュリを、ジュディスがじっと見つめる。
 どこまでも真面目なその眼差しに、シュリはちょっと不安になる。
 そう言う事態も、もしかしたらあるかもしれない、と。
 そんな主の変化を敏感に察知したジュディスは、分かっていただければ結構です、と微笑み、愛しい少年の頬を優しく撫でる。


 「お帰りを心からお待ちしてますから、出来るだけ早いお帰りを。それをジュディスに約束していただけるなら、他の子達への説明と説得は、私にお任せ下さい」

 「もちろん、約束はするけど……いいの?」

 「ええ。シュリ様のお役に立てるのが、ジュディスの幸せですから。お任せ下さい。ただ……」

 「た、ただ?」

 「出発までの数日の十分な睡眠時間は保証出来ませんが」

 「あ~、それは……うん。仕方ないよね」


 5人、いるしね……と、シュリはあきらめの境地で苦笑する。
 そんな主を甘く見つめ、


 「ご理解が早くて大変結構です」


 非常に満足そうに微笑んだジュディスは、


 「では、がんばる秘書に、早速ご褒美を所望したいのですが?」


 そんなおねだりをしながら、愛しくて仕方ない主に問答無用で顔を近づけていくのだった


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 お読み頂いてありがとうございました。
 今年もこの作品を読んで頂いてありがとうございました。
 来年も頑張って、少なくとも今のペースは保ち続けたいと思います。
 みなさま、良いお年をお過ごしくださいね。
しおりを挟む
感想 221

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...