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第一部 幼年期
第七十二話 守護者はやっぱりあの人③
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隊長の部屋を飛び出した後は兎に角走った。今までこれほど懸命に走ったことがあっただろうかと思うくらいに。
早く、一刻でも早く。
頭にあるのはその思いだけ。
少しでも早く、シュリを救い出してあげたかった。
シュリが辛い思いをするなど、考えるだけでイヤだった。
そうしてシュリのことだけを考えて走っていると、不意に体が軽くなった気がした。
なぜだか分からない。
だが、好都合だと走るスピードを更に早くする。
(シュリ君、待っていて。すぐに助けてあげるから!!)
驚くくらいの速さで目的の場所に着いたカレンは、勢いのままに古びた扉をこじ開けた。
なんだか扉が吹っ飛んでいった様な気がするが、カレンは気にせず建物の中へと踏み込む。
そして叫んだ。
「シュリ君はここですか!?無事ですか?無事ですよね?無事だと言って下さい!!」
その叫びが空気に溶けて消える前に、カレンは目当ての人を見つけてぱああっと顔を輝かせる。
そしてそれからあれぇっとばかりに首を傾げた。
シュリは居た。
飛び込んだカレンの目の前に。
確かに縛られているが、きれいな女の人二人に大切に抱き上げられている。
どう見ても、誘拐され酷い目にあわされているようには見えなかった。
あれぇ、とカレンは首の傾きを深くする。
女性の腕の中からこちらを見つめるシュリが、なんだか申し訳なさそうな顔をしているように見えた。
カレンが飛び込んでくる少し前、いつものあれが。
・カレンの攻略度が100%に達し、愛の奴隷になりました!
再会すらしてないのになんで!?と思うが、推測は出来る。
カレンはシュリを心配してシュリを想うあまり、好感度を一気に跳ね上げてしまったのだろう。
会ってすらいないのにあがる好感度。
なんとも自分のスキルが恐ろしい。
まあ、カレンは愛の奴隷になってもらうつもりだったからいいのだが、会う人会う人、ただ年上と言うだけで愛の奴隷になってしまったのではたまらない。
この能力、なんとか調整や制御が出来ないものか?
そんな事を考えていれば、その思いを読みとったかのように、
・愛の奴隷が一定数を超えたことにより、ユニークスキル[年上キラー]のレベルが1段階UPしました!
そんなお知らせが。
(え?スキルってレベルアップするものなの??)
スキルの仕組みをよく解っていないシュリは首を傾げつつもステータスを確認した。
・[年上キラー]
相手の庇護欲・母性本能をかきたて、好意を上昇させる。
男女・種族は関係なく自分より年上の相手に効果が発動。一度発動すると効果は一生涯。
Lv1:愛の奴隷を5人まで増やすことが出来る。一度愛の奴隷となった者を解放する事は出来ないが、愛の奴隷にするかしないかの選択が可能。
最初の方の表記は一緒だったが、レベルアップしたことで新たな記述が増えていた。
それによれば、今後は好感度が限界値を越えたとき、愛の奴隷にするかしないかの選択が可能になったようだ。
だが、すでに愛の奴隷となってしまった3人はもうどうにもならないようなので、今後も責任をもって彼女たちを大切にしてあげなければならないだろう。
驚くべき事に今回レベルがあがったことで、[年上キラー]のスキルはやっとLv1になったらしい。
ということは、今まではLv0だったと言うことなのだろうか?
Lv0なのにあれだけの効果。やはり恐ろしいスキルとしか言いようがない。
今回のレベルアップの内容から考えると、レベルがあがると能力が制御出来る可能性も高そうだ。
無闇矢鱈に好感度をあげまくるのもどうかと思うが、将来の事を考えれば早めにレベルをあげておくべきなのかも知れない。
それにしても、とシュリはステータスを見ながらしみじみ思う。
愛の奴隷って人数制限があったんだ。本当に良かった、と。
そんな事をつらつらと考えている内に、気が付けばカレンが飛び込んできていた。
彼女は目の前のシュリをみて、何とも不思議そうな顔をした。
それはそうだろう。
誘拐されたと思って助けにきた相手が、どうにも誘拐されたと思えないような緊迫感の薄い状況でのほほんとしているのだから。
せめてロープがあって良かったと思うのも束の間、抱き上げられた拍子にただでさえ緩めだったロープが更に緩んだのだろう。
なけなしの小道具であったロープは、あっさりとシュリの体から解け、地面へ落ちてしまった。
あ、と思い、ロープの行方を思わず目で追いかけ、それからおそるおそる顔を上げてカレンの方を見れば、カレンもシュリと同じ動作をしていた。
つまり、落ちたロープを見て、それからシュリの顔を見たわけだ。
同じ動作をした結果、二人は正面から見つめ合うことになった。
さて、なんていいわけしたものかと、カレンを見つめながら考えていると、先に彼女が口を開いた。
「良かった。無事だったんですね、シュリ君」
ほっとしたせいか、微笑んだ彼女の目尻に涙が光った。
それを見て、本当に申し訳ない気持ちになりながら、シュリはコクンと頷いた。
「そうですか。安心しました。両脇の人達は、シュリ君の味方、ですよね?」
「あう(う、うん。そう)」
「……なぜ、私達がシュリ様の忠実な僕だと?」
ジュディスの問いに、別に僕とまでは言ってないけどなぁとちょっと苦笑しつつ、カレンは穏やかに目を細めた。
彼女達がシュリの味方かどうかなど、見ればすぐ解る。
なぜなら、
「シュリ君を誘拐するような悪い人なら、そんなに大切そうにシュリ君を抱っこしたりしませんよね?シュリ君だって、あなた達を信頼してなければそんなに安心した顔をしているわけがありませんし」
そう指摘され、ジュディスとシャイナは互いに顔を見合わせた。
そして己の手に目を落とし、自分の腕が大切な宝物を守るようにシュリを抱き上げているのを見て苦笑を漏らした。
そしてシュリもまた、自分を抱いている二人を見上げ、顔をあわせて笑う。
小手先の演技では、互いを大切に思う気持ちまで偽ることは出来なかった。
というか、演技を始める前に予想外の速さでカレンが到着してしまった訳なのだが。
そんなシュリ達を見ながらカレンは笑みを深め、それから三人に近づくと、腰を屈めてシュリに目線をあわせてかすかに首を傾げた。
「私に、なにか用があったんですよね?シュリ君。あなたが悪戯半分に私をこんな風に呼び出すはずがありませんから」
ジュディスとシャイナに押し切られ、普通に呼び出せばいいのにこんな呼び出し方をしてしまったシュリとしては、カレンの信頼に満ちた眼差しは何とも痛いものであった。
だがまあ、結果オーライではある。
現にこうしてカレンはここにいるし、怒ってもいない。
常識的に考えるともっと気にしろよというつっこみを入れたいところだが、元々前世でのシュリもやや(?)おおざっぱな気質であった。
シュリは細かいことは気にしないの精神でカレンを見上げる。
そして悪いことをしたという自覚はきちんとあったので、素直に頭を下げてまずは謝った。
『カレン、変なことをして驚かせてごめんね』
赤ん坊の言葉では語彙が少ないため、早速念話を使ったが、カレンが驚いたように周囲を見回す様子を見て思わず苦笑する。
『カレン?』
「あれ?えっと、なにか空耳が。男の子の声がするんですけど姿が見えません」
きょろきょろと周囲を見回すカレンに小さな手を伸ばしてそっと触れる。
それに気づいたカレンが自分を見るまで待ってから、
「かれん。それ、ぼく」
今度はきちんと自分の言葉で、そう告げた。
だが、そう簡単に理解できるわけもなく、
「はわわ……シュリ君が私の名前を……じゃなくって、ぼくって、え??」
名前を呼ばれた事に一瞬ぽわんとし、だがすぐにまた首を傾げるカレンに、シュリはにこっと笑いかける。
そして、
「ぼく。いったの」
『僕が話しかけたんだ。シュリだよ。コレは念話っていうスキルなんだ』
今度は言葉と念話で同時に話しかけた。
流石にそれでカレンも理解できたのか、驚いたように目を見開いた。
「どっちもシュリ君、なんですね。スキルでこんな事が出来るなんて、流石シュリ君です。流石は私の……」
興奮したようにそこまで言って、不意に言葉を途切れさせる。
「う?」
シュリが首を傾げると、カレンは顔中を真っ赤に染めた。
その反応から、彼女が途切れさせた言葉が何なのか、なんとなく分かった気がしたが、ちょっとだけ意地悪したい気分になったシュリは念話で話しかける。
『私の……なに?』
「え、と。その……」
(おしえて?)
にっこり微笑み促せば、カレンは一瞬目を泳がせ、だがすぐに観念したようにちらりとシュリを見つめてから恥ずかしそうに顔をうつむかせ、
「その、流石は、私の好きな人、です……」
そう答えて、更に顔を赤くした。
なんというか、こんな純情な反応に出会ったことが滅多にないシュリは、ちょっと感動し、そして素直に可愛いなぁと思った。
だが、思うだけでは伝わらない。
シュリがじぃっとカレンの顔を見上げていたら、カレンは困ったような顔でシュリを見つめ返し、
「私なんかに好きって言われても、迷惑ですよね?」
なぜかそんな事を言い出した。
シュリは思わず首を傾げ、
(カレンってスペック高いのに、なんでそんな風に思うのかなぁ)
と思いつつ、彼女の誤解を解いてあげるために念話でそっと思いを告げる。
『迷惑?そんなことないよ?カレンに好きって言ってもらえて嬉しい』
「でも、私なんて、シュリ君から見たらおばさんで……」
言い募るカレンの言葉を聞いて、ああ、と思う。そうか、年の差を気にしてるのかぁ、と。
だが、シュリからしてみれば今更である。
すでにカレンと同じくらい年の離れた愛の奴隷が他に二人もいるし、現在進行形で年上のお姉様方の好感度は急上昇中だ。
それに、前世ではまあそこそこの年齢の女子だった。
精神年齢で言えばカレンとそれほど変わりはないと思うし、正直、周りにいる女性達が年上だという感覚も薄いのだ。
普通に可愛いと思うし、愛おしいと思う。年の差なんてまるで気にならない。
だが、そんなシュリの内情などカレンが知る由もなく、きちんと伝えないとなぁとまじめな顔でカレンを見上げた。
『おばさんなんて思わないよ。カレンは可愛い。僕はカレンが大好きだよ』
「シュリ君……」
「カレンさん、だったかしら?」
シュリの言葉を聞いて目を潤ませたカレンに、横合いから声をかけたのはジュディスだ。
「はい、あの?」
「失礼。私の名前はジュディス。シュリ様の忠実な僕で、今後あなたと共にシュリ様を支える女の一人でもあるわ」
「シュリ君を、支える?」
「そう。あなたはシュリ様との年の差を気にしているけど、シュリ様はあなたを選んだ。いいこと?カレン。シュリ様は年の差なんて細かいことを気にされるお方ではないわ。だから、安心して私たちと一緒にシュリ様にお仕えしましょう」
「そう、シュリ様の愛は大きくて深い。年の差なんて些細なことです。むしろ、時々シュリ様の方が年上に思えるくらいに包容力がある。カレン、あなたを歓迎します。一緒にシュリ様を守ろうではありませんか」
「シュリ君を、守る……?それって……あなた!えーっと?」
「失礼しました。シュリ様の僕その二のシャイナと申します」
「シャイナさん、シュリ君を守るってことは、なにかシュリ君に危険が迫っていると言うことですか?」
カレンは真剣な眼差しで、シュリの両脇を固める二人の女性を見つめた。
ジュディスとシャイナは目を見交わして頷き、それから揃ってシュリに視線を向ける。
そうすると自然とカレンの視線もシュリに集まり、三人の視線を受けたシュリは小さく頷いて、
(そうなんだ。実はその事で、カレンにここへ来てもらったんだよ)
自分を取り巻く今の状況を、ゆっくりと話し始めた。
早く、一刻でも早く。
頭にあるのはその思いだけ。
少しでも早く、シュリを救い出してあげたかった。
シュリが辛い思いをするなど、考えるだけでイヤだった。
そうしてシュリのことだけを考えて走っていると、不意に体が軽くなった気がした。
なぜだか分からない。
だが、好都合だと走るスピードを更に早くする。
(シュリ君、待っていて。すぐに助けてあげるから!!)
驚くくらいの速さで目的の場所に着いたカレンは、勢いのままに古びた扉をこじ開けた。
なんだか扉が吹っ飛んでいった様な気がするが、カレンは気にせず建物の中へと踏み込む。
そして叫んだ。
「シュリ君はここですか!?無事ですか?無事ですよね?無事だと言って下さい!!」
その叫びが空気に溶けて消える前に、カレンは目当ての人を見つけてぱああっと顔を輝かせる。
そしてそれからあれぇっとばかりに首を傾げた。
シュリは居た。
飛び込んだカレンの目の前に。
確かに縛られているが、きれいな女の人二人に大切に抱き上げられている。
どう見ても、誘拐され酷い目にあわされているようには見えなかった。
あれぇ、とカレンは首の傾きを深くする。
女性の腕の中からこちらを見つめるシュリが、なんだか申し訳なさそうな顔をしているように見えた。
カレンが飛び込んでくる少し前、いつものあれが。
・カレンの攻略度が100%に達し、愛の奴隷になりました!
再会すらしてないのになんで!?と思うが、推測は出来る。
カレンはシュリを心配してシュリを想うあまり、好感度を一気に跳ね上げてしまったのだろう。
会ってすらいないのにあがる好感度。
なんとも自分のスキルが恐ろしい。
まあ、カレンは愛の奴隷になってもらうつもりだったからいいのだが、会う人会う人、ただ年上と言うだけで愛の奴隷になってしまったのではたまらない。
この能力、なんとか調整や制御が出来ないものか?
そんな事を考えていれば、その思いを読みとったかのように、
・愛の奴隷が一定数を超えたことにより、ユニークスキル[年上キラー]のレベルが1段階UPしました!
そんなお知らせが。
(え?スキルってレベルアップするものなの??)
スキルの仕組みをよく解っていないシュリは首を傾げつつもステータスを確認した。
・[年上キラー]
相手の庇護欲・母性本能をかきたて、好意を上昇させる。
男女・種族は関係なく自分より年上の相手に効果が発動。一度発動すると効果は一生涯。
Lv1:愛の奴隷を5人まで増やすことが出来る。一度愛の奴隷となった者を解放する事は出来ないが、愛の奴隷にするかしないかの選択が可能。
最初の方の表記は一緒だったが、レベルアップしたことで新たな記述が増えていた。
それによれば、今後は好感度が限界値を越えたとき、愛の奴隷にするかしないかの選択が可能になったようだ。
だが、すでに愛の奴隷となってしまった3人はもうどうにもならないようなので、今後も責任をもって彼女たちを大切にしてあげなければならないだろう。
驚くべき事に今回レベルがあがったことで、[年上キラー]のスキルはやっとLv1になったらしい。
ということは、今まではLv0だったと言うことなのだろうか?
Lv0なのにあれだけの効果。やはり恐ろしいスキルとしか言いようがない。
今回のレベルアップの内容から考えると、レベルがあがると能力が制御出来る可能性も高そうだ。
無闇矢鱈に好感度をあげまくるのもどうかと思うが、将来の事を考えれば早めにレベルをあげておくべきなのかも知れない。
それにしても、とシュリはステータスを見ながらしみじみ思う。
愛の奴隷って人数制限があったんだ。本当に良かった、と。
そんな事をつらつらと考えている内に、気が付けばカレンが飛び込んできていた。
彼女は目の前のシュリをみて、何とも不思議そうな顔をした。
それはそうだろう。
誘拐されたと思って助けにきた相手が、どうにも誘拐されたと思えないような緊迫感の薄い状況でのほほんとしているのだから。
せめてロープがあって良かったと思うのも束の間、抱き上げられた拍子にただでさえ緩めだったロープが更に緩んだのだろう。
なけなしの小道具であったロープは、あっさりとシュリの体から解け、地面へ落ちてしまった。
あ、と思い、ロープの行方を思わず目で追いかけ、それからおそるおそる顔を上げてカレンの方を見れば、カレンもシュリと同じ動作をしていた。
つまり、落ちたロープを見て、それからシュリの顔を見たわけだ。
同じ動作をした結果、二人は正面から見つめ合うことになった。
さて、なんていいわけしたものかと、カレンを見つめながら考えていると、先に彼女が口を開いた。
「良かった。無事だったんですね、シュリ君」
ほっとしたせいか、微笑んだ彼女の目尻に涙が光った。
それを見て、本当に申し訳ない気持ちになりながら、シュリはコクンと頷いた。
「そうですか。安心しました。両脇の人達は、シュリ君の味方、ですよね?」
「あう(う、うん。そう)」
「……なぜ、私達がシュリ様の忠実な僕だと?」
ジュディスの問いに、別に僕とまでは言ってないけどなぁとちょっと苦笑しつつ、カレンは穏やかに目を細めた。
彼女達がシュリの味方かどうかなど、見ればすぐ解る。
なぜなら、
「シュリ君を誘拐するような悪い人なら、そんなに大切そうにシュリ君を抱っこしたりしませんよね?シュリ君だって、あなた達を信頼してなければそんなに安心した顔をしているわけがありませんし」
そう指摘され、ジュディスとシャイナは互いに顔を見合わせた。
そして己の手に目を落とし、自分の腕が大切な宝物を守るようにシュリを抱き上げているのを見て苦笑を漏らした。
そしてシュリもまた、自分を抱いている二人を見上げ、顔をあわせて笑う。
小手先の演技では、互いを大切に思う気持ちまで偽ることは出来なかった。
というか、演技を始める前に予想外の速さでカレンが到着してしまった訳なのだが。
そんなシュリ達を見ながらカレンは笑みを深め、それから三人に近づくと、腰を屈めてシュリに目線をあわせてかすかに首を傾げた。
「私に、なにか用があったんですよね?シュリ君。あなたが悪戯半分に私をこんな風に呼び出すはずがありませんから」
ジュディスとシャイナに押し切られ、普通に呼び出せばいいのにこんな呼び出し方をしてしまったシュリとしては、カレンの信頼に満ちた眼差しは何とも痛いものであった。
だがまあ、結果オーライではある。
現にこうしてカレンはここにいるし、怒ってもいない。
常識的に考えるともっと気にしろよというつっこみを入れたいところだが、元々前世でのシュリもやや(?)おおざっぱな気質であった。
シュリは細かいことは気にしないの精神でカレンを見上げる。
そして悪いことをしたという自覚はきちんとあったので、素直に頭を下げてまずは謝った。
『カレン、変なことをして驚かせてごめんね』
赤ん坊の言葉では語彙が少ないため、早速念話を使ったが、カレンが驚いたように周囲を見回す様子を見て思わず苦笑する。
『カレン?』
「あれ?えっと、なにか空耳が。男の子の声がするんですけど姿が見えません」
きょろきょろと周囲を見回すカレンに小さな手を伸ばしてそっと触れる。
それに気づいたカレンが自分を見るまで待ってから、
「かれん。それ、ぼく」
今度はきちんと自分の言葉で、そう告げた。
だが、そう簡単に理解できるわけもなく、
「はわわ……シュリ君が私の名前を……じゃなくって、ぼくって、え??」
名前を呼ばれた事に一瞬ぽわんとし、だがすぐにまた首を傾げるカレンに、シュリはにこっと笑いかける。
そして、
「ぼく。いったの」
『僕が話しかけたんだ。シュリだよ。コレは念話っていうスキルなんだ』
今度は言葉と念話で同時に話しかけた。
流石にそれでカレンも理解できたのか、驚いたように目を見開いた。
「どっちもシュリ君、なんですね。スキルでこんな事が出来るなんて、流石シュリ君です。流石は私の……」
興奮したようにそこまで言って、不意に言葉を途切れさせる。
「う?」
シュリが首を傾げると、カレンは顔中を真っ赤に染めた。
その反応から、彼女が途切れさせた言葉が何なのか、なんとなく分かった気がしたが、ちょっとだけ意地悪したい気分になったシュリは念話で話しかける。
『私の……なに?』
「え、と。その……」
(おしえて?)
にっこり微笑み促せば、カレンは一瞬目を泳がせ、だがすぐに観念したようにちらりとシュリを見つめてから恥ずかしそうに顔をうつむかせ、
「その、流石は、私の好きな人、です……」
そう答えて、更に顔を赤くした。
なんというか、こんな純情な反応に出会ったことが滅多にないシュリは、ちょっと感動し、そして素直に可愛いなぁと思った。
だが、思うだけでは伝わらない。
シュリがじぃっとカレンの顔を見上げていたら、カレンは困ったような顔でシュリを見つめ返し、
「私なんかに好きって言われても、迷惑ですよね?」
なぜかそんな事を言い出した。
シュリは思わず首を傾げ、
(カレンってスペック高いのに、なんでそんな風に思うのかなぁ)
と思いつつ、彼女の誤解を解いてあげるために念話でそっと思いを告げる。
『迷惑?そんなことないよ?カレンに好きって言ってもらえて嬉しい』
「でも、私なんて、シュリ君から見たらおばさんで……」
言い募るカレンの言葉を聞いて、ああ、と思う。そうか、年の差を気にしてるのかぁ、と。
だが、シュリからしてみれば今更である。
すでにカレンと同じくらい年の離れた愛の奴隷が他に二人もいるし、現在進行形で年上のお姉様方の好感度は急上昇中だ。
それに、前世ではまあそこそこの年齢の女子だった。
精神年齢で言えばカレンとそれほど変わりはないと思うし、正直、周りにいる女性達が年上だという感覚も薄いのだ。
普通に可愛いと思うし、愛おしいと思う。年の差なんてまるで気にならない。
だが、そんなシュリの内情などカレンが知る由もなく、きちんと伝えないとなぁとまじめな顔でカレンを見上げた。
『おばさんなんて思わないよ。カレンは可愛い。僕はカレンが大好きだよ』
「シュリ君……」
「カレンさん、だったかしら?」
シュリの言葉を聞いて目を潤ませたカレンに、横合いから声をかけたのはジュディスだ。
「はい、あの?」
「失礼。私の名前はジュディス。シュリ様の忠実な僕で、今後あなたと共にシュリ様を支える女の一人でもあるわ」
「シュリ君を、支える?」
「そう。あなたはシュリ様との年の差を気にしているけど、シュリ様はあなたを選んだ。いいこと?カレン。シュリ様は年の差なんて細かいことを気にされるお方ではないわ。だから、安心して私たちと一緒にシュリ様にお仕えしましょう」
「そう、シュリ様の愛は大きくて深い。年の差なんて些細なことです。むしろ、時々シュリ様の方が年上に思えるくらいに包容力がある。カレン、あなたを歓迎します。一緒にシュリ様を守ろうではありませんか」
「シュリ君を、守る……?それって……あなた!えーっと?」
「失礼しました。シュリ様の僕その二のシャイナと申します」
「シャイナさん、シュリ君を守るってことは、なにかシュリ君に危険が迫っていると言うことですか?」
カレンは真剣な眼差しで、シュリの両脇を固める二人の女性を見つめた。
ジュディスとシャイナは目を見交わして頷き、それから揃ってシュリに視線を向ける。
そうすると自然とカレンの視線もシュリに集まり、三人の視線を受けたシュリは小さく頷いて、
(そうなんだ。実はその事で、カレンにここへ来てもらったんだよ)
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