♀→♂への異世界転生~年上キラーの勝ち組人生、姉様はみんな僕の虜~

高嶺 蒼

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第四部 王都の新たな日々

第313話 見守る人達②

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 そして、マッドサイエンティストなエルジャバーノがシュリを見つめる場所よりも高い場所。
 国王やら国賓といったVIPが来たときの為の貴賓席的な場所にも、シュリを見つめる目があった。


 「おやおや、今日はまた、以前会ったときとは違う雰囲気だな。まあ、似合っているから、これはこれで新鮮さがあっていい。それにしても、相変わらずシュリは可愛らしい。あれだけの新入生の中でも、すぐに目が引き寄せられる。すっかり埋もれきっている我が息子とは雲泥の差だな」


 言いながら、自分の息子をそっちのけでシュリに注目するのは、アンドレア。
 獣王国の女王という立場上、この貴賓席からシュリの……じゃなく、息子の入学式を見学している。
 そんな身分の彼女を1人で放置する訳はなく、貴賓席には王立学院の学院長であるシュタインバーグの姿もあった。
 彼はアンドレアの発言に少しだけ目を見張り、問いかける。


 「ふむ。アンドレア様は彼と面識がありましたか」

 「ああ。こちらの王都へ向かう途中、迷子の我が息子を保護して貰ったのだ。アレは稀有な才能を持つ少年だな。学院長は、彼を直々にスカウトしてきたと聞く。貴方の見る目は確かだな。よい買い物をされた」


 学院長の問いに答え、アンドレアは外向けの顔で上品に微笑む。
 シュタインバーグは彼女の言葉を否定することなく頷いた。
 彼は、教員席で分かりやすくシュリに見とれている孫娘をちらりと見た後、いつもとは雰囲気の違う、しかしそれでも十二分に魅力的な(に見えている)少年に視線を移し、相好を崩す。


 「よい買い物というのはあれですが、確かによい生徒を得ることができました。彼は我が学院のみならず、我が国全体にも多大なる貢献をしてくれる人材に育ってくれるでしょう。しかし、我が校へ留学されたのが王子殿下で良かった。これが姫君であれば、我が国の宝になり得る少年を、恋という名のかごに捕まえられてしまう可能性もありましたでしょうからなぁ」

 「なるほど。そういう手もあったか。しかし、我が息子も中々の傑物。シュリの心を射止める事が出来る可能性もないとはいえないと思うがな」

 「……ああ見えて、彼は男の子ですが?」

 「それは承知しているさ。しかし、シュリは可愛らしいからな。我が息子と似合いの一対になれると思うが」

 「……もしや獣王国では、そういうのはアリなんですかな?」

 「ん? まあ、少なくとも禁止はしておらんな。推奨している訳でもないが。しかし、難がないとは言い難い。男同士では後継を得られぬし、息子の婚約者も悲しむだろうしなぁ。シュリは欲しいが、悩むところだ」


 いっそ、私自身が誘惑してみようか、などと、本気か冗談か分からないようなことを言い出した他国のトップを前に、かつては宰相職に就いていた老人は何とも言えない顔をする。
 そして、現宰相である息子にこの情報は伝えるべきだろうか、と真剣に悩むのだった。

◆◇◆

 この入学式、遠く離れたアズベルグからは流石に駆けつけられず、ルバーノ家の面々は、シュリの母親であるミフィーも含め、涙を飲んだ。

 実の所、比較的時間が自由になるルバーノの祖父母は、母親であるミフィーだけでも連れて王都を訪問する計画をしていたのだが、仕事の都合や学校の都合で行けない面々の妨害工作により、その計画は頓挫した。
 ルバーノのおじい様とおばあ様も、カイゼルの反対だけなら押し切ったのだろうが、孫の反対だけは押し切れなかったらしい。

 仕方ないので今現在、子供達の長期休暇を待ってみんなでの王都旅行を鋭意計画中だ。
 とはいえ、全員で一気に家を空ける訳にも行かないから、領主であるカイゼルだけは留守番決定だが。

 そんな訳でこの入学式、ルバーノ家の面々の顔はない。
 だが、至る所にこっそりシュリを見守る面々が紛れ込んではいた。

 ある場所では、執事な師匠と悪魔な弟子が、


 「流石シュリ様。王立学院の制服がよくお似合いですねぇ」

 「ああ。しかし、少し地味だったか? もっと袖口とか襟元にレースを使っても……」

 「オーギュスト、貴方は少々レースに毒されすぎですよ。まったく、それもこれも、女性の下着ばかり作っているからに違いありません」

 「む? 俺は望まれるから女性の下着を作っているだけだ。もし望まれるなら男の下着だってちゃんと作るさ。師匠の下着もよければ俺が……」

 「レースにまみれた下着などはけますか。お断りです」

 「むむっ!? レースは素晴らしいものだぞ、師匠」

 「レースの素晴らしさは分かっていますよ、ちゃんと。貴方の作るレースの良さも、もちろん理解しています。理解はしていますが、貴方は、レースの下着をはいたジジイを見たいですか?」

 「う、むぅ。し、師匠なら上品な感じの仕上がりになると……」

 「上品とかそういう問題じゃありません! 私が見たくないんです!!」


 そんな不毛な会話を交わし。
 またある場所では、


 「シュリが可愛い! いつもとちょっと違ってて何とも言えない可愛さだよ、リメラ!!」

 「頭がふわもふ! 頭がふわもふだな、フィオラ。今すぐ側に行ってもふり倒したいな!!」


 学校をサボってこそっと参加している女子学生が2人、こっそりと言う割には大興奮の様子を見せていたり。
 これまたある場所では、


 「あんなレアなシュリ君を見れるなんて。宿を閉めて駆けつけて良かった。良かったよぉ」


 どこかの宿の東方出身のおさぼり従業員が、感涙していたり。
 だが、中には違う目的の見守り隊も混ざっていて。


 「ああ、可愛いなぁ。うちの妹は。きりっとした表情が健気だ。大丈夫だぞ、サシャ。兄ちゃんが見守ってるからな」

 「本当に。どうしてうちのサシャはあんなに綺麗で可愛くて凛々しいんでしょうね。ずっと会っていなかったからより可愛く見えます。はぁ、可愛い。最近は一緒にお風呂に入ってくれないし、折角王都に戻ってきたのに、王立学院の教員寮に入っちゃうし、全然ツレませんけど、やっぱり可愛いがすぎますね、我が家のお姫様は」

 「姉さんはいつだって完璧だよ。綺麗で、優しくて。ああ、久しぶりに会った姉さんは、相変わらず優しいのに微妙に冷たくて、クセになるというか。この世の中に、サシャ姉さん以上の女性なんていないよね。ああ、姉さんと結婚したい」


 シスコンすぎる3兄弟は、周囲の目から隠れるようにこそこそしながらも、片時も目を離さずに愛しい妹(姉)を見つめていた。
 だが、そうしているうちに、そんな彼らは気づいてしまった。
 妹(姉)の瞳が、常に誰かを追いかけて見つめている事実に。
 いつもはむしろ冷ややかさすら感じさせるクールなその瞳に宿る、隠しきれない熱量に。


 「……俺の見間違いかな? 可愛い俺のサシャが、どこぞの誰かに熱いまなざしを注いでいるように見えるんだが」

 「……兄さんの、というところに異論はありますが、確かにあの熱いまなざしは容認しかねます。僕のサシャをたぶらかしたのはどこの誰でしょうね? 死ぬ覚悟は出来てるんでしょうか?」

 「……ちょっとちょっと。兄さん達の、じゃないでしょ? 姉さんは僕の嫁だから。それにしても。なんなの、あの明らかに恋してますってまなざし。どこの教師だよ、僕の姉さんを誘惑したのは」


 ぼそりとつぶやいた3人は、一斉に犯人探しを始める。自分たちの妹(姉)の視線の先にいる男は誰か、と。
 最初は教員席にいる誰かだと思った。
 普通に考えて、それが1番確率が高いから。
 しかし。


 「サシャはどこを見てるんだ?」

 「教員席、ではありませんね」

 「じゃあ、生徒か!! くっ、教師と生徒の禁断の恋ってやつ!?」


 3人の視線が、一斉に生徒達のいる方へ向けられる。
 なんといってもここは王立学院。
 貴族の後継も多く在籍し、身分が伴わない者もその能力はかなり高い。
 つまり、高スペックな男がかなりの数、いると言うことだ。
 中には、今まで男に見向きもしなかったようなサシャの心を惑わすような男もいるかもしれない。
 そんな思いの元、彼らはサシャの視線の行く先を追った。
 その結果……


 「う、そだろ!?」

 「ま、まさか、アレが!?」

 「な、なんだかやけにちっさい、んだけど。み、見間違いじゃないよね?」


 3人は、サシャの見つめる先にシュリを見つけた。
 だが、すぐには信じきれずに、再び慎重にサシャの視線を追う。
 だが、行き着く先は同じで。
 3人はまじまじと、奇妙きてれつなシュリの様子を見つめた。


 「な、なんか、思っていたより幼いんだが。あ、ああ見えて実は20歳を越えてるなんて事は、あるのか?」

 「ないとは言えません。が、確率は低いかと。そういえば、おじい様がサシャのいたアズベルグの学校から優秀な生徒を1人、特別にスカウトしてきたという話は聞いています。聞いては、いましたが」

 「もしかして、サシャ姉さんはあの変なちびっ子を追いかけてきたの!? アズベルグから!! あんなくっしゃくしゃな髪の、ちんちくりんなガキを!?」


 言いながら3人は、妹(姉)の想い人(らしき人物)を凝視した。シュリの後頭部に穴があくんじゃないかというくらいの勢いで。
 その尋常じゃない視線を、流石に察知したのだろう。
 3人の見つめる前で、シュリの鳥の巣頭が周囲を見回して揺れる。

 その揺れで、頭の上になぜか乗っている火トカゲがずり落ちそうになり、飼い主共々少なからず慌てている様子に、うっかり胸がほっこりしそうになり。
 3人は揃って首をふる。己の気の迷いを振り払うように。
 そして、大事なサシャをあんな変てこな子供に渡す訳にはいかないという決意を新たにするのだった。

◆◇◆

 なんというか、妙に混沌としたそんな地上の様子を、じっと見守る3対の目があった。
 言わずとしれた、シュリの女神様達である。
 彼女達は揃ってシュリの晴れ姿にうっとりし、シュリの変装はここでも全く効をそうしていなかった。


 「あぁ~ん。シュリってば変てこ可愛い~」

 「ああ、それは全く同感だね。それにしても、愛と美の女神?」

 「ん~? なぁにぃ??」

 「確か、君の加護の中にこういう時にこそ使うべきってスキルがなかったかい? カメレオンなんたら、とかいう……」

 「ん? あるわよぅ??」

 「だよねぇ」

 「ん? なんだ? その、カメレオンなんたらとかいうのは??」

 「んーっとねぇ。そのスキル使うと、容姿とか服とか、自由自在に変えられるの」

 「ふむ。それは便利だな。しかし、そんなスキルがあるなら、シュリは今朝、あれほど時間をかけて己の容姿を整える必要は無かったのではないか?」

 「そうだよ、愛と美の女神。まあ、シュリの事だから多分忘れてるんだろうけど、どうして教えてやらないんだい?」

 「えええぇぇ~? だってぇ」

 「だって?」

 「一生懸命髪型を変にしたり、お化粧したりしてるシュリがあんまり可愛くってぇ。つい、言いそびれちゃった」


 言いながら、愛と美の女神はてへっと笑う。
 あとの2女神は、てへっ、じゃねぇよと思わないでもなかったが、確かに鏡に向かうシュリの一生懸命な様子は可愛かった。
 可愛かったから、まあ、いいか。
 そんな風に思う、ダメな女神達なのだった。
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