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第三→四部 旅路、そして新たな生活

第299話 新たな愛の奴隷誕生、そして……

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 ルビスとアビスを新たに愛の奴隷として身内に迎えるにあたり、シュリは当然の事ながらジュディスとシャイナ、カレンの三人にきちんと相談した。
 新しいメンバーの参入に際して、古参の三人がヤキモチを焼いたりする事もあるだろうか、と一応身構えていたが、シュリの話を聞いた三人は素直に喜びを現し歓迎した。
 ちょっぴり拍子抜けしたシュリは、


 「えーと、僕が言う事じゃないとは思うんだけど……ほんとにいいの?」


 小首を傾げ、三人の表情を伺うようにしながら問いかける。


 「いいもなにも、むしろ願ったり叶ったりです。私達と同じ愛の奴隷と言うことは、シュリ様に絶対的な愛情と忠誠を誓う存在。いわば、志を同じくする同士のようなものです。それに元より、シュリ様ほどのお方を、独り占め出来るなどとは思っていませんし、たくさんの女性と分かち合うことは想定内です」

 「そ、そう?」

 「シュリ様のお世話をする手が増えるのは良いこと。メイド長であるルビスと執事長であるアビスが仲間入りすれば、色々とやりやすくなって助かります。シュリ様の身の回りのことを、私とルビスで手分けする事も出来ますし。やはり、心から信頼できる相手でないと、完全にシュリ様を任せきることは出来ませんからね!」

 「そ、そうなんだ?」

 「二人は、魔人の血を引いてるんですよね? そうなると、シュリ君を守る戦力としてもすごく助かります。やっぱり、私一人で護衛となると色々手が足りない部分もあるし、いざというときだけでも二人の戦闘力を当てに出来るのはありがたいですね。まあ、シュリ君を守る戦力は、私達だけじゃ無いですけど、最後の最後の壁は私達だって自負してますから!」

 「う、うん。ありがとう……」


 ジュディスもシャイナもカレンも、熱くそう語ってくれた。
 どうやら三人とも、新たなメンバーを迎えることはむしろ熱烈歓迎のようだ。
 愛の奴隷を増やすことで、スキルのレベルがあがるなんて事実が漏れたら、もっとどんどん増やしましょう、なんて話になりかねないので、


 (三人には、絶対に秘密にしておこう……)


 シュリはひっそり決意する。
 やむを得ず増やさなければならなくなる瞬間まで、出来ることならそっとしておいて頂きたいものだ。
 そう考え、三人が大喜びで進めかねない『今後の愛の奴隷増強計画』については、胸の奥底にしっかりとしまい込み、封印した。
 とりあえず二人増えるわけだから、三人にはそれで良しとしておいて貰おう。

 そんなこんなで、新たな愛の奴隷を増やす事が確定したその日の夜、敏腕秘書なジュディスの手配によって、ルビスとアビスはなにも知らないままシュリの部屋へと呼び出されたのだった。

◆◇◆

 それまで悩んだ割には、二人の人生をシュリ色に染めてしまう事は非常にあっけなく。

 [ルビスを愛の奴隷にしますか? はい/いいえ]
 [アビスを愛の奴隷にしますか? はい/いいえ]

 そんな質問に、『はい』の選択肢を選んでしまうだけで事足りてしまった。
 人一人の人生を根本から変えてしまうのに、こんな簡単でいいのだろうかと悩むシュリの目の前で、ルビスとアビスの表情が劇的に変わる。

 それまで、目の前に好きで仕方のない存在を置かれ甘くとろけきった表情をしていたのに、その甘さも恋の熱も残しながらも理性がそれを押さえ込み、まっすぐ見つめてくる瞳には新たに得た主への決して変わらぬ忠誠がみてとれた。
 シュリに恋するだけの存在から、不変の愛情と忠誠心を併せ持つ愛の奴隷への変化を目の当たりにしたシュリは、感嘆の思いと共に二人を見つめる。

 ジュディスの時も、シャイナの時も、カレンの時も。

 その変化の瞬間を、こんなにしっかりと見ていたことは無かった気がする。
 まあ、最初の三人の場合は、選択の余地無く、恋愛感情の数値が振り切れた時点で問答無用で愛の奴隷になってしまった為でもあるかもしれないが。

 二人は、ただ恋していた時とは違う熱さでシュリを見つめ、それから揃って主にかしづくように膝をついた。
 シュリは二人を交互に見つめ、それから二人の前へと歩をすすめる。


 「ルビス、アビス」


 名を呼べば、ただそれだけで二人の瞳に喜びが溢れる。
 数日前までは、決して心を許さぬ頑なさがあったその瞳を、シュリは複雑な気持ちで見つめた。
 たった数日で、人の心をここまで変えきってしまう己の能力の異質さを、改めて突きつけられたような気持ちだった。

 かつて。

 魅了の力に溺れ、人としての道を踏み外してしまった男の事を、シュリはまだ覚えている。
 そして思う。
 もしかしたら自分の能力は、彼の持ち得た能力よりももっとずっと恐ろしく、良くないものなのかもしれない、と。
 今までも、幾度と無く考えていた事だったけれど。

 奥歯をぐっと噛みしめ、己を戒めるように思う。
 あの男のように己の能力に溺れ、人の道を踏み外すことはすまい、と。
 あの男がしたように、人を使い捨てにするような事は絶対にしない。


 (大切に、する。僕が……あるいは彼女達が、己の人生を終える、その瞬間まで)


 心の中で、かつて最初の三人を愛の奴隷にした時に誓った思いを改めて誓う。
 それはある意味、結婚の誓いよりも強く純粋なものかもしれなかった。


 「僕は今、君達の人生をどうしようもなく歪めた。いつか、僕を恨む日がくるかもしれない。でも、その日が来るまでは……僕を、助けて欲しい」


 二人の頬を交互に撫で、心地良さそうに嬉しそうに目を細めるその顔を見つめながら、シュリは言葉を紡ぐ。


 「シュリ様を恨む? そんな日なんて、来るはずがありません」

 「そうです。あり得ません」

 「一生……私達の命がつきるその日まで」

 「心からの喜びと愛情と忠誠を持ってシュリ様にお仕えします」


 二人はそんな誓いの言葉を述べ、それからまずはルビスが進み出て、シュリの右手の甲に唇を落とす。次いでアビスも姉と同じく、シュリの手に口づけた。
 二人がシュリの愛の奴隷であることを受け入れ、誓いの口づけを終えるのを待っていたかのように、シュリの耳にだけ、いつものアナウンスが流れた。


・愛の奴隷が一定数を超えたことにより、ユニークスキル[年上キラー]のレベルが1段階UPしました!


 予測していたそのアナウンスを冷静に受け止め、シュリはこっそりステータスの画面を開く。
 まずは、新たに愛の奴隷として迎えた二人の状態を確認するが、特に状態異常の表示は出ておらず、とりあえずホッとした。
 次いで、スキルレベルが上がり、新たに得たであろう機能を確認する。
 そこには、以下のような内容が記されていた。

・愛の奴隷を10人まで増やすことが出来る。
・愛の奴隷への主の基本能力の反映(10%)
・リスト内のメンバー呼び出し機能
・無理のある感情誘導のオン・オフ機能

 最初の愛の奴隷10人まで、というのは、今回と同様、愛の奴隷を10人に増やせばスキルレベルを上げられる、とそういう事なのだろう。
 Lv2にするには2人増やせば良かったのが、次は一気に5人増やさなければならないとなると、かなりハードルが上がった感じがする。

 たぶん、もうレベル上げはしないだろうなぁ、と思いつつ、シュリは次の項目を確認した。

 愛の奴隷への主の基本能力の反映(10%)とあるが、これはあれだろうか。
 シュリのもう見るのもイヤなくらい膨大な数値に膨れ上がってしまった基本ステータスが愛の奴隷へも反映されてしまうということ、なのだろうか?
 恐らくそういうことなんだろうなぁ、と察しつつ、シュリはその事実からそっと目をそらす。

 そらしつつもとりあえず、たかが10%であるとはいえシュリの能力が反映されてしまう以上、普段の基本的なパワーがけた違いに上がってしまうという事は確実だろう。
 なので、力加減に関する注意事項だけはきちんと伝達しておこう、そのことだけは胸に刻んでおいた。

 で、次のリスト内のメンバー呼び出し機能だが、正直言ってあんまり必要性を感じない。
 が、ジュディス的にはそうではなかったらしく。
 この機能について話したら目を輝かせていた。

 シュリ様の性欲処理の手配に、とか、夜伽係の手配に、とか、そんなことをぶつぶつ呟いていたが、そんなジュディスに声を大にして言いたい。
 今後がどうなるかはまだ未知数だが、今のところ持て余す程の性欲はないし、夜伽の係も必要なという、その事実を。
 まあ一生懸命主張したところで、ジュディスの耳にはきっと届かないだろうけれど。

 そんな訳で、呼び出し機能は当面使う予定は無いが、まあ、いつか必要になる日も来るかもしれない。今後の活躍に期待しよう。

 最後に、無理のある感情誘導のオン・オフ機能だが、もしかしたらこれが一番シュリが今求めているものに近いかもしれない。
 はやる気持ちを抑えつつ、さらなる説明を求め、指を伸ばしその項目をクリックしてみた。

・無理のある感情誘導のオン・オフ機能
→無理のある感情誘導とは、例えば相手がスキル所持者に好感情を抱いていない場合であっても、それが好感情になるように導く作用の事である。
 この作用により、好感度がゼロまたはマイナスであっても、短い時間でプラスに導く事ができる。
 本機能により、その効果のオン・オフが可能となる。

 つらつらと小難しく書かれた説明を読み、なるほど、とシュリは頷く。
 どうやら、新たに得た機能により、無理のある感情誘導をオフにしておけば、相手がシュリに好意を抱いてさえいなければ、そのまま好感度を上げずにいられる、と言うことらしい。

 ほんの少しでも好感度がプラスだと効果はなさそうなので、残念ながらすでに好感度が高い相手への効果は見込めない。
 ということは、今回のキキのケースに役立つ機能ではない、ということだ。
 その事は残念だが、それさえ別にすれば、すごく有用な機能なのではなかろうか。


 (相手が僕に好感を抱いてさえいなければ、問答無用で好感度が上がることは無いって事だよね?)


 特に初対面の相手へ有効であろうその機能は、もうしばらく後に王立学院に入学するシュリにとって、とても役立つものになるだろう。
 とはいえ、その機能を十全に役立てるためには……


 (初対面でうっかり好感度を上げないように僕が努力をする必要があるなぁ)


 シュリは腕を組み、真剣な表情で考え込む。
 決して自慢ではないのだが、いつも通りに初対面の相手に相対したら、ほとんどの相手の好感度を上げてしまう事は確実だ。
 大抵の人は小さくて愛らしいモノが好きであり、シュリの容姿は人の好む要素を多分に含んだものだった。
 己で言うのは、少々面はゆくはあるが。


 (入学式までに、見た目を劇的に変える必要があるなぁ。後は、できるだけ大人しく過ごせば、[年上キラー]の効力を押さえることができるかも。新しい友達を作れないのはちょっと寂しいけど、他の人に迷惑をかけるのもどうかと思うしね)


 シュリは思い、決意する。
 王都での学園生活は、ひっそり静かに、他人の目に留まらぬように過ごそう、と。
 そうして新生活に思いを馳せるシュリの頭の中からは、タントのキキへの恋愛事情などきれいさっぱり消えて無くなっていたのだった。

◆◇◆

[年上キラー]
 相手の庇護欲・母性本能をかきたて、好意を上昇させる。
 男女・種族は関係なく自分より年上の相手に効果が発動。一度発動すると効果は一生涯。


Lv0
・恋愛度の上昇により[愛の奴隷]を得ることが出来る。

[愛の奴隷]
 対象を好きで好きでたまらない状態。
 主の不利になるようなことはせず、常に主の利益となるように動くことを生き甲斐と感じる。
 恋愛特有のヤキモチのような感情は抑制されるが、弊害として主以外との性交で性欲を満たす事が出来なくなる。
 性欲を満たすと能力上昇。充足度により、上昇値は変動する。
 主との関係性により状態異常が引き起こされる事もあり、放置すると命に関わるので注意が必要。

Lv1
・愛の奴隷を5人まで増やすことが出来る。
・一度愛の奴隷となった者を解放する事は出来ないが、愛の奴隷にするかしないかの選択が可能。
・恋愛状態者のリスト管理の開放。

Lv2
・愛の奴隷を10人まで増やすことが出来る。
・愛の奴隷への主の基本能力の反映(10%)
・リスト内のメンバー呼び出し機能
・無理のある感情誘導のオン・オフ機能
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