♀→♂への異世界転生~年上キラーの勝ち組人生、姉様はみんな僕の虜~

高嶺 蒼

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第三部 学校へ行こう

第269話 サシャ先生危機一髪②

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 忙しい日々の中ではあったが、そんなサシャの異変にはもちろんシュリも気づいていた。

 特に特別な会話を交わしたわけでもなく、忙しくて一緒の時間もほとんど無かったのになぜ分かったか。
 その理由は簡単だ。
 中等学校でのちょっとした騒動の後、念の為と思ってサシャに小さな精霊を張り付けておいたのである。

 特に問題なしの報告を繰り返していた精霊の報告の内容が変わってきたのは数週間前のこと。
 最初はちょっとした小物が無くなり、それから彼女の下着が盗まれるようになり、その後彼女を悩ます足音の主が現れた。

 実の所、精霊からの報告で、すでに犯人に目星はついている。
 だが、中途半端な段階で罪の追求をしたところで、たまたまサシャ先生と同じ方向に歩いていたとか、家にあるであろう戦利品に関しても、落とし物を拾っただけで届けようと思っていたとか、苦しくはあるが言い逃れされる可能性は否めない。

 そんなの気にせずぷちっと叩きつぶせるだけの権力も力も、シュリがその気になればどうにでも出来そうではあったが、シュリの理性と常識がそれを良しとはしなかった。

 それに、無理にアンダーグラウンドな方法を選ばなくても、きちっと現行犯で捕まえて、言い訳出来ない状態で罪を償わせることは出来るという確信もあったのだ。
 サシャ先生には少しだけ怖い思いをさせてしまうかもしれないけれど、彼女の身に実害が及ぶ前にシュリ自ら取り押さえる。
 その後は、きちんと責任を持ってサシャの心身のケアを引き受けるつもりだった。

 とにかく。
 サシャの周りの異変が始まってから、シュリは注意深く彼女を見守ってきた。
 犯人が巧みに彼女の懐へ入り込んだ時も、すぐにその情報はシュリの元へ届いたが、まだ動くわけにはいかなかった。
 細かい証拠は少しずつ集まってきてはいたが、まだ足りない。
 やはり言い逃れ出来ない瞬間を押さえる必要がありそうだった。

 そんな訳で。
 シュリは今日もサシャを見守っている。
 といっても、後をつけたりする訳ではなく、サシャに付けている精霊からの情報と、土魔法で作成したネズミ型パペットの視覚転移を利用して、だが。

 犯人は今はまだ大人しく紳士的に振る舞っている。
 そのまま悪さをすることなく過ごすなら、別に無理にサシャから引き離すつもりは無いのだが、きっとそうはならないだろう。


 (ん~。もうそろそろ、我慢がきかなくなる頃だと思うんだけどなぁ)


 前世で瑞希として生きていた頃。女のくせに妙に女にモテ、趣味で色々な格闘技を嗜んでいた彼女は、色々な女子からストーカー被害の相談を受けたものだ。
 その当時の経験から考えると、事態が動くのはそろそろのはず。

 瑞希が相対したストーカーさん達は、彼氏役の瑞希の姿に大人しく諦めるか、我慢できなくなって相手を無理矢理自分のものにしようとして撃退されるかのどちらかだった。

 今回、シュリは年齢の都合上、サシャ先生の彼氏役は出来なかったが、サシャは恐らく犯人にはなびかない。
 となると、いずれ我慢が出来なくなった犯人が力に訴えてサシャを手に入れようとするはずだ。

 シュリの見立てでは、その瞬間はそう遠くはなさそうだった。
 実際、パペットの目を通して見る犯人は、思い通りにならない事態に徐々に苛立ちをつのらせている。

 彼の計画では、様々な事に怯えた彼女を自ら救うことで、彼女の想いは彼の方を向くはずだったのだろう。
 だが、そうはならなかった。

 空想の中で散々彼女の恋人としてふるまってきた彼は、我慢できないはずだ。
 彼女が己を恋人として扱わないことが。

 彼が空想を現実にしようとするまでのカウントダウンは、もう始まっているはず。
 そのカウントがゼロを刻むのは、きっともうすぐ。

 シュリがそんなことを考えて警戒を高めていた頃、犯人の中でのカウントがいよいよゼロを数えようとしていた。

◆◇◆

 バッシュに送られて家へ帰ることに少し慣れてきた頃、いつもの如く家の前で別れを告げようとしたサシャに、彼がある願い事をした。


 「サシャ先生、すみません。申し訳ないんですが、用足しをさせていただけないですか? どうも、少し水を飲みすぎたみたいで。その上、この寒さでしょう? 我慢しようと思ったんですが、どうも家までもちそうにない」


 トイレを貸してほしい、そう訴えた彼を突っぱねるのはさすがに申し訳ない気がした。
 これがボディーガード初日だったら、さすがに断っていたかもしれない。

 だが、ここ数日、彼は極めて紳士的に護衛役を務めてくれたし、その結果、サシャの中に彼に対する若干の信頼感も育ちつつあった。
 まあ、トイレくらいなら、と彼女が思ってしまったとしても、仕方ない状況がいつの間にか作り上げられていたという訳だ。

 あと数日我慢できていれば、体が冷えたことを理由に彼女の部屋でお茶を飲むことも夢では無かったかもしれない。
 だが、彼の我慢は限界だった。
 顔に笑顔を張り付けたまま、必死に己の欲望と戦う彼の前で、サシャは表情を変えずにで頷く。


 「トイレをお貸しするくらいならかまいません。中へどうぞ?」


 玄関の鍵を開け、サシャは彼を家の中へ招いた。
 彼女は己が野蛮な獣を家へ招き入れてしまった事に気づくことは出来なかった。

 扉が閉まる寸前、わずかな隙間から淡い光が飛び出して一直線に飛んでいく。
 そして、それと入れ替わるように、小さな影が戸の隙間から家の中へと滑り込んだ。

 ぱたん、と軽い音をたてて扉が閉まる。
 その内側に、いたいけな羊サシャ悪い狼バッシュを共に閉じこめるように。
 閉じた扉の向こうから、カチャリ、と鍵の閉まる音がした。

◆◇◆

 あわてた様子で飛び込んできた淡い小さな光を見て、シュリはいよいよかな、と立ち上がる。
 サシャの側に放してあるネズミ型のパペットの目にリンクを繋げれば、まんまとサシャの家の中へ入り込んだ男……バッシュ先生の姿が見えた。

 二人分のお茶を入れた後、バッシュに何か言われたのか、しばし席を外すサシャ先生。
 彼女の姿が見えなくなるのを待ってから、奴は懐から小さな包み紙を取り出し、その中身を二人のカップそれぞれに溶かし込んだ。

 自分のカップに入れるくらいだから、その薬は毒ではないのだろう。
 恐らく、男女の秘め事に関して、特殊な効能を持つ何か、だ。
 隠しきれない欲望に、醜悪な笑みを浮かべるバッシュの顔を、ネズミの目を通して見ながら思う。
 いい気になっていられるのも今のうちだ、と。


 (さぁてバッシュ先生、そろそろお仕置きの時間だよ?)


 シュリは手早く準備を整えると風の精霊・シェルファの力を借りて、自室の窓から空へと飛び出す。
 そしてサシャ先生の家へ、街中で許される範囲の速度で飛行し、向かうのだった。
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