上 下
277 / 545
第三部 学校へ行こう

第243話 サシャ先生の悩み事

しおりを挟む
 「実は、複数の男性からしつこくされて困っています」


 シュリの、実年齢に見合わぬ包容力に少々戸惑いつつ開いたサシャの口からこぼれたのはそんな言葉。


 「サシャ先生、質問です!」


 彼女のため息混じりの言葉を聞き終わったシュリは、さっと手を挙げてきりっとサシャの顔を見つめた。
 いつもより少し心の弱っているサシャは、少年の凛々しい表情についつい胸を高鳴らせてしまう。
 いけないとは思いつつも、どうしても彼の顔から目を離せない。
 可愛らしいのに男らしさも感じさせて、いつの間にか誰よりも好ましいとまで思うようになってしまった、その顔から。
 そんな内心の動揺を押し隠し、サシャは先生らしくシュリを指名する。


 「はい、シュリ君。なんでしょう?」

 「複数の男性からしつこくされている、ということは、先生は複数の男性から言い寄られているってことですね?」

 「言い寄ら……こほん。そうですね。その表現も、間違ってはいないと思います」

 「なるほど。その人達は、サシャ先生と男女の交際がしたい、と」

 「そ、そうですね。恐らく、そうだと思います」

 「何人、ですか?」

 「ここ最近……現在に限って言うなら三人です」

 (今に限らなければ、もっと人数は増えるってことか。流石、サシャ先生)


 美人だもんなぁ、と見上げれば、その視線を受けてサシャは恥じらうように目元を紅く染めた。
 普段の彼女しか知らない人が目にしたら驚愕するようなその様子を贅沢にも独り占めにしながら、シュリはどうしたものかと考える。
 そして、一つ頷きサシャをまっすぐに見つめると、


 「その三人の中に、先生が好ましいと思っている人、あるいは好みのタイプはいませんか?」


 そんな質問を繰り出した。
 正直、その質問の答えがYesであれば、解決は簡単だ。
 サシャ先生と好みのタイプの人がおつき合いをはじめてしまえば、後の二人は快くとまではいかないだろうが一応は諦めてくれるだろうから。


 「いえ、残念ですが、三人とも私の好みのタイプとはかけ離れています。好ましいという感情も、正直なところ、全く無いといっても過言では……」


 でも、サシャ先生はきっぱりNoと答え。
 世の中、そう上手くはいかないなぁ、とシュリは次の対策を模索する。


 「う~ん。サシャ先生が好きな人とつきあっちゃうのが一番手っ取り早いと思ったんだけど、流石にそう上手くはいかないか……」

 「す、好きな人と、つき合う……ですか」


 ぼそりと独り言の様に呟いた言葉に、なぜかサシャが過剰に反応して顔を赤くする。
 その様子を見て、シュリは小首を傾げた。


 (あれ、サシャ先生、好きな人がいるのかな?もしいるなら、言い寄られ対策にも僕のスキル対策にもなるし、万々歳なんだけど)


 そんなことを思いながら見上げるシュリはまだ知らない。
 彼女の好みの相手であり好きな相手、それが紛れもない己だという事実を。
 その後も色々と対策を練ったが、サシャが頑なに好きな相手を明かさない為に有効な手段を講じることは出来ず。
 結局、生徒の見ている前では相手も強硬な手段には訴えられ無かろうと言うことで、出来る限りシュリが側にいて虫除けをするという無難な消極策に落ち着いた。


 「じゃあ、今日の午後から早速、出来るだけ僕がサシャ先生の傍にくっついているようにしますね?」


 そう言ってシュリがにっこり微笑めば、


 「え、ええ!シュリ君には世話をかけますが、そうしてもらえると助かります。良かったら、先生がずっと抱っこしていてもいいんですが……」


 なぜかは分からないが、可憐に頬を染めたサシャ先生がそんな提案。
 シュリはぷくっと頬を膨らませてサシャを見上げ、


 「先生、僕ももうちっちゃな子供じゃないんですから、子供扱いはやめて下さい」


 前々から言おう言おうと思っていた主張をここぞとばかりにぶちまけた。
 世間一般からみれば、まだ十分にちっちゃな子供なのだが、それは禁句である。
 シュリは今現在、絶賛背伸びをしたいお年頃というやつなのだ。
 そんなシュリの言葉に、サシャは何を思ったのか、更にその頬を赤くした。子ども扱いして欲しくない、それはすなわち……


 「シュリ君は、先生に大人扱いをしてほしいと……?」

 「はい!僕もおっきくなりましたから!ちっちゃくなんかないですし!!」


 むきになってそういい募る様子はまだまだ子供らしさを多分に残しているのだが、本人にはまったくその意識がない。
 時に大人のような包容力を見せる時もあれば、今みたいに駄々をこねる子供のような可愛らしい面もあり。
 サシャはどれだけ見続けても決して飽きる事のないであろうシュリの魅力に、正直なところ、どうにもならないくらい夢中だった。
 その気持ちを、相手は生徒だ、まだ子供だと己に言い聞かせる事で、教師としての理性をなんとか保っていただけで。
 だが、シュリは言った。子供ではなく、大人として扱って欲しいと。
 目の前の魅力的な少年が、子供ではなく大人なのであれば……


 「……私が恋心を抱いたとしても、おかしくはないのよね?」


 サシャは熱に浮かされたような口調で、独り言のように呟く。
 そんなサシャの独り言を聞き逃したシュリは、妙に艶っぽい表情の彼女を不思議そうに見上げ、


 「先生?」


 そっと呼びかけた。
 その呼びかけにハッとしたように、サシャは理性を取り戻した瞳でシュリを見る。
 たとえシュリを大人扱いにしようとしまいと、そこにいるのは自分の生徒であり、自分は教師なのだと、その事実をかろうじて思い出して。
 再び教師としての理性を身にまとい、サシャは己を厳しく律する。
 シュリは生徒で自分は教師。恋をするなどあってはならない、と。

 だが、彼女の分厚かったはずの理性は、ところどころほころんで薄くなり、どうにも心もとないものになりつつある。
 そのことを自覚しつつ、彼女はそっと甘い吐息を漏らす。
 自分はいつまで、己の気持ちを偽り続けることが出来るのだろうか、と。


 (……どうにか頑張らないと。せめてシュリ君の卒業まで。なんだか、気の遠くなりそうな話ではありますが)


 シュリ君の信頼を裏切るわけにはいきません、とサシャは弱気な心に活を入れる。
 こうしてサシャは、今日もどうにか、シュリの恋愛状態リストに入る事をまぬがれるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。 勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。 ――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。 ――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。 これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。 ######## この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...