238 / 248
第三部 新たな己への旅路
SS 雷砂とシンファ②
しおりを挟む
暖かなお布団の中で、温かで優しい人の腕に抱かれて。
雷砂はゆっくりと眠りの淵から意識を浮上させる。
聞こえてくるのは、朝を知らせる小鳥の鳴き声。
その声がいつもよりも、たくさん、しかも大きく聞こえるような気がするのは気のせいだろうか。
母親のこだわりで、頻繁に太陽にさらされているお布団は、いつもは太陽の匂いがするのに、今日はなんだか少し獣臭い。
そんな些細な違いに首を傾げながら、雷砂は慣れない匂いから逃げるように自分を守るように抱いてくれる人の胸へ顔を埋めた。
すると代わりに感じるのは甘酸っぱいような汗の匂い。
雷砂は鼻先に触れる瑞々しい肌の感触に、再び首を傾げる。
夜は肌触りのいい寝間着を着込んで寝るのが習慣の母親が、今日に限ってそれを身につけていないのは何でだろう、と。
だが、そんなこと、今の雷砂にとってはどうでもいいことだった。
冷たくなったはずの母親がここにいる。
いつもと変わらないぬくもりで自分を抱きしめてくれている。
それ以上に重要な事など、今の雷砂にはなく、心地よいまどろみの中でその幸せを噛みしめる。
そんな気持ちのまま、雷砂は妙に甘えたい気分で、母親の胸元を探った。
もうおっぱいを離れてずいぶん立つし、母親から叱られると分かってはいたけど。
五歳にもなって恥ずかしいわよ?と母親の甘い叱責の声が落ちるのを待ちながら、雷砂は三度首を傾げた。
あれ?お母さんのおっぱい、大きくなった??……と。
「ん……う……?」
耳元で聞こえるかすれた声。
その声は雷砂の耳に残る母親の声よりも少し低い。
(だ、れ……だろう?)
急にこみ上げてきた不安に、すうっと背筋が寒くなる。
雷砂は、顔を埋めていた知らない胸から顔を離して、おそるおそる上を見上げた。
最初に目に飛び込んできたのは長い黒髪。
母親と同じ色に思わずほっと息を吐き出す雷砂。
だが、落ち着いてよく見てみれば、雷砂の見慣れた母親のものよりも長くて艶やかで、明らかに母親とは違っていた。
雷砂の母親の髪の毛は少し猫っ毛で柔らかな癖があり、日に透けると少し茶色に見えるのだ。
しかし、今雷砂が見ている髪の毛は、太く真っ直ぐでしっかりしていて、光に透かしてみても茶色には見えそうにないし、母親がいつも嘆いていた芸術的な寝癖など、どう頑張ってもつきそうになかった。
ということは、やっぱりこの人はお母さんじゃないんだ……とかなり落胆しつつも、雷砂は小さな手を伸ばしてその人の顔を隠している髪の毛をそっと横に避けてみる。
黒い髪の毛の下から現れたのは、とてもきれいな女の人の顔だった。
雷砂の母親も綺麗な人だったが、それに負けないくらいに。
髪をどかされてまぶしいのだろう。
目をぎゅーっとして眉を寄せ、口もへの字になっている。
そんな彼女の顔を見て、雷砂は思わずくすりと笑い、その笑いと共に昨夜の出来事を思い出していた。
母の死と、見知らぬ土地での恐ろしい獣との遭遇、そしてそこから助け出してくれた人のことを。
彼女は黒く美しい獣で、それと同時に美しく優しい人でもあった。
獣でもあり、人でもある。
そんな人、雷砂は今まで見たことがなかった。
といっても、雷砂が今まで知る世界はとても狭い。
小さな古いアパートと、近所の公園。
そんな狭い狭い世界で、母親と二人で体を寄せ合ってひっそりと生きてきた。
もちろん、たまに訪ねてくる人はいた。
母親を怒る人、母親を心配する人、そして……雷砂を気味悪そうに見つめる人。
雷砂を愛してくれたのは、母親だけ。
いや、それでも雷砂を可愛がってくれた人がいないわけでは無かったが、それでも幼い雷砂にとっては母親が世界の全てだった。
その母親にはもう二度と会うことは出来ず、雷砂はどこともしれない場所へ放り出されてしまった。
元の場所……母親と一緒に住んでいたアパートに戻れるのかすらも分からない。
でも、あの場所へ戻りたいとも、もう思えなかった。
だって、あの場所には一番大好きな人がいない。
愛して、愛して、愛して、雷砂の世界の全てだった人は、もう二度と会えない場所へ行ってしまったのだから。
もうあの場所に、雷砂を愛して必要としてくれる人はいないのだ。
なら、どこにいたって同じ事だ。
もそもそと、温かな寝床から出て座り込んだまま、まぶしそうな顔でしぶとく眠る人の顔を見下ろす。
う~、と唸るその人の眉間のしわはますます険しい。
そんなにまぶしいのかなと思って、彼女の顔が影になるように体の位置をずらすと、その表情がほわっと緩んだ。
その様子が可愛くて、思わず口元がふわりと緩む。
でも、その瞬間、幸せそうな彼女の頬にぽたりと水滴が落ちた。
どこから水が落ちたんだろうと思いながら、手を伸ばして彼女の頬を拭う。
だが、水滴は次から次へと落ちてきた。
どうして……と戸惑っていたら、眠っていた人の目がぱちっと開いて。
青みがかった黒い瞳が、自分を上からのぞき込んでいる雷砂を認め、驚いたように見開かれる。
そしてその表情はすぐに慌てたような困ったようなものに変わって。
彼女は急いで起きあがると、その両手で雷砂の頬をごしごしと擦った。
きょとんとして彼女の顔を見上げれば、その黒い瞳は心配そうに雷砂を見つめ、
「どうした?雷砂。なにか、悲しいことでも思い出したのか??」
そんな問いかけと共に、おずおずと伸びてきた手が雷砂の頭を壊れ物を扱うようにそっと撫でてくれる。
大丈夫、と答えようとして、言葉が通じないことを思い出した雷砂は、ただ黙って首を横に振る。
しかし、それでも彼女の雷砂を見つめる瞳は心配そうで。
どうしたらいいんだろう、と思っていると、ためらいがちに伸びてきた彼女の手が雷砂を抱き上げて、その胸に優しく抱きしめてくれた。
「い、いやじゃないか?いやだったら、ちゃんと言うんだぞ?」
その言葉からも、ぎこちなく背中を撫でてくれる手からも、心の底から雷砂を思いやってくれている事が伝わってきて、雷砂はイヤじゃないと首を振り、抵抗することなくそっと彼女の体に身を寄せた。
「そ、そうか……イヤじゃないか。な、ならいいんだが」
ほっとしたような声が、雷砂の耳朶を打つ。
雷砂は目を閉じ、その温もりに身を任せてみた。
彼女からの悪意は全く感じられず、ただ雷砂を案じる気持ちだけが伝わってくる。
まるで母親の腕に抱かれているときのような安心感を感じながら、雷砂は自分の頬を彼女の肩に預けた。
腕の中の存在が、体の力を抜いて警戒心を解いたのが分かったのだろう。
彼女もまた安堵した様に吐息を漏らし、小さな体を抱く手にそっと力を込めた。
「雷砂……」
そうして抱きしめたまま、小さな声で呼びかける。
返事はない。
だが、雷砂がきちんと聞いていることは分かっていた。
名前を呼ばれた小さな体がぴくんと反応し、それからちゃんと聞いているよという風に、肩に乗せられた顔の向きが自分の方へと向けられたから。
彼女……シンファは口元に柔らかな笑みを浮かべ言葉を続ける。
「雷砂がどこか行きたい場所が出来るまで……お前が一人で生きていけるようになるまで……」
抱きしめたまま、少しだけ体を離し、シンファは雷砂の瞳を真っ直ぐにのぞき込んだ。
稀有な宝石のような、二つの色の違う輝きを。
「ここで一緒に暮らそう?私を、お前の側にいさせて欲しい」
じわじわと、その言葉の意味が染み込むように。
雷砂の可愛らしい瞳が大きく見開かれ、その内心の驚きを隠そうともせずにシンファを見上げてくる。
シンファは、胸の奥底からこみ上げる雷砂に対する言いようのない愛しさに、自分でも驚きながらも言葉を続けた。
「イヤだと思ったら遠慮なく言ってくれていい。私とお前は、まだ出会ったばかりだからな。その時は、ちゃんと面倒を見てくれる別の相手をちゃんと紹介する。けど、お前が今、私のことをイヤだと思ってないなら、この先、私をイヤだと思うその時まで、一緒に、いてみないか?」
そんな選択肢を提示して、雷砂の様子をそっと伺う。
シンファがちょっと不安そうに見つめる前で、雷砂は一生懸命に首を振る。
いやじゃない、とシンファに伝えるように。
だが、それだけでは不十分だと思ったのだろう。
両方の手をシンファにそっと押し当て、彼女の顔を真っ直ぐに見上げて、唯一知っている言葉で答えた。
「しんふぁ……」
たどたどしく、彼女の名を呼ぶ声が愛しくて。
シンファは目を細めて微笑んだ。
「それは、私と一緒でいいってことだな?」
問えば、即座に雷砂の頭が上下に動く。
そして再びおずおずとシンファの顔を見上げ、
「しんふぁ」
とさっきよりしっかりとした声で彼女を呼んだ。
控えめだけれども可愛らしい笑みを、浮かべて。
柔らかな金色の髪を撫でて、雷砂のまあるいおでこに自分の額をコツンと押し当て、シンファは笑う。
目の前の小さな存在に選ばれたこと。
そのことが、純粋に嬉しくて、ただただ雷砂を愛おしいと感じた。
わずかに差し込む朝日の中、二人は寄り添いあう。
それは大切な者を失った雷砂の人生に、新たな家族が生まれた瞬間だった。
雷砂はゆっくりと眠りの淵から意識を浮上させる。
聞こえてくるのは、朝を知らせる小鳥の鳴き声。
その声がいつもよりも、たくさん、しかも大きく聞こえるような気がするのは気のせいだろうか。
母親のこだわりで、頻繁に太陽にさらされているお布団は、いつもは太陽の匂いがするのに、今日はなんだか少し獣臭い。
そんな些細な違いに首を傾げながら、雷砂は慣れない匂いから逃げるように自分を守るように抱いてくれる人の胸へ顔を埋めた。
すると代わりに感じるのは甘酸っぱいような汗の匂い。
雷砂は鼻先に触れる瑞々しい肌の感触に、再び首を傾げる。
夜は肌触りのいい寝間着を着込んで寝るのが習慣の母親が、今日に限ってそれを身につけていないのは何でだろう、と。
だが、そんなこと、今の雷砂にとってはどうでもいいことだった。
冷たくなったはずの母親がここにいる。
いつもと変わらないぬくもりで自分を抱きしめてくれている。
それ以上に重要な事など、今の雷砂にはなく、心地よいまどろみの中でその幸せを噛みしめる。
そんな気持ちのまま、雷砂は妙に甘えたい気分で、母親の胸元を探った。
もうおっぱいを離れてずいぶん立つし、母親から叱られると分かってはいたけど。
五歳にもなって恥ずかしいわよ?と母親の甘い叱責の声が落ちるのを待ちながら、雷砂は三度首を傾げた。
あれ?お母さんのおっぱい、大きくなった??……と。
「ん……う……?」
耳元で聞こえるかすれた声。
その声は雷砂の耳に残る母親の声よりも少し低い。
(だ、れ……だろう?)
急にこみ上げてきた不安に、すうっと背筋が寒くなる。
雷砂は、顔を埋めていた知らない胸から顔を離して、おそるおそる上を見上げた。
最初に目に飛び込んできたのは長い黒髪。
母親と同じ色に思わずほっと息を吐き出す雷砂。
だが、落ち着いてよく見てみれば、雷砂の見慣れた母親のものよりも長くて艶やかで、明らかに母親とは違っていた。
雷砂の母親の髪の毛は少し猫っ毛で柔らかな癖があり、日に透けると少し茶色に見えるのだ。
しかし、今雷砂が見ている髪の毛は、太く真っ直ぐでしっかりしていて、光に透かしてみても茶色には見えそうにないし、母親がいつも嘆いていた芸術的な寝癖など、どう頑張ってもつきそうになかった。
ということは、やっぱりこの人はお母さんじゃないんだ……とかなり落胆しつつも、雷砂は小さな手を伸ばしてその人の顔を隠している髪の毛をそっと横に避けてみる。
黒い髪の毛の下から現れたのは、とてもきれいな女の人の顔だった。
雷砂の母親も綺麗な人だったが、それに負けないくらいに。
髪をどかされてまぶしいのだろう。
目をぎゅーっとして眉を寄せ、口もへの字になっている。
そんな彼女の顔を見て、雷砂は思わずくすりと笑い、その笑いと共に昨夜の出来事を思い出していた。
母の死と、見知らぬ土地での恐ろしい獣との遭遇、そしてそこから助け出してくれた人のことを。
彼女は黒く美しい獣で、それと同時に美しく優しい人でもあった。
獣でもあり、人でもある。
そんな人、雷砂は今まで見たことがなかった。
といっても、雷砂が今まで知る世界はとても狭い。
小さな古いアパートと、近所の公園。
そんな狭い狭い世界で、母親と二人で体を寄せ合ってひっそりと生きてきた。
もちろん、たまに訪ねてくる人はいた。
母親を怒る人、母親を心配する人、そして……雷砂を気味悪そうに見つめる人。
雷砂を愛してくれたのは、母親だけ。
いや、それでも雷砂を可愛がってくれた人がいないわけでは無かったが、それでも幼い雷砂にとっては母親が世界の全てだった。
その母親にはもう二度と会うことは出来ず、雷砂はどこともしれない場所へ放り出されてしまった。
元の場所……母親と一緒に住んでいたアパートに戻れるのかすらも分からない。
でも、あの場所へ戻りたいとも、もう思えなかった。
だって、あの場所には一番大好きな人がいない。
愛して、愛して、愛して、雷砂の世界の全てだった人は、もう二度と会えない場所へ行ってしまったのだから。
もうあの場所に、雷砂を愛して必要としてくれる人はいないのだ。
なら、どこにいたって同じ事だ。
もそもそと、温かな寝床から出て座り込んだまま、まぶしそうな顔でしぶとく眠る人の顔を見下ろす。
う~、と唸るその人の眉間のしわはますます険しい。
そんなにまぶしいのかなと思って、彼女の顔が影になるように体の位置をずらすと、その表情がほわっと緩んだ。
その様子が可愛くて、思わず口元がふわりと緩む。
でも、その瞬間、幸せそうな彼女の頬にぽたりと水滴が落ちた。
どこから水が落ちたんだろうと思いながら、手を伸ばして彼女の頬を拭う。
だが、水滴は次から次へと落ちてきた。
どうして……と戸惑っていたら、眠っていた人の目がぱちっと開いて。
青みがかった黒い瞳が、自分を上からのぞき込んでいる雷砂を認め、驚いたように見開かれる。
そしてその表情はすぐに慌てたような困ったようなものに変わって。
彼女は急いで起きあがると、その両手で雷砂の頬をごしごしと擦った。
きょとんとして彼女の顔を見上げれば、その黒い瞳は心配そうに雷砂を見つめ、
「どうした?雷砂。なにか、悲しいことでも思い出したのか??」
そんな問いかけと共に、おずおずと伸びてきた手が雷砂の頭を壊れ物を扱うようにそっと撫でてくれる。
大丈夫、と答えようとして、言葉が通じないことを思い出した雷砂は、ただ黙って首を横に振る。
しかし、それでも彼女の雷砂を見つめる瞳は心配そうで。
どうしたらいいんだろう、と思っていると、ためらいがちに伸びてきた彼女の手が雷砂を抱き上げて、その胸に優しく抱きしめてくれた。
「い、いやじゃないか?いやだったら、ちゃんと言うんだぞ?」
その言葉からも、ぎこちなく背中を撫でてくれる手からも、心の底から雷砂を思いやってくれている事が伝わってきて、雷砂はイヤじゃないと首を振り、抵抗することなくそっと彼女の体に身を寄せた。
「そ、そうか……イヤじゃないか。な、ならいいんだが」
ほっとしたような声が、雷砂の耳朶を打つ。
雷砂は目を閉じ、その温もりに身を任せてみた。
彼女からの悪意は全く感じられず、ただ雷砂を案じる気持ちだけが伝わってくる。
まるで母親の腕に抱かれているときのような安心感を感じながら、雷砂は自分の頬を彼女の肩に預けた。
腕の中の存在が、体の力を抜いて警戒心を解いたのが分かったのだろう。
彼女もまた安堵した様に吐息を漏らし、小さな体を抱く手にそっと力を込めた。
「雷砂……」
そうして抱きしめたまま、小さな声で呼びかける。
返事はない。
だが、雷砂がきちんと聞いていることは分かっていた。
名前を呼ばれた小さな体がぴくんと反応し、それからちゃんと聞いているよという風に、肩に乗せられた顔の向きが自分の方へと向けられたから。
彼女……シンファは口元に柔らかな笑みを浮かべ言葉を続ける。
「雷砂がどこか行きたい場所が出来るまで……お前が一人で生きていけるようになるまで……」
抱きしめたまま、少しだけ体を離し、シンファは雷砂の瞳を真っ直ぐにのぞき込んだ。
稀有な宝石のような、二つの色の違う輝きを。
「ここで一緒に暮らそう?私を、お前の側にいさせて欲しい」
じわじわと、その言葉の意味が染み込むように。
雷砂の可愛らしい瞳が大きく見開かれ、その内心の驚きを隠そうともせずにシンファを見上げてくる。
シンファは、胸の奥底からこみ上げる雷砂に対する言いようのない愛しさに、自分でも驚きながらも言葉を続けた。
「イヤだと思ったら遠慮なく言ってくれていい。私とお前は、まだ出会ったばかりだからな。その時は、ちゃんと面倒を見てくれる別の相手をちゃんと紹介する。けど、お前が今、私のことをイヤだと思ってないなら、この先、私をイヤだと思うその時まで、一緒に、いてみないか?」
そんな選択肢を提示して、雷砂の様子をそっと伺う。
シンファがちょっと不安そうに見つめる前で、雷砂は一生懸命に首を振る。
いやじゃない、とシンファに伝えるように。
だが、それだけでは不十分だと思ったのだろう。
両方の手をシンファにそっと押し当て、彼女の顔を真っ直ぐに見上げて、唯一知っている言葉で答えた。
「しんふぁ……」
たどたどしく、彼女の名を呼ぶ声が愛しくて。
シンファは目を細めて微笑んだ。
「それは、私と一緒でいいってことだな?」
問えば、即座に雷砂の頭が上下に動く。
そして再びおずおずとシンファの顔を見上げ、
「しんふぁ」
とさっきよりしっかりとした声で彼女を呼んだ。
控えめだけれども可愛らしい笑みを、浮かべて。
柔らかな金色の髪を撫でて、雷砂のまあるいおでこに自分の額をコツンと押し当て、シンファは笑う。
目の前の小さな存在に選ばれたこと。
そのことが、純粋に嬉しくて、ただただ雷砂を愛おしいと感じた。
わずかに差し込む朝日の中、二人は寄り添いあう。
それは大切な者を失った雷砂の人生に、新たな家族が生まれた瞬間だった。
0
あなたにおすすめの小説
スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜
シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。
アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。
前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。
一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。
そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。
砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。
彼女の名はミリア・タリム
子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」
542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才
そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。
このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。
他サイトに掲載したものと同じ内容となります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~
日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!
斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜
加瀬 一葉
ファンタジー
王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。
実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?
過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる