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第二部 旅のはじまり~水魔の村編~
水魔の村編 第二十六話
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不意に響いたノックの音に、思い思いの場所でくつろいでいたセイラ達は思わず顔を見合わせた。
この村に共に来たメンバーは雷砂を除いて全員揃っていたし、雷砂であればノックなどせずに中に入ってくるだろう。
どうやら誰か客が来たようだと、イルサーダがちょっぴり面倒くさそうに腰を上げる。
「はい、どなたですか?」
ドアを開ける前に、まず問いかける。
「ジルゼです。村長からの伝言とお願いがあって来ました」
その言葉を聞いて、イルサーダは心底嫌そうな顔をした。何となく、面倒事の匂いがしたのだ。こういう時の勘は以外と侮れない。
しかし、礼儀正しく訪問した相手を、明確な理由もなく追い返すことも出来ず、イルサーダは渋々ドアを開けて、ひょろりとした優しげな青年を招き入れた。
「くつろいでいるところに申し訳ありません。お邪魔します」
ジルゼは申し訳なさそうにそう断ってから、遠慮がちに扉の内側へ入った。イルサーダが念のために張っておいた、家の結界の内側へと。
「で、ご用件はなんですか?」
ややぶっきらぼうな、イルサーダの声。
その声に応えずに、ジルゼは部屋の中を見回して、その瞳をセイラとリインの上に定めた。
そして、彼女たちの上に視線を定めたまま、抑揚の薄い声で問う。
「雷砂は、どうしました?」
「雷砂なら、泉の様子を見に行きましたよ。あなた方の村長のお望みの通りに」
少々嫌み混じりの口調でイルサーダが答える。
ジルゼの視線は、女達の上から動かない。少々、薄気味悪い眼差しだった。
セイラは職業柄、男の目線を受けるのは慣れている。
だが、ジルゼの眼差しは、今まで受けたどんな男のものとも違った。
その眼差しには熱が無かった。そこには情欲や肉欲の様な、普通の男なら大抵の者が持っている様な感情がまるで感じられなかった。
彼の眼差しに底知れない闇を感じて、セイラはかすかにその身を震わせる。
それを見て取ったのか、ジルゼの唇がかすかに弧を描いた。
「村長が、雷砂の能力を疑ってます。雷砂を良く知る人から話を聞きたいと」
じゃあ、私がーとイルサーダが名乗り出ようとした瞬間、それを遮るように、
「あなたがいい。あなたに一緒に来て貰おう」
ジルゼの声がはっきりと響いた。その瞳は、いつの間にかセイラの上に定められていた。
「私?」
思わずそう返すと、ジルゼが再び、今度はさっきよりも大きく唇を歪めて笑った。どこか、歪な笑顔で。
「そうです。あなたが、一番雷砂に詳しいでしょう?」
決めつけるようなそんな言葉に、反射的に反論しようとしたが、なぜか言葉が出てこなかった。
それどころか身体も動かない。まるで、蛇に睨まれたカエルの様に。
「・・・・・・なんで、そう思うんですか?あなたはそれ程、私達のことを知らないでしょう?」
イルサーダは、探るようにそう尋ねる。
無害な青年と侮って、彼を不用意に招き入れたことを後悔したがもう遅い。
危険なところなど何もなさそうな青年から、妙な威圧感を感じながら、イルサーダは何とか状況を覆そうと頭を働かせる。
他のメンバーの助力は期待できない。彼らはただの人間だったし、戦うために身体を鍛えている訳でもない。
ここに雷砂がいてくれればと思うが、無い物ねだりをしても仕方がない。
(何とかして、家の外・・・・・・結界の外まで出すことが出来れば、どうにかなりそうなんですけどねぇ)
人間の身体のままのイルサーダに出来ることは驚くほど少ない。
知識も力もあるが、人の身体では制御が不完全なのだ。
龍身に戻れば戦闘も可能だろうが、こんな狭い家の中で本来の姿に戻ったらどうなることか。考えただけでもぞっとする。
「彼女はあの時最後まで雷砂と一緒にいた。無理矢理引きはがされる、その瞬間まで。理由はそれだけで十分ですよ。さあ、行きましょう。素直に着いてくるなら、無茶なことはしません」
にこやかに、ジルゼがセイラを招く。
セイラは戸惑うように、自分に向かって差し出されたその手を見た。
自分が行けば、丸く収まるのかもしれない。
だが、何となくそれは更なる混乱を呼びそうな気がした。雷砂から、こっぴどく叱られそうな予感も。
それに、ジルゼの言葉は何とも思わせぶりで、どこか違和感があった。
彼の言っている事は何かがおかしいのに、何がおかしいのか思いつかない。もう少しで、思い出せそうな気もするのだが。
セイラはそんな自分に苛立ちながら、ジルゼの顔を睨むように見つめた。
リインの手が、セイラの服を掴む。行ってはダメだと言うように。
セイラは妹を振り向き、安心させるように微笑みかける。だが、リインの不安そうな表情は晴れなかった。
「妹さんも一緒でかまいませんよ?1人で来るのが不安なら」
譲歩するように、ジルゼが言葉を継ぐ。
だが、それを承諾する事は出来ない。
リインを巻き込む事だけはダメだ。彼女は、セイラよりもずっと鈍くさくて弱いのだから。
「座長の私を無視してなに言ってるんですか。許しませんよ、そんなこと」
イルサーダの声が、力強く響く。
ほっそりとした青年の身体が、ジルゼの眼差しから双子の姉妹を守るように立ちふさがり、セイラはほっと息をつく。
これで大丈夫だ、と。だが、そう簡単に事は運ばなかった。
「邪魔を、するんですか?」
「邪魔?一座の者を守るのは、座長としての正当な権利です」
ジルゼと、イルサーダがにらみ合う。
「まったく、穏やかに事を運ぼうとしたのに、邪魔をするなら仕方がない」
ジルゼは軽く肩をすくめ、
「少々荒っぽくなるが、邪魔な駄龍にはしばらく大人しくしていて貰おう」
それまでとがらりと口調を変え、ニヤリと笑う。そして次の瞬間、イルサーダの身体に両腕でしっかり抱きついた。
その身体から、黒い霧がにじみ出る。
「な、何を!?」
イルサーダが慌ててもがくが、人の力とは思えないほどの剛力で、ジルゼはイルサーダの動きを封じた。そして、
「しばらく、眠っていろ」
その言葉と共に、2人の身体の間を魔法の電流が走り抜け、2人は折り重なるように床へと崩れ落ちた。
「え、座長!?」
慌てたセイラが思わず駆け寄る。だが、それで終わりでは無かった。
「セイラ、ダメ!!」
リインが叫んだ。
え?ーと振り向いたセイラの身体を、黒い霧が後ろから覆い尽くす。それは、ジルゼの身体から溢れ、飛び出したものだった。
黒い霧が、一瞬視界を覆い尽くし、その霧が晴れた時、もうそこにセイラの姿は無かった。
そこにはただ、気を失ったイルサーダとジルゼの身体だけが残されていた。
この村に共に来たメンバーは雷砂を除いて全員揃っていたし、雷砂であればノックなどせずに中に入ってくるだろう。
どうやら誰か客が来たようだと、イルサーダがちょっぴり面倒くさそうに腰を上げる。
「はい、どなたですか?」
ドアを開ける前に、まず問いかける。
「ジルゼです。村長からの伝言とお願いがあって来ました」
その言葉を聞いて、イルサーダは心底嫌そうな顔をした。何となく、面倒事の匂いがしたのだ。こういう時の勘は以外と侮れない。
しかし、礼儀正しく訪問した相手を、明確な理由もなく追い返すことも出来ず、イルサーダは渋々ドアを開けて、ひょろりとした優しげな青年を招き入れた。
「くつろいでいるところに申し訳ありません。お邪魔します」
ジルゼは申し訳なさそうにそう断ってから、遠慮がちに扉の内側へ入った。イルサーダが念のために張っておいた、家の結界の内側へと。
「で、ご用件はなんですか?」
ややぶっきらぼうな、イルサーダの声。
その声に応えずに、ジルゼは部屋の中を見回して、その瞳をセイラとリインの上に定めた。
そして、彼女たちの上に視線を定めたまま、抑揚の薄い声で問う。
「雷砂は、どうしました?」
「雷砂なら、泉の様子を見に行きましたよ。あなた方の村長のお望みの通りに」
少々嫌み混じりの口調でイルサーダが答える。
ジルゼの視線は、女達の上から動かない。少々、薄気味悪い眼差しだった。
セイラは職業柄、男の目線を受けるのは慣れている。
だが、ジルゼの眼差しは、今まで受けたどんな男のものとも違った。
その眼差しには熱が無かった。そこには情欲や肉欲の様な、普通の男なら大抵の者が持っている様な感情がまるで感じられなかった。
彼の眼差しに底知れない闇を感じて、セイラはかすかにその身を震わせる。
それを見て取ったのか、ジルゼの唇がかすかに弧を描いた。
「村長が、雷砂の能力を疑ってます。雷砂を良く知る人から話を聞きたいと」
じゃあ、私がーとイルサーダが名乗り出ようとした瞬間、それを遮るように、
「あなたがいい。あなたに一緒に来て貰おう」
ジルゼの声がはっきりと響いた。その瞳は、いつの間にかセイラの上に定められていた。
「私?」
思わずそう返すと、ジルゼが再び、今度はさっきよりも大きく唇を歪めて笑った。どこか、歪な笑顔で。
「そうです。あなたが、一番雷砂に詳しいでしょう?」
決めつけるようなそんな言葉に、反射的に反論しようとしたが、なぜか言葉が出てこなかった。
それどころか身体も動かない。まるで、蛇に睨まれたカエルの様に。
「・・・・・・なんで、そう思うんですか?あなたはそれ程、私達のことを知らないでしょう?」
イルサーダは、探るようにそう尋ねる。
無害な青年と侮って、彼を不用意に招き入れたことを後悔したがもう遅い。
危険なところなど何もなさそうな青年から、妙な威圧感を感じながら、イルサーダは何とか状況を覆そうと頭を働かせる。
他のメンバーの助力は期待できない。彼らはただの人間だったし、戦うために身体を鍛えている訳でもない。
ここに雷砂がいてくれればと思うが、無い物ねだりをしても仕方がない。
(何とかして、家の外・・・・・・結界の外まで出すことが出来れば、どうにかなりそうなんですけどねぇ)
人間の身体のままのイルサーダに出来ることは驚くほど少ない。
知識も力もあるが、人の身体では制御が不完全なのだ。
龍身に戻れば戦闘も可能だろうが、こんな狭い家の中で本来の姿に戻ったらどうなることか。考えただけでもぞっとする。
「彼女はあの時最後まで雷砂と一緒にいた。無理矢理引きはがされる、その瞬間まで。理由はそれだけで十分ですよ。さあ、行きましょう。素直に着いてくるなら、無茶なことはしません」
にこやかに、ジルゼがセイラを招く。
セイラは戸惑うように、自分に向かって差し出されたその手を見た。
自分が行けば、丸く収まるのかもしれない。
だが、何となくそれは更なる混乱を呼びそうな気がした。雷砂から、こっぴどく叱られそうな予感も。
それに、ジルゼの言葉は何とも思わせぶりで、どこか違和感があった。
彼の言っている事は何かがおかしいのに、何がおかしいのか思いつかない。もう少しで、思い出せそうな気もするのだが。
セイラはそんな自分に苛立ちながら、ジルゼの顔を睨むように見つめた。
リインの手が、セイラの服を掴む。行ってはダメだと言うように。
セイラは妹を振り向き、安心させるように微笑みかける。だが、リインの不安そうな表情は晴れなかった。
「妹さんも一緒でかまいませんよ?1人で来るのが不安なら」
譲歩するように、ジルゼが言葉を継ぐ。
だが、それを承諾する事は出来ない。
リインを巻き込む事だけはダメだ。彼女は、セイラよりもずっと鈍くさくて弱いのだから。
「座長の私を無視してなに言ってるんですか。許しませんよ、そんなこと」
イルサーダの声が、力強く響く。
ほっそりとした青年の身体が、ジルゼの眼差しから双子の姉妹を守るように立ちふさがり、セイラはほっと息をつく。
これで大丈夫だ、と。だが、そう簡単に事は運ばなかった。
「邪魔を、するんですか?」
「邪魔?一座の者を守るのは、座長としての正当な権利です」
ジルゼと、イルサーダがにらみ合う。
「まったく、穏やかに事を運ぼうとしたのに、邪魔をするなら仕方がない」
ジルゼは軽く肩をすくめ、
「少々荒っぽくなるが、邪魔な駄龍にはしばらく大人しくしていて貰おう」
それまでとがらりと口調を変え、ニヤリと笑う。そして次の瞬間、イルサーダの身体に両腕でしっかり抱きついた。
その身体から、黒い霧がにじみ出る。
「な、何を!?」
イルサーダが慌ててもがくが、人の力とは思えないほどの剛力で、ジルゼはイルサーダの動きを封じた。そして、
「しばらく、眠っていろ」
その言葉と共に、2人の身体の間を魔法の電流が走り抜け、2人は折り重なるように床へと崩れ落ちた。
「え、座長!?」
慌てたセイラが思わず駆け寄る。だが、それで終わりでは無かった。
「セイラ、ダメ!!」
リインが叫んだ。
え?ーと振り向いたセイラの身体を、黒い霧が後ろから覆い尽くす。それは、ジルゼの身体から溢れ、飛び出したものだった。
黒い霧が、一瞬視界を覆い尽くし、その霧が晴れた時、もうそこにセイラの姿は無かった。
そこにはただ、気を失ったイルサーダとジルゼの身体だけが残されていた。
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