龍は暁に啼く

高嶺 蒼

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第一部 幸せな日々、そして旅立ち

SS シンファの部族会 3

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 いつもの部族会では競技会など開催されない。だが、今回は到着した日にその通達が来ていた。
 恐らく、連れてきた若い連中の能力をシンファに見せつけ、あわよくば惚れさせようという魂胆なのだろう。

 今日の会議を経て何となく分かった。
 今回の部族会は、じじい連中の仕組んだシンファに対する壮大なお見合い会なのだ。
 まったく、シンファ1人の為になんと無駄なことをするのか。
 どうせならもっと他の未婚女性も集めて、集団で見合いをした方がまだ建設的だっただろうに。


 「ザズは知っていたのか?」

 「・・・・・・いや」


 無骨な補佐役は言葉少なに否定する。
 だが、目が泳いでいるし、額に汗が浮いている。相変わらず嘘のつけない男だ。


 「知ってたんだな?」

 「う・・・・・・まあ、薄々は」


 追い打ちをかけたらあっさりゲロった。根性の足りない奴め。

 「族長殿達をあまり攻めてやるなよ?あの方達はお前が可愛いんだ。俺達ライガの里の者から言わせれば、可愛いなんて代物じゃないが、離れてる分目にフィルターがかかっているんだろうな。今まではジルヴァンが目を光らせていてちょっかいかけられなかった分、暴走してるんだ。何かがおこる予感はしていたが、なんというか、予想の斜め上を行かれた感じで対処しきれなかった。すまん」

 素直に頭を下げられて苦笑を漏らす。


 「まあ、それ程怒っている訳ではない。明日の競技会も楽しみだしな。もしかしたら、堂々と私を打ち負かし、見事私の心を奪ってくれるようないい男がいるかもしれない」

 「それは、難しいんじゃないか?」

 「そうか?私だって完璧じゃない。可能性はあるさ」

 「まあ、競技のどれかでお前を下せる者はいるかもしれないが、それでお前を惚れさせるのは無理だろう?」


 明日の競技会の種目は、走・剣・格闘・弓の4種類。シンファはどの種目もそれなりに自信がある。
 だが、一つくらいは負ける事もあるかもしれないが、確かにそれで負けたからといって相手の男に惚れてやる事が出来るかは疑問だ。
 シンファは困った顔でうーんと唸る。


 「いずれ誰かとつがう必要があるのは認めるが、こんなに急いで決める必要があるものなのか?」

 「まあ、焦る必要はないが、お前は強くて美しい。故に男の目を集めてしまう。少なくとも、この部族会に集まった若い連中はみんなお前を手に入れたいと思ってるんだ。明日は真面目に検討してやれ」

 「検討は、するつもりだがな」

 「なんというか、お前は理想が高すぎる」

 「そうか?」

 「そうだ。今日の部族会での理想像など、まんま雷砂だったじゃないか」

 「そ、そうだったか?」


 シンファが少し、動揺する。
 部族会での、自分の発言を思い出しているのだろう。
 確かに、冷静になって考えてみれば、質問に答えながら導き出した理想像は雷砂、だったのかもしれない。

 「まあ、シンファの気持ちも分かる。あれは女なのに女らしくない。それどころか、まだ年が若すぎる点と性別をのぞけば、正に女達の求める男の姿を体現しているといってもいい。強く、優しく、美しく、だが自分勝手ではない。自分の力を傲らず、女子供に優しい。髪は金色で目は左右色違い、しかも可愛い。・・・・・・お前の理想、そのものだな?」

 彼には珍しく、からかう様な口調でシンファを追いつめる。
 シンファは言葉につまり、上目遣いで彼を睨んだ。少し唇をとがらせて。
 そういう表情は、彼女がまだほんの子供の頃から変わらない。
 体は大きくなり、女らしく成長したが、ザズから見ればまだまだ子供だった。

 シンファが心から雷砂を愛していることは分かっている。そこにまだ、恋愛の色が混じっていないことも。
 だが、それもいずれ変わってしまうかもしれない。
 何といっても、雷砂はシンファが腹を痛めて産んだ子ではない。血のつながりはないのだ。

 今はまだいい。雷砂はまだ子供だ。
 だが、時がたち、彼女が更に凛々しく成長した時どうなるか。
 今でさえ、シンファは無意識のうちに、理想の相手を雷砂に定めている。
 まあ、雷砂の方はシンファを親として慕っているから、間違いは起きないとは思うが、少しずつ距離をとらせなければいけない時が来ているのかもしれない。
 苦い顔をして、ザズは真剣にその事を考えた。

 「雷砂が男でさえあれば、お前との交際も反対しないんだがなぁ」

 ため息混じりにぼやいても仕方がないことをぼやく。
 女同士の恋愛を悪く言うつもりはないが、女同士では子供が出来ない。その事だけは問題だった。

 「な、何を言ってる。私と雷砂は親子だぞ!?」

 そう否定はするものの、ぷいっとそらした顔がほんのり赤い。
 ザズはもう一度大きくため息をつく。
 問答無用でこの女が夢中になるようないい男がどこかにいないもんかなー半ば真剣にそんな事を考えながら。

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