龍は暁に啼く

高嶺 蒼

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第一部 幸せな日々、そして旅立ち

第六章 第四話

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 祭りの天幕は、村の中央の広場に設置されていた。
 一部の装飾を除けばほとんど完成していて、一座の者は舞台上で各々の演技に磨きをかけている。
 セイラに連れられて天幕を見に来た雷砂は、思っていた以上の広い空間に目を丸くして周りを見回した。


 「思ってたよりずっと大きいんだね」

 「そりゃあね。祭りの当日は村の人もみんな集まるし、外から来る人もいるし、大きいに越したことはないでしょ?ま、ここまで大がかりに天幕を張ることは滅多にないけどね」

 「そうなの?」

 「そうねぇ。わざわざ天幕を張らずに、野外に舞台をしつらえることも多いわよ?その方が手間も費用も掛からないし」


 セイラは楽しそうに微笑みながら、雷砂の前を先導して歩く。
 リインももちろん一緒で、一塊になって歩く三人の少し後ろに赤くなった顎をさすりつつ歩くジェドの姿もあった。
 今日はこれから祭りの演目についての打ち合わせがあるらしい。
 雷砂は遠慮して帰ろうとしたのだが、セイラに引き留められた。他人に見られても困るような事は無いし、座長にも紹介したいから、と。
 そういう訳で今ここにいる訳だが、舞台の上で次から次へと繰り広げられる様々な芸は思いのほか興味深かった。思わず引き込まれ、足を止めると、

 「結構面白いもんでしょ?」

 セイラも微笑み、足を止めた。

 「雷砂は、どれ、やりたい?」

 リインは後ろから抱きついて、雷砂の頭に顎を乗せる。
 高さがちょうど良いのか、昨日から何度も同じことをされていた雷砂は、すっかり慣れてしまったようで平然としている。

 「何をやってみたいか?そうだなぁ」

 自分がやるという目線で見ていなかった雷砂は、改めて舞台の上の芸人達をじっと見た。
 みんな色々な事をしているが、その中でも特に目を引いたのは長い黒髪をうなじの辺りで一つにくくった男のやっている事だった。
 彼は二本の曲刀を持ち、ひらりひらりと舞うように動いている。
 どうやら、刃物を利用した芸を見せる者なのだろう。
 腰に巻いたベルトの様なものには、複数本のナイフも収納されていた。
 何かの剣術の型なのだろうか?流れる様な動きが目を引いた。

 「あの、剣を使ってる人の動きはちょっと気になるなぁ」

 少女の指さす先を見て、セイラは頬を緩める。


 「剣?ああ、アジェスね。彼は剣舞いが得意なの。普通に剣で戦うのも強いけど」

 「ふうん。あの腰のナイフは?」

 「あれは、ジェドと組んでナイフ投げをする時用。ナイフ投げやちょっとした小技に関しては、褒めたかないけど、ジェドの方が上かしらね」

 「へえ。ジェドも何か出来るんだね」


 そう言って、少し離れた所に立っていた男を見上げた。彼は苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見返すと、

 「ったりめーだろ?こう見えても俺は一座の軽業師の筆頭だぜ。ちょっと待ってろ。俺の芸も見せてやる」

 いうが早いか舞台に駆け上がり、軽快に体を動かし始めた。

 「うわあ、すごい。くるくる回ってるね」

 雷砂の見ている前で、ジェドは宙返りをしたりトンボを切ったりと、舞台上を所狭しと動き回る。
 他の人達は、ジェドが舞台に上がってくると、休憩とばかりに端によって見物していた。
 彼の芸に場所が必要なことを良く分かっているからだろう。
 その中で、唯一中央に残っていたのは、雷砂が注目していた黒髪の男。
 彼は無表情のままおもむろに腰のナイフをジェドに向かって投げつけた。

 その鋭い軌跡に雷砂は思わず息をのむ。
 投げられた先の男はちょうど宙返りの真っ最中で、とてもそのナイフをさばけるとは思えなかったから。
 思わず体が動きそうになった雷砂の肩を、セイラの手が止める。

 「大丈夫。見てて」

 セイラは微笑んでいた。
 彼女は心配していないーその事を見て取って、雷砂も少しだけ安心した。それでも十分にハラハラしながら結果を見守る。

 ナイフが、迫る。
 だがジェドは危なげなく、宙返りしながらナイフを受け取って、さらに宙を舞いながらいつの間にか用意されていた木の的にそれを投じた。
 ナイフは真っ直ぐに飛び、的の中央に深く突き刺さった。

 「すごいなぁ」

 素直に感心して手をたたいていると、舞台の上からジェドが手招きをしている。
 首を傾げると、セイラが背を押した。


 「行ってらっしゃいよ。ジェドもたまにはいいところを見せたいんでしょ」

 「そう?じゃあ」


 一つ頷いて、さっきのジェドの様に舞台に駆け上がる。
 ジェドは、黒髪のアジェスという青年と並んで立っていた。雷砂が目の前に来るとにやりと笑って、

 「どうだ。かっこよかっただろ」

 少しだけ自慢するように胸を張った。

 「うん。すごくかっこよかった」

 かっこよかったのは事実なので、素直ににっこり笑ってそう答えると、ジェドは少し面食らった顔をし、それから照れたように目の縁を赤く染めた。

 「お、おう、そうか」

 普段から素直に褒められることに慣れていないのだろう。口元を片手で覆い、雷砂から目を反らして、本当に照れくさそうにしている。
 雷砂はクスリと笑い、

 「ジェドは、なんていうかさ……可愛らしいよね」

 心からそう言った。

 「可愛いって……お前なぁ」

 真面目に褒めたのに、軽業師の青年は何だか不満そうだ。
 なんでかなぁと真剣に首を傾げていると、ジェドの隣から、押し殺したような笑い声が聞こえてきた。

 「アジェス、てめぇなぁ」

 「……や、すまん。我慢しようと思ったんだが、我慢しきれなかった」

 そう言いながらも彼は笑い続けている。どうやらツボに入ってしまったようだ。
 黒髪の青年はジェドから顔を背け、しばらくの間、肩を揺らし続けていた。



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