10 / 248
第一部 幸せな日々、そして旅立ち
第三章 第二話
しおりを挟む
その日のサライは賑わっていた。
宿場町としての普段の賑わいとも違う、少し浮かれたような賑やかさ。
それは数日後に控えた村の一大イベントである春祭りのせいもあるのだろう。
冬が過ぎ、少しずつ暖かくなってきた村の広場へ続く道を、冬の重苦しい服装とはまた違った春らしい装いに身を包んだ人々が行き来する中、早足で村はずれに向かう少女がいた。
時折すれ違う村の住人とそつなく挨拶を交わしながら、それでも足取りを緩めずに進む少女の年の頃は10歳に届くか届かないかといったところか。
可愛らしい顔立ちをした少女とすれ違うたび、村人は親しげな挨拶を贈り、旅人は辺鄙な村に珍しい、街の薫りのする鮮やかな色合いの衣装とそれに負けない容姿に目を見張る。
あの少女は誰かと問えば、この村の誰もが名を知っているであろうその少女の名前をミルファーシカという。
このさほど大きくは無いが程ほどに栄えているサライの村の村長が、目に入れても痛くないほどに可愛がっている大事な大事な一人娘である。
この村の村長は村の経営に熱心で正直者、上の者に有り勝ちな偉そうで悪どい所が無く、村の皆に慕われている。
故に、その娘であるミルファーシカも父親と同様に村人達から愛されていた。
「おや、ミル嬢ちゃん。そんなに急いでどこへ行くね?」
そんな声をかけた村の男に、少女はにっこり笑って答える。
「村の近くで銀色の狼を見たって話を聞いたの。見かけたのはついさっきなんですって。
銀の狼は雷砂の守り神でしょう?きっと雷砂が薬師のサイ・クー老師の所にいるはずよ。だから、急いで会いに行くの」
早口で答えて、少しの時間も惜しいというようにあっという間に小さな姿は人ごみにまぎれて見えなくなった。
雷砂という名前を聞いて男は微笑み、周りで聞いていた村人も暖かい表情で村はずれへ向かう少女を見送る。
村長の娘が、獣人族の一部族の庇護の下育った雷砂という子供にとても懐いていると言う事は周知の事実だった。
雷砂の姿を見つけるたびに、まるで飼い主を見つけた子犬のように走っていくミルファーシカの姿はもう日常的な事になっている。
金色の髪に色違いの瞳、凛々しく整った顔立ちの雷砂と、人形のように愛らしい容姿のミルファーシカが並んで歩く姿は何とも似合いの一対で、それを見る者の心を和ませた。
雷砂が見た目通りの『少年』であればどれほど可愛らしいカップルが誕生したかと、村の誰もが残念に思っていることを、当の本人である雷砂とミルだけが知らずにいる。
今日のサライもいたって平和だった。
これから起こる恐ろしい出来事を、まだ誰も知らない。
宿場町としての普段の賑わいとも違う、少し浮かれたような賑やかさ。
それは数日後に控えた村の一大イベントである春祭りのせいもあるのだろう。
冬が過ぎ、少しずつ暖かくなってきた村の広場へ続く道を、冬の重苦しい服装とはまた違った春らしい装いに身を包んだ人々が行き来する中、早足で村はずれに向かう少女がいた。
時折すれ違う村の住人とそつなく挨拶を交わしながら、それでも足取りを緩めずに進む少女の年の頃は10歳に届くか届かないかといったところか。
可愛らしい顔立ちをした少女とすれ違うたび、村人は親しげな挨拶を贈り、旅人は辺鄙な村に珍しい、街の薫りのする鮮やかな色合いの衣装とそれに負けない容姿に目を見張る。
あの少女は誰かと問えば、この村の誰もが名を知っているであろうその少女の名前をミルファーシカという。
このさほど大きくは無いが程ほどに栄えているサライの村の村長が、目に入れても痛くないほどに可愛がっている大事な大事な一人娘である。
この村の村長は村の経営に熱心で正直者、上の者に有り勝ちな偉そうで悪どい所が無く、村の皆に慕われている。
故に、その娘であるミルファーシカも父親と同様に村人達から愛されていた。
「おや、ミル嬢ちゃん。そんなに急いでどこへ行くね?」
そんな声をかけた村の男に、少女はにっこり笑って答える。
「村の近くで銀色の狼を見たって話を聞いたの。見かけたのはついさっきなんですって。
銀の狼は雷砂の守り神でしょう?きっと雷砂が薬師のサイ・クー老師の所にいるはずよ。だから、急いで会いに行くの」
早口で答えて、少しの時間も惜しいというようにあっという間に小さな姿は人ごみにまぎれて見えなくなった。
雷砂という名前を聞いて男は微笑み、周りで聞いていた村人も暖かい表情で村はずれへ向かう少女を見送る。
村長の娘が、獣人族の一部族の庇護の下育った雷砂という子供にとても懐いていると言う事は周知の事実だった。
雷砂の姿を見つけるたびに、まるで飼い主を見つけた子犬のように走っていくミルファーシカの姿はもう日常的な事になっている。
金色の髪に色違いの瞳、凛々しく整った顔立ちの雷砂と、人形のように愛らしい容姿のミルファーシカが並んで歩く姿は何とも似合いの一対で、それを見る者の心を和ませた。
雷砂が見た目通りの『少年』であればどれほど可愛らしいカップルが誕生したかと、村の誰もが残念に思っていることを、当の本人である雷砂とミルだけが知らずにいる。
今日のサライもいたって平和だった。
これから起こる恐ろしい出来事を、まだ誰も知らない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
安全第一異世界生活
朋
ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん)
新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる