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第二部 旅のはじまり~小さな娼婦編~
小さな娼婦編 第五十三話
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「雷砂に惚れてる。雷砂の迷惑になるような事はしないし、無理強いをするつもりもない。だから、雷砂のそばに居させてくれねぇか?」
「いいわよ?」
「だよなぁ。ダメに決まって……って、いいのかよ!?」
目を剥いた長身のワイルド系美女を前に、セイラは苦笑する。
「いいも悪いも、本来それを決めるのって私じゃないと思うんだけど」
「でも、雷砂の恋人だろ?」
「うん。まあ、そこを譲るつもりはないんだけど、ね。でも、独り占め出来るとも思ってはいないのよ」
そう答えて、少しだけ切なそうに微笑む。
そんな彼女の表情を見て、ミカは神妙な顔をした。
「そうだなぁ……あいつは無自覚にモテるからなぁ。あんたも、苦労すんなぁ」
しみじみと漏れる、そんな言葉。
「そうなのよ。嫉妬するのも疲れちゃうくらい。でもやっぱり焼き餅は焼くんだけど、ね。こればっかりは、仕方ないわね。あの子が、どうしようもなく好きだから」
小さな吐息を漏らし、それから少し上にあるミカの顔を見上げる。
「あなたも、そうでしょ?」
そんな問いかけと共に。
その言葉を受けたミカの頬が赤く染まる。
彼女は、好きな相手の恋人を目の前に、少しバツが悪そうに目を伏せ、それから意を決したように再び彼女の目を真っ直ぐに見つめた。
「ああ。好きなんだ。どうしようもないくらい。こんな気持ちを、あいつの恋人であるアンタに告白すんのもどうかとは思うんだが、こそこそしたくねぇし、雷砂を困らせるのも嫌だったんだ。アンタには、不快な思いをさせてるかもしれねぇが」
「セイラ、よ」
「んあ?」
「アンタじゃなくて、どうせならセイラって呼んで?えっと……」
「ああ、まだ名乗っても居なかったな。ミカだ。兄貴と一緒にくんで冒険者をやってる。ランクはB。雷砂とは3年前にある依頼がきっかけで知り合ったんだ」
「ミカ、ね。ミカって呼んでも?」
「ああ。オレも、セイラって呼ばせてもらう」
「冒険者でしかもBランク。私は冒険者家業について良くは知らないけど、Bランクって結構強いのよね?」
「ああ。まあ、普通よりはちょっとばかしな。でも、まぁ、上には上がいるし、まだまだだ。今は雷砂のランクの方が高ぇし。ま、すぐに追いついて見せるけど」
拳を握ってふんすと鼻息を吹き出すミカを見上げて、セイラは首を傾げつつ彼女の言葉を反芻した。
なんだか聞き捨てならない発言を聞いたような気がするのは気のせいだろうか。
「えっと、雷砂の方がランクが上って……確か雷砂ってこの街に来てから冒険者になったのよね?」
「おう、ほんの少し前だな!」
「ミカが冒険者になったのは……?」
「んーっと、かれこれ7~8年になるかもなぁ」
「なのに雷砂の方がランクが上って、一体何をしたのよ、あの子は」
「あー、オレも詳しくはしらねぇんだけどよ?まあ、聞いた話によれば、冒険者になって一日でランクを1つ上げて、翌日には更に上のBランクに迫る勢いでポイントを稼いだ挙げ句、緊急の依頼の高報酬が必要だって理由でAランクにして貰えねぇかってごり押しした挙げ句に、なんでかそんな無茶が通ってAランクUPの試験と称してSランク冒険者と戦って善戦。で、無事にAランクになったその足で緊急依頼にチャレンジして、鉱山に巣くったどでけぇ魔物を退治した上に、捕らわれてた冒険者二人も無事に救出してきたって所かな」
「……なんか、すさまじいわね。なんて濃い数日を過ごしてるのよ、あの子」
ミカが語ってくれたこと以外にも、街に来て早々知り合った女の子の苦境を手助けしようとして、その子が何故か娼館に売り飛ばされたせいでその身請けのお金を稼ぐために冒険者になり、ミカが語ったような無双をやらかして荒稼ぎをし、現在はその女の子を身請けしに行っている。
街にいったら二人で買い物に行くという約束を果たしてもらえず、リインが拗ねて大変な事になっているが、その時間すら作れなかったというのも納得できる、ある意味充実感満載な日々だったようだ。
「おい、セイラ。ちょっと聞いて良いか?」
「あ、ええ。なにかしら??」
雷砂の過ごした日々に思いを馳せて、ぼーっとしていたセイラは、ミカの声にはっと我にかえった。
ミカの方を見れば、彼女は何故かセイラの後ろの方を見ている。
「なんだか、アンタによく似た色違いの女と、他にも小動物みてぇな女が二人、ドアの隙間からこっちを見てるんだけど、知り合いか??」
「ええ!?」
ミカの指摘に振り向けば、ドアの隙間から三つの顔がこちらをじとーっと見ていた。
一番上に、セイラとよく似た顔を覗かせるのは双子の妹のリィン。
ちょっぴり無表情気味に、自分も仲間にいれろと無言の圧力を加えてくる。
その下にあるのは、狼の獣耳の少女の顔。
雷砂の忠実な僕でもある彼女は、マスターの話なら自分も仲間に入れろと、そう言うようにセイラの顔をじっと見ていた。
そして最後。
一番下にいるのは、今回の騒動で雷砂が連れ帰った少女。
白い髪に赤い瞳の少女は、雷砂が一緒でないときの感情はまだ薄く、少しぼんやりとした眼差しをセイラに向けていた。
恐らく、上の二人に何も考えずに付いてきたに違いない。
仕方ないわねぇと苦笑を漏らし、セイラは三人を手招く。
許可を得た三人はぱっと顔を輝かせ、部屋になだれ込んできた。
ロウとクゥは興味津々にミカを見上げ、リインは人見知りを絶賛発動中でセイラの後ろにちょこんと隠れる。
ミカは、新たに現れた三人を見回して、
「もしかして、こいつらも雷砂の女、なのか?」
そんな質問。
恐る恐るという風に。だが、どこか確信と諦めを含んだ声音で。
「うーん。そうといえばそうだし、違うと言えば違うのかも。まあ、少なくともみんな雷砂が大好きなのは一緒ね。違うというにしても、まだ、と言うべきかもしれないわ」
「まだ、ということは、いずれはって事なのか?」
「さあ、分からないわ。そればっかりは雷砂次第としか言いようがないもの」
「そう、だよな」
そう呟き、ミカは一つ頷く。
もともと一番を望んでここへやってきたわけじゃない。ただ、雷砂のそばに居たいと思ったのだ。
三年前のように、何も行動せずに離れてしまうのは嫌だと思った。
だから、ミカは真剣な眼差しでセイラを、そして後から乱入してきた三人を見つめた。
「まだ雷砂からは何の返事も貰ってねぇ。だけど、雷砂を好きだって気持ちは真剣だ。今日は、その事だけ分かって貰いたくて来たんだ。出来たら、今後は雷砂にくっついて行きたいと思ってるけど、もしセイラがその事を嫌だって思うなら、そいつは諦める」
「私が嫌なら諦めるって、なんで?」
「アンタが嫌がることをすれば、きっと雷砂が悲しむからな。オレは雷砂の辛そうな顔なんか見たくねぇし」
「でも、そうしたらどうするの?私が嫌だって言ったら、雷砂を諦めるってこと?」
「雷砂は諦めねぇ。どうあっても、雷砂を好きだって気持ちは変えようがねぇからな。でも、一緒について行くのは諦める」
「それでどうするの?離れるのは辛いでしょう?」
「こっそりついて行って、バレねぇように遠くからこっそり見守る!!」
キッパリ断言したミカの言葉に、セイラが思わず吹き出した。
「ん?なんか変だったか?」
まじめに首を傾げる様子に、セイラは笑みを深める。
「いいえ、違うわ。ただ、可愛いなぁと思って」
素直な気持ちのままに、そう言いながら。
あまり言われ慣れていない言葉を投げかけられて、ミカは思わず顔を赤くする。
そして、困ったようにセイラを見た。
「可愛いって……オレには似合わねぇよ、そんな言葉」
「ううん。ちゃんと似合ってるわよ。あなたは可愛いわ、ミカ。ね、私と友達になってくれない?」
「友達?」
「どうしようもなく雷砂に恋している者同士、きっと仲良く出来るわ。私、あなたのこと、結構好きよ。あなたはどう?私とは、友達になれそうもない?」
問われて、ミカは改めてセイラを見た。
雷砂の恋人というフィルターを外して、セイラという一人の人間を。
性格は、正直好ましいと思う。
見た目は極上なのに、妙な気取りがなくつき合いやすい。気さくで話しやすく、気配りも上手そうだ。
友人として考えるのであれば、十二分に合格基準を満たしている。
彼女をまじまじと見つめ、そして思った
恋敵と友達になっちゃいけない道理などない、と。
そして気付く。いつの間にか彼女と友人としてつき合いたいと感じている自分に。
気が付けば、ミカの口元には笑みが刻まれていた。見ればセイラも笑っている。
「アンタと友達か。悪くねぇかもな」
「でしょう?じゃあ、今日から友達ね?」
「おう。よろしく頼むわ」
「早速なんだけど、今度私に戦い方とか教えてくれない?」
「いいけど、なんでだ?」
「ずっと雷砂におんぶに抱っこじゃ嫌なのよ。少しは自分でも頑張りたいの」
「なるほどな。良い心意気だ。オレは結構スパルタだぜ?」
「望むところよ。代わりに、美容に関してのアドバイスは任せてちょうだい」
「う、おお。そう言うのは確かに得意じゃないな。じゃあ、その、頼む」
「はい。任されました。今度、雷砂との馴れ初め聞かせてね?」
「良いけど、そっちのも教えてくれよな?」
そんな風に。
友人になると決まった瞬間に、怒濤の如く詰まった二人の距離に、取り残された三人が唖然とする。
鳩が豆鉄砲をくらったような顔をする三人の顔を見て、セイラとミカは互いの顔を見合わせ声を合わせて笑った。
まるで長年の親友であるかのように、息ぴったりに。
これから先、雷砂の女になれるかどうかは分からない。
だが、少なくともしばらくの間は雷砂と共に行動する事が出来そうだし、それを除いてもセイラという友人が一人出来た事は素直に嬉しかった。
他にも雷砂の女候補はいるようだが、その三人とも追々良好な関係を作っていければいいとは思う。
セイラの言を借りれば、ここにいるのは同じ人間に心底惚れ込んでいる者同士。
きっと上手くやっていけるはずだと、なんの根拠もなくそう考え、ミカは妙に晴れやかな気持ちで笑った。
「いいわよ?」
「だよなぁ。ダメに決まって……って、いいのかよ!?」
目を剥いた長身のワイルド系美女を前に、セイラは苦笑する。
「いいも悪いも、本来それを決めるのって私じゃないと思うんだけど」
「でも、雷砂の恋人だろ?」
「うん。まあ、そこを譲るつもりはないんだけど、ね。でも、独り占め出来るとも思ってはいないのよ」
そう答えて、少しだけ切なそうに微笑む。
そんな彼女の表情を見て、ミカは神妙な顔をした。
「そうだなぁ……あいつは無自覚にモテるからなぁ。あんたも、苦労すんなぁ」
しみじみと漏れる、そんな言葉。
「そうなのよ。嫉妬するのも疲れちゃうくらい。でもやっぱり焼き餅は焼くんだけど、ね。こればっかりは、仕方ないわね。あの子が、どうしようもなく好きだから」
小さな吐息を漏らし、それから少し上にあるミカの顔を見上げる。
「あなたも、そうでしょ?」
そんな問いかけと共に。
その言葉を受けたミカの頬が赤く染まる。
彼女は、好きな相手の恋人を目の前に、少しバツが悪そうに目を伏せ、それから意を決したように再び彼女の目を真っ直ぐに見つめた。
「ああ。好きなんだ。どうしようもないくらい。こんな気持ちを、あいつの恋人であるアンタに告白すんのもどうかとは思うんだが、こそこそしたくねぇし、雷砂を困らせるのも嫌だったんだ。アンタには、不快な思いをさせてるかもしれねぇが」
「セイラ、よ」
「んあ?」
「アンタじゃなくて、どうせならセイラって呼んで?えっと……」
「ああ、まだ名乗っても居なかったな。ミカだ。兄貴と一緒にくんで冒険者をやってる。ランクはB。雷砂とは3年前にある依頼がきっかけで知り合ったんだ」
「ミカ、ね。ミカって呼んでも?」
「ああ。オレも、セイラって呼ばせてもらう」
「冒険者でしかもBランク。私は冒険者家業について良くは知らないけど、Bランクって結構強いのよね?」
「ああ。まあ、普通よりはちょっとばかしな。でも、まぁ、上には上がいるし、まだまだだ。今は雷砂のランクの方が高ぇし。ま、すぐに追いついて見せるけど」
拳を握ってふんすと鼻息を吹き出すミカを見上げて、セイラは首を傾げつつ彼女の言葉を反芻した。
なんだか聞き捨てならない発言を聞いたような気がするのは気のせいだろうか。
「えっと、雷砂の方がランクが上って……確か雷砂ってこの街に来てから冒険者になったのよね?」
「おう、ほんの少し前だな!」
「ミカが冒険者になったのは……?」
「んーっと、かれこれ7~8年になるかもなぁ」
「なのに雷砂の方がランクが上って、一体何をしたのよ、あの子は」
「あー、オレも詳しくはしらねぇんだけどよ?まあ、聞いた話によれば、冒険者になって一日でランクを1つ上げて、翌日には更に上のBランクに迫る勢いでポイントを稼いだ挙げ句、緊急の依頼の高報酬が必要だって理由でAランクにして貰えねぇかってごり押しした挙げ句に、なんでかそんな無茶が通ってAランクUPの試験と称してSランク冒険者と戦って善戦。で、無事にAランクになったその足で緊急依頼にチャレンジして、鉱山に巣くったどでけぇ魔物を退治した上に、捕らわれてた冒険者二人も無事に救出してきたって所かな」
「……なんか、すさまじいわね。なんて濃い数日を過ごしてるのよ、あの子」
ミカが語ってくれたこと以外にも、街に来て早々知り合った女の子の苦境を手助けしようとして、その子が何故か娼館に売り飛ばされたせいでその身請けのお金を稼ぐために冒険者になり、ミカが語ったような無双をやらかして荒稼ぎをし、現在はその女の子を身請けしに行っている。
街にいったら二人で買い物に行くという約束を果たしてもらえず、リインが拗ねて大変な事になっているが、その時間すら作れなかったというのも納得できる、ある意味充実感満載な日々だったようだ。
「おい、セイラ。ちょっと聞いて良いか?」
「あ、ええ。なにかしら??」
雷砂の過ごした日々に思いを馳せて、ぼーっとしていたセイラは、ミカの声にはっと我にかえった。
ミカの方を見れば、彼女は何故かセイラの後ろの方を見ている。
「なんだか、アンタによく似た色違いの女と、他にも小動物みてぇな女が二人、ドアの隙間からこっちを見てるんだけど、知り合いか??」
「ええ!?」
ミカの指摘に振り向けば、ドアの隙間から三つの顔がこちらをじとーっと見ていた。
一番上に、セイラとよく似た顔を覗かせるのは双子の妹のリィン。
ちょっぴり無表情気味に、自分も仲間にいれろと無言の圧力を加えてくる。
その下にあるのは、狼の獣耳の少女の顔。
雷砂の忠実な僕でもある彼女は、マスターの話なら自分も仲間に入れろと、そう言うようにセイラの顔をじっと見ていた。
そして最後。
一番下にいるのは、今回の騒動で雷砂が連れ帰った少女。
白い髪に赤い瞳の少女は、雷砂が一緒でないときの感情はまだ薄く、少しぼんやりとした眼差しをセイラに向けていた。
恐らく、上の二人に何も考えずに付いてきたに違いない。
仕方ないわねぇと苦笑を漏らし、セイラは三人を手招く。
許可を得た三人はぱっと顔を輝かせ、部屋になだれ込んできた。
ロウとクゥは興味津々にミカを見上げ、リインは人見知りを絶賛発動中でセイラの後ろにちょこんと隠れる。
ミカは、新たに現れた三人を見回して、
「もしかして、こいつらも雷砂の女、なのか?」
そんな質問。
恐る恐るという風に。だが、どこか確信と諦めを含んだ声音で。
「うーん。そうといえばそうだし、違うと言えば違うのかも。まあ、少なくともみんな雷砂が大好きなのは一緒ね。違うというにしても、まだ、と言うべきかもしれないわ」
「まだ、ということは、いずれはって事なのか?」
「さあ、分からないわ。そればっかりは雷砂次第としか言いようがないもの」
「そう、だよな」
そう呟き、ミカは一つ頷く。
もともと一番を望んでここへやってきたわけじゃない。ただ、雷砂のそばに居たいと思ったのだ。
三年前のように、何も行動せずに離れてしまうのは嫌だと思った。
だから、ミカは真剣な眼差しでセイラを、そして後から乱入してきた三人を見つめた。
「まだ雷砂からは何の返事も貰ってねぇ。だけど、雷砂を好きだって気持ちは真剣だ。今日は、その事だけ分かって貰いたくて来たんだ。出来たら、今後は雷砂にくっついて行きたいと思ってるけど、もしセイラがその事を嫌だって思うなら、そいつは諦める」
「私が嫌なら諦めるって、なんで?」
「アンタが嫌がることをすれば、きっと雷砂が悲しむからな。オレは雷砂の辛そうな顔なんか見たくねぇし」
「でも、そうしたらどうするの?私が嫌だって言ったら、雷砂を諦めるってこと?」
「雷砂は諦めねぇ。どうあっても、雷砂を好きだって気持ちは変えようがねぇからな。でも、一緒について行くのは諦める」
「それでどうするの?離れるのは辛いでしょう?」
「こっそりついて行って、バレねぇように遠くからこっそり見守る!!」
キッパリ断言したミカの言葉に、セイラが思わず吹き出した。
「ん?なんか変だったか?」
まじめに首を傾げる様子に、セイラは笑みを深める。
「いいえ、違うわ。ただ、可愛いなぁと思って」
素直な気持ちのままに、そう言いながら。
あまり言われ慣れていない言葉を投げかけられて、ミカは思わず顔を赤くする。
そして、困ったようにセイラを見た。
「可愛いって……オレには似合わねぇよ、そんな言葉」
「ううん。ちゃんと似合ってるわよ。あなたは可愛いわ、ミカ。ね、私と友達になってくれない?」
「友達?」
「どうしようもなく雷砂に恋している者同士、きっと仲良く出来るわ。私、あなたのこと、結構好きよ。あなたはどう?私とは、友達になれそうもない?」
問われて、ミカは改めてセイラを見た。
雷砂の恋人というフィルターを外して、セイラという一人の人間を。
性格は、正直好ましいと思う。
見た目は極上なのに、妙な気取りがなくつき合いやすい。気さくで話しやすく、気配りも上手そうだ。
友人として考えるのであれば、十二分に合格基準を満たしている。
彼女をまじまじと見つめ、そして思った
恋敵と友達になっちゃいけない道理などない、と。
そして気付く。いつの間にか彼女と友人としてつき合いたいと感じている自分に。
気が付けば、ミカの口元には笑みが刻まれていた。見ればセイラも笑っている。
「アンタと友達か。悪くねぇかもな」
「でしょう?じゃあ、今日から友達ね?」
「おう。よろしく頼むわ」
「早速なんだけど、今度私に戦い方とか教えてくれない?」
「いいけど、なんでだ?」
「ずっと雷砂におんぶに抱っこじゃ嫌なのよ。少しは自分でも頑張りたいの」
「なるほどな。良い心意気だ。オレは結構スパルタだぜ?」
「望むところよ。代わりに、美容に関してのアドバイスは任せてちょうだい」
「う、おお。そう言うのは確かに得意じゃないな。じゃあ、その、頼む」
「はい。任されました。今度、雷砂との馴れ初め聞かせてね?」
「良いけど、そっちのも教えてくれよな?」
そんな風に。
友人になると決まった瞬間に、怒濤の如く詰まった二人の距離に、取り残された三人が唖然とする。
鳩が豆鉄砲をくらったような顔をする三人の顔を見て、セイラとミカは互いの顔を見合わせ声を合わせて笑った。
まるで長年の親友であるかのように、息ぴったりに。
これから先、雷砂の女になれるかどうかは分からない。
だが、少なくともしばらくの間は雷砂と共に行動する事が出来そうだし、それを除いてもセイラという友人が一人出来た事は素直に嬉しかった。
他にも雷砂の女候補はいるようだが、その三人とも追々良好な関係を作っていければいいとは思う。
セイラの言を借りれば、ここにいるのは同じ人間に心底惚れ込んでいる者同士。
きっと上手くやっていけるはずだと、なんの根拠もなくそう考え、ミカは妙に晴れやかな気持ちで笑った。
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