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第二部 旅のはじまり~小さな娼婦編~
小さな娼婦編 第五十話
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クゥをセイラに託して、雷砂は一人アレサのいる娼館へと向かう。
必要な金額が集まったからには、少しでも早くアレサを母親の元へ返してあげたかった。
母親の様子は時々見に行ってはいるが、あまり良くはない。
アレサの心配をしすぎて体調を崩してしまっているのだ。
恐らくアレサが戻ればある程度安定するだろうし、彼女の病の薬に必要な素材も揃っている。
アレサを身請けした足で共に戻り、薬の調合もするつもりだった。
だが、その前に。
雷砂は蝶の夢へのルートから少し外れて1件の宿へと足を向ける。
安すぎず高すぎず、冒険者達から人気のその宿は、ミカとガッシュが定宿にしているところだ。
ミヤビから聞いた伝言の事もあるし、ちょっとだけ顔を見せてから行こう、そんなつもりだった。
宿屋に入り、ミカとガッシュの名をあげて自分の名前を告げる。
すると、宿屋のカウンターの中の女の人はまじまじと雷砂を見て、
「まさかこう来るとは思わなかった……」
そう呟いた。
訳が分からず首を傾げると、それに気付いた彼女ははっとしたような顔をし、何かをごまかすように笑ってミカ達の部屋を教えてくれた。
正確には、ミカの部屋を、だ。
ガッシュの部屋はその隣らしいが、今回はミカに会いに来たのだから訪ねる必要もないだろう。
ミカは部屋に居ると教えられ、雷砂はにっこり笑って礼を言うと、宿屋の2階にあるミカの部屋へと向かった。
雷砂の笑顔を見た宿のお姉さんが、
「うわ、なんだあれ。可愛すぎる……ミカが参る気持ちも、ちょっと、いやかなり分かるかも……」
頬を赤らめ、そう呟いたことも知らないままに。
「でも、ちょっとまずいな」
階上へ消えた雷砂の後ろ姿を見送って、彼女はそんな言葉を漏らしつつ顔をひきつらせる。
彼女はミカの飲み友達的なポジションの人だった。
昨夜、珍しく荒れているミカのお酒につき合い、恋愛相談的な話へのアドバイスをしたことは記憶に新しい。
『雷砂が好きなんだよぅ』
と酒瓶を抱えて涙と鼻水をこぼす酔っぱらいに、彼女は言ってしまったのだ。
そんなに好きだったら告白したらいいじゃないか、と。
相手にされないかもと、いつもの強気はどうしたんだとばかりにうじうじする女豪傑の背中をバシンと叩き、確か自分は更なる発言をした、ような気がする。
あんたに迫られて嫌がる相手なんていない。強引にいっちゃいなさい、と。
確かにそう言った。
ミカの想い人は、それなりの年のそれなりにガチムチした男だと、根拠もなく思いこんで。
彼女の雷砂が、まさかあんなに小さな子供だとは思わなかったのだ。
綺麗な大人びた顔をしていたが、どう見ても10歳かそこらの年齢だろう。
(やばい。犯罪だ)
彼女は頭を抱えた。
そうやってしばし悩み、それからひとつ頷く。うん、忘れよう、と。
昨夜自分はミカと飲まなかった。ミカの相談なんか聞いてない。それで良いじゃないか、と。
死んだ魚のような目を階上に向け、彼女はぱんっと両手を合わせて目をつむる。
すまん。ごめん。少年よ、君の尊い犠牲は忘れないからどうか恨まんでくれ。私だって自分の身が可愛いんだ。
そんな謝罪の言葉を、必死に心の中に並べながら。
必要な金額が集まったからには、少しでも早くアレサを母親の元へ返してあげたかった。
母親の様子は時々見に行ってはいるが、あまり良くはない。
アレサの心配をしすぎて体調を崩してしまっているのだ。
恐らくアレサが戻ればある程度安定するだろうし、彼女の病の薬に必要な素材も揃っている。
アレサを身請けした足で共に戻り、薬の調合もするつもりだった。
だが、その前に。
雷砂は蝶の夢へのルートから少し外れて1件の宿へと足を向ける。
安すぎず高すぎず、冒険者達から人気のその宿は、ミカとガッシュが定宿にしているところだ。
ミヤビから聞いた伝言の事もあるし、ちょっとだけ顔を見せてから行こう、そんなつもりだった。
宿屋に入り、ミカとガッシュの名をあげて自分の名前を告げる。
すると、宿屋のカウンターの中の女の人はまじまじと雷砂を見て、
「まさかこう来るとは思わなかった……」
そう呟いた。
訳が分からず首を傾げると、それに気付いた彼女ははっとしたような顔をし、何かをごまかすように笑ってミカ達の部屋を教えてくれた。
正確には、ミカの部屋を、だ。
ガッシュの部屋はその隣らしいが、今回はミカに会いに来たのだから訪ねる必要もないだろう。
ミカは部屋に居ると教えられ、雷砂はにっこり笑って礼を言うと、宿屋の2階にあるミカの部屋へと向かった。
雷砂の笑顔を見た宿のお姉さんが、
「うわ、なんだあれ。可愛すぎる……ミカが参る気持ちも、ちょっと、いやかなり分かるかも……」
頬を赤らめ、そう呟いたことも知らないままに。
「でも、ちょっとまずいな」
階上へ消えた雷砂の後ろ姿を見送って、彼女はそんな言葉を漏らしつつ顔をひきつらせる。
彼女はミカの飲み友達的なポジションの人だった。
昨夜、珍しく荒れているミカのお酒につき合い、恋愛相談的な話へのアドバイスをしたことは記憶に新しい。
『雷砂が好きなんだよぅ』
と酒瓶を抱えて涙と鼻水をこぼす酔っぱらいに、彼女は言ってしまったのだ。
そんなに好きだったら告白したらいいじゃないか、と。
相手にされないかもと、いつもの強気はどうしたんだとばかりにうじうじする女豪傑の背中をバシンと叩き、確か自分は更なる発言をした、ような気がする。
あんたに迫られて嫌がる相手なんていない。強引にいっちゃいなさい、と。
確かにそう言った。
ミカの想い人は、それなりの年のそれなりにガチムチした男だと、根拠もなく思いこんで。
彼女の雷砂が、まさかあんなに小さな子供だとは思わなかったのだ。
綺麗な大人びた顔をしていたが、どう見ても10歳かそこらの年齢だろう。
(やばい。犯罪だ)
彼女は頭を抱えた。
そうやってしばし悩み、それからひとつ頷く。うん、忘れよう、と。
昨夜自分はミカと飲まなかった。ミカの相談なんか聞いてない。それで良いじゃないか、と。
死んだ魚のような目を階上に向け、彼女はぱんっと両手を合わせて目をつむる。
すまん。ごめん。少年よ、君の尊い犠牲は忘れないからどうか恨まんでくれ。私だって自分の身が可愛いんだ。
そんな謝罪の言葉を、必死に心の中に並べながら。
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