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第2章
063 異世界版遠距離通信(7)
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>>> side カルダール
フジノ殿が帰って来た。
先日の魔術院での総会(相変わらず突然開催され、『あっ』と云う間に真面目な議題は可決され、夏のパーティの主催者選びに白熱したという噂だ)の後、バルルーシア方面へ対魔物結界のメインテナンスと魔物退治に行っていたのだが、昨晩帰って来たのだ。
彼女の提案した特許システムがやっと稼働する事になったのに、そのタイミングで地方廻りだなんて、本人もさぞ気になっただろうと思っていたのだが・・・彼女が贔屓にしていたケーキ屋と、出資する事になった喫茶店の売れ行きに関して一度尋ねられれた以外、殆ど質問も無かった。
『実務に関しては無知なんで。魔術院の長老の皆様が宜しくやってくれますでしょう』とこちらから気にならないかと話を向けた時もあっさりとした返事が来ただけだった。
経済や商業的な事に興味を持っているようだったから、もっと商人的・政治的な人物なのかと思っていたが、ある意味彼女も新しい物に情熱を燃やす研究者タイプなのかもしれない。
まあ、次から次へと新しいアイディアを提供してくれる方が、我が国にとっても得る物は多いだろうが。
下手に経済を牛耳られても困るし。
しかし。
今回、彼女がもってきたアイデアは・・・ちょっと難しいかもしれなかった。
「地方の領主にではなく、街や村に直接・・・ですか」
フジノ殿が頷く。
どうやら、遠距離掲示板のテストをしているのを見た地方の村長が、王宮との連絡用に一つ欲しいと言ってきたらしいのだ。
今回の出張で回った村々で似たようなことを言われたらしいので、それなりに需要はあるようだ。
新しいタイプの魔具ともなれば、それなりの値段になるのは明らかであるのにそれでも欲しがるとは・・・地方での情報・連絡手段の欠落は宰相府で思っていたよりも深刻なのかもしれない。
「それこそ、特許制度を使って魔術院にいる魔術師総員で創る勢いで行けば、対魔物保護結界があるレベルの街・村に提供すること自体は不可能ではないと思うのですが・・・その情報を発信・受信・整理・報告するといったことに必要な人員がこちらにあるのでしょうか?
掲示板の数だけでも物理的にかなりのものになるでしょうから、それなりのサイズの部屋が必要になりますし」
ちょっと困った表情でフジノ殿が付けくわえた。
ふう。
困りましたね。
「宰相殿とも相談します。フジノ殿は、王宮側の掲示板が物理的にあまり場所を取らないで済むような工夫が出来ないか、考えておいていただけますか?」
「分かりました。
どちらにせよ、商会へ売るのにも1対1ではなく、本社対支店といった感じで1対多数の連絡が出来るようにした方が使い勝手がいいでしょうしね」
ふむ。
やはり、この遠距離掲示板は商会にも売るつもりなのか。
まあ、これだけ便利なものだったら商業的にも需要は高いだろうと思っていたが・・・読めない位に影響が大きくなる可能性も高いので、他への流用は考えないで欲しいと密かに期待していたのだが甘かったようだ。
◆◆◆
「ほおう。地方の村長たちが、そんなことを言ってきたか」
説明を受けたエッサム宰相が呟いた。
「面白いな。この際だ、領主を通さぬ国民との連絡手段を設立してしまえ」
偶々宰相室へ遊びに(?)来ていた国王がにやりと笑いながら、言った。
カリーム王国では、建国時に国王と貴族・国民の間に交わされた契約が国王の権力の基盤となっている。その為か国王と貴族との間には常にある意味ライバルの様な関係が存在する。
貴族たちは適度に弱くコントロールしやすい国王を求め、国王は常に貴族の権力を弱めて中央へ集権しようと努力している。
領主を通さぬ連絡手段というのは貴族たちの権力を弱めるのに役に立つと、どうやら国王は判断されたようだ。
「・・・何か問題があった時だけに連絡するというのでは、利便性は低いです。
どうせならば、こちらから定期的に情報を発信しましょう。カルダール、各部署を回ってどのような情報を発信するといいか意見を集めおいてくれ」
どの部署も自分の部署の情報を発信したがるだろうが、どのような情報があるのか少しサンプルを集めておくのもいいかもしれない。
「分かりました、適当に周って発信すべきと各部門が考えている情報をサンプルで集めておきますね」
◆◆◆
「全国の各村や街に発信する情報? そりゃあ、何と言っても勿論収穫の良し悪しでしょう」
「軍事訓練の詳細はどうだろう? 山賊出現の注意も重要だし」
「発覚した大きな犯罪の概要も知らせておくことは防犯上役に立つと思うますね」
「新しい技術開発の話を広めるべきでしょう」
「他国の動向も知らせておいて損はありませんよね」
やはり予想通り、どの部署も自分のところに関係ある事項を重視していた。
それこそ、投票したら各部署が自分のところに一票ずつ入れて全員同位になりそうな勢いだ。
とりあえずサンプルとなる発信する情報を書きあげさせたのだが・・・それなりの量になった。
しかも書き方が悪い者も多く、何が言いたいのか分からないサンプルも散見した。
おい。
読む者の視点からも自分が書いた文章を読みなおしてみろ。
何が言いたいのか、全然分からないだろうが。
しかも、田舎町の国民に発信する情報なのにやたらと難しい言い回しを使った物も多いし。
駄目だしを何度か行い、再提出させた文書を纏めてみたが、やはりそれなりの量になる。
フジノ殿に貰った遠距離通信掲示板の倍程度になりそうだ。
しかも、こちらから発信するだけで向こうからの返事を書き込む場所が無いと云う訳にもいかないだろうし。
どうするかな・・・。
◆◆◆
「新聞ですか」
こちらから定期的に情報を発信するというアイデアを説明したら、フジノ殿がそう呟いた。
「シンブン?」
フジノ殿が首を軽く傾げる。
「あれ、こちらの世界って新聞が存在しないんですか?
定期的に、色々なニュースを印刷して多数の人に売る制度です。
それに広告を載せることで、印刷に対するスポンサーをつけるから私の世界では一部銅貨1~2枚で売られていたように思いますね。
でも、考えてみたら広告を出してもそれを見て簡単に多数の人間が買い物に出て来る交通手段が無いですから・・・あまり広告の旨みはないかな?」
印刷物を銅貨1~2枚で売れるのか。
フジノ殿の世界の技術は、やはりこちらよりかなり進んでいるようだ。
しかも国民の識字率が高いようだし、広告されていた内容を見て気軽に買い物が出来るだけの資金力がある人間も多かったようだ。
だが、ある意味このシンブンという制度が始まったら地方の識字率を上げるのに役に立つかもしれない。
貴族の一部には、領民は出来るだけ無知で貧しい方がいいと思っている人間もいるが、知識の高さと云うのは生産性を上げるのに役に立つはずであり、国力を高める為にも識字率を上げるのは宰相府のプロジェクトの一つでもあった。
「広告にスペースを割ける程、余裕があるとは思えませんね。全国に定期的に発信したい情報を各部署から集めてみたのですが、そこそこ多いです」
集まってきた書類をフジノ殿に見せる。
「・・・週に一回交換することにして、発信するのの半分は何かその週の目玉ニュース、残りの半分は順番に各部署に回すということでは、どうでしょう? もっと発信したいと云うことでしたら週2回にするか、記事を半分にして2部署分にしてもいいし」
確かに、今回は突然聞いたから色々発信したい情報があった可能性は高い。
定期会議では『特に報告すること無し』という部署の方が多い。
「そうですね。ちなみに、各村や街との個々の連絡については、何とか出来そうですか?」
フジノ殿はどこからか紙を取り出し、それを何かを適当に書きなぐった石板の上にのせて、術を唱えた。
すると、石板の上に書いてあった文字が紙の上に浮かんできた。
「こんな風に、何かの上に書いてある文字を紙へ転写する術はあるんです。それを利用して、直接返信は紙へ出力出来ないかな~と色々試行錯誤しているところです」
ふむ。
まだまだ先になりそうかな?
「そうだ! それよりも、各地と連絡が取れるようになったら、天気図も発表しませんか!!」
突然彼女が身を乗り出してきた。
「天気図??」
フジノ殿が地図を3枚ほど取り出して、机の上に広げた。
何やら太陽の絵や白い変な物体、そしてグレーな変な物体から何やら下に線が出ている図が書き込まれている。
「この前の総会で、何人か地方に住んでいる人と伝手が出来たので、ここのところ3日程、毎日その地方の天気を教えてもらって、図にしたんです。太陽印があったところは晴れ、白い雲の絵があるところは曇り、グレーの雲から水滴が出ているのが雨です」
成程、白い変な物体は雲のつもりだったのか。
新種の魔物か何かの絵なのかと思った。
「このように、3日間の天気の動きを見てみると、何とはなしに天気の動きが見えると思いませんか?」
ずずいとその天気図とやらを私に差し出しながら、フジノ殿が熱意を込めてこちらを見てくる。
うう~ん・・?
とりあえず、天気図とやらを見つめる。
まだ遠距離掲示板の改良版に目処が付いていないのになぜ来たのかと思ったら、どうやらこの天気図のことを話したかったようだ。
何が言いたいのか、まず理解しないことには彼女も研究に戻らないだろう。
・・・正直言って、天気なんて言う呑気なものよりも先に遠距離掲示板の改良に集中して欲しかったが。
3日前の地図を見ると、南と南東が晴れ、北部が雨、その他は曇りと言った感じだった。
2日前の地図では北部が曇り、その他は皆晴れ。
昨日は全ての地方が晴れ。
「・・・晴れが下から広がって行った感じですかね?」
「今回のは偶然かも知れません。でも、風の動きが雲や雨を持ってきます。だから季節による風の動きを知っていれば、他の地方の天気を知ることで近い将来自分が住んでいるところに来るであろう天気もそれなりに予想できるようになると思いませんか?」
ふむ。
今まで、風よりも早く情報を伝える方法など魔術院経由以外では無かったので他の地方の天気の情報が何かの役に立つなどと云うことは、誰も考えて来なかった。
だが、確かに夏は南風、冬は北風が吹くことが多い。
となったら雨雲もそれと一緒に動くのかもしれない。
「ちょっと、私も他の部署の人間と相談してみます。フジノ殿は遠距離掲示板を使うことで各地方から天気の情報を集め、図にそれを転記して発信したいと思っているんですね?」
フジノ殿が熱心に頷いた。
「ええ。農業や漁業の役に立つと思うんです」
田舎に住んだことも無いと言っていたのに、この人は不思議と農業に拘りを持つ。
まあ、確かに雨の情報が早く分かれば農作物の収穫の無駄も減るかもしれないし、この天気図とやらが役に立ちそうかどうかは、調べている価値があるだろう。
第一、フジノ殿がこれだけ熱心に売り込んできているのだ。無下には出来ない。
フジノ殿が帰って来た。
先日の魔術院での総会(相変わらず突然開催され、『あっ』と云う間に真面目な議題は可決され、夏のパーティの主催者選びに白熱したという噂だ)の後、バルルーシア方面へ対魔物結界のメインテナンスと魔物退治に行っていたのだが、昨晩帰って来たのだ。
彼女の提案した特許システムがやっと稼働する事になったのに、そのタイミングで地方廻りだなんて、本人もさぞ気になっただろうと思っていたのだが・・・彼女が贔屓にしていたケーキ屋と、出資する事になった喫茶店の売れ行きに関して一度尋ねられれた以外、殆ど質問も無かった。
『実務に関しては無知なんで。魔術院の長老の皆様が宜しくやってくれますでしょう』とこちらから気にならないかと話を向けた時もあっさりとした返事が来ただけだった。
経済や商業的な事に興味を持っているようだったから、もっと商人的・政治的な人物なのかと思っていたが、ある意味彼女も新しい物に情熱を燃やす研究者タイプなのかもしれない。
まあ、次から次へと新しいアイディアを提供してくれる方が、我が国にとっても得る物は多いだろうが。
下手に経済を牛耳られても困るし。
しかし。
今回、彼女がもってきたアイデアは・・・ちょっと難しいかもしれなかった。
「地方の領主にではなく、街や村に直接・・・ですか」
フジノ殿が頷く。
どうやら、遠距離掲示板のテストをしているのを見た地方の村長が、王宮との連絡用に一つ欲しいと言ってきたらしいのだ。
今回の出張で回った村々で似たようなことを言われたらしいので、それなりに需要はあるようだ。
新しいタイプの魔具ともなれば、それなりの値段になるのは明らかであるのにそれでも欲しがるとは・・・地方での情報・連絡手段の欠落は宰相府で思っていたよりも深刻なのかもしれない。
「それこそ、特許制度を使って魔術院にいる魔術師総員で創る勢いで行けば、対魔物保護結界があるレベルの街・村に提供すること自体は不可能ではないと思うのですが・・・その情報を発信・受信・整理・報告するといったことに必要な人員がこちらにあるのでしょうか?
掲示板の数だけでも物理的にかなりのものになるでしょうから、それなりのサイズの部屋が必要になりますし」
ちょっと困った表情でフジノ殿が付けくわえた。
ふう。
困りましたね。
「宰相殿とも相談します。フジノ殿は、王宮側の掲示板が物理的にあまり場所を取らないで済むような工夫が出来ないか、考えておいていただけますか?」
「分かりました。
どちらにせよ、商会へ売るのにも1対1ではなく、本社対支店といった感じで1対多数の連絡が出来るようにした方が使い勝手がいいでしょうしね」
ふむ。
やはり、この遠距離掲示板は商会にも売るつもりなのか。
まあ、これだけ便利なものだったら商業的にも需要は高いだろうと思っていたが・・・読めない位に影響が大きくなる可能性も高いので、他への流用は考えないで欲しいと密かに期待していたのだが甘かったようだ。
◆◆◆
「ほおう。地方の村長たちが、そんなことを言ってきたか」
説明を受けたエッサム宰相が呟いた。
「面白いな。この際だ、領主を通さぬ国民との連絡手段を設立してしまえ」
偶々宰相室へ遊びに(?)来ていた国王がにやりと笑いながら、言った。
カリーム王国では、建国時に国王と貴族・国民の間に交わされた契約が国王の権力の基盤となっている。その為か国王と貴族との間には常にある意味ライバルの様な関係が存在する。
貴族たちは適度に弱くコントロールしやすい国王を求め、国王は常に貴族の権力を弱めて中央へ集権しようと努力している。
領主を通さぬ連絡手段というのは貴族たちの権力を弱めるのに役に立つと、どうやら国王は判断されたようだ。
「・・・何か問題があった時だけに連絡するというのでは、利便性は低いです。
どうせならば、こちらから定期的に情報を発信しましょう。カルダール、各部署を回ってどのような情報を発信するといいか意見を集めおいてくれ」
どの部署も自分の部署の情報を発信したがるだろうが、どのような情報があるのか少しサンプルを集めておくのもいいかもしれない。
「分かりました、適当に周って発信すべきと各部門が考えている情報をサンプルで集めておきますね」
◆◆◆
「全国の各村や街に発信する情報? そりゃあ、何と言っても勿論収穫の良し悪しでしょう」
「軍事訓練の詳細はどうだろう? 山賊出現の注意も重要だし」
「発覚した大きな犯罪の概要も知らせておくことは防犯上役に立つと思うますね」
「新しい技術開発の話を広めるべきでしょう」
「他国の動向も知らせておいて損はありませんよね」
やはり予想通り、どの部署も自分のところに関係ある事項を重視していた。
それこそ、投票したら各部署が自分のところに一票ずつ入れて全員同位になりそうな勢いだ。
とりあえずサンプルとなる発信する情報を書きあげさせたのだが・・・それなりの量になった。
しかも書き方が悪い者も多く、何が言いたいのか分からないサンプルも散見した。
おい。
読む者の視点からも自分が書いた文章を読みなおしてみろ。
何が言いたいのか、全然分からないだろうが。
しかも、田舎町の国民に発信する情報なのにやたらと難しい言い回しを使った物も多いし。
駄目だしを何度か行い、再提出させた文書を纏めてみたが、やはりそれなりの量になる。
フジノ殿に貰った遠距離通信掲示板の倍程度になりそうだ。
しかも、こちらから発信するだけで向こうからの返事を書き込む場所が無いと云う訳にもいかないだろうし。
どうするかな・・・。
◆◆◆
「新聞ですか」
こちらから定期的に情報を発信するというアイデアを説明したら、フジノ殿がそう呟いた。
「シンブン?」
フジノ殿が首を軽く傾げる。
「あれ、こちらの世界って新聞が存在しないんですか?
定期的に、色々なニュースを印刷して多数の人に売る制度です。
それに広告を載せることで、印刷に対するスポンサーをつけるから私の世界では一部銅貨1~2枚で売られていたように思いますね。
でも、考えてみたら広告を出してもそれを見て簡単に多数の人間が買い物に出て来る交通手段が無いですから・・・あまり広告の旨みはないかな?」
印刷物を銅貨1~2枚で売れるのか。
フジノ殿の世界の技術は、やはりこちらよりかなり進んでいるようだ。
しかも国民の識字率が高いようだし、広告されていた内容を見て気軽に買い物が出来るだけの資金力がある人間も多かったようだ。
だが、ある意味このシンブンという制度が始まったら地方の識字率を上げるのに役に立つかもしれない。
貴族の一部には、領民は出来るだけ無知で貧しい方がいいと思っている人間もいるが、知識の高さと云うのは生産性を上げるのに役に立つはずであり、国力を高める為にも識字率を上げるのは宰相府のプロジェクトの一つでもあった。
「広告にスペースを割ける程、余裕があるとは思えませんね。全国に定期的に発信したい情報を各部署から集めてみたのですが、そこそこ多いです」
集まってきた書類をフジノ殿に見せる。
「・・・週に一回交換することにして、発信するのの半分は何かその週の目玉ニュース、残りの半分は順番に各部署に回すということでは、どうでしょう? もっと発信したいと云うことでしたら週2回にするか、記事を半分にして2部署分にしてもいいし」
確かに、今回は突然聞いたから色々発信したい情報があった可能性は高い。
定期会議では『特に報告すること無し』という部署の方が多い。
「そうですね。ちなみに、各村や街との個々の連絡については、何とか出来そうですか?」
フジノ殿はどこからか紙を取り出し、それを何かを適当に書きなぐった石板の上にのせて、術を唱えた。
すると、石板の上に書いてあった文字が紙の上に浮かんできた。
「こんな風に、何かの上に書いてある文字を紙へ転写する術はあるんです。それを利用して、直接返信は紙へ出力出来ないかな~と色々試行錯誤しているところです」
ふむ。
まだまだ先になりそうかな?
「そうだ! それよりも、各地と連絡が取れるようになったら、天気図も発表しませんか!!」
突然彼女が身を乗り出してきた。
「天気図??」
フジノ殿が地図を3枚ほど取り出して、机の上に広げた。
何やら太陽の絵や白い変な物体、そしてグレーな変な物体から何やら下に線が出ている図が書き込まれている。
「この前の総会で、何人か地方に住んでいる人と伝手が出来たので、ここのところ3日程、毎日その地方の天気を教えてもらって、図にしたんです。太陽印があったところは晴れ、白い雲の絵があるところは曇り、グレーの雲から水滴が出ているのが雨です」
成程、白い変な物体は雲のつもりだったのか。
新種の魔物か何かの絵なのかと思った。
「このように、3日間の天気の動きを見てみると、何とはなしに天気の動きが見えると思いませんか?」
ずずいとその天気図とやらを私に差し出しながら、フジノ殿が熱意を込めてこちらを見てくる。
うう~ん・・?
とりあえず、天気図とやらを見つめる。
まだ遠距離掲示板の改良版に目処が付いていないのになぜ来たのかと思ったら、どうやらこの天気図のことを話したかったようだ。
何が言いたいのか、まず理解しないことには彼女も研究に戻らないだろう。
・・・正直言って、天気なんて言う呑気なものよりも先に遠距離掲示板の改良に集中して欲しかったが。
3日前の地図を見ると、南と南東が晴れ、北部が雨、その他は曇りと言った感じだった。
2日前の地図では北部が曇り、その他は皆晴れ。
昨日は全ての地方が晴れ。
「・・・晴れが下から広がって行った感じですかね?」
「今回のは偶然かも知れません。でも、風の動きが雲や雨を持ってきます。だから季節による風の動きを知っていれば、他の地方の天気を知ることで近い将来自分が住んでいるところに来るであろう天気もそれなりに予想できるようになると思いませんか?」
ふむ。
今まで、風よりも早く情報を伝える方法など魔術院経由以外では無かったので他の地方の天気の情報が何かの役に立つなどと云うことは、誰も考えて来なかった。
だが、確かに夏は南風、冬は北風が吹くことが多い。
となったら雨雲もそれと一緒に動くのかもしれない。
「ちょっと、私も他の部署の人間と相談してみます。フジノ殿は遠距離掲示板を使うことで各地方から天気の情報を集め、図にそれを転記して発信したいと思っているんですね?」
フジノ殿が熱心に頷いた。
「ええ。農業や漁業の役に立つと思うんです」
田舎に住んだことも無いと言っていたのに、この人は不思議と農業に拘りを持つ。
まあ、確かに雨の情報が早く分かれば農作物の収穫の無駄も減るかもしれないし、この天気図とやらが役に立ちそうかどうかは、調べている価値があるだろう。
第一、フジノ殿がこれだけ熱心に売り込んできているのだ。無下には出来ない。
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