11 / 65
第1章
011 交通事故
しおりを挟む
何か術を!!
と思ったものの、慌てていると脳裏の検索スクリーンすら中々立ち上がらない。
えっと、えっと、えっと~~~~!!
どんな術だったら交通事故を止められるのかと焦っている間に歩行者は馬車に轢かれていた。
・・・やはり、とっさの時と言うのは術が使えないようだ。
今晩、防御の術をよくよく確認して、突発的に何があっても死なないようにしておこう。
慌てて被害者の方へ駆け寄るが、加害者の方は馬車を止めもせず、そのまま行ってしまった。
「邪魔だ!」という声が聞こえたのは気のせいだったと思いたい。
とりあえず、現場検証や犯人逮捕は後回しだ。
死亡事故ではなく、単なる傷害に出来ないか頑張ってみよう。
憐れな被害者(中年のおばさんだった)は馬車に轢かれたらしく、体を横切るような形で僅かに出血している。だが、どこも動脈は傷つかなかったのか大量出血にはなっていない。
内出血はそれなりに凄いんだろうけど。
とりあえず、良かった。
何をやったら良いか分からないが、先日見た、『生命力を上げて怪我の治癒を早める術』とかいう術で間に合ってくれると良いんだけど。
その前に、『骨折の治療』もやっておいた方がいいかな?多分馬車に轢かれたんだから何かしらの骨が折れているだろう。それが変な形に繋がってしまったら後でもう一度折って直す羽目になるかもしれない。
『骨折の治療』を選び、詳細条件で『折れている骨は本来ある場所に戻って治癒』と選び、実行。
多分手であるべき場所に骨を揃えてやる方が魔法にかかる魔力が少なくて済むんだろうけど、骨のあるべき配置なんて分からない。
......重症患者っぽい人に触ること自体、怖いし。
今触ったらぐにょぐにょしていそうで悪夢を見ちゃいそう。
とりあえず、妙ににペタンコだった感じの胸のあたりが膨らんできたので、肋骨が折れていたのは正しく治ったっぽい。
他の骨もきっと治ったんだろう。
次に『生命力を上げて怪我の治癒を早める』を選ぶ。
詳細条件は『生命維持に重要な臓器から修復。エネルギーが生命維持までに修復に足りない分は術者の魔力を利用』としておこう。
魔力が沢山あるらしい私の魔力を使って治療する術ならいいけど、患者の生命力を使って怪我の治癒を早めている場合、重体だったら下手したら生命力を使い果たしそうで怖い。
実行を選んだら、すうっと魔力が出ていく感じがした。
・・・でも、治っているのか分からない。
慌てて、先日使ったオーラを視る術を呼び出し・実行して患者を観察。
車輪の痕ぞいに変な感じにどす黒い感じになっていた箇所が、だんだん普通の色に変わっていくのがぼんやりと視える。
うっし。
良い感じに治ってきている感じ?
「ふう。間に合いそうかな?」
小さく息をつきながら患者の上に屈み込んでいた姿勢を伸ばして、地面に座り込んだ。
命の関る緊急事態なんて初めてだ。物凄く疲れた。
「フジノ殿?」
横からカルダールが声を掛けてくる。
「あまり治療は慣れていないのですが(というかこれが初めてなんだけど)、出来るだけのことはやったので死なないで済むのではないかと思いたいですね。医療の心得のある方を呼んでくることは出来ますか?」
「既に神殿へ人をやりました。フジノ殿は魔術だけでなく法術の心得もあるのですか?」
おっと。そう言えば、医療って神官の領域なんだっけ。
ばれるまでは魔術だけで通そうと思っていたことを忘れていた。
まあでも、見て見ぬふりは出来ないし。
「私の世界では魔術と法術の区別が無かったんです。違う領域であるという考え方が無かったので一通り習いました。得手不得手があり、適性もありますが一応術の才能のある人間は多少は両方出来る場合が多かったでしたから、もしかしたらこの世界の魔術と法術の区別も、適性が分かれやすいというだけで、両方をある程度取得するのも可能かもしれませんよ」
ま、業界の住み分けみたいのもあるだろうから適性があったとしても両方学ぶというのは難しいだろうけど。
さて。
加害者を捕まえないと。
この世界の『正義』は運用上は必ずしも公平なものではない様だが、私が関与したものに関しては建前上の正義を公正に貫いて貰おうじゃない。
確か、事件の再現と云うモノが魔術師に頼めば出来るって言っていた。
『事故場面の再現』で検索すると早速出てきた。
詳細条件に、「任意の場面でストップ可能、再現スピード可変」と付け、さっきの現場に向けて術を放つ。
私が被害者の上に屈んでいる場面は倍速でとばす。暫くするとまるでビデオを巻き戻しているかのように、馬車が走り去って行った方向から後ろ向きに帰ってきて、おばさんの上を後ろ向きに通る。
ちょうど轢いたポイントでシーンを停めた。
「加害者が誰か、分かりますか?」
「ラティーフ子爵ですね」
カルダールが小さく溜息を尽きながら答えた。
・・・そのラティーフって昨日習った大貴族の名前にあった気がする。と云うことは、次期侯爵ってやつか。
当然牢屋へ入れるとか鉱山で強制労働なんて云う判決は出ないんだろう。
どうにかして、道を歩く人も人間なんだと分かってもらいたい所だが、そう簡単には学ばないんだろうねぇ。
「患者は?!」
息を切らした若い男性が走ってきた。
これが神官さんかな?
「こちらです。骨折を治し、生命力を上げて治癒を早める術を掛けて見たのですが、大丈夫でしょうか?医療を緊急の場面で実践したのは初めてなので再確認をお願いできますか?」
神官さんは此方を見て何か言いたげな顔をしていたが、まず被害者の方に注意を向けた。
考えてみたら、こう云う緊急治療ってどうなっているんだろう。
この平民の軽視の世界で、日本やイギリスの様に無条件に事故にあった人の治療をしているとも思えないけど。
暫しおばさんを調べていた神官さんはやがて立ち上がって私の方へ体を向けた。
「見事ですね。馬車に轢かれたとは思えない状態です」
「そうですか。被害者の方を助けることが出来て本当に良かったです。意識が戻っていないようですが・・・これは普通のことなのですか?」
「治療というのは体の生命力を大量に使う術なので、大怪我をしたあとは数日は寝て過ごすのが普通です。彼女も暫くは意識が保てない位眠くなるかもしれませんが、それは体が使い切ったエネルギーを蓄え直そうとしているだけのことなので、無理に眠気に逆らわずに寝ているのが一番です」
神官さんはそう答えてから、周りに集まっていた野次馬に声をかけた。
「誰か、この女性の知り合いはいませんか?」
暫くがやがやと声がしていたが、やがて若い男が人ごみを押しのけて出てきた。
「もしかして・・・。お袋!!」
地面に転がったままのおばさんに掴みかかるように近寄った男性を神官が抑えた。
「大丈夫です、重症だったようですが、そちらの女性が殆どの傷をいやしてくれました。残りもいい感じに治りつつありますので、眠気が無くなるまでたっぷり眠らせてあげれば完治します」
「ありがとうございます!!」
がばっと土下座されて、ひいた。
いやさぁ。
命なんて取り返しのつかないものだから、救ったとなれば土下座しても不思議はないんだろうけど・・・やはり違和感ありまくり。
考えてみたら、今まで人間の命に本当にかかわるようなシーンに立ち会ったことは、ない。
医療の現場にでもいない限り、命を救うことも、奪うことも、見殺しにすることも今の日本では殆どない。
だが、こちらの世界ではそれなりに日常茶飯事にありそうだ。
- 助けになれてよかった、大したことじゃないから頭を上げてくれ
- いやいやこの恩はどうして返したらいいかわかりません
- あなたの母上ががこんな目に合ったのは彼女のせいじゃないんだから
- だけど死ぬところを救っていただいたのに変わりは無いです
といった感じに土下座感謝攻撃と私の防衛はしばし続いたが、やがて警察みたいな雰囲気の制服を着た男の2人組が来たことで取り合えず男性が立ち上がってくれた。
「事故があったとの話ですが・・・」
我々の土下座攻防を面白そうに見ていたカルダールが、警官モドキに答えた。
「ああ、私も見ていたし、ここに現場再現のシーンがある。ラティーフ子爵であることに疑い様がないから、逮捕してくれ」
今も地面に寝ている女性の上に半透明に見える3Dの映像を見て、警官モドキ達も納得したのか、馬車が消えた方向へ姿を消した。
「この後、どうなるのでしょうか?この映像をいつまでもキープしておく訳にはいきませんし」
携帯カメラみたいに、何かにこれって記録出来るのかな?
「神官と警官がしっかり見て確認しているのでもうこの再現映像を解放して大丈夫ですよ」
神官の男性が答えてくれた。
「そうですか。
あ、私は藤野瞳子といいます。前日召喚魔術の失敗で来てしまった魔術師です」
神官さん、戸惑ってる。
「失敗・・・ですか?
え~と・・・私はマダーニと言います。よろしくお願いします」
「こちらこそ。ところで、マダーニさんは緊急治療の担当でもしてらっしゃるんですか?それともたまたま神殿にいて呼び出されたのですか?」
「医療班の人間は交代で神殿に運び込めないほどの重症患者が発生した際に出てくることになっています」
「かなりの激務になりますか?」
地球でのERは激務だと言うが、こちらはどうなんだろ?
「そうですね、それなりに」
ふむ。
私はカルダールの方を向いた。
「マダーニさんの呼び出し費用と、私の医療費は当然加害者が賠償するんですよね?被害者にも慰謝料を払うと思いますが、おまけの懲罰として、3月ほど神殿で医療班の手伝いをすることを命じるというのは可能でしょうか?神殿の方に迷惑がかかるかもしれませんが、貴族の方に命の大切さとそれを救うことの大変さというモノを分かってもらわない事にはまた同じことが起きると思うんです」
マダーニが驚いたように目を丸くしている。
・・・カルダールの目も丸くなっているか。
「面白い考え方ですね。効き目があるかどうかは分かりませんが・・・一応提案しておきましょう」
カルダールが答えた。
「どうもありがとうございました。今度、神殿の方の医療班の仕事も見学させていただいていいですか?医療における効率的な魔力の使い方を学びたいので」
嫌な顔をするかな?
「勿論です。魔術師の方々が医療もできるようになれば、救える命がぐっと増えますからね。いつでもご都合がいいときに来て下さい」
にこやかにマダーニが合意した。
ふ~ん、善意の人っていう感じだねぇ。この世界の神官っていうのは大多数の金の亡者ちっくな日本の宗教法人(偏見だけど)とは違って、善意の存在なのかな?
「では、明後日に丁度私の方にも抜け出せない用事があるので、その日は一日神殿のマダーニ殿のところで過ごしていただくと言うことでいかがでしょう?」
カルダールが提案してきた。
「構いませんよ」
マダーニがあっさり合意する。
「では、よろしくお願いしますね」
あと2日で、一人で外を出歩いても大丈夫なぐらい、一般常識を身につけないと。
と思ったものの、慌てていると脳裏の検索スクリーンすら中々立ち上がらない。
えっと、えっと、えっと~~~~!!
どんな術だったら交通事故を止められるのかと焦っている間に歩行者は馬車に轢かれていた。
・・・やはり、とっさの時と言うのは術が使えないようだ。
今晩、防御の術をよくよく確認して、突発的に何があっても死なないようにしておこう。
慌てて被害者の方へ駆け寄るが、加害者の方は馬車を止めもせず、そのまま行ってしまった。
「邪魔だ!」という声が聞こえたのは気のせいだったと思いたい。
とりあえず、現場検証や犯人逮捕は後回しだ。
死亡事故ではなく、単なる傷害に出来ないか頑張ってみよう。
憐れな被害者(中年のおばさんだった)は馬車に轢かれたらしく、体を横切るような形で僅かに出血している。だが、どこも動脈は傷つかなかったのか大量出血にはなっていない。
内出血はそれなりに凄いんだろうけど。
とりあえず、良かった。
何をやったら良いか分からないが、先日見た、『生命力を上げて怪我の治癒を早める術』とかいう術で間に合ってくれると良いんだけど。
その前に、『骨折の治療』もやっておいた方がいいかな?多分馬車に轢かれたんだから何かしらの骨が折れているだろう。それが変な形に繋がってしまったら後でもう一度折って直す羽目になるかもしれない。
『骨折の治療』を選び、詳細条件で『折れている骨は本来ある場所に戻って治癒』と選び、実行。
多分手であるべき場所に骨を揃えてやる方が魔法にかかる魔力が少なくて済むんだろうけど、骨のあるべき配置なんて分からない。
......重症患者っぽい人に触ること自体、怖いし。
今触ったらぐにょぐにょしていそうで悪夢を見ちゃいそう。
とりあえず、妙ににペタンコだった感じの胸のあたりが膨らんできたので、肋骨が折れていたのは正しく治ったっぽい。
他の骨もきっと治ったんだろう。
次に『生命力を上げて怪我の治癒を早める』を選ぶ。
詳細条件は『生命維持に重要な臓器から修復。エネルギーが生命維持までに修復に足りない分は術者の魔力を利用』としておこう。
魔力が沢山あるらしい私の魔力を使って治療する術ならいいけど、患者の生命力を使って怪我の治癒を早めている場合、重体だったら下手したら生命力を使い果たしそうで怖い。
実行を選んだら、すうっと魔力が出ていく感じがした。
・・・でも、治っているのか分からない。
慌てて、先日使ったオーラを視る術を呼び出し・実行して患者を観察。
車輪の痕ぞいに変な感じにどす黒い感じになっていた箇所が、だんだん普通の色に変わっていくのがぼんやりと視える。
うっし。
良い感じに治ってきている感じ?
「ふう。間に合いそうかな?」
小さく息をつきながら患者の上に屈み込んでいた姿勢を伸ばして、地面に座り込んだ。
命の関る緊急事態なんて初めてだ。物凄く疲れた。
「フジノ殿?」
横からカルダールが声を掛けてくる。
「あまり治療は慣れていないのですが(というかこれが初めてなんだけど)、出来るだけのことはやったので死なないで済むのではないかと思いたいですね。医療の心得のある方を呼んでくることは出来ますか?」
「既に神殿へ人をやりました。フジノ殿は魔術だけでなく法術の心得もあるのですか?」
おっと。そう言えば、医療って神官の領域なんだっけ。
ばれるまでは魔術だけで通そうと思っていたことを忘れていた。
まあでも、見て見ぬふりは出来ないし。
「私の世界では魔術と法術の区別が無かったんです。違う領域であるという考え方が無かったので一通り習いました。得手不得手があり、適性もありますが一応術の才能のある人間は多少は両方出来る場合が多かったでしたから、もしかしたらこの世界の魔術と法術の区別も、適性が分かれやすいというだけで、両方をある程度取得するのも可能かもしれませんよ」
ま、業界の住み分けみたいのもあるだろうから適性があったとしても両方学ぶというのは難しいだろうけど。
さて。
加害者を捕まえないと。
この世界の『正義』は運用上は必ずしも公平なものではない様だが、私が関与したものに関しては建前上の正義を公正に貫いて貰おうじゃない。
確か、事件の再現と云うモノが魔術師に頼めば出来るって言っていた。
『事故場面の再現』で検索すると早速出てきた。
詳細条件に、「任意の場面でストップ可能、再現スピード可変」と付け、さっきの現場に向けて術を放つ。
私が被害者の上に屈んでいる場面は倍速でとばす。暫くするとまるでビデオを巻き戻しているかのように、馬車が走り去って行った方向から後ろ向きに帰ってきて、おばさんの上を後ろ向きに通る。
ちょうど轢いたポイントでシーンを停めた。
「加害者が誰か、分かりますか?」
「ラティーフ子爵ですね」
カルダールが小さく溜息を尽きながら答えた。
・・・そのラティーフって昨日習った大貴族の名前にあった気がする。と云うことは、次期侯爵ってやつか。
当然牢屋へ入れるとか鉱山で強制労働なんて云う判決は出ないんだろう。
どうにかして、道を歩く人も人間なんだと分かってもらいたい所だが、そう簡単には学ばないんだろうねぇ。
「患者は?!」
息を切らした若い男性が走ってきた。
これが神官さんかな?
「こちらです。骨折を治し、生命力を上げて治癒を早める術を掛けて見たのですが、大丈夫でしょうか?医療を緊急の場面で実践したのは初めてなので再確認をお願いできますか?」
神官さんは此方を見て何か言いたげな顔をしていたが、まず被害者の方に注意を向けた。
考えてみたら、こう云う緊急治療ってどうなっているんだろう。
この平民の軽視の世界で、日本やイギリスの様に無条件に事故にあった人の治療をしているとも思えないけど。
暫しおばさんを調べていた神官さんはやがて立ち上がって私の方へ体を向けた。
「見事ですね。馬車に轢かれたとは思えない状態です」
「そうですか。被害者の方を助けることが出来て本当に良かったです。意識が戻っていないようですが・・・これは普通のことなのですか?」
「治療というのは体の生命力を大量に使う術なので、大怪我をしたあとは数日は寝て過ごすのが普通です。彼女も暫くは意識が保てない位眠くなるかもしれませんが、それは体が使い切ったエネルギーを蓄え直そうとしているだけのことなので、無理に眠気に逆らわずに寝ているのが一番です」
神官さんはそう答えてから、周りに集まっていた野次馬に声をかけた。
「誰か、この女性の知り合いはいませんか?」
暫くがやがやと声がしていたが、やがて若い男が人ごみを押しのけて出てきた。
「もしかして・・・。お袋!!」
地面に転がったままのおばさんに掴みかかるように近寄った男性を神官が抑えた。
「大丈夫です、重症だったようですが、そちらの女性が殆どの傷をいやしてくれました。残りもいい感じに治りつつありますので、眠気が無くなるまでたっぷり眠らせてあげれば完治します」
「ありがとうございます!!」
がばっと土下座されて、ひいた。
いやさぁ。
命なんて取り返しのつかないものだから、救ったとなれば土下座しても不思議はないんだろうけど・・・やはり違和感ありまくり。
考えてみたら、今まで人間の命に本当にかかわるようなシーンに立ち会ったことは、ない。
医療の現場にでもいない限り、命を救うことも、奪うことも、見殺しにすることも今の日本では殆どない。
だが、こちらの世界ではそれなりに日常茶飯事にありそうだ。
- 助けになれてよかった、大したことじゃないから頭を上げてくれ
- いやいやこの恩はどうして返したらいいかわかりません
- あなたの母上ががこんな目に合ったのは彼女のせいじゃないんだから
- だけど死ぬところを救っていただいたのに変わりは無いです
といった感じに土下座感謝攻撃と私の防衛はしばし続いたが、やがて警察みたいな雰囲気の制服を着た男の2人組が来たことで取り合えず男性が立ち上がってくれた。
「事故があったとの話ですが・・・」
我々の土下座攻防を面白そうに見ていたカルダールが、警官モドキに答えた。
「ああ、私も見ていたし、ここに現場再現のシーンがある。ラティーフ子爵であることに疑い様がないから、逮捕してくれ」
今も地面に寝ている女性の上に半透明に見える3Dの映像を見て、警官モドキ達も納得したのか、馬車が消えた方向へ姿を消した。
「この後、どうなるのでしょうか?この映像をいつまでもキープしておく訳にはいきませんし」
携帯カメラみたいに、何かにこれって記録出来るのかな?
「神官と警官がしっかり見て確認しているのでもうこの再現映像を解放して大丈夫ですよ」
神官の男性が答えてくれた。
「そうですか。
あ、私は藤野瞳子といいます。前日召喚魔術の失敗で来てしまった魔術師です」
神官さん、戸惑ってる。
「失敗・・・ですか?
え~と・・・私はマダーニと言います。よろしくお願いします」
「こちらこそ。ところで、マダーニさんは緊急治療の担当でもしてらっしゃるんですか?それともたまたま神殿にいて呼び出されたのですか?」
「医療班の人間は交代で神殿に運び込めないほどの重症患者が発生した際に出てくることになっています」
「かなりの激務になりますか?」
地球でのERは激務だと言うが、こちらはどうなんだろ?
「そうですね、それなりに」
ふむ。
私はカルダールの方を向いた。
「マダーニさんの呼び出し費用と、私の医療費は当然加害者が賠償するんですよね?被害者にも慰謝料を払うと思いますが、おまけの懲罰として、3月ほど神殿で医療班の手伝いをすることを命じるというのは可能でしょうか?神殿の方に迷惑がかかるかもしれませんが、貴族の方に命の大切さとそれを救うことの大変さというモノを分かってもらわない事にはまた同じことが起きると思うんです」
マダーニが驚いたように目を丸くしている。
・・・カルダールの目も丸くなっているか。
「面白い考え方ですね。効き目があるかどうかは分かりませんが・・・一応提案しておきましょう」
カルダールが答えた。
「どうもありがとうございました。今度、神殿の方の医療班の仕事も見学させていただいていいですか?医療における効率的な魔力の使い方を学びたいので」
嫌な顔をするかな?
「勿論です。魔術師の方々が医療もできるようになれば、救える命がぐっと増えますからね。いつでもご都合がいいときに来て下さい」
にこやかにマダーニが合意した。
ふ~ん、善意の人っていう感じだねぇ。この世界の神官っていうのは大多数の金の亡者ちっくな日本の宗教法人(偏見だけど)とは違って、善意の存在なのかな?
「では、明後日に丁度私の方にも抜け出せない用事があるので、その日は一日神殿のマダーニ殿のところで過ごしていただくと言うことでいかがでしょう?」
カルダールが提案してきた。
「構いませんよ」
マダーニがあっさり合意する。
「では、よろしくお願いしますね」
あと2日で、一人で外を出歩いても大丈夫なぐらい、一般常識を身につけないと。
0
お気に入りに追加
255
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる