シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1055 星暦558年 紫の月 18日 音にも色々あり(18)

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「あのトランペットの音と軍曹の声を記録した非常時用の魔具を別建てで欲しいって言ってきた」
演習日の2日後、シャルロが工房で朝のお茶を飲みながら報告してきた。

おやぁ?
なんでシャルロだけに報告が言っているんだ?

「もう演習結果が正式に出たのか?」
アレクがお茶を受け取りながら尋ねる。

「うんにゃ。
まだ色々と頭を抱えているみたい。取り敢えず盗聴防止用魔具の本格的な改善点とかの話し合いの前に、あれとは別に何種類か大音量の音を記録しておいていざという時に再生できる魔具が欲しいんで考えておいて欲しいって昨晩ウォレンおじさんから連絡が来た」
シャルロがクッキーに手を伸ばしながら応じる。

・・・考えてみたら、マジでシャルロってなんで虫歯にならないんだろ?
健康管理をがっつりやっていそうな蒼流が口の中の異常も瞬時に治しているんかね?
ある意味、毒を無効化出来るんだったら歯を蝕む何かも中和できそうではあるよな。

歯を磨かなかった時に歯が黄色くなるのとか息が臭くなるのが精霊の加護で防げるのかは不明だが・・・まあ、流石にそれは自力で対処すべきか。

それはさておき。
「大音量の音を記録しておくって・・・非常時の避難指示みたいにするのか?」
確かに火事でも起きた時に出口の傍で『出口はここだ!!』と自動で音を立てる魔具があったら便利かも?

まあ、中の人間が皆同じ所に殺到したらそれはそれで危険だが。

「なんかね~、携帯式通信機が普及してきたから実際に戦場でトランペットを使って兵への突撃とか退却指示を出したりするのは近いうちに止める予定なんだって。
だけど携帯式通信機って携帯式って言ってもそれなりに大きな補助動力用のケースを一緒に持ち運ばなきゃいけないじゃん?
急ぐときに一斉に連絡するのも難しいし。
だからもしもの時にトランペットの代わりにあの非常用魔具みたいのに何通りか記録させた音を選んで再生すれば良いんじゃないかって話になったらしい」
シャルロがクッキーの缶を此方に差し出しながら説明してくれた。

なるほどね~。
確かにそれなりに大音量だったから、トランペットの代わりになるのかな?
「一応野原とか山とか実際に戦場になりそうな場所で鳴らしてみて、トランペットと同じだけ音が届くのか試してみた方が良いんじゃないか?
近くで大きく聞こえても、遠くまでちゃんと届くとは限らないかもだし」

なんと言っても国防に関係する話なのだ。

納品して、トランペットを廃止にした後に実際に戦争になって、『全然指示が届かなかったせいでアファル王国がぼろ負けしました』なんてことになっては困る。

「確かに、一緒の部屋で話していると声が大きくて耳障りな位なのに、ちょっと距離が離れると何を言っているのか全然伝わらない声質の人間もいるな。
一度実際に使うことを想定するような環境で試すべきだろう」
アレクがお茶に牛乳を足しながら頷いた。

何か面倒だなぁ。
そんな非常時用とは言え軍事利用の魔具を造るのなんてあまりワクワクしないんだが・・・まあ、協力するけど。
空滑機《グライダー》改で適当に何人か乗せて行けば一発で実験が出来るだろう。

「軍のトランペッターを借りないとだね。
ウォレン叔父さんか誰か騎士団の人にも実際に音の響きが十分かを実地で体験してもらった方が良いから何人か来るようにも頼もう」
シャルロが頷く。

確かに軍の突撃用のトランペットを鳴らす人間と、楽団で音楽としてトランペットを吹く人間では音の出し方とか、違いそうだもんなぁ。
試作品では楽団の人間に手伝ってもらったが、最終品は軍のトランペッターにやって貰った方が無難そうだ。

「あとさぁ、思ったんだけど適当に劇団とかの見習いでも借りて、不届き者に襲われかけた女性が出すような声とか、商人とか貴族のお坊ちゃんが殴り合いのけんかをする程度の音を出してもらってあの盗聴防止用の魔具を使っていてもそれなりに外に音が流れるか確認してみないか?
軍部の暗殺演習では全然音が聞こえなかったんだが、考えてみたらプロの暗殺って比較的静かだからサクッと殺して一目散に逃げたんだったら音自体がしなかったのかもとも思う。
だけど実際にそこそこの音を立てても聞こえないんだったら、もうちょっと音漏れのレベルを修正した方が良いかも」
ある意味、かなり煩い楽団の練習の音がそれ程気にならなくなる程度なので、悲鳴を上げても気にならなくなる程度になってしまうのは仕方がない。

願わくは音のタイプが変だと外にいる人間が思って確認してくれればいい。
が、人の声とか殴り合いで家具が壊れる音とかが殆ど聞こえないとなると、もしもの時の危険性が高くなってしまうから少なくとも盗聴防止用の魔具に関しては言葉の阻害はするにしても音自体はもう少し通す様にした方が良いかも知れない。

「ああ、確かにそれは実験した方が良いな。
楽団用の防音魔具は響きやすい高音と低音を特に抑える様に工夫したが・・・考えてみたら女性の悲鳴が通りにくいのは困るか?」
アレクが眉を顰めた。

「とは言え、甲高い女性の怒鳴り声とか赤ちゃんの泣き声も出来る限り抑えたいからねぇ。
取り敢えず、劇団の人に襲われた時なんかの声を出してもらって実験しよう」
シャルロが言った。

まあ、実際には若い女性が突然男に襲われてのしかかられた時なんかにしっかりと息を吸って大声を出せるかは・・・かなり怪しいからなぁ。
腹を一発殴られると息が詰まっちゃって大声って出しにくいし。
防音なんぞしてなくても、普通に扉を閉めた部屋の外に聞こえない程度の声しか出せない可能性もあるのが悩ましい所だよな。

そう考えると、そう言う女性用に悲鳴代わりの大きな音を出す魔具を売り出すのもありか?

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