シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

321 星暦553年 黄の月 5日 ちょっと趣味に偏った依頼(4)

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シェイラさんの背景の説明的な話です。


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>>>サイド シェイラ・オスレイダ
「さて、今日はツァレスさん達が西地区に取りかかる予定で、ベルダ先生もその近くに居ると言っていたわね。
となると、魔術師3人組には南側から手を付けて貰おうかしら」
まだ誰も起きていない早朝に起床したシェイラは、朝一番のお茶をゆっくりと楽しみながら遺跡の見取り図を開き、これからの作業の予定を確認していた。

シェイラは王都でもそれなりの規模を誇る商会の娘である。
別に女であろうと能力とやる気があるならば商会でそれなりの地位に就けるので、姉などはバリバリに頑張っている。
だが、シェイラとしては金の勘定よりも昔の人々がどう暮してきたのかを調べ、遙か過去の人々の生活と今との違いと、変わらぬ所を知る方がずっと楽しくて好きだった。

幸いにも、一族の中では異色な発明家として成功した叔母が、シェイラの(家族から見たら)『個性的』な趣味に理解を示してくれて入れ知恵してくれたお陰で、『経済や法律を学ぶため』という名目で王立学院に通う学費を親から貰い、それをやりくりすると共に飛び級を繰り返すことで王立大学院まで通うことが出来た。

折角大学院まで行ったのに、家族には商会を手伝うか、商会に興味が無いなら取引先とでも結婚してはどうかとせっついてくる家族には辟易させられたが。

歴史なんてものは直接的には金にならない。
だが、遺跡から使える魔道具や魔術が出てくることもあるため、魔術院が多少の資金援助をしてくれるし、王家も『過去のことを知ることは現在の問題の助けになる可能性もある』ということで多少の予算を歴史学会に回してくれる。

あとは遺跡で見つかった美術品等を売り払うことで研究の資金を賄っているので、歴史学会の人間が集まった際の関心事は遺跡のことと、如何に少ない資金を引き延ばして発掘をより長く行うかだ。

そんな人間がばかりが集まるので歴史学会はあまり実務に向いた人間はおらず、大学院を卒業したばかりのシェイラでもそれなりに『使える』ということで重宝されて歴史学会でお小遣い程度の給与で雑用をせっせとこなしていた。
その縁で歴史学会に用があって王都まで来ていたガルバ・ラツーナから、ほぼ全く何も取らずに発見したばかりの遺跡を歴史学会に引き渡してくれたばかりか『気分転換の休暇』ということで無料で手伝ってくれた若手魔術師の話を聞いた。

ヴァルージャの近郊に新しい遺跡が発見されて、『面倒な実務をこなします!!』と力説してその責任者になったツァレスの助手として紛れ込むことに成功したシェイラは、ベルダが危険な魔術的な防御結界などは無いとツァレスに教えてくれた時に、魔術院を呼ばずにこの若手3人組を呼び込むことでこの発掘隊の発見の金銭的収支を大幅に改善する方法を主張したのだが・・・。

「本当にあの報酬で受けてくれるとはね~。
世の中、分からない物だわ」
お茶のお代わりを注ぎ、パンをかじりながらつぶやく。

普通の依頼は依頼主が報酬を提示し、それでやっても良いと思った相手がそれを請ける。
(あまり金額が低すぎると魔術院から弾かれるが)

指名依頼は『この人にやって貰いたい』とこちらから頼むので、最初の報酬額は単なる交渉開始価格であり、そこから上がっていくこと多いので、思いっきり低い価格を提示するようツァイトに提案しておいたのだが・・・。
「まさか交渉無しであれで請けてもらえるとは思ってなかったから、悪いことしちゃったかな?
こういうことによく支援してくれるオレファーニ侯爵家の3男はまだ分かるけど、シェフィート商会の息子もいるのに交渉無しとは思っても無かったわぁ」

まあ、無料でガルバ達を助けてくれたようなので、元々こういう考古学とか遺跡が好きなのだろう。
「出来るだけ効率的に、やって貰う必要があることを手配して、残りの時間で彼らが好きなように見て回れるようにしなくっちゃね~」

うむ。
きっと、彼らだって自分と同じように考古学が好きなのだろう。
ならば恩返しは楽しい発掘作業を沢山出来るようにすることが一番だ。

「よ~し、今日も頑張るぞ~!
よし、皆の朝ご飯を手配したら今日はダラアマート博士のところで手伝いをさせて貰おう」
なんと言っても自分の研究に夢中な考古学バカが集まる発掘隊だ。
自分の成長のためにも誰の元で手伝ってどのような技能を磨くか、自分でちゃんと管理しないと効率的な成長も望めない。

商会の仕事に興味が無いとは言え、考古学での資金策や自分の成長に関してはとことん効率性を追及するのが大好きなシェイラは・・・実は家族の中では、ここ数十年で堅実かつ効率的にオスレイダ商会を大きくした父にそっくりであると言われているのだった。


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