シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
1,036 / 1,038
卒業後

1035 星暦558年 赤の月 12日 ちょっと想定外な流れ(10)(第三者視点)

しおりを挟む
>>>サイド セビウス・シェフィート

(ウィル君の所からこんなものが出て来るとなると・・・先日の自白剤騒ぎにはシェイラ嬢が関わっていたということか)
手に持った手紙を丹念に調べながら先ほど弟と一緒に出て行った青年の事を考える。

魔術師になったアレクとは学生時代からそこそこ仲良くしており、兄との跡取り争いの際にはしてやられた(多分)相手だ。
とは言え、自分もそれ程真剣に跡取りになりたいと思っていた訳ではないので恨みはないが。

自分だったらシェフィート商会を今以上に大きく出来るではあろうが、単に利益率が高い商会になるだけであって、働く従業員が本気で身を捧げるような商会にはならないのは分かっていた。

まあ、兄が動かすシェフィート商会がそこまで従業員から献身を受けられるかも不明だが、自分が動かすよりは人間味がある商会にはなるだろうし、兄が本気でやりたいならどうぞという思いもあり、兄の本気度を測る為に競争に参加していたのだ。

はっきり言って、シェフィート商会を動かすよりは商会に邪魔をしてくる他の商業ギルドの会員や貴族等の情報を集めて手を打てるように準備しておくことや、アレクが仲間と一緒に見つけてきた沈没船の貨物や美術品の歴史を探る方が楽しい。

金儲けよりも色々と難しい事に挑戦するのが自分は好きなのだ。
(こないだの自白剤騒ぎも一体どうやって魔術師の真偽の術にも関わらず捕まらずにやり遂げたのか、調べるのも面白そうだと思ったが・・・シェイラ嬢が関わっているなら下手に突いて彼女まで辿り着いてしまったら後で面倒なことになりかねないから、調べるのは止めておこう)

それよりも。
ギルドの役員になるのにザルガ共和国なんぞの金を使った不届き者をいぶり出す方が重要だし、楽しそうだ。

規模から行くと港から地下トンネルを掘った連中なんかも怪しいが、あれは発覚した時期と掘るのに掛かった時間を考えるともっと昔からあった密輸業者だろう。

となると、それに対抗しようとした商会か?
(トンネルと関係したザルガ共和国側の商会は・・・ヴァットパルナか)

資料を取り出して確認する。
あのトンネルは今まで何年もの年初捜査で見つかっていなかったから今年も大丈夫だろうと油断していたところに当局の襲撃を受けて、街の方の拠点まで隠し金庫を含めたほぼ全ての書類が押収されたのでかなり徹底的にヴァットパルナは検挙された。

ザルガ共和国側は苦情を言ったところでおざなりな対応しかされないのは分かっていたので、アファル王国は王宮側がヴァットパルナ商会に巨額な罰金と延滞税を課した上で商会との取引停止及び商会関係者のアファル王国への入国禁止を言い渡した。

商業ギルド側もそれに反対する動きが殆ど無かったのが多少意外だと思っていたのだが・・・誰か上の方の人間があの商会に競合する商会と繋がっていたのだったらそいつが商業ギルドの動きを鈍らせた可能性が高い。

ヴァットパルナ商会が追い出しを食らったことで取引量が増えた商会は・・・エーダルファ商会と、ヴェルパン商会。

ヴェルパン商会は裏ではヴァットパルナ商会と繋がり、実質あちらの人間を受け継ぎ看板を付け替えただけな商会なのでこちらはこの手紙の主とは関係は無いだろう。

となるとエーダルファ商会と、それに繋がる人間が怪しそうだ。

商業ギルドで2年前の役員投票の際に役を得た人間の関係者を調べていたら、下の玄関の方から来客の音がした。

ウィルから受け取った手紙を隠そうかと手を止めたが、聞こえた声に手を止めて、そのまま待つ。

「ねえ、あの過敏《アレルギー》体質安全用魔具を工房から勝手に流している人間がいるみたいなんだけど、調べて貰える?」
ワインのボトルを手に持った母親が部屋に入ってきた。

「ああ。
それだったら美人の涙に動かされた職人の一人が自分が作った分をこっそり渡していますね。
美人の方は実は既婚だし3人も他に愛人がいるんだから、親切に尽くしたところで報われないだろうに。
腕がいいから切り捨てるのは勿体ないでしょうが騙されたのは今回が初めてではないらしいので、工房の親方と対応策をしっかり話し合う方が良いですよ」
先日入手した情報を書いた紙を母に渡す。

「あらま。
困ったわねぇ。
ちょっと今度、話してくるわ。
で?
何をそんなに楽し気な顔をしているの?」
紙を受け取りながら母がワインを渡しつつ小さく首を傾げる。

「面白い手紙が手に入ったもので。
どの狸の皮を火炙りにすることになるかと考えている所なんでね」

手紙を受け取って目を通し始めた母親が深く息を吐いた。
「あらぁ~。
狸じゃなくて狐かも知れないわよ?
流石に鼠がこれを遣る勇気はないと思うけど・・・楽しそうね」

楽しい狩りの時間になりそうだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

僕の義姉妹の本性日記

桜田紅葉
恋愛
いつものような毎日を義姉妹と送っていた主人公、橋本時也(はしもととしや)は儀姉妹、姉、橋本可憐(はしもとかれん)と、妹、橋本睦月(はしもとむつき)との日常を過ごす。 しかし、二人の意外な本性や心動きなどが見られる。 果たして時也はどうなるのか? しかし、彼に陰ながらも好意を持つ幼馴染、秋は一体どうなるのか

家事もろくにできないと見下されたうえ婚約破棄されてしまいました……

四季
恋愛
「君のような家事もろくにできない女性と生きていくことはできない。婚約破棄されてもらう」 婚約者ロック・アブローバはある日突然私にそう告げた。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

やり直ししてますが何か?私は殺される運命を回避するため出来ることはなんでもします!邪魔しないでください!

稲垣桜
恋愛
私、クラウディア・リュカ・クロスローズは、子供の頃に倒れて、前世が柏樹深緒という日本人だったことを思い出した。そして、クラウディアとして一度生きた記憶があることも。 だけど、私、誰かに剣で胸を貫かれて死んでる?? 「このままだと、私、殺されるの!?」 このまま死んでたまるか!絶対に運命を変えてやる!と、持ち前の根性で周囲を巻き込みながら運命回避のために色々と行動を始めた。 まず剣術を習って、魔道具も作って、ポーションも作っちゃえ!そうそう、日本食も食べたいから日本食が食べられるレストランも作ろうかな? 死ぬ予定の年齢まであと何年?まだあるよね? 姿を隠して振舞っていたら、どうやらモテ期到来??だけど、私……生きられるかわかんないから、お一人様で過ごしたいかな? でも、結局私を殺したのって誰だろう。知り合い?それとも… ※ ゆる~い設定です。 ※ あれ?と思っても温かい心でスルーしてください。 ※ 前半はちょっとのんびり進みます。 ※ 誤字脱字は気を付けてますが、温かい目で…よろしくお願いします。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

処理中です...