シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

996 星暦557年 桃の月 18日 家族(?)サービス期間(20)

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「あら、これってセルナウム王国中期の茶壷?」
シェイラが古びて色の褪せた陶器を覗き込んで蚤市の売り場に座り込んでいるおっさんに声を掛けた。

「おう!凄いだろ!!
多分そのセルなんとかの由緒正しい壺だぜ!」
にっかり笑いながらおっさんが応じる。

いや、名前すら分かっていないんだから絶対に由緒は正しくないだろ。
それに蚤市なんぞに売りに出されている物は例え本当に遺跡や歴史のある本物だとしても、ほぼ全てが盗まれたか質流れかした品だから由緒が正しい訳がない。

・・・まあ、以前入った骨董品店のふりをしたぼったくり土産物屋に売りつけようとして足元を見られ、蚤市の方がまだまともな値段で売れるってんでここで売ろうとしている没落貴族みたいのがいる可能性も一応あるが。
シェイラも分かっているだろうけど、このおっちゃんは確実に違うな。
まあ、没落しすぎて質屋をやる様になった元没落貴族という可能性もゼロでは無いが・・・それこそ物語にあるような、そこそこ綺麗そうなロケットペンダントを持った孤児が本当にどっかに貴族の落とし子である可能性と同じぐらいに低い。

とは言え、シェイラ曰く蚤市の楽しみ方というのは自分の目を信じてガラクタの中から本物を見つけることらしいからな。
売主が誰かなんて言うのはどうでも良いんだろう。
見つけたのが本物かどうか、どうやって判断するのか不明だが。

「清早って物がどのくらい古いかとかって分かるのか?」
ふと、清早に聞いてみる。
どのナニソレ王朝とかナンチャラ文明の時代かなんて言うのは人間の文明自体を認識していない精霊に聞いても無駄だが、少なくとも数年前のか、数十年前のか、数百年前のかが分かれば模造品かどうかは分かるだろう。

数百年前の模造品の可能性もあるが・・・それはそれで面白いだろうし。

『う~ん、まあ、作り立てかどうかぐらいは分かるけど、どのくらい古いかは微妙かな~。
人間の時の単位ってチミチミし過ぎで良く分からないんだよね』
清早が横にぷかぷか浮かびながら言った。

昔見かけた洗脳じみた効果のある魔具のようなものが再び出て来る可能性があるので、蚤市を回る時は清早に付き合ってもらっている。
暇つぶしに聞いてみたが、どうやら造ったばかりの贋作の見抜きは出来ても、どの時代の物かとかは分からないみたいだな。
精霊にとっちゃあ本物か贋作かって聞かれても、どれも『人が作った物』ってだけだからね。
どっちの方が好きっていうのはあっても、どっちの方が芸術性が高いとかは不明なんだそうだ。

精霊にとって『芸術って何?』と言う世界らしい。まあ、確かにそうだよなぁ。
人間にとってすら芸術とか美って流行があって時代とともに変わるんだし。

そんでもって精霊が神に近い様な存在だと考えると、一生懸命綺麗で芸術性が高い彫刻とかを神殿とか儀式に使っても、神様的にはどうでも良いんかもなぁ。
下手をしたらそこらへんのガキが作った粘土細工の方が気にいる可能性も高そうだ。

しっかし、古い陶器なんて模様もぼやけてきているしちょっと表面に罅が入りかけていたりするし、何が良いんだろ?
遺跡で彫り出した物みたいに歴史的にいつの時代のどんなのって分かっていればそれなりに『おお~』って感じで歴史を感じて面白いが、蚤市のいつのどこから来たのかも分からない物はそこまで興味は湧かないな。

というか、高く売れる物は好きだが、本物と偽物の見分けが出来るだけの知識がないから微妙なんだよな。

まだ魔具とかだったら魔術回路を解明するのが楽しかったりするが、壺じゃあなぁ。

一応心眼サイトでシェイラが覗き込んでいる壺を観察してみるが、普通の日常品として売ってある壺と特に違いは分からない。

買うのかな?

あまり退屈そうな顔をしていると怒られるので(というか、暇なら他の所行ってきたら?と追い払われる)、何か退屈しのぎにならないかと周囲を心眼《サイト》で見回す。

「お?」
何やら古ぼけた箪笥みたいのの中に魔術回路があるのが視えた。
なんだって箪笥に魔術回路があるんだ??
そっと手許に紙を取り出して、魔術回路を描き写す。
屋敷船で来ているならまだしも、転移門だと箪笥を持ち帰るのは流石にちょっときついからなぁ。
魔術回路だけ拝借しちまおう。

劣化防止とか、虫食い防止用なのだろうか?
虫食い防止は虫除け結界を使うなり燻すなりすればいいと思うが、劣化防止があるとしたらそれは大きい・・・かも知れない。
時間を遅らせるとか、色が褪せるのを何らかの手段で止めるとかの効果があるのだろうか?

とは言え、考えてみたら時間停止なんぞの魔術回路が発見されていたら食糧や薬の保存に使うのが先だろう。
そう言う魔具が現代に広がっていないことを考えると、服のカビ防止か何かかな?
まあ、取り敢えず試しに作ってみて、何か効果があるの調べたらいいだろう。

美顔用魔具みたいに特定の人たちにバカ売れするかも知れないし。
単なるゴミの可能性の方が高いが。
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