シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

990 星暦557年 桃の月 17日 家族(?)サービス期間(14)

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「さて!
書類の提出が終わったから、仕立て屋に行くわよ!!」
歴史学会での提出作業と他諸々が終わり、休憩に入った甘味処で嬉しそうにケーキが乗ったお皿に手を伸ばしながらシェイラが言った。

魔石充填の賄賂が効いてツァレスが必要な報告書をかき上げてくれたお蔭で必要書類が全て集まり、それを提出しに今日は王都に来た。

王都に来たらついでに纏めて必要品の買い物もあると言うので東大陸へ遊びに行くのは明日からという話はシェイラとしていたのだが・・・『必要品の買い物』が服だとは聞いていなかった。
あれは長く掛かるんだよなぁ。
長への年末の挨拶にでも行ってこようかな?

俺に何が期待されているのか確認しておこう。

「何か出席しなきゃいけないパーティとか結婚式みたいなのがあるのか?」
俺もエスコートとして出席しなければいけないのだろうか?
シェイラは確か去年は歴史学会の年初の集まりにも殆ど顔を出していなかったが、今年は出ることにしたのか?

「何を言っているの、服って言うのはそれなりに定期的に揃えておかないと急に必要になった時に困るでしょう?
スタイルとか素材とか、色々と変わっていくんだからいつまでも同じ服を着る訳にはいかないし、クロゼットに仕舞いっぱなしだと気が付いたら意外と痛んでいたり変色していたりするからいざという時に着れないことが多いのよ?
定期的に新しいのを仕立てて古いのは着ないなら古着屋に売らなきゃ」
シェイラが当然の真理を語るような顔で言ってきた。

・・・そうなのか?
まあ、確かに女性服っていうのは戦闘装備で、去年とか一昨年の服を着るのはひび割れて穴が開いた防具を着て戦争に行くようなものなのだとケレナも言っていたな。

「そうか。
今日一日で終わるのか?」
まあ、一応時間的に余裕はあるから数日かかっても大丈夫だが。

「サイズは殆ど変わっていないから、仕立て屋で再確認して後はデザインを決めるだけだし1日で大丈夫でしょう。
ウィルも体形は変わっていないわよね?」
お茶に牛乳を少量足しながらシェイラが言った。

「・・・え??
俺も服を仕立てるのか??」
普段着は適当に買っているし、立派な服はシャルロの婚約式の時に仕立てた服で十分だろう??

「色々と活躍しているから、そろそろ下手をしたら王宮に呼ばれるかもしれないでしょ?
そうじゃなくても魔術院とかの正式な何かに出席する羽目になるかも知れないし。
言っておくけど、シャルロの婚約式に仕立てた服は祝いの場用の服だから、王宮での婚約式に招かれて参加するとかでも言うんじゃない限り使えないわよ」
シェイラがずばっと俺の弱い反論にもならない言葉を切り捨てた。

マジか??!!
まあ、確かに盗賊《シーフ》時代に忍び込んだ貴族の館では夫人たち程ではないにしてもおっさん達も何やら状況に応じて違う服を着ていたが、あいつらは金があるから見栄を張っているだけなのだと思っていた。

「・・・別に、例え俺たちの業績に関してお偉い奴らから呼び出されても、シャルロかアレクが代表として行けば良いんじゃないか?」
シャルロとアレクだったら必要な服はちゃんとそろっているだろう。
魔術院だったらローブを羽織って誤魔化せばいい。

「そうはいっても貴方たち3人での事業でしょ?
一人だけ顔を出さなかったら3人で平等に作業をしていると見做されなくて後々不利になるかも知れないわよ?
ウィルの弱く見える立場を利用しようと変なちょっかいをかけて来る連中が出るかも知れないから、ちゃんと大人としてやるべきことはやらなきゃ」
ケーキにサクッとフォークを突き刺しながらシェイラが言った。

弱く見える立場ねぇ。
別に弱そうに見えたところで特に問題はないと思うし、俺はシャルロもアレクも信頼しているが・・・確かに外から見て俺だけ一歩引いているように見えたら孤児だから立場が弱いとか思ってアホなことを仕掛けてくる連中もいるかも知れないか。

まあ、服を仕立てる金は問題ないんだし、無駄な出費だと思うが俺も仕立てるか。
考えてみたらシャルロやアレクがそう言う服を持っているということは、あいつらは必要経費としてちゃんと服を仕立てているってことなんだから、俺だけ要らね~と服を仕立てないのはずるいと言えなくもないな。

・・・服の仕立て代って必要経費として認められるのかな?
今度アレクに聞いてみよう。
仕事関連じゃなかったら絶対に服なんぞ仕立てないんだが。
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