シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
975 / 1,038
卒業後

974 星暦557年 橙の月 30日 次は?(9)

しおりを挟む
「へぇぇ、離れても動かせるオモチャねぇ。
どうせだったらこう、ボタンを押したら決まった場所に動いてくれる配達台車みたいのは出来ないの?」
競馬フィールドと馬付き台車2台だけ持って来てシェイラに見せたら、遊ぶ方よりも実用的な利用法の方に興味が言ったようだった。

やっぱ、こういう『物を動かすの』って女性より男の方が好きだよなぁ。
シャルロの兄貴や甥っ子は凄い食らいつきだったらしい。
とは言え、絶対に年初までは友達や知り合いにも見せても話もしちゃ駄目だよ!!と言い聞かせた上に毎回回収して持って帰ってきているようだが。

流石にシャルロも毒探知・・・じゃない、過敏《アレルギー》体質安全用魔具の製造の騒動の繰り返しは避けたいらしい。

まあ、今回は甥と兄貴や父親が楽しんだだけで、女性陣は微笑まし気に見ているだけだったらしいから怖い圧力の心配はしなくて済みそうだが。

「村の中の決まったルートを動くだけな程度でもかなりの魔力を食うし、風に吹かれたり誰かに悪戯で動かされたりしたら見当違いな場所で曲がったりしそうだから、現実的じゃあないな。
しかも高くなりすぎるから適当に近所のガキかご隠居さんにお小遣いを渡して頼む方が確実だし安いぞ?」
それこそ、鉱山の中でのトロッコの様な物を動かす魔具を造るのは可能かも知れないが・・・費用効果を考えると鉱山の中のような重い上に比較的金に成る物を決まったルートで動かす必要がある場合とかじゃないと魔具を造る意味は無いだろう。

鉱山でさえ、安定的な産出量が確実なところ以外は人手でやるところが多いのだ。
いかに人力というのが魔具よりも安上がりで使い勝手が良いか、分かる。

空を飛ぶとか毒を探知するとか肌を綺麗にするとか言ったような、普通にそこら辺で雇える労働者では出来ない作業以外だったら魔具を使うより人間を使う方が基本的に安上りなのだ。
まあ、絨毯清掃の魔具は金持ちの屋敷とか専門の清掃業者にある程度は売れている様だが。
一歩進んだ便利な道具は売れるが、ガッツリ人を不要にする程便利にしようとすると高くつき過ぎる事が多いって感じかな?

「う~ん、屋敷の中の書類配達とか、食材の運び込みとかだったら同じルートだし、良さげな気もするけど、魔具を買って日常的に使えるような屋敷だったら下働きが居るからそっちにやらせる方が現実的か・・・。
発掘現場で昼食を離れたメンバーに届けたりするのに使えたら便利なんだけどね~」
シェイラがぐりぐりと制御球を動かしながら呟く。

いやいやいや。発掘チームは金が無いだろう!
俺が試作品を渡しても、魔石が切れちまった後はどうしようもないだろうし、下手をしたら予算水増し用に試作品を『うっかり』売られそうで怖い。

「一応通信機は何人か持っているんだろ?
そいつらを呼び出せばいいじゃないか。
というか、腹が減ったら自分で中央テントに来るだろ?」
ガキじゃないんだ。
そこら辺は自己管理して貰わないと。

「夢中になると倒れるまで人にも話さずに只管発掘するのが学者バカだからね~。
何を見つけたのかとか何を掘っているのかとかを随時確認しつつ、倒れない様に食糧を口に突っ込まないと色々と面倒な事態になりかねないのよ」
肩を竦めつつシェイラが言った。

一番若いシェイラがマジで母親役だな。
まあ、母親のごとき管理者が必要だからこそ、一番若い女性であるシェイラが発掘団責任者のツァレスの右腕のような役割で働けるんだろうが。

歴史学会の人間は熱意と実務能力のバランスが取れた人間が少なそうだからなぁ。
そのうちシェイラもどこかの遺跡発掘団の責任者になれるのだろうか?
下手をすると皆の面倒を見ることが多くなりすぎて、却って発掘作業が出来なくなりそうだが。

「こう・・・固定型通信機みたいに映像を伝えられる魔具を付けて、ちょっと危険かも知れない穴の中とか発掘中の遺跡の中を潜入させられる魔具を造れない?
遺跡っぽい場所って下手をすると天井が落ちてきたりするから、中々奥へ入れないのよねぇ。
せめて何があるのかが分かれば、そこの天井や壁を補強するだけの手間をかける価値があるか分かって助かるんだけど」
シェイラが更に提案してきた。

「確かに落盤するかも知れない穴の中とかに魔具を先に入れてどんな様子か調べさせるのは便利かもしれないが・・・遠隔で映像まで見える様にするのは無理じゃないかな。
まだ映像を記録させて戻ってきた後に確認するのならある程度は出来るが、中がどうなっているのか見えなければ動かせないだろうし」
それこそ、平らな場所をまっすぐ進んで帰って来るだけだったら王太子の結婚式の際に使ったような映像用魔具の様なのと照明用魔具を載せて穴の中の映像を記録してくるのは可能だが、まっすぐ直線な穴が続いている場所なんてそうそうないだろう。

障害物があったらそれにぶつかって倒れるか、方向がずれるのだ。
障害物が無いスッキリ綺麗な発掘現場なんぞほぼ無いだろう。

そう考えると、何かにぶつかったらそのまま戻ってくるとでもしない限り、穴の中に入れた魔具がほぼ全て行方不明になりかねない。

どう考えても、現実的じゃあないな。

「う~ん、そうねぇ。
落盤しそうな危険なところでどうしても作業がしたかったら、そこは後回しにしてウィルが来るまで待ってからアスカに頼む方が現実的かも?
高額な魔具を買うぐらいだったら発掘人員をもう一人雇うのに使っちゃうだろうし」
シェイラがため息を吐きながら言った。

発掘要員に数えられるのはちょっと微妙だが・・・確かに落盤しそうなところへシェイラが潜るかもと考えたら、遊びに来たついでだったらアスカを呼び出して手伝うことになるんだろうなぁ。

今迄殆どそう言う事は頼まれていないが。
何かこう、地下の地形とかが分かる魔具を造れたら便利そうだが・・・秘密通路とかの場所を見つけるのに使えそうだから、造っちまったらまた色々と問題になりそうだからと売れなくなりそうだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

僕の義姉妹の本性日記

桜田紅葉
恋愛
いつものような毎日を義姉妹と送っていた主人公、橋本時也(はしもととしや)は儀姉妹、姉、橋本可憐(はしもとかれん)と、妹、橋本睦月(はしもとむつき)との日常を過ごす。 しかし、二人の意外な本性や心動きなどが見られる。 果たして時也はどうなるのか? しかし、彼に陰ながらも好意を持つ幼馴染、秋は一体どうなるのか

家事もろくにできないと見下されたうえ婚約破棄されてしまいました……

四季
恋愛
「君のような家事もろくにできない女性と生きていくことはできない。婚約破棄されてもらう」 婚約者ロック・アブローバはある日突然私にそう告げた。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

やり直ししてますが何か?私は殺される運命を回避するため出来ることはなんでもします!邪魔しないでください!

稲垣桜
恋愛
私、クラウディア・リュカ・クロスローズは、子供の頃に倒れて、前世が柏樹深緒という日本人だったことを思い出した。そして、クラウディアとして一度生きた記憶があることも。 だけど、私、誰かに剣で胸を貫かれて死んでる?? 「このままだと、私、殺されるの!?」 このまま死んでたまるか!絶対に運命を変えてやる!と、持ち前の根性で周囲を巻き込みながら運命回避のために色々と行動を始めた。 まず剣術を習って、魔道具も作って、ポーションも作っちゃえ!そうそう、日本食も食べたいから日本食が食べられるレストランも作ろうかな? 死ぬ予定の年齢まであと何年?まだあるよね? 姿を隠して振舞っていたら、どうやらモテ期到来??だけど、私……生きられるかわかんないから、お一人様で過ごしたいかな? でも、結局私を殺したのって誰だろう。知り合い?それとも… ※ ゆる~い設定です。 ※ あれ?と思っても温かい心でスルーしてください。 ※ 前半はちょっとのんびり進みます。 ※ 誤字脱字は気を付けてますが、温かい目で…よろしくお願いします。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

処理中です...