シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
972 / 1,038
卒業後

971 星暦557年 橙の月 24日 次は?(6)

しおりを挟む
「これって馬が纏まって走っていると魔力吸収の効率が下がって少し遅くなってる?」
競馬フィールドの範囲の中を3台の馬のぬいぐるみを乗せたオモチャが走り回っていたのだが、やがて一頭が残りの2頭から離れて走り始めた。

「・・・確かにそっちの方が速い、かも?
ちょっとウィルと私でこちらの方に纏まって右から左へ真っ直ぐ走り、シャルロが上の方で同じ方向に突っ走って競馬フィールドの端に辿り着くのにかかる時間の差を確認しよう」
シャルロの馬の動きを見て、アレクが制御球から手を離して言った。

「魔力吸収の効率が変わると共鳴の効率も変わるのかな?」
馬を手前の方へ戻しながら心眼《サイト》で競馬フィールド上に残っている魔力の残滓を見るが、既に元に戻ってしまっているのかイマイチ違いが分からない。

『競馬フィールド』と名付けた長さ2メタメートル幅1メタの走り回る部分には一様にランプの明かり程度の少量な魔力が放出されるように魔法陣を設置してある。

この放出される魔力を馬が乗る台の下面に刻んだ魔力吸収の魔法陣で吸収し、制御球と台を動かす球とを連動させる共鳴用の魔術回路を動かす魔石を充填する仕組みにすることで、通常だったら4ミル5分程度で魔石が尽きてしまう馬を載せた小さな台車が1刻1時間強程動くようにした。

ちなみにこの共鳴魔術回路、離れて魔道具を動かせる事でヤバい悪事に使えるかとも心配になって色々と実験してみたのだが、幸いにも距離が離れると消費魔力が跳ね上がる事が判明。一部屋分ぐらい離れると特大サイズの魔石でも使わないと動かなくなるので、多分そう簡単には悪用できないだろう。

オモチャなので流石にこれは修理の事とかも考えると特許登録しない訳にはいかないので、いつか誰かががっつり改良して有効距離を大幅に伸ばす危険性はあるが。

まあ、何事も金を出すなら凄腕を雇ったり使用人を買収したり、色々と手はあるのだ。
大金をかけて魔術回路を改造させ、高価になるであろう魔石を使ってまでして魔具を利用しようと考える人間はあまりいないと期待しよう。

「じゃあ、行くよ?
3,2,1,行け!」
シャルロが声を掛け、俺たちも一斉に制御球をガンガン転がす。

普通に2メタ程度直線距離で動かすだけだったら3人とも大して違いは出ないので、実際に魔力吸収の効率の違いなのか分かる筈。

これがもっと長時間走らせたり、ぐりぐりと方向転換とかフェイントを混ぜた勝負っぽい事になると個人差が出てくる。長時間だったらアレクの腕の持久力が一番低く、フェイントを籠めた勝負っぽい事はシャルロがちょっと弱かった。

最初に負けた時にシャルロが悔しがったのを見て蒼流が手を貸そうとしたのだが・・・自分の馬があり得ない速度で進むのを見たシャルロに怒られていたのはちょっと笑えた。

もしかしたらこのオモチャでやたらと強い子がいたら、そいつは精霊に好かれる子なのかも知れないな。
清早曰く、別に『加護を与えるよ』と言わなくても精霊が気に入った人間の傍にいてこっそり手伝いをしたり悪戯をしたりというのは良くある事らしい。

まあ、子供が育って性質が変わってしまったり、別に興味を引かれる存在が出てきたらそっちに気を取られたりで精霊の助力がずっと貰えるとは限らないらしいが。

一応『加護してあげる』と宣言した場合はちゃんとその人間の寿命の間は付き合うのが精霊の仁義らしい。
どうしても許容できないところまで人間が変わってしまった場合は、ちゃんと加護の撤回を本人と周囲にいる精霊に宣言するので知らぬ間に精霊の助力を貰っていたのがいつの間にか消えていたというのは加護の場合は無いらしい。

「お!
やっぱ違うみたいだね!」
俺とアレクの馬がほぼ同じところ走っているのに対し、シャルロの馬が1ハド20センチぐらい先に進んで競馬フィールドの端に到着したのを見て、シャルロが声を上げた。

「次はシャルロとウィルが一緒に走らせて、私が離れて動かす様にしてみよう」
アレクが馬を戻しながら提案する。

「最後はアレクとシャルロが一緒で俺が別って事か。
まあ、競馬だって集団で走っているよりも離れて回り込む方が先頭集団を抜ける時もあるから、別に離れて走らせた方が速いってことは問題ないんじゃないか?」
俺の馬も戻しながら言う。
流石に魔力吸収の効率をそこまで一様にするのは難しいし、面倒だ。

「ああ。
だが最初から分かっているのだったら、使用説明書にそう言う事もあるから最短距離を皆で走るよりも離れて回り込むという戦略も有りかも?と言った感じに書いておく方が、後から苦情が来なくて済む」
アレクが応じた。

なる程。
故障しているから直せとか、修理しなくても良いがこのまま使ってやるから返金しろとか、変な要求をしてくる客が居たら確かに面倒だな。

「大体出来上がったらシェフィート商会従業員の子供を集めて色々遊ばせて、裏技を見つけたらお小遣いでも払うことにしようよ。
子供ってこういうのに拘って遊ぶと色々と思いがけない裏技を見つけるからね~」
シャルロが提案する。

「だが、折角の裏技だったら子供たちが遊ぶうちに見つけた方が面白くないか?」
最初から全部分かっていたら面白くないような気がするが。

「使用説明書の最後に小さな文字で小難しく書いておけば、ほぼ誰も読まんよ。
苦情が来た時に、説明書の最後に書いてありますと言えれば良いだけだ」
アレクが笑いながら言った。

なるほど。
楽しみが減るような詳細は態と小文字で小難しく書いて読まないようにするんか。
腹黒~。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...