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卒業後
943 星暦557年 黄の月 4日 新しい伝手(7)
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街に入るのに人目を避ける行動をすると当然怪しまれて警戒されるのだが、取り敢えず全然知らぬ街に少人数で入るので、まずは人目に付かずに観察することが重要だろう。
と言う事で、ズロクナとは別に港へ入ることにする。
上陸してから分かれても良いのだが、目新しい大型船から出てくる人間には注目があつまる。
上陸してから分かれても人目が集まっている段階で姿を隠すのは難しいから、最初から上陸を見られない様にする方が正解だ。
なので自分に否視《ハイド》の術をかけ、浮遊《レヴィア》の術でのんびりと水の上を移動して港町へ潜入した。
浮遊《レヴィア》の術を使わなくても清早に頼めば水面の上を歩けるんだけどね。
ぽちゃぽちゃと水面に足跡っぽい動きが徐々に船から港の方に動いてくるのを見られたりしたら、ますます幽霊船疑惑が大きくなりかねないので魔力を使って浮遊《レヴィア》で移動する。
取り敢えず、先ずはゼブに勧められた伝手と接触する為の酒場へ行くか。
探し当てたところ、比較的大きく一般客も入って来るような酒場だった。
流石に暗くなってから港町を歩き回るようなのは船乗りか、酔っぱらって冒険心過多になっている若い男、後はそいつらを食い物にする若い(もしくは若作りに化粧している)女達しかいないが。
伝手の相手が真面《まとも》そうだったらここへ昼食にシャルロ達と来ても良いかも知れない。
まあ、味が美味しいかどうかの評判を確認してからにしたいが。
そっと酒場の中をうろつき回りながら酔っぱらいや酒場の女達の話に耳を傾ける。
どうもザルガ共和国の船が入ったばかりらしい。
あの共和国でよくある脱税や裏切り、詐欺の話で盛り上がっている。
南国なんてのんびりした国になりそうなものだが、あそこは殺伐としているよなぁ。
ノンビリした人間はあの国でやっていけるのだろうか?
誰もがガツガツした人間に生まれる訳ではないのだから、のんびりしたタイプも一家族に一人や二人はいそうなものだが。
そんなことを思いつつ耳を澄ませていたら、話題がケッパッサの街の顔役の方へ移った。
お。
ゼブから伝手として紹介状を貰ったザグルとかのライバル的な顔役の娘が今度結婚するらしい。
裏で常に闘争し合っているような顔役に結婚できる年齢の子供がいるとは珍しい。
しかもそれが跡継ぎに出来る男ではなく、娘とは。
下手な家族なんぞいたら狙われるし、女の方が男よりも攻撃された際に悲惨な結果になりやすいから、娘は出来てもそ知らぬふりをしてこっそり資金援助するかどこか離れた町の誰かに養女として引き取らせるのが普通だろうに。
それともこのライバル的な顔役(ナブーダとか言うらしい)はよっぽど強力なコネでもあるのか?
没落していないちゃんと権力がある貴族の娘とかを何かの取引で妻に迎えられた場合は娘が狙われない可能性もあるが・・・そもそも東大陸の貴族制度って微妙っぽいからなぁ。
国によっては貴族の方がエゲツない攻撃をしてくる事もあるし。
ここでは商家が強力なのに貴族が別にいて、そっちもある程度は権力があると言うイマイチ良く分からない構造になっているっぽい。
どちらも無視できない存在だとアレクに言われたが、はっきり言って理解できなかったのでそこら辺の交渉が必要になった場合はアレクに任せることにしている。
取り敢えず、酔っぱらいから入手できる情報は大体手に入ったところでザグルの酒場を出て、今度はナブーダの酒場に忍び込む。
配下の人間の話よりも、敵対している組織の人間の話の方が悪い情報ははっきりと出て来るからな。
信頼できない人間だったり、変な弱みがある人間なんだったら先に知っておきたい。
どちらにせよ、紹介状がなければ裏社会の人間から毒探知の魔具といった様な便利な物を現実的な値段で入手するのは無理だから(紹介状があっても微妙に怪しい)、取引相手としてはザグル一択な可能性が高いが、あまりに微妙な取引相手だったら普通に街中で店を漁ってそのままアファル王国に帰っても良い。
変な裏社会の人間に目を付けられてまでして入手しなければいけない程、切実ではないからな。
「そう言えば、ザグルの野郎、ジルダスに行く途中の良い家の女に惚れたって噂だが、あれはどうなったんだ?」
酔っぱらったらしき男が高そうな酒を注いでいる女に尋ねる。
さっき他の客が請求されていたあの酒の値段を考えると、幹事クラスか、その直属の部下っぽいか?
街の噂話を集めているのか、それともこの女が情報収集担当なのか。
まあ、酒場の女はいつでも情報を売るから全員情報収集担当と言えなくもないが。
「この間、態々宝石商を呼んでブローチを買っていたから贈り物でもするつもりなのかも知れませんねぇ。
色々選んでいたくせに、最後にはショボい青色の石を買ったらしいですが」
ちょっと馬鹿にした口調で女が応じる。
宝石商から買った石だったらそれなりに高いんじゃないのか?
それともこっちの大陸では青い宝石は安物だと見做されるのか??
種類とか質にもよるが、青い宝石だって高い物は目が飛び出る程高い筈だが。
「ふむ。
ザグルが宝石商ねぇ。
その女、今度はいつこの街に寄る予定なんだ?」
「北の方で呪具を購入したらペグーの実を仕入れるって言っていたから、旬のを買うつもりだったら来月でしょう」
なんか色々と情報が漏れてるなぁ。
仕入れ予定で入港時期まで推測できるのか。
と言う事で、ズロクナとは別に港へ入ることにする。
上陸してから分かれても良いのだが、目新しい大型船から出てくる人間には注目があつまる。
上陸してから分かれても人目が集まっている段階で姿を隠すのは難しいから、最初から上陸を見られない様にする方が正解だ。
なので自分に否視《ハイド》の術をかけ、浮遊《レヴィア》の術でのんびりと水の上を移動して港町へ潜入した。
浮遊《レヴィア》の術を使わなくても清早に頼めば水面の上を歩けるんだけどね。
ぽちゃぽちゃと水面に足跡っぽい動きが徐々に船から港の方に動いてくるのを見られたりしたら、ますます幽霊船疑惑が大きくなりかねないので魔力を使って浮遊《レヴィア》で移動する。
取り敢えず、先ずはゼブに勧められた伝手と接触する為の酒場へ行くか。
探し当てたところ、比較的大きく一般客も入って来るような酒場だった。
流石に暗くなってから港町を歩き回るようなのは船乗りか、酔っぱらって冒険心過多になっている若い男、後はそいつらを食い物にする若い(もしくは若作りに化粧している)女達しかいないが。
伝手の相手が真面《まとも》そうだったらここへ昼食にシャルロ達と来ても良いかも知れない。
まあ、味が美味しいかどうかの評判を確認してからにしたいが。
そっと酒場の中をうろつき回りながら酔っぱらいや酒場の女達の話に耳を傾ける。
どうもザルガ共和国の船が入ったばかりらしい。
あの共和国でよくある脱税や裏切り、詐欺の話で盛り上がっている。
南国なんてのんびりした国になりそうなものだが、あそこは殺伐としているよなぁ。
ノンビリした人間はあの国でやっていけるのだろうか?
誰もがガツガツした人間に生まれる訳ではないのだから、のんびりしたタイプも一家族に一人や二人はいそうなものだが。
そんなことを思いつつ耳を澄ませていたら、話題がケッパッサの街の顔役の方へ移った。
お。
ゼブから伝手として紹介状を貰ったザグルとかのライバル的な顔役の娘が今度結婚するらしい。
裏で常に闘争し合っているような顔役に結婚できる年齢の子供がいるとは珍しい。
しかもそれが跡継ぎに出来る男ではなく、娘とは。
下手な家族なんぞいたら狙われるし、女の方が男よりも攻撃された際に悲惨な結果になりやすいから、娘は出来てもそ知らぬふりをしてこっそり資金援助するかどこか離れた町の誰かに養女として引き取らせるのが普通だろうに。
それともこのライバル的な顔役(ナブーダとか言うらしい)はよっぽど強力なコネでもあるのか?
没落していないちゃんと権力がある貴族の娘とかを何かの取引で妻に迎えられた場合は娘が狙われない可能性もあるが・・・そもそも東大陸の貴族制度って微妙っぽいからなぁ。
国によっては貴族の方がエゲツない攻撃をしてくる事もあるし。
ここでは商家が強力なのに貴族が別にいて、そっちもある程度は権力があると言うイマイチ良く分からない構造になっているっぽい。
どちらも無視できない存在だとアレクに言われたが、はっきり言って理解できなかったのでそこら辺の交渉が必要になった場合はアレクに任せることにしている。
取り敢えず、酔っぱらいから入手できる情報は大体手に入ったところでザグルの酒場を出て、今度はナブーダの酒場に忍び込む。
配下の人間の話よりも、敵対している組織の人間の話の方が悪い情報ははっきりと出て来るからな。
信頼できない人間だったり、変な弱みがある人間なんだったら先に知っておきたい。
どちらにせよ、紹介状がなければ裏社会の人間から毒探知の魔具といった様な便利な物を現実的な値段で入手するのは無理だから(紹介状があっても微妙に怪しい)、取引相手としてはザグル一択な可能性が高いが、あまりに微妙な取引相手だったら普通に街中で店を漁ってそのままアファル王国に帰っても良い。
変な裏社会の人間に目を付けられてまでして入手しなければいけない程、切実ではないからな。
「そう言えば、ザグルの野郎、ジルダスに行く途中の良い家の女に惚れたって噂だが、あれはどうなったんだ?」
酔っぱらったらしき男が高そうな酒を注いでいる女に尋ねる。
さっき他の客が請求されていたあの酒の値段を考えると、幹事クラスか、その直属の部下っぽいか?
街の噂話を集めているのか、それともこの女が情報収集担当なのか。
まあ、酒場の女はいつでも情報を売るから全員情報収集担当と言えなくもないが。
「この間、態々宝石商を呼んでブローチを買っていたから贈り物でもするつもりなのかも知れませんねぇ。
色々選んでいたくせに、最後にはショボい青色の石を買ったらしいですが」
ちょっと馬鹿にした口調で女が応じる。
宝石商から買った石だったらそれなりに高いんじゃないのか?
それともこっちの大陸では青い宝石は安物だと見做されるのか??
種類とか質にもよるが、青い宝石だって高い物は目が飛び出る程高い筈だが。
「ふむ。
ザグルが宝石商ねぇ。
その女、今度はいつこの街に寄る予定なんだ?」
「北の方で呪具を購入したらペグーの実を仕入れるって言っていたから、旬のを買うつもりだったら来月でしょう」
なんか色々と情報が漏れてるなぁ。
仕入れ予定で入港時期まで推測できるのか。
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