シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
942 / 1,038
卒業後

941 星暦557年 黄の月 4日 新しい伝手(5)

しおりを挟む
「ちなみに例えばシャルロが東大陸に長期滞在したら天候が変わったりするのかな?」
蒼流だったら風精霊任せじゃなくても雨を降らせられるだろうし、地下水を噴水みたいに呼びだすのもさして難しくないだろう。

「あ~。
ちょっと毎日スッキリする為に夕方に夕立が降るようになるかも?
毎日雨が降れば良く育つ農作物の種類が変わるかもね」
シャルロが言った。

「・・・そう言えば、王都やウチの近辺って真夏になると夕方にざっと一雨して日中の暑さが追い払われて夜が過ごしやすくなるけど・・・もしかしてあれってここ20年弱の現象なのか??」
シャルロが王都近辺に住む様になってから起きるようになったとか??

「いや、夕立というのは昔から一応あった筈。
ただ毎日シャルロにとって都合が悪くない時間帯にっていうのはここ20年程の現象だろうな」
アレクが苦笑しながら言った。

「あれ?
シャルロとの関係に気付いていたのか?」
子供のころからあった夕立が俺たちが生まれる前にあったかどうかなんて確認しようとなんてしないだろう、普通?

「元々、魔術学院の皆で夕方に出かける時間帯は必ず外れて都合がいいなとは思っていたんだが・・・シャルロがお菓子の調達の為に抜け出した日だけ時間帯がずれて、いつもの時間に降ると思っていたら濡れた事があってな。
それから注意するようになったら絶対に夕立はシャルロが出歩いている時間帯には降らないと気付いたんだ」
アレクが笑いながら応じた。

なるほど。
シャルロだったら別に雨が降ろうと絶対に濡れないが、地面が濡れていたら滑りやすいしズボンに泥が跳ねたりするよな。

シャルロが外に出ている時に降らないとなると、一歩進めて考えればシャルロが暑がっている夏にスッキリ眠れるように夕立が起きているのでは??と言う結論に達しても不思議は無いか。

「夕立を降らすように頼んだ訳じゃないんだけど、汗疹が出来る時期になると夕立で夜の気温を下げてくれるんだよね~。
まあ、元々夕立ってちょくちょく降る物だって話だから止めて貰って暑い思いする必要も無いかなと思って」
シャルロが笑いながら説明してくれた。

王都の住民は知らないだろうが、知っていたら誰もが感謝すると思うぞ。
やっぱ夕立があるとぐっと過ごしやすくなるからな。

「・・・もしかして、俺たちがどっか遠方に遊びに行くと夕立が降らないのか?」

「頻度は下がるようだな」
アレクが肩を竦めながら教えてくれた。

マジか~。
シャルロがどっか地方に引っ越すようなことがあったら、俺もついて行こうかなぁ。
まあ、清早でもウチの周りだけ程度だったら出来るかな?

ウチの周りだけだったら雨除け結界の冷気機能付きのを使えばそれでいい気もするが。

「早い目にケレナと仲良くなって結婚していてよかったな。
バレてたら、絶対に他国からハニトラ要員が来ていただろうし、それと対応する為にアファル王国からも国内貴族の女性がガンガン嗾けられたぞ、きっと」
真夏の夕立は快適な夜の睡眠の為にも重要だが、なんと言っても毎日適度な量の雨が降るとなったら農業にとって滅茶苦茶有用だろう。

王都近辺はそれ程農業が盛んという訳ではないがそれなりに野菜類や畜産業は盛んだし、良い感じに国の中心(海よりだが)で雨雲が動いているとなったら国内全体の降水量もそれなりに適量化されるんじゃないか?

なんと言ってもオレファーニ領は国の穀物庫と言えるほどの農業地帯だ。
あそこが旱魃になったらシャルロの家族が頭を抱えるだろうし、それを見たシャルロが心配するだろうから即座に蒼流が対応するのはほぼ確実だ。

つまり、アファル王国有数の農業地帯での旱魃は上の方に問題が報告されたら数日で解決することが保証されているようなものなのだ。
国にとって、単発的な戦争での防衛能力とか攻撃能力なんかよりもずっと価値は大きいだろう。
東大陸への新規航路を見つける際にも活躍したが、あれは1回きりだし、空滑機《グライダー》があればそれなりになんとかなるからシャルロが不可欠って訳じゃあないし。

上手く雨が降らないせいでヤバい呪具とか毒とかで無理やり金を稼いで飢えをしのぐ羽目になって泥沼な悪循環に嵌っているこちらの大陸を見ると、シャルロの重要性がひしひしと感じられるな。

こっちの大陸の人間に知られていたら、きっと大陸1クラスの美女がシャルロを誘惑しようと寄ってきただろう。

うん。
下心無いと分かっている幼馴染と結婚できて本当によかったな、シャルロ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...