シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
940 / 1,038
卒業後

939 星暦557年 黄の月 3日 新しい伝手(3)

しおりを挟む
「明かり?
暗い部屋に入った時なんかに便利かもね」
バッグ飾りの説明を読んだシャルロが言った。

「虫除けか冷風と温風機能に変えようかと思ったんだが・・・明かりの方が良いかね?」
俺は人よりも夜目が効くし、心眼《サイト》と慣れのお蔭で真っ暗闇な中でもさして問題なく動き回れる。だから明かりの無い部屋に入った時とか暗い夜道を歩いたりするのに不便を感じたことはほぼ無いんだよね。

女性が一人で夜道を歩くなんて危険なことはシェイラでもしないだろうから、明かりとしては暗い部屋に入った時に使う程度になるから、あまり必要は無いかと思ったんだが・・・あったら便利なのか?

「う~ん、シェイラって宿にずっと滞在しているんでしょ?
遅い時間に帰って来たりしたら、部屋の中が薄暗い場合に廊下の扉を開けて光源を確保して明かりをつける羽目になると思う。
宿の扉を直ぐに閉めないって言うのは場合によっては危険だし、どちらにしても廊下から漏れる明かり程度で動き回るのって不便だから、そう言う事をしなくても手許を明るく出来る魔具があったら便利じゃない?」
シャルロがちょっと首を傾げながら言った。

そうか。
確かに普通だったら部屋の中に入った時に暗闇でランプを見つけて点灯するのは不自由かもだな。

シェイラが泊っている宿は3階は長期滞在者用で安全な筈だが、宿と食事処という不特定多数な人間が立ち入る建物であることを考えると変な人間が紛れ込む危険だってゼロではない。

そう考えると夜に扉を開けておいて部屋の明かりを付けなければならないなんて、危険だな。

まあ、そこら辺はシェイラだったら何らかの手を講じているとは思うが、新しい発見に熱中しすぎてついうっかりなんてこともあってもおかしくはない。

一応防犯用結界魔具も渡してあるし、襲われた時用の反撃に使える雷撃を与える魔具も持っているとは言っていたが、襲われて撃退するよりも襲われない状況にしておく方が良い。

「ふむ。
そう考えると、これは中の魔術回路は変えない方が良いか。
まあ、もうそろそろ虫もいなくなる季節だし、丁度いいか」

「そう考えると、キーホルダーとかちょっとしたブレスレットとかで短時間だけ明かりを付けられる安価な魔具の需要はありそうだな。
安心できる宿に必ずしも行商人が泊れるとは限らないし、個人宅の玄関のカギを開ける際にも手許を明るく照らせたら便利そうだ」
横で聞いていたアレクが口を挟む。

「確かに、シェイラよりももっと出入りの激しい宿屋に泊る商会の人間なんかの方が扉を直ぐに開け閉めできる必要がありそうだな」
行商人や商会の人間を襲う宿なんて直ぐに廃れるだろうが、街によっては他に選択肢がない場合もある。

まあ、それでもひど過ぎる場合は信頼できない宿に泊まらずに、馬車で寝るという場合もあるらしいが。

防寒・防犯用結界に多少手を加えると、寝ている最中に忍び込んでくる人間の警戒用に使えるらしい。

「こちらは半貴石な魔石が意外と多いな。
魔石としては割高だが、半貴石でもあるという点を考えるとアファル王国で買うよりお手ごろだ。
もう少し買って帰っても良いかも知れない」
店の中の半貴石を使った魔具を見ながらアレクが言った。

普段は魔石の購入なんぞ俺たちは関与していないが、東大陸での購入なんて商会の人間に任せるても直ぐには手配できないだろうから、来ているついでに買い漁るつもりなのかな?

アスカあたりに頼めば色々と見つけてきてくれるだろうが・・・まあ、個人のプレゼントならまだしも、事業用の石をアスカに頼むのは微妙だから、何も言わないでおこう。

「見てこれ、中々綺麗でしょ?」
アレクが店の中の魔術回路付きな半貴石を見て回っている間にシャルロはお洒落っぽいペンを購入したらしい。
握りの部分が半貴石で出来ていて、しゅっと細いわりに繊細な彫刻が彫り込まれている。元々の石の模様と相まって中々お洒落そうだ。

が。
「それってずっと握って使っていたら手垢とかで汚れるんじゃないか?
洗って大丈夫なタイプの石なのか?」
宝石とか半貴石って物によっては水洗いとか石鹸洗いすると変色したり割れ易くなったりするって話だが。

「・・・いざとなったら、蒼流に頼めば石を壊さずに綺麗にしてくれるから、大丈夫!」
一瞬考えたシャルロだが、にっこり笑って返事をしてきた。

確かに。
水精霊だったらどんな石だって破損させずに汚れを洗い流せそうだ。

そんなことを考えている間に、アレクが何やらアクセサリーを買いながら店の人間と話していた。

「半貴石を専門で取り扱っている店がこの奥にあるらしい。
そこに寄って良いか?」
店の人間から石の仕入れ先を聞いてきたらしい。
まあ、石が欲しいんだったら加工済みなここのよりも仕入先の方で買う方が合理的だもんな。

よくぞ教えてくれたな。
幾らか金貨を握らせたのかな?

おっと。それよりも、俺もさっさと会計を済ませなきゃ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...