シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

912 星暦557年 萌葱の月 21日 やはりお手伝いか(8)

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「・・・小さいな?」
昼食後に向かった商会は、朝に行ったデラビール商会よりも更に小さい店舗だった。
ただし裏に大きめな倉庫があって、そこに繋がっている。

デラビール商会は地方の支店に送る荷は港の傍にある倉庫に集めているそうだが、このヴィント商会は本店裏の倉庫に全部まとめているらしい。

「小売りは殆どしていない商会だからな。
他の商会に薬や香辛料を卸売りする、知る人ぞ知る系の商会だ。
店舗は小さいが、収益はデラビール商会よりも大きいぞ」
一緒についてきた国税局のおっさんが教えてくれた。

ほおう?
単価が高い薬と香辛料で儲けているんかね?
「利益が大きいんだったら違法薬物なんぞ扱わなきゃいいのに」

「利幅が大きい商品を扱って税金もきっちり払っているから疑われにくいと思ったのか、若しくは更に利幅を大きくしたいと思ったのか。
こっちはちょっとぼ~っとするなんて言う程度だけではなく、確実に死ぬような毒も提供する上に使い方の指南もするという噂だ」
ウォレン爺が教えてくれた。

おいおい。
人間の欲は果てしないってやつかね?
そんな『薬として使うと思っていました』って言い訳がもしかしたら効くかも知れないちょっと違法な薬物と、『暗殺用以外にどう使うんだよ?』と誰もが思うような毒を指南を含めて提供するのとでは、危険度が大分と違う。

まあ、それだけ手に入る金は大きいんだろうな。
ボケた老人から横領することで手にできる金と、うざったい老人を殺して遺産相続で全財産(もしくはそのうちの大きな一部)を貰い受ける金とでは金額が大分と違うだろうし、なんと言っても相続なら手に入れた金を堂々と使える。

人身売買組織の女幹部みたいに綺麗な装飾品やドレスを隠し倉庫に飾って一人夜な夜な悦に入って見ているだけで満足できる人間もいるだろうが、大抵の人間って言うのは金を儲けたらそれを人目を気にせずに楽しみたいし、宝石を身に着けた美女を侍らせるなら人にそれを見せつけたい。

そう考えると、バレたら自分の首が飛びかねない横領のようにずっと秘密にしておかなければいけない後ろ暗い資金よりも、殺害の関与さえバレなければ堂々と浪費出来る遺産の方が受け取る側にとっては嬉しいだろう。

まあ、遺産相続だと横領と違って税金がかかるが。

そんな事を考えている間に、毎度お馴染みの大声と共に国税局のおっさんと警備兵が商会の建物へなだれ込んだ。
「税務調査だ!」

倉庫の方にも人が入っているし周囲もきっちり囲っている。今回は毒の扱いが疑われるせいか、出てくる人間全員が丁寧に身体検査されているな。

いくら毒が少量でも十分高額だと言っても、とっさに毒を持ち出そうとして下手に転んで傷口から入ったりしたら自分が死にかねないから、そうそう盗まないんじゃないか?
それよりはトイレとか花瓶に捨てて証拠隠滅される可能性の方が高いと思うが。

暫くしたら、どうやら中の人間は全て外に出されたのか裏口が開いてこちらに手招きする人間が現れた。

「毒っていうのは空気に晒すと変質したり、汚染された空気を吸った人間が体調を崩したりすることが多いから、密封した比較的小さな保管空間に特に注意を払ってくれ」
ウォレン爺が指示してきた。

「ほいほい。
ちなみに、証拠隠滅にトイレや花瓶やキッチンの排水溝に毒を捨てられている可能性は?」
建物中の人間が追い出されるまでの短時間で全部捨てられるとは思わないが、要人の暗殺にでも使われたような特にヤバい毒だけでも捨てたがるかも?

まあ、今回は流通網の一網打尽が目的であって、過去にあった暗殺事件の犯人捜しのヒントはどうでも良いのかもだが。

「・・・おい。
毒探知の技師を呼んで、水がある場所は全部調べさせろ」
ウォレン爺が傍にいた部下に命令していた。

おっと。
要人の暗殺事件の犯人捜しはいつでも重要度が高いのか。
上手く毒を提供する側を抑えれば、今後の暗殺を未然に防げるかもしれないからな。

とは言え、殺しって言うのは何通りでもやり方はあるから、どうとでもなると思うが。
この国の暗殺《アサッシン》ギルドは国の要人のようなヤバい人間を標的にする仕事は基本的に断るって話だが、それでも個人的な怨恨関係だったりすると特別に受けることもあるらしいし、他国だったら政治的影響とかは無視して何でもありな組織もある。

そう考えると、狙われた命って護るのは難しいよなぁ。
シャルロ(というか蒼流)みたいに片っ端から大切な人間に水精霊を付けるのが一番確実かも?

今回の事で、そのうちシャルロに『お願い』が来そうな気がするけど、大丈夫かね?





【後書き】
蒼流さんは無敵だけど、シャルロを便利に利用しようとすると激怒するから、中々国にとっては悩ましいw
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