シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

905 星暦557年 萌葱の月 21日 やはりお手伝いか

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「やっぱ来たか・・・」
朝食後にシャルロと一緒に現れたウォレン爺を見て、思わずちょっと辟易とした思いが口から零れる。

いや、美味しい果物とかをいつも気前よく食べさせてくれるレディ・トレンティスに薬を盛ろうとするような奴とかを捕まえるのに協力するのは良いんだけどさ、全国的に違法薬物流通網を検挙しまくろうと思うんだったらそれは国の仕事だろうに。

都合がいいからって俺を使わんで欲しいと思うのは、人でなしな考えじゃないよな??

「うむ。
あまり大々的に違法薬物関連の組織を狙っているとバレると、一か所を潰す間に残りに逃げられるからの。
まずは脱税疑惑で何か所か別々に調べて、ついでに違法薬物も見つけたらキリキリと締め付けてどこから入手したのか、どこに売ったのかを吐かせて広範囲に流通網を潰す予定なんじゃ。
そうすると素早く効果的に調べて隠された薬を見つける必要があるのでな」
にこやかにシャルロからお茶を受け取ったウォレン爺が工房のソファから説明してくれた。

まあ、そんなことだとは思っていたけどさ。
基本的に違法な犯罪業者って言うのはそれなりに横のつながりがあるし、捜査機関にも網を張り巡らせているから一か所が潰されてその業界が重点的に調査対象になっていると分かるとみんな一気に雲隠れしたり仕事を一時的に止めたりする。

だから一か所なら大きな組織を潰せるし、その組織に連なっていた奴らも捕まえられることもあるが、他の同業者は上手く捕まらないことが多いらしい。

その点、俺たちが在学中に助けた奉公契約を使った人身売買モドキな組織はあっという間に色々と証拠書類とかが見つかったお蔭で3つほど大きな組織を潰せて大分とアファル王国の風通しが良くなったと後から学院長に言われた。

あの時の証拠書類探しを俺がやっていたの、ウォレン爺は知っているようだな。
どこまで俺に関して調べているんだか・・・。

「つうか、年初の密輸業者摘発でそれなりに捕まったんじゃないのか?」
密輸業者が捕まれば、そいつらが売っていた国内の流通業者も芋づる式に捕まるかと思ったんだが。

「人身売買組織の方を優先したせいで、違法薬物関連の業者を探した頃には殆ど誰もいなかったんじゃよ」
肩を竦めながらウォレン爺が言った。

まあ、拘置所だって捜査や逮捕をする警備兵だって数には限りがあるからな。
大々的に人身売買組織を壊滅させていたんだったら、確かに違法薬物売買の組織は後回しになっても不思議は無い。

「へいへい。
まずはどこへ?
あのマキウスとかいうおっさんの居たクルベルト商会か?」
アレク曰く、王都には小さな支店しかない地方の中堅商会って話だったが。

「いや、あそこは単に支店長の顔の広さを利用しようと遠い親戚だったマキウスが押しかけて我が物顔で偉そうにしていただけだ。
それよりも、マキウスが薬を購入したデラビール商会にまずは税務調査で入る」
クッキーの缶に手を伸ばしながらウォレン爺が指示した。

なんだ、あの支店長補佐は単なる押しかけなのかよ。
まあ、押しの強い図々しい人間ってはっきりきっぱり叩き出さないと居座っていつの間にかそれっぽい役職名を名乗ったりすることもあるらしいからなぁ。
押し掛けならもしかしたら給料は払われなかったのかもだが、その分横領して儲けていたんだろう。

詐欺師なんかの手口でもよくあると聞く。
ちょっと適当な手紙を盗んで断りにくい相手からの紹介状代わりにして、ある程度役に立つような顔を見せれば意外と簡単に組織に割り込めると以前顔見知りの詐欺師が酒を飲みながら自慢げに言っていた。

詐欺師だったら盗む相手と金額を間違えなければ執拗に命を狙われたりしないので、同じような手口でそれなりに色々なところに入り込めるらしい。

「んじゃ俺がそっちを手伝っている間、シャルロ達はどうする?
特に何もアイディアが無いんだったら、毒探知の魔具に手を加えて今回の違法薬物みたいのも分かるように出来ないかな?」
シェイラが使っている毒探知のネックレスは聞いたところ体に致命的な毒しか探知しないので、ちょっとぼ~っとするとか、記憶が曖昧になるとか、気分が高揚すると言ったような違法薬物系の薬は余程量が多くない限り引っかからないと言っていた。

ちょっとそれじゃあ心配だ。

「毒探知の魔具は秘匿されているから自分で解体して調べるのは出来るが、資料は魔術院にもないぞ?」
シャルロとアレクが俺の提案に反応する前にウォレン爺が口を挟んだ。

「え、なんで?
より良い物を作れるように構造を公開して、効能を高めるのは重要じゃない??」
シャルロが驚いたように尋ねる。

「どんな毒が探知されるかがはっきり分かると、対応されて探知できない毒を使われたら困るじゃろうが。
基本的に毒探知の魔具は国の機関が技術を秘匿して作って、完成品を売り出しておるぞ」

なるほど。
確かに仕組みがしっかり分かると、どんな毒だったら探知されないかも分かるな。
まあ、誰か人身御供にして色々と毒を投与したら最終的にはどんな方法だったらバレずに毒を盛れるか、確認できちゃうだろうが。

「勝手に解体してより良い物を作るのは禁じられては
いないのですか?」
アレクがウォレン爺に尋ねる。

「大々的に公表したり売り出そうとすると国から警告が行くが、勝手に自分用に改善するのは違法ではないな。
国に改善した魔具を売り込む分には儂が話を通してやってもいいぞ?」

売れる先が国しか無いんだったら買い叩かれそうだが。

「・・・厳密には毒ではなく、思考力を劣化させるだけの薬というのは商会にとっては下手な毒よりも被害が大きいかも知れないから、毒探知の魔具を研究してそちらに応用できないか、調べてみるのは良いかも知れないな。
国に売るかどうかは研究が上手くいくか様子を見てから決めようか」
アレクが提案する。

確かにねぇ。
毒で死んだら誰か別の人間が後釜になるが、思考力が落ちた馬鹿が居座ったら排除に時間がかかって商会にとっての痛手は大きいかも?



【後書き】
ちょっと場面が違いますが、戦闘時に敵兵を殺すよりも負傷させる方が敵軍の行動を阻害できるのと同じで、毒で殺すよりも思考力を下げる薬を使う方が商会にとって痛手かも?

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