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卒業後
901 星暦557年 萌葱の月 17日 久しぶりに遠出(22)
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本人以外はちょっと微妙な空気を醸し出している中で家令補佐の事情聴取が終わり、貴族への毒物投与の共犯及び横領の自白をしたということで警備兵に逮捕されて連行されていった。
「次はメイドか・・・。
しかし特に悪意も無く下手をすれば寝たきりになる薬を盛ろうとするなど、恐ろしいな」
溜め息を吐きながらウォレン爺が言った。
「まあ、悪行なんて意外と流されて深く考えずにやる人間も多いですから」
審議官《カレスターン》が肩を竦めながら応じる。
ウォレン爺みたいな軍が関わる国防関連の悪事ってそれなりに覚悟を持って悪事をやっている人間が多いのかな?
それに対して審議官が見るような一般の犯罪はもっと適当に深く考えずにやっているケースも多いのかも知れない。
まあ下町にいた頃に聞こえてきた話だって、計画的に遺産や恨みで殺す殺人よりも突発的な喧嘩で殺したとか夫婦で口げんかしていた時にかっとして殴ったら死んだとか、ちょっと面白そうだと思って悪戯半分にやったら死んだなんて案件の方が多かった気がする。
まあ、計画的な殺しの場合は周到に隠蔽していて露呈しなかった事件もそれなりにあるだろうから、単純に噂話で知った死者の数だけで判断は出来ないが。
どちらにせよ。
深く考えていなくても、しっかり計画していても、殺すのには刃物や毒が必要な場合が多いのだ。
刃物はまだしも、毒の流入をしっかり止めておくのが一番無難な気がするが・・・年初の密輸入調査を見る限りそれなりに穴がありそうだから、金になるんだったら毒を持ち込む人間はいなくならないだろうなぁ。
ちょっとぐだぐだな空気のまま、今度はメイドのチャルとやらを起こして家令補佐に与えたのと同じ薬入りのお茶を渡し、事情聴取を始めた。
「何んですか、これ?!
そんな真偽を調べる魔具を使うなんて、まるで私が悪人みたいじゃないですか!!」
チャルの方はぼんやりする薬を飲ませた割にはかなりはっきりと抵抗を見せている。
それだけ悪事をやったって認識があって危機感を持っているのかな?
家令補佐だって悪事の認識はあっただろうが・・・抵抗しなかったのは、既に証拠を商会側で抑えられたと聞いて諦めていたからかね。
「横領に協力した商家の人間と、こちらの家令補佐は既に事情を聞いて逮捕してある。ここで事情聴取を拒否するならば、彼らの言い分をそのまま認めて君の罪も認定されるぞ?」
カレスターンが淡々と脅す。
マキウスの方はともかく、家令補佐は実はチェリが今回の一連の悪事を主導していたって認識はないからあいつの言い分で裁判を開く方が実はこのメイドにとっては有利かも知れないが、他の奴を利用して陥れるような奴って他人も自分を陥れようとしていると思っているからな。
こう言われたら絶対に自己弁護の為に話し始めるだろう。
予想通り、ぶちぶちと文句を言いながらチャルは魔具を頭に乗せて事情聴取に応じ始めた。
「マキウスと会ったのはいつなんだ?」
カレスターンが尋ねる。
「去年の春ぐらいかしら?
村の酒場で微笑みかけたらデレデレして、色々と買ってくれるようになって付き合い始めたのよ」
おや。
家令補佐がこちらに来るよりも大分と前の時期じゃないか。
これって実はメイドは事件開始の前からマキウスの愛人だったのか?
「マキウスと付き合っていたのに、家令補佐に乗り換えたのか?」
「だってマキウスさんには既に奥さんがいるし。
仕事の都合で王都からこっちに派遣された時に、一緒についてきてくれなかったってぶちぶち文句を言っていたわ。
こんな田舎町に好んで来る女がいる訳がないのに。
だから家令補佐のタルトンがこっちに興味がありそうなそぶりを見せた時に応じたの。
やっぱり女はちゃんと結婚しないと馬鹿にされるからね」
ふんっという感じにチャルが答える。
なんかこう、男として、人間として気に入るか以前に単に自分のアクセサリーっぽい存在としてあいつ認識されていないか?
まあ、確かに仕事で貴族や豪商の家に忍び込んでいた時も、メイドたちって恋人がいるか、夫がいるか、子供がいるかなんて言う点でお互いを見下しあっていたな。そう考えるとちゃんと見せびらかせる恋人がいないと独身の若い女としては肩身が狭かったのかも知れない。
美人か否かでもそれなりな女同士の順位付けがあるみたいのがあるようだったし、色々と複雑怪奇な喧嘩の仕組みなんだよなぁ。
シェイラみたいにそう言うのをまともに取り合っていないのもいるが。
「家令補佐《タルトン》に乗り換えたのは良いとして、なんでそれで横領や毒物投与になったんだ?」
カレスターンが話を事件に戻す。
「『補佐』なんて言っても、タルトンったら実質ただの見習い相応の給料しか貰っていなかったのよ!
しかも王都から戻ってきたからそれなりに稼いでいたのかと思ったら特にお金もないし。
多少は垢ぬけていても、お金がなくっちゃねぇ」
何やら街を歩きながら店を覗き込んで色々と強請られて困っている家令補佐の映像が見える。
なんだってこういうタイプの女って自分が他の人間から物を貰うのが当然だと思うんかね??
自分だってメイドとして働いているんだから、自分の給与で欲しいもの位買えばいいのに。
シェイラなんて試作品以外、基本的に何も受け取ろうとしないぜ?
ちょっとしたお土産とか誕生日のプレゼントはまだしも。
見習い相応で給料が少ないって貶しているのにそれをさらに毟り取ろうとする女と付き合い続けようとするなんて、あの家令補佐も女運が無いのか、人を見る眼が無いのか。
ちょっと哀れに感じるぞ。
【後書き】
家令補佐は自分は出来る男だと思って王都に行ったけど、成功できず諦めて帰ってきたから貯蓄はゼロw
女に強請られても何も買えません。まだ働き始めて短いのでツケも効かないし。
「次はメイドか・・・。
しかし特に悪意も無く下手をすれば寝たきりになる薬を盛ろうとするなど、恐ろしいな」
溜め息を吐きながらウォレン爺が言った。
「まあ、悪行なんて意外と流されて深く考えずにやる人間も多いですから」
審議官《カレスターン》が肩を竦めながら応じる。
ウォレン爺みたいな軍が関わる国防関連の悪事ってそれなりに覚悟を持って悪事をやっている人間が多いのかな?
それに対して審議官が見るような一般の犯罪はもっと適当に深く考えずにやっているケースも多いのかも知れない。
まあ下町にいた頃に聞こえてきた話だって、計画的に遺産や恨みで殺す殺人よりも突発的な喧嘩で殺したとか夫婦で口げんかしていた時にかっとして殴ったら死んだとか、ちょっと面白そうだと思って悪戯半分にやったら死んだなんて案件の方が多かった気がする。
まあ、計画的な殺しの場合は周到に隠蔽していて露呈しなかった事件もそれなりにあるだろうから、単純に噂話で知った死者の数だけで判断は出来ないが。
どちらにせよ。
深く考えていなくても、しっかり計画していても、殺すのには刃物や毒が必要な場合が多いのだ。
刃物はまだしも、毒の流入をしっかり止めておくのが一番無難な気がするが・・・年初の密輸入調査を見る限りそれなりに穴がありそうだから、金になるんだったら毒を持ち込む人間はいなくならないだろうなぁ。
ちょっとぐだぐだな空気のまま、今度はメイドのチャルとやらを起こして家令補佐に与えたのと同じ薬入りのお茶を渡し、事情聴取を始めた。
「何んですか、これ?!
そんな真偽を調べる魔具を使うなんて、まるで私が悪人みたいじゃないですか!!」
チャルの方はぼんやりする薬を飲ませた割にはかなりはっきりと抵抗を見せている。
それだけ悪事をやったって認識があって危機感を持っているのかな?
家令補佐だって悪事の認識はあっただろうが・・・抵抗しなかったのは、既に証拠を商会側で抑えられたと聞いて諦めていたからかね。
「横領に協力した商家の人間と、こちらの家令補佐は既に事情を聞いて逮捕してある。ここで事情聴取を拒否するならば、彼らの言い分をそのまま認めて君の罪も認定されるぞ?」
カレスターンが淡々と脅す。
マキウスの方はともかく、家令補佐は実はチェリが今回の一連の悪事を主導していたって認識はないからあいつの言い分で裁判を開く方が実はこのメイドにとっては有利かも知れないが、他の奴を利用して陥れるような奴って他人も自分を陥れようとしていると思っているからな。
こう言われたら絶対に自己弁護の為に話し始めるだろう。
予想通り、ぶちぶちと文句を言いながらチャルは魔具を頭に乗せて事情聴取に応じ始めた。
「マキウスと会ったのはいつなんだ?」
カレスターンが尋ねる。
「去年の春ぐらいかしら?
村の酒場で微笑みかけたらデレデレして、色々と買ってくれるようになって付き合い始めたのよ」
おや。
家令補佐がこちらに来るよりも大分と前の時期じゃないか。
これって実はメイドは事件開始の前からマキウスの愛人だったのか?
「マキウスと付き合っていたのに、家令補佐に乗り換えたのか?」
「だってマキウスさんには既に奥さんがいるし。
仕事の都合で王都からこっちに派遣された時に、一緒についてきてくれなかったってぶちぶち文句を言っていたわ。
こんな田舎町に好んで来る女がいる訳がないのに。
だから家令補佐のタルトンがこっちに興味がありそうなそぶりを見せた時に応じたの。
やっぱり女はちゃんと結婚しないと馬鹿にされるからね」
ふんっという感じにチャルが答える。
なんかこう、男として、人間として気に入るか以前に単に自分のアクセサリーっぽい存在としてあいつ認識されていないか?
まあ、確かに仕事で貴族や豪商の家に忍び込んでいた時も、メイドたちって恋人がいるか、夫がいるか、子供がいるかなんて言う点でお互いを見下しあっていたな。そう考えるとちゃんと見せびらかせる恋人がいないと独身の若い女としては肩身が狭かったのかも知れない。
美人か否かでもそれなりな女同士の順位付けがあるみたいのがあるようだったし、色々と複雑怪奇な喧嘩の仕組みなんだよなぁ。
シェイラみたいにそう言うのをまともに取り合っていないのもいるが。
「家令補佐《タルトン》に乗り換えたのは良いとして、なんでそれで横領や毒物投与になったんだ?」
カレスターンが話を事件に戻す。
「『補佐』なんて言っても、タルトンったら実質ただの見習い相応の給料しか貰っていなかったのよ!
しかも王都から戻ってきたからそれなりに稼いでいたのかと思ったら特にお金もないし。
多少は垢ぬけていても、お金がなくっちゃねぇ」
何やら街を歩きながら店を覗き込んで色々と強請られて困っている家令補佐の映像が見える。
なんだってこういうタイプの女って自分が他の人間から物を貰うのが当然だと思うんかね??
自分だってメイドとして働いているんだから、自分の給与で欲しいもの位買えばいいのに。
シェイラなんて試作品以外、基本的に何も受け取ろうとしないぜ?
ちょっとしたお土産とか誕生日のプレゼントはまだしも。
見習い相応で給料が少ないって貶しているのにそれをさらに毟り取ろうとする女と付き合い続けようとするなんて、あの家令補佐も女運が無いのか、人を見る眼が無いのか。
ちょっと哀れに感じるぞ。
【後書き】
家令補佐は自分は出来る男だと思って王都に行ったけど、成功できず諦めて帰ってきたから貯蓄はゼロw
女に強請られても何も買えません。まだ働き始めて短いのでツケも効かないし。
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