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卒業後
第477話 883 星暦557年 萌葱の月 14日 久しぶりに遠出(4)
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「風除けと鳥避け結界って造ったらいいと思わない?」
昨日の午後はレディ・トレンティスの果樹園で葡萄と桃の収穫を手伝い、腹一杯それらを食べてそのおいしさに悶えた。
で、今日は遺跡探索へ向かっているのだが・・・歩きながら何やらシャルロが変な提案をしてきた。
「鳥避け??
なんで?」
人間を襲う鳥なんていないだろうに。
まあ、雛がいる巣に近づき過ぎると攻撃されることもあるが、魔具が必要な程では無いだろうに。
「昨日の美味しい果物、丁度美味しい完璧な完熟度まで木に残しておくと鳥や動物に食べられちゃうんだって。
動物は柵とか獣返しとか番犬とかでそれなりに対処できるらしいんだけど、鳥は難しいらしくて。
果物の収穫の時期になると夜明けから果樹園を子供に見張らせるんだけど、それでもかなりの数をつつかれちゃうんだって。
あと、収穫前に強風が吹くと桃なんかは特に落ちて駄目になっちゃうことも多いらいしから、これは断固として阻止するべきだと思わない??」
シャルロが憤慨したように言った。
へぇぇ。
鳥も果物を食べるのか。
何か俺の知っている鳥って下町で残飯を漁っているカラスとか港で漁師が捨てた小魚を争って食べている海鳥なんかだから、果物を食べるって言うのは知らなかった。
何か果物を食う方が魚や残飯を食っているよりも穏やかそうだが・・・確かにあの美味しい桃や葡萄を収穫時に奪われるのは業腹だな。
「風除けはそれこそ今回持ってきたガーデンパーティ用のをそのまま果樹園に使えばいいと思うが・・・鳥避けは地域の子供の小遣い稼ぎを奪ってしまうことにならないか?
まあ、この辺だったら農家の子供が飢えているなんてことは無いだろうから多分大きな問題にはならないだろうが」
アレクがちょっと首を傾げながら尋ねた。
確かに、子供に見張りをやらせているなら小遣いを払っていそうだよな。
農村の子供だったら飢えてはいない可能性が高そうだが、貴重な現金収入だったら奪うのは可哀想な気もしないでもない。
「う~ん、元々この時期は子供たちに低い所に生った実の収穫を手伝いをさせている筈だから、お小遣いは貰えているんじゃないかなぁ?
一応おばあさまに聞いてみようか。
ついでに電撃で近寄ってきた鳥を倒すようにしたら美味しい鳥肉のパイとか作れそう」
ニシシとシャルロが笑いながら言った。
お菓子だけじゃなくて肉のパイも好きなのか。
シャルロってほっそりしているのに意外と食いしん坊だよなぁ。
だが、鳥を殺すような電撃だったら魔石の消費量が大きいだろうし、人間もうっかり引っかかったら痛い思いをしそうだな。
流石に大きさが違うから死にはしないだろうが。
とは言え、考えてみたら桃泥棒や葡萄泥棒を撃退出来て良いかな?
だが魔石消費量を節約する為に鳥が飛ばない夜は使わないとしたら、人間の泥棒退治にはあまり役に立たなそうだ。
「ちなみに葡萄や桃の生産で鳥のつまみ食い被害ってどのくらい大きいんだ?
魔具を買って魔石を消費して鳥を避けるだけの経済的利益はあるのか?」
レディ・トレンティスの葡萄とか桃は収入源というよりは趣味っぽい感じだから、孫の開発した魔具を活用しつつ美味しい果物を確保するのに金を払うのは躊躇しないとは思うが、普通の農家とか領主が購入を考える程の経済的合理性があるのかね?
それに経済的合理性があるにしても、金のある果樹園がが鳥避けの魔具を使ったら、飢えた鳥が経営が苦しくて魔具を使えない果樹園に殺到してそこが更に苦しくなりそうで可哀想な気もするが。
鳥による被害がそこまで大きいなら狩人でも何人か雇って鳥を狩らせた方が良いんじゃないかね?
それとも鳥を殺しまくるとそれはそれで問題があるのか?
「果物だけではなく、その他の食材でもそれなりに鳥による被害というのはあると思うが・・・流石に小麦とかだったら畑全部を結界で覆うのは魔石消費量が大きすぎて現実的ではないだろうな。
果物は・・・高級路線の果実だったらもしかしたら、というところかな?
鳥よりも強風の方が時期が悪かったら被害総額が大きくなるから需要はありそうだが、年に数日程度の悪天候のために買うのは躊躇するだろうし、貸し出し式だとすると地域ごとの需要の偏りが多いくて貸し出し機体の調整が難しそうだな」
難しい顔をしながらアレクが言った。
確かにあの桃なんかは実が大きかったから嵐が来たら全部吹き飛ばされそうだな。
しかも柔らかいから落ちたらぐじゃぐじゃになって食べられなくなりそうだ。
1年分の収入が消えると考えれば魔具でそれを保護する価値は十分にあるだろうが・・・嵐が来なければ魔具を必要と思わないだろうし、嵐が来たらそんな物を買う経済力は無くなりそうだ。
「農業ギルドみたいのってあるのか?
じゃなきゃ果物系の収入が多い領主がシャルロの親戚がいないか調べて、試させてみるとか?
どうやるのが一番良いか、ちょっと考えた方が良いだろうな」
というか、考えてみたら嵐のような暴風雨に対応するのにどの程度魔石を使うのか、まだ確認できてない。
売り込む前にそう言うのを実験しないと難しそうだ。
雨だったら幾らでも実験出来るが、嵐はなぁ。
蒼流か清早の知り合いでそこそこ力のある風精霊にでも力を貸してもらえるかな?
【後書き】
金ある者が富み、貧乏人が困窮して経済格差が更に大きくなりそうな話かも・・・
昨日の午後はレディ・トレンティスの果樹園で葡萄と桃の収穫を手伝い、腹一杯それらを食べてそのおいしさに悶えた。
で、今日は遺跡探索へ向かっているのだが・・・歩きながら何やらシャルロが変な提案をしてきた。
「鳥避け??
なんで?」
人間を襲う鳥なんていないだろうに。
まあ、雛がいる巣に近づき過ぎると攻撃されることもあるが、魔具が必要な程では無いだろうに。
「昨日の美味しい果物、丁度美味しい完璧な完熟度まで木に残しておくと鳥や動物に食べられちゃうんだって。
動物は柵とか獣返しとか番犬とかでそれなりに対処できるらしいんだけど、鳥は難しいらしくて。
果物の収穫の時期になると夜明けから果樹園を子供に見張らせるんだけど、それでもかなりの数をつつかれちゃうんだって。
あと、収穫前に強風が吹くと桃なんかは特に落ちて駄目になっちゃうことも多いらいしから、これは断固として阻止するべきだと思わない??」
シャルロが憤慨したように言った。
へぇぇ。
鳥も果物を食べるのか。
何か俺の知っている鳥って下町で残飯を漁っているカラスとか港で漁師が捨てた小魚を争って食べている海鳥なんかだから、果物を食べるって言うのは知らなかった。
何か果物を食う方が魚や残飯を食っているよりも穏やかそうだが・・・確かにあの美味しい桃や葡萄を収穫時に奪われるのは業腹だな。
「風除けはそれこそ今回持ってきたガーデンパーティ用のをそのまま果樹園に使えばいいと思うが・・・鳥避けは地域の子供の小遣い稼ぎを奪ってしまうことにならないか?
まあ、この辺だったら農家の子供が飢えているなんてことは無いだろうから多分大きな問題にはならないだろうが」
アレクがちょっと首を傾げながら尋ねた。
確かに、子供に見張りをやらせているなら小遣いを払っていそうだよな。
農村の子供だったら飢えてはいない可能性が高そうだが、貴重な現金収入だったら奪うのは可哀想な気もしないでもない。
「う~ん、元々この時期は子供たちに低い所に生った実の収穫を手伝いをさせている筈だから、お小遣いは貰えているんじゃないかなぁ?
一応おばあさまに聞いてみようか。
ついでに電撃で近寄ってきた鳥を倒すようにしたら美味しい鳥肉のパイとか作れそう」
ニシシとシャルロが笑いながら言った。
お菓子だけじゃなくて肉のパイも好きなのか。
シャルロってほっそりしているのに意外と食いしん坊だよなぁ。
だが、鳥を殺すような電撃だったら魔石の消費量が大きいだろうし、人間もうっかり引っかかったら痛い思いをしそうだな。
流石に大きさが違うから死にはしないだろうが。
とは言え、考えてみたら桃泥棒や葡萄泥棒を撃退出来て良いかな?
だが魔石消費量を節約する為に鳥が飛ばない夜は使わないとしたら、人間の泥棒退治にはあまり役に立たなそうだ。
「ちなみに葡萄や桃の生産で鳥のつまみ食い被害ってどのくらい大きいんだ?
魔具を買って魔石を消費して鳥を避けるだけの経済的利益はあるのか?」
レディ・トレンティスの葡萄とか桃は収入源というよりは趣味っぽい感じだから、孫の開発した魔具を活用しつつ美味しい果物を確保するのに金を払うのは躊躇しないとは思うが、普通の農家とか領主が購入を考える程の経済的合理性があるのかね?
それに経済的合理性があるにしても、金のある果樹園がが鳥避けの魔具を使ったら、飢えた鳥が経営が苦しくて魔具を使えない果樹園に殺到してそこが更に苦しくなりそうで可哀想な気もするが。
鳥による被害がそこまで大きいなら狩人でも何人か雇って鳥を狩らせた方が良いんじゃないかね?
それとも鳥を殺しまくるとそれはそれで問題があるのか?
「果物だけではなく、その他の食材でもそれなりに鳥による被害というのはあると思うが・・・流石に小麦とかだったら畑全部を結界で覆うのは魔石消費量が大きすぎて現実的ではないだろうな。
果物は・・・高級路線の果実だったらもしかしたら、というところかな?
鳥よりも強風の方が時期が悪かったら被害総額が大きくなるから需要はありそうだが、年に数日程度の悪天候のために買うのは躊躇するだろうし、貸し出し式だとすると地域ごとの需要の偏りが多いくて貸し出し機体の調整が難しそうだな」
難しい顔をしながらアレクが言った。
確かにあの桃なんかは実が大きかったから嵐が来たら全部吹き飛ばされそうだな。
しかも柔らかいから落ちたらぐじゃぐじゃになって食べられなくなりそうだ。
1年分の収入が消えると考えれば魔具でそれを保護する価値は十分にあるだろうが・・・嵐が来なければ魔具を必要と思わないだろうし、嵐が来たらそんな物を買う経済力は無くなりそうだ。
「農業ギルドみたいのってあるのか?
じゃなきゃ果物系の収入が多い領主がシャルロの親戚がいないか調べて、試させてみるとか?
どうやるのが一番良いか、ちょっと考えた方が良いだろうな」
というか、考えてみたら嵐のような暴風雨に対応するのにどの程度魔石を使うのか、まだ確認できてない。
売り込む前にそう言うのを実験しないと難しそうだ。
雨だったら幾らでも実験出来るが、嵐はなぁ。
蒼流か清早の知り合いでそこそこ力のある風精霊にでも力を貸してもらえるかな?
【後書き】
金ある者が富み、貧乏人が困窮して経済格差が更に大きくなりそうな話かも・・・
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