シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

879 星暦557年 萌葱の月 10日 水除け(18)

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「今から販売を始めるのでもちょっと遅いのに、その前段階である涼しさを提供する魔具の試作品を配るのは確かにダメダメよねぇ。
前回来た時は雨除け結界だったのに、なんだって急に冷風機とか遮熱機能付きになったの??」
考えてみたら以前渡したケレナ用に作った風の流れるシャツの試作品以外にも、もう少しあった方が良いかと思ってもう何通りかここ数日で造った試作品を持ってきたら・・・シェイラに笑われた。

そう言えば、冷やすことを考え始めたのってたったの10日前だったんだっけ?
ちょっと俺たち、もう少し色々とじっくり考えて計画性を持って開発をやっていくべきかも。

とは言え、思い付きで気分が乗った時の方が色々とアイディアが湧いてくるんだよなぁ。

「前回来た時に、雨も困るけど強風を何とか出来る結界があったら良いのにって言っていただろ?
だからそれこそガーデンパーティの時に雨だけじゃなくて晴れていても風が強い時なんかにそれを遮る結界があったら喜ばれるんじゃないかと思って機能を付け足してみたんだよ」
花が綺麗な時期に雨が降る事が四六時中ある訳ではない。
どうせ魔具を買うなら、使用用途が色々とあった方が良いだろう。

「あぁ、確かに強風って貴婦人の髪やドレスにとってはいい迷惑だし、デリケートな年齢の男性が集まる場所でも防止できた方が喜ばれるかもね」
シェイラが頷く。

「そう。
で、実際に試してみたら、晴れている場所で風を止めるとやたらと暑くなるんだよ。
まあ、風を通すだけでも良いんだけど、どうせ庭でガーデンパーティとかするなら真夏でも快適な気温を保てるようにした方が良いだろ?
だから遮熱機能と、冷風を出す部品とを試作品に付け足したんだ。
冷風機能に関しては別売りすることも考えて、取り敢えず外して庭や馬車止め以外でも使える様にした訳」
適当に行き当たりばったりに『あったら良いな』機能を開発していくから、売り出すタイミングとか製造準備に必要な時間とかの都合が後回しになるんだよなぁ。

「なるほど。
確かに強風用の結界があったら便利よね。
でも、風が無かったら温室みたいになるのか。
というか、暑くなるなるのを防げるとは知らなかったなぁ・・・。
まあ、歴史学会にそんな魔具を買う余裕はないから、強風時は小屋の中か地下室に大切そうな発掘物は隠すしかないけど」
シェイラが言った。

「まあねぇ。
試作品を提供しても良いんだが、魔石の使用費を考えると実用は無理だろ?
ツァレスとか他の発掘団の連中だったら、魔石があるなら雨や風除けよりも映像用の魔具を動かすのに使いそうだし」
というか、シェイラでもずぶ濡れになっても気にせずに映像記録を撮るのを優先しそうだ。
まあ、魔具もあまり濡らさない方が良いんで雨の中での使用はどちらにしてもダメだろうが。

「仰る通りです」
苦笑いしながらシェイラが大げさに頭を下げて見せた。

「まあ、それはさておき貴族とか金持ちのお茶会とかガーデンパーティで使うようにどうぞってことで強風を遮って夏だったら遮熱・冷風効果も可能な魔具も作ってみたんだが・・・今から売り出すのは工房の準備的に無理だから、試作品もばら撒くなって言われてね。
既に配った試作品を回収する際に代わりにちょっと涼しい機能の付いたシャツを配ったんで、シェイラにも何枚か持ってきた」

以前配ったのがもうそろそろ駄目になるか、よれよれになっていると思うから言ってくれたら別のをあげたんだけどね。
試作品は喜んで受け取るけど、売り出し始めた商品は自分で買うから俺に強請らないんだよねぇ、シェイラって。

本人も靴や服の店に関与しているから、あの使えない兄貴あたりから色々とおねだりされて嫌な思いでもしたんかね?

「あら、ありがと。
だけどこっちの試作品も配っちゃっていいの?
今が売り時でしょ?
それともこれだったら直ぐに大量生産出来るとか?」
シェイラがシャツを手に取りながら首を軽く傾げて尋ねてきた。

「いや、そうでもないけど、シャツ程度だったら大した利益にはならないからなぁ。
誰かが態々盗作したいんだったら好きにしてくれって感じ?」
服関係は面倒すぎるから真面目に商業ベースで関わる気はない。

ケレナやシェイラ用に試作品を必要に応じて造るのは良いが、一般に売り出すのに関してがたがた言われまくって微調整し続けるのは面倒すぎる。

一応何通りかの魔術回路とかは適当に特許申請してシェフィート商会に渡したけど、売るかどうかはあっちで好きにしてくれって言ってある。

雨除け結界の魔具も後から遮熱結界を組み込みやすい形に作り直して登録したし、遮熱結界と冷風機の方はもう少ししてから登録して、シェフィート商会の方で雨除け結界を製作する工房で何食わぬ顔をして夏に向けて追加機能も製造できるように手を加えるって話だから、なるようになるだろう。

さて。
次は何をするかなぁ。


【後書き】
暑くなってから暑さ対策の魔具を考え始めるんじゃだめなんですよね~。
寒い最中に水着の広告の準備を始めるのと同じで、もっと先読みしないとw

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