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卒業後
876 星暦557年 萌葱の月 5日 水除け(15)
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「う~ん、微妙だね。
この際、明るさの調整は諦めたらどうかな?」
シャルロが試作品の遮光機能付き結界の中から外を見回しながら言った。
遮熱は基本的に問題なく組み込めた。
結界から外へ放熱出来ない仕組みになったが、そちらはそれ程機能していなかったし、風で暑い空気を出すことでどうとでもなるから外から日光に伴った熱が入らない様にすることで大分と結界内の温度の上昇も抑えられて良かった。
だが、遮光に関しては難しい。
というか、完全遮光だったら簡単にできるのだが、『ちょっと眩しすぎるのを軽減する』という微妙な匙加減が中々難しいのだ。
「空だけ暗くするのもありだが、青空の鮮やかさもそれなりに楽しみたい人間は多そうだから・・・この際眩しいのは諦めて貰うしかないんじゃないか?」
アレクがため息を吐きつつ言った。
そうなんだよなぁ。
花々の色合いが褪せて見えるのは良くないからと結界を半球形ではなく四角にして上の面だけ遮光にしてみたんだが、それでも不評だったのだ。
「まあ、そうだな。
眩しいのが困るんだったら大きなテントを張ってその中でゆったりして、気が向いたらちょっと足を伸ばせして外を散策してもらえばいいか」
上の部分だけ遮光しても、空の青さを楽しめないのは困るなんて言われてもねぇ。
遮光しようと思ったらどうしたって色は褪せて見えるのだ。
晴天時の空の鮮やかな青さを楽しみたいなら遮光は無理だし、曇っているなら遮光機能なんて要らないし。
要求の両立が無理なんだから、だったら金が掛からない選択肢(=何もしない)のが一番だろう。
「でも、結界に遮熱効果を付けることで日が当たっていてもあまり熱くならないんだね。
あとはちょっとだけ冷風を吹かせればそれで大丈夫だなんて、意外だった」
シャルロが両腕を上に上げて背筋を伸ばしながら言った。
そう。
意外にも、どうやら温室が暑くなるのは日光にかなり熱が含まれているせいだったようだ。
光は通しても熱は通さぬように結界を調整したところ、結界の中は驚いた事に外よりも涼しいぐらいになったのだ。
とは言え中に人間がいるとだんだん蒸し暑くなってくるので、軽く除湿した冷風を端っこの上へ噴き出すようにして、反対側の上から空気を抜き出すようにしたらそれでほぼ問題はなくなった。
ちなみに足元から涼しい空気を水平に流し込むというのは『足先だけが冷える!』というケレナの苦情により変更。
結界の外で地面付近から空気を吸い込み、魔術回路でそれから熱と湿気を抜き取って結界の上部へ向けてかなりの急角度で噴き出す形にしたところ、意外と結界内を動いている間に冷たい空気が降りていくのか、ちゃんと反対側の上部にある排気孔からは暑い空気が出てくるので問題は無いだろう。
「じゃあ、これでいいとして・・・馬車止め用の水除け結界にもこの遮熱とか冷風効果って必要かな?」
シャルロがちょっと首を傾げながら言った。
「つうか、考えてみたら晴れている時に使うのは強風時のガーデンパーティ用だったじゃん?
そう考えると晴れてても強風が吹いて無かったら使わなくていいけど、汗ばむ程暑いなら使っても良いかな程度で。
雨だったらそれ程暑くはならないだろうから雨天時しか使わない想定の馬車止め用の水除け結界には余計な機能は必要なくないか?」
なんかこう、風が強めでも女性陣の髪や服を乱さずにガーデンパーティやお茶会を優雅に楽しめる様にって話で手を加えて、試作品を試した時の余りの暑さにうっかり冷風効果の方へ注意が逸れたが、考えてみたら元々の機能は馬車止めでの雨除けなのだ。
遮熱も冷風も必要なさそうだ。
真夏だったらシェイラ達の発掘現場にはあったら良いかも知れないが・・・常時金欠なあの歴史馬鹿の連中が単に涼しく快適になる為だけに魔石を使うとは思えない。
「まあ、真夏の暑い時期に荷物の出し降ろしすると汗で手が滑ることもあるし、冷蔵して運んできた商品が悪くなる可能性もあるからってことで商業ギルドの方にはセットで売り込んでも良いかも?
冷風機の方を外して使っているうちに自分の部屋にも欲しいって言いだす人間が出てくると思う」
アレクがちょっと悪い顔で提案した。
なるほど。
『汗で手を滑らせない様に』という名目で冷風機込みで買わせて、商業ギルドのお偉いさんを涼しい快適な部屋という堕落に引き込むんだな?
会議とかで商業ギルドに来た他の商会のお偉いさんとかにも知って貰えたら話があちこちに広がりそうだし。
「試作品ってことで無料で20日程度貸し出してみたらどうだ?まだまだ暑いから、がっつり使いまくって魅力に取りつかれる人間が出てくると思うぞ」
割安にした試作品と言っても、金を出すとなったら予算の承認とかなんだかんだで時間がかかる。
だったら暑いうちに貸し出しで20日ぐらい使わせる方がいいだろう。
20日後に返すか割安に買うかって話にしたら金をあっさり出しそうだし。
【後書き】
遮熱=赤外線遮断と言う感じです
この際、明るさの調整は諦めたらどうかな?」
シャルロが試作品の遮光機能付き結界の中から外を見回しながら言った。
遮熱は基本的に問題なく組み込めた。
結界から外へ放熱出来ない仕組みになったが、そちらはそれ程機能していなかったし、風で暑い空気を出すことでどうとでもなるから外から日光に伴った熱が入らない様にすることで大分と結界内の温度の上昇も抑えられて良かった。
だが、遮光に関しては難しい。
というか、完全遮光だったら簡単にできるのだが、『ちょっと眩しすぎるのを軽減する』という微妙な匙加減が中々難しいのだ。
「空だけ暗くするのもありだが、青空の鮮やかさもそれなりに楽しみたい人間は多そうだから・・・この際眩しいのは諦めて貰うしかないんじゃないか?」
アレクがため息を吐きつつ言った。
そうなんだよなぁ。
花々の色合いが褪せて見えるのは良くないからと結界を半球形ではなく四角にして上の面だけ遮光にしてみたんだが、それでも不評だったのだ。
「まあ、そうだな。
眩しいのが困るんだったら大きなテントを張ってその中でゆったりして、気が向いたらちょっと足を伸ばせして外を散策してもらえばいいか」
上の部分だけ遮光しても、空の青さを楽しめないのは困るなんて言われてもねぇ。
遮光しようと思ったらどうしたって色は褪せて見えるのだ。
晴天時の空の鮮やかな青さを楽しみたいなら遮光は無理だし、曇っているなら遮光機能なんて要らないし。
要求の両立が無理なんだから、だったら金が掛からない選択肢(=何もしない)のが一番だろう。
「でも、結界に遮熱効果を付けることで日が当たっていてもあまり熱くならないんだね。
あとはちょっとだけ冷風を吹かせればそれで大丈夫だなんて、意外だった」
シャルロが両腕を上に上げて背筋を伸ばしながら言った。
そう。
意外にも、どうやら温室が暑くなるのは日光にかなり熱が含まれているせいだったようだ。
光は通しても熱は通さぬように結界を調整したところ、結界の中は驚いた事に外よりも涼しいぐらいになったのだ。
とは言え中に人間がいるとだんだん蒸し暑くなってくるので、軽く除湿した冷風を端っこの上へ噴き出すようにして、反対側の上から空気を抜き出すようにしたらそれでほぼ問題はなくなった。
ちなみに足元から涼しい空気を水平に流し込むというのは『足先だけが冷える!』というケレナの苦情により変更。
結界の外で地面付近から空気を吸い込み、魔術回路でそれから熱と湿気を抜き取って結界の上部へ向けてかなりの急角度で噴き出す形にしたところ、意外と結界内を動いている間に冷たい空気が降りていくのか、ちゃんと反対側の上部にある排気孔からは暑い空気が出てくるので問題は無いだろう。
「じゃあ、これでいいとして・・・馬車止め用の水除け結界にもこの遮熱とか冷風効果って必要かな?」
シャルロがちょっと首を傾げながら言った。
「つうか、考えてみたら晴れている時に使うのは強風時のガーデンパーティ用だったじゃん?
そう考えると晴れてても強風が吹いて無かったら使わなくていいけど、汗ばむ程暑いなら使っても良いかな程度で。
雨だったらそれ程暑くはならないだろうから雨天時しか使わない想定の馬車止め用の水除け結界には余計な機能は必要なくないか?」
なんかこう、風が強めでも女性陣の髪や服を乱さずにガーデンパーティやお茶会を優雅に楽しめる様にって話で手を加えて、試作品を試した時の余りの暑さにうっかり冷風効果の方へ注意が逸れたが、考えてみたら元々の機能は馬車止めでの雨除けなのだ。
遮熱も冷風も必要なさそうだ。
真夏だったらシェイラ達の発掘現場にはあったら良いかも知れないが・・・常時金欠なあの歴史馬鹿の連中が単に涼しく快適になる為だけに魔石を使うとは思えない。
「まあ、真夏の暑い時期に荷物の出し降ろしすると汗で手が滑ることもあるし、冷蔵して運んできた商品が悪くなる可能性もあるからってことで商業ギルドの方にはセットで売り込んでも良いかも?
冷風機の方を外して使っているうちに自分の部屋にも欲しいって言いだす人間が出てくると思う」
アレクがちょっと悪い顔で提案した。
なるほど。
『汗で手を滑らせない様に』という名目で冷風機込みで買わせて、商業ギルドのお偉いさんを涼しい快適な部屋という堕落に引き込むんだな?
会議とかで商業ギルドに来た他の商会のお偉いさんとかにも知って貰えたら話があちこちに広がりそうだし。
「試作品ってことで無料で20日程度貸し出してみたらどうだ?まだまだ暑いから、がっつり使いまくって魅力に取りつかれる人間が出てくると思うぞ」
割安にした試作品と言っても、金を出すとなったら予算の承認とかなんだかんだで時間がかかる。
だったら暑いうちに貸し出しで20日ぐらい使わせる方がいいだろう。
20日後に返すか割安に買うかって話にしたら金をあっさり出しそうだし。
【後書き】
遮熱=赤外線遮断と言う感じです
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