シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

865 星暦557年 翠の月 22日 水除け(4)

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「足元の水跳ねは何とかなるが、靴の中は駄目だな」
急遽水除けに変更した防寒・防御結界魔具を身に着けたアレクに庭でじゃばじゃば水を掛けたところ(如雨露だと角度が面倒なので、蒼流が庭の一角だけ土砂降りにした)、体が濡れるのは防げたが、靴は水浸しでぐしょぐしょになった。

「魔石の消費も中々激しいな・・・。
泥も・・・付いてないかな?」
自分の身体と足を見回しながらアレクが言う。

「アレクって元々あまり歩いても泥だらけにならないだろ?
俺が試すよ」
俺って何故か歩くと泥が跳ねるんだよなぁ。
足音はしないのに、何故に泥や水が跳ねてズボンの膝下がびしょびしょ・ドロドロになるのか、マジで分からない。

試作品を受け取り、土砂降りで泥だらけになった地面の所を歩き回る。

『濡れないように出来るぞ?』
清早が声をかけてくる。

「いや、実験だから構わない。
・・・つうか、普段も足が濡れないように出来るのか、もしかして?」
雨の中を歩く時って清早に雨に濡れないようにして貰っているものの、ズボンの汚れに関してはどうしようもないんだろうと諦めていたんだが・・・単に防ぐ必要がないと思われていただけなのか??

『そりゃあ、なんだってやる気になれば可能だよ?
靴の中は濡れたら文句言っていたから水が沁み込まない様にしてるけど、泥が跳ねることに関しては何も言っていなかったから防いでなかったね。
嫌だったんだ?今度から止めるね』
おお~。
てっきり泥水って土が入るから水精霊の清早には制御できないのかと思っていた。

ある意味、これで俺に関する個人的な水除け魔具の必要が無くなったな。でもまあ商品としてそれなりに需要がありそうだし、シェイラの為に続けよう。
「おう、頼むわ」

そう言いながら泥の中を歩き回る。
一気に靴の中がぐしょぐしょになり・・・足元を見るとやはり膝の後ろぐらいまで泥で生地が水玉ではなく泥玉模様になっていた。

「やはり泥だとイマイチ弾かないみたいだな。
あと、靴の中が酷い」
ベンチに座り、清早にズボンと靴と靴下をざっと洗い流した後に乾かしてもらいながら言う。

「結界の範囲を地表の上を半径1メタメートルとするか、もしくは滑り止めカバーみたいのを靴につけてそれを範囲指定に使うか。
一々滑り止めを靴に付けないで済む方が楽かな?」
アレクがちょっと首を傾げながら言う。

シャルロが蒼流に頼んだらしく、アレクが靴を脱いだら一瞬で靴下と靴が綺麗になって乾いた。

やっぱ精霊は無敵だな。
まあ、それなりに高位じゃないと厳しいんだろうけど。
精霊を洗濯や靴洗いに使う人間はあまりいないだろうし。

「靴に着けるとなるとサイズが何種類も必要になるし、一々着脱するのも面倒だから、地面を結界の範囲指定に使う方がいいだろうな。
どの位上手くいくか不明だが」
結界って基本的に地面から上という形に展開しているものが多いが、地表を覆う形での結界ってあまりないんだよなぁ。

どうやって指定するのか、ちょっと調べないと。
でもまあ、地表をしっかり指定出来たら靴も濡れないで済みそうだな。

「商業ギルドや貴族邸の馬車止めでの水除けも、雨が降り始めて水たまりが出来た後に起動した場合でも地表を範囲指定にしたら水を排除出来て良さそうだ」
アレクが頷く。

「・・・考えてみたら、地表に沿って水を排除する形で結界を展開した場合、元々あった水はどうなるんだろ?
地面に無理やり押し込む形になると魔具を使った後に下が妙に柔らかい感じになってボコボコになったりしたら苦情が来そうだけど、適当な方向に水を押し出す形にしたら起動した瞬間に傍に立っていた人間が直撃を食らってびしょ濡れになるかも?」
シャルロがちょっと首を傾げながら言った。

確かに、方向に気を付けて誰もいない方へ排除した水を押し出すなら良いが、うっかり建物の入り口の中へ泥水を勢いよく吹き飛ばしたりしたら迷惑過ぎるな。

商業ギルドならまだしも、貴族の玄関だったりしたら高級な絨毯が敷いてある場合も多いんだ。
・・・まあ、俺たちの開発した絨毯洗浄用の魔具を使えば泥水でも綺麗になるだろうが。

そう言って売り込んだら絶対怒られるだろうなぁ。
アレクの母親とかだったら上手い具合に関係なさそうな顔をして売りつけそうだけど。



【後書き】
商業ギルドの入り口は埃だらけな行商人や隊商の人間が来る事も想定してフローリングになってますw

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