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卒業後
837 星暦557年 紺の月 9日 肩凝り対策(28)
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「ここに頭を載せて机で休むのですか?」
完成した肩凝り用魔具の最終形を試してもらおうと台所に持ち込んだら、パディン夫人に微妙な顔をされた。
結局、頭に被って作業をしながら凝りをほぐすよりも、4ミル程度でも目を閉じて体を休める方が気分も一新出来て良いだろうと、デフォルトでの形は真ん中が柔らかくて下の切れたクリーム入り丸パン状のクッションを机の上に置き、それに額と頬を休めて顔の上半分を温めている間に頭に被った部分と肩に掛けた部分とが各自働いて頭皮と首、肩を解す形にした。
気持ちが良くって更に続けたければ継続も可能だが、一応4ミルで一端止まる形になっている。
このクッションの真ん中を目の周りや鼻を圧迫しないぐらい柔らかく、周辺部を頭の重さを支えられるだけ固くするのには苦労した。
結局、このクッションは下の切れたドーナツ状のしっかりしたクッション部分に、真ん中の重さは支えず温めるだけ用の柔らかい部分を繋げた2つの部位から出来ている。
4ミルですらも休めない人間用に、一応各部位を外して手に持ったり肩に掛けて使えるようにもなっているが、一体にしてまとめて使う方が魔石の消費効率も良い仕様になっている。
「肩凝りって意外と目の周りの疲れも影響するみたいなんだよね。
だから目を閉じて目の周りや顳顬《こめかみ》を温めながら頭皮とか首周りとか肩とかを解すのが一番効果的だと思うから、ちょっと試してみてくれる?
胸の下にクッションを入れてソファにうつ伏せに寝転がってくれても良いけど、机に休む方がやりやすいかなと思って」
シャルロがにこやかに頼み込む。
なるほど、中年女性とかはこんな机に向かって寝るような姿勢に抵抗があるのか。
でも俺たちの前でソファに寝転がるのは更に嫌だろう。
書類仕事が多すぎて疲れ果てた人はこういう姿勢で事務所で短時間でも休む人もいるのだが、家政婦とかだとそこまで疲れないのかな?
もしくは疲れが体全体で、肩凝りとか目の疲れで頭痛がするとか言った状態にはならないからこういう休み方はしないのかも。
一応、薄い布をクッションの上に敷くことで汚れに関してもあまり気にならない様にしている。
結局ヘルメット式にしないことで肩凝り用魔具に清浄化機能は付けなかったので布で拭くなり敷いておくなりになるが、その方が自力で管理できるから良いだろう。
多分。
その分製造費を抑えられるし。
渋々とクッションの上に顔を乗せたパディン夫人が驚いたように声を上げた。
「あら、暖かい上に潰れないのに不思議と柔らかいですね」
「でしょ?
鼻まで塞がらない筈だけど、必要に応じて額を置く位置で調整してね。
そんでもって頭と肩にも魔具を掛けるから、驚かないで~」
シャルロが言いながらクッションに嵌める形でワキワキと20本ぐらいの指のような形が出ている頭用魔具を頭部と首に当て、更に刺激を流す方の魔具を肩に掛ける。
「じゃあ、スイッチを入れるよ~?
頭とか首の方は指でマッサージするみたいな感じで、肩はちょっと痺れるような擽ったい刺激だと感じるんじゃないかな?」
そう言いながらシャルロが試作品を起動させた。
「あら!
・・・あらぁ。
悪くないですねぇ」
ちょっと驚いたような声を上げたパディン夫人だが、慣れたら気持ちが良かったのか肩に入っていた力が抜けて、食卓にリラックスしたように体を預けた。
「これってちょっと一人で使うのは面倒かな?」
横で待機しているアレクに尋ねる。
肩回りに掛けたり、頭や首の方のをしっかり固定するのは自分一人でもできなくはないが、改めて見ると人にやって貰う方が楽そうだ。
「考えてみたら、我々なら一人で出来るが肩凝りが酷すぎて腕が上がらないとかある程度以上後ろに回らないような人だったら使えないだろうな。
ただまあ、そこまで状態が酷かったら自分で肩や首を揉むのも難しいだろうから、多少の助けを周囲に求めるぐらいは構わないのではないか?
時間の延長は手元のボタンで出来るし」
アレクが肩を竦めながら言った。
そっか、肩凝りが酷いと腕の稼働領域が狭まるんだっけ?
筋を痛めたり骨を折ったりして暫く腕を動かさない様にしていると変な風に肩の筋肉や関節が固まるっていうのは聞いたことがあったが、凝っていても似たような状態になるのか。
まあ、想定通りに事務所とかで複数人で費用を共同で負担して買うような場合だったら、誰かが手伝ってくれるだろう。
一人で使う時は・・・一応、(出来そうならば)どうやったら腕を上げなくても頭を突っ込んで肩に魔具を掛けられるのか、使用説明書に図解しておこう。
「ふぅぅ。
大して肩なんて凝っていないと思っていたんですが、気持ちいいですね、これ」
4ミル程経って魔具が自動で動きを止めたところで、深く息を吐いてパディン夫人が頭を抜き出して上げた。
どうやら好評だったらしい。
まあ、肩が凝っていない若い俺たちでも気持ちがいいと思ったからな。
ちょっと初老に掛かっているパディン夫人だったら更に気持ちが良く感じても不思議は無い。
「何か気になった点とかあった?」
シャルロが尋ねる。
「この目の周りを温めるので、ついでに冷えた足先とか指先も温められたら更に良いかも知れませんねぇ。
ただそうなると、本格的に寝ちゃいそうな気がしますが」
ちょっと悪戯っぽく笑いながらパディン夫人が提案した。
なるほど。
女性は冷え性な人が多いって聞くしな。
ついでに手足も温めるスリッパとかミトンも準備するか?
【後書き】
暖かいスリッパとミトンが誰かに独占されて見つからなくなる方に一票w
完成した肩凝り用魔具の最終形を試してもらおうと台所に持ち込んだら、パディン夫人に微妙な顔をされた。
結局、頭に被って作業をしながら凝りをほぐすよりも、4ミル程度でも目を閉じて体を休める方が気分も一新出来て良いだろうと、デフォルトでの形は真ん中が柔らかくて下の切れたクリーム入り丸パン状のクッションを机の上に置き、それに額と頬を休めて顔の上半分を温めている間に頭に被った部分と肩に掛けた部分とが各自働いて頭皮と首、肩を解す形にした。
気持ちが良くって更に続けたければ継続も可能だが、一応4ミルで一端止まる形になっている。
このクッションの真ん中を目の周りや鼻を圧迫しないぐらい柔らかく、周辺部を頭の重さを支えられるだけ固くするのには苦労した。
結局、このクッションは下の切れたドーナツ状のしっかりしたクッション部分に、真ん中の重さは支えず温めるだけ用の柔らかい部分を繋げた2つの部位から出来ている。
4ミルですらも休めない人間用に、一応各部位を外して手に持ったり肩に掛けて使えるようにもなっているが、一体にしてまとめて使う方が魔石の消費効率も良い仕様になっている。
「肩凝りって意外と目の周りの疲れも影響するみたいなんだよね。
だから目を閉じて目の周りや顳顬《こめかみ》を温めながら頭皮とか首周りとか肩とかを解すのが一番効果的だと思うから、ちょっと試してみてくれる?
胸の下にクッションを入れてソファにうつ伏せに寝転がってくれても良いけど、机に休む方がやりやすいかなと思って」
シャルロがにこやかに頼み込む。
なるほど、中年女性とかはこんな机に向かって寝るような姿勢に抵抗があるのか。
でも俺たちの前でソファに寝転がるのは更に嫌だろう。
書類仕事が多すぎて疲れ果てた人はこういう姿勢で事務所で短時間でも休む人もいるのだが、家政婦とかだとそこまで疲れないのかな?
もしくは疲れが体全体で、肩凝りとか目の疲れで頭痛がするとか言った状態にはならないからこういう休み方はしないのかも。
一応、薄い布をクッションの上に敷くことで汚れに関してもあまり気にならない様にしている。
結局ヘルメット式にしないことで肩凝り用魔具に清浄化機能は付けなかったので布で拭くなり敷いておくなりになるが、その方が自力で管理できるから良いだろう。
多分。
その分製造費を抑えられるし。
渋々とクッションの上に顔を乗せたパディン夫人が驚いたように声を上げた。
「あら、暖かい上に潰れないのに不思議と柔らかいですね」
「でしょ?
鼻まで塞がらない筈だけど、必要に応じて額を置く位置で調整してね。
そんでもって頭と肩にも魔具を掛けるから、驚かないで~」
シャルロが言いながらクッションに嵌める形でワキワキと20本ぐらいの指のような形が出ている頭用魔具を頭部と首に当て、更に刺激を流す方の魔具を肩に掛ける。
「じゃあ、スイッチを入れるよ~?
頭とか首の方は指でマッサージするみたいな感じで、肩はちょっと痺れるような擽ったい刺激だと感じるんじゃないかな?」
そう言いながらシャルロが試作品を起動させた。
「あら!
・・・あらぁ。
悪くないですねぇ」
ちょっと驚いたような声を上げたパディン夫人だが、慣れたら気持ちが良かったのか肩に入っていた力が抜けて、食卓にリラックスしたように体を預けた。
「これってちょっと一人で使うのは面倒かな?」
横で待機しているアレクに尋ねる。
肩回りに掛けたり、頭や首の方のをしっかり固定するのは自分一人でもできなくはないが、改めて見ると人にやって貰う方が楽そうだ。
「考えてみたら、我々なら一人で出来るが肩凝りが酷すぎて腕が上がらないとかある程度以上後ろに回らないような人だったら使えないだろうな。
ただまあ、そこまで状態が酷かったら自分で肩や首を揉むのも難しいだろうから、多少の助けを周囲に求めるぐらいは構わないのではないか?
時間の延長は手元のボタンで出来るし」
アレクが肩を竦めながら言った。
そっか、肩凝りが酷いと腕の稼働領域が狭まるんだっけ?
筋を痛めたり骨を折ったりして暫く腕を動かさない様にしていると変な風に肩の筋肉や関節が固まるっていうのは聞いたことがあったが、凝っていても似たような状態になるのか。
まあ、想定通りに事務所とかで複数人で費用を共同で負担して買うような場合だったら、誰かが手伝ってくれるだろう。
一人で使う時は・・・一応、(出来そうならば)どうやったら腕を上げなくても頭を突っ込んで肩に魔具を掛けられるのか、使用説明書に図解しておこう。
「ふぅぅ。
大して肩なんて凝っていないと思っていたんですが、気持ちいいですね、これ」
4ミル程経って魔具が自動で動きを止めたところで、深く息を吐いてパディン夫人が頭を抜き出して上げた。
どうやら好評だったらしい。
まあ、肩が凝っていない若い俺たちでも気持ちがいいと思ったからな。
ちょっと初老に掛かっているパディン夫人だったら更に気持ちが良く感じても不思議は無い。
「何か気になった点とかあった?」
シャルロが尋ねる。
「この目の周りを温めるので、ついでに冷えた足先とか指先も温められたら更に良いかも知れませんねぇ。
ただそうなると、本格的に寝ちゃいそうな気がしますが」
ちょっと悪戯っぽく笑いながらパディン夫人が提案した。
なるほど。
女性は冷え性な人が多いって聞くしな。
ついでに手足も温めるスリッパとかミトンも準備するか?
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