835 / 1,038
卒業後
834 星暦557年 紺の月 4日 肩凝り対策(25)
しおりを挟む
「古くて破棄しようとしていた魔石の粉の方がいいなんて意外だね~」
中サイズの新しい魔石を砕いた粉、小サイズの新しい魔石を砕いた粉、中小の各サイズの魔石で破棄寸前の魔石を砕いた粉と、大サイズの破棄寸前の魔石を砕いた粉を混ぜた緑熱《ジェイパル》石を入れた手袋を前に、シャルロがプニプニと手袋を指で押しながら言った。
ここ数日、砕いて使う為に魔石を何種類も入手し、元の魔石の大きさだけでなく砕いた魔石の細かさや残存魔力の量、混ぜる時の緑熱《ジェイパル》石の状態等々を色々と試してきた。
ちなみに新しい大きな魔石は高すぎるので試していない。
魔石って大きいのは馬鹿みたいに高くなるから。
面白い事に、新しい魔石だと中サイズと小サイズで多少反応が違うのだが、破棄寸前で魔力の再充填が殆ど出来なくなった魔石だとサイズに関係なくほぼ同じ効果になった。
しかもシャルロが言ったように破棄寸前の魔石を細かく砕いた微細な粉を混ぜるのが一番望ましい効果が得られたのだ。
「お蔭でかなり経済的に造れることになって助かった。
何か他にも破棄寸前の魔石の使い道が無いか、実験してみたいところだな。
それこそ、インクみたいにして魔術回路を描けないか、実験してみても良いかも知れない」
アレクが提案した。
「ただ水や油に溶いただけの粉じゃあ乾いた時にバラバラになって魔術回路が崩壊しそうじゃないか?
膠とかに混ぜても濡れたり熱くなった時に溶けるんじゃあ困るし、魔術回路が変な風に変形して暴発とかしたら責任問題になりそうだぜ。
それよりも銅線や鉄線を精製する際に混ぜ込んで魔術回路を作ったら何か効果があるか試した方が良いかも?」
インクにして筆やペンで描ける魔術回路というのも確かに魅力的だが、魔具とは魔石と言うそれなりに危険にもなり得る物の魔力を安全かつ便利に取り出す為の道具でもあるのだ。
安全性が絶対に損なわれない様にしないといけない。
「取り敢えず魔術回路への活用は後にして、まずはこの改造版緑熱石を使った肩もみ用魔具をさっさと完成させよう。
そうだ、ウィルは僕たちが試作品を作って試している間に学院長の所に行って、素材に関する特許制度みたいなのに関して相談して来てよ。
改造版緑熱石だけじゃなくってそれこそ魔術回路のインク版とか、より効率のいい魔術回路を造る素材にしても、普通の商業特許じゃなくって魔術院の特許で保護させないと大した効果はなさそうだし、どうせ魔具に使うんだから魔術院から規制させてお金も徴収させる方が僕たちにとっても面倒が無くていいでしょ?」
シャルロが一番良かった手袋型魔具の試作品をプニプニと頭に当てて動かしながら提案した。
「アンディ経由で提案するんじゃなかったのか?」
確かそんな話をしてなかったっけ?
「肩もみ用の魔具とかお尻の暖まるクッション程度なら良いけど、魔術回路の効率性とか製造方法が変わる可能性があるなら規模が違うじゃん。
ちゃんときっちり制度が固められる前に魔術回路の方が上手くいってうっかり話が漏れたりしたら、全部ひっくり返されかねないよ。
そうなったら待ち時間が増えるからね~。
大きくなりそうな話は上の方で最初にしっかり利権も含めて決めさせないと」
シャルロが肩を竦めながら言った。
流石貴族のお坊ちゃま。
利権とか影響の大きさとかでどう話を進めるべきかなんて俺じゃあ考え付かないな。
というか、俺だったらそんな利権が入ってくるような問題は面倒で、最初から守るのは無理だと諦める。
アレクだったら・・・どうだろう?
少なくともシャルロみたいに特に力むことなく『上に決めさせる』なんてあっさりとは言えない気がする。
まあ、アレクも40~50年後ぐらいには商業ギルドのトップかトップの補佐位になっているかも知れないから、将来的にはってやつかな?
・・・アレクの長兄氏はそこまで野心がないか?
アレクの母親がどの程度頑張って尻を叩くかと、それにどのくらいまで従うかによるかな?
まあ、それは今はどうでも良い。
まずは学院長に会いに行くか。
とは言え。
「ちょっと魔術回路に魔石の粉を混ぜた銅線や鉄線を使ったらどうなるか、まず実験してみないか?
アイディアだけで話をした場合に、以前の転移箱みたいに誰かにアイディアを盗まれて先に製作されちゃうかもだぞ?」
「流石に何もかも私たちで造るのは無理だから、最初の試行錯誤は他に任せても良いんじゃないか?
最初のちょっとした試行錯誤程度で改善できないぐらい良い出来の物が出来上がってしまうなんて事はないだろう。色々と試行錯誤して徐々に良くなっていくなら後から色々実験しても良いんじゃないか?」
肩を竦めながらアレクが言った。
まあ、確かにね~。
俺たちはちょっと新しくて便利な魔具を造るのが楽しいんであって、何が何でも画期的な技術開発を独占開発してぼろ儲けしたい訳ではないんだし。
ぼろ儲けをしたいなら、海底に眠る沈没船を蒼流や清早に探して持ってきてもらうのが一番手っ取り早い。
でも、あまり楽過ぎると人生楽しくないからね。
欲張らんで良いか。
【後書き】
油性ペンで描ける魔術回路w
中サイズの新しい魔石を砕いた粉、小サイズの新しい魔石を砕いた粉、中小の各サイズの魔石で破棄寸前の魔石を砕いた粉と、大サイズの破棄寸前の魔石を砕いた粉を混ぜた緑熱《ジェイパル》石を入れた手袋を前に、シャルロがプニプニと手袋を指で押しながら言った。
ここ数日、砕いて使う為に魔石を何種類も入手し、元の魔石の大きさだけでなく砕いた魔石の細かさや残存魔力の量、混ぜる時の緑熱《ジェイパル》石の状態等々を色々と試してきた。
ちなみに新しい大きな魔石は高すぎるので試していない。
魔石って大きいのは馬鹿みたいに高くなるから。
面白い事に、新しい魔石だと中サイズと小サイズで多少反応が違うのだが、破棄寸前で魔力の再充填が殆ど出来なくなった魔石だとサイズに関係なくほぼ同じ効果になった。
しかもシャルロが言ったように破棄寸前の魔石を細かく砕いた微細な粉を混ぜるのが一番望ましい効果が得られたのだ。
「お蔭でかなり経済的に造れることになって助かった。
何か他にも破棄寸前の魔石の使い道が無いか、実験してみたいところだな。
それこそ、インクみたいにして魔術回路を描けないか、実験してみても良いかも知れない」
アレクが提案した。
「ただ水や油に溶いただけの粉じゃあ乾いた時にバラバラになって魔術回路が崩壊しそうじゃないか?
膠とかに混ぜても濡れたり熱くなった時に溶けるんじゃあ困るし、魔術回路が変な風に変形して暴発とかしたら責任問題になりそうだぜ。
それよりも銅線や鉄線を精製する際に混ぜ込んで魔術回路を作ったら何か効果があるか試した方が良いかも?」
インクにして筆やペンで描ける魔術回路というのも確かに魅力的だが、魔具とは魔石と言うそれなりに危険にもなり得る物の魔力を安全かつ便利に取り出す為の道具でもあるのだ。
安全性が絶対に損なわれない様にしないといけない。
「取り敢えず魔術回路への活用は後にして、まずはこの改造版緑熱石を使った肩もみ用魔具をさっさと完成させよう。
そうだ、ウィルは僕たちが試作品を作って試している間に学院長の所に行って、素材に関する特許制度みたいなのに関して相談して来てよ。
改造版緑熱石だけじゃなくってそれこそ魔術回路のインク版とか、より効率のいい魔術回路を造る素材にしても、普通の商業特許じゃなくって魔術院の特許で保護させないと大した効果はなさそうだし、どうせ魔具に使うんだから魔術院から規制させてお金も徴収させる方が僕たちにとっても面倒が無くていいでしょ?」
シャルロが一番良かった手袋型魔具の試作品をプニプニと頭に当てて動かしながら提案した。
「アンディ経由で提案するんじゃなかったのか?」
確かそんな話をしてなかったっけ?
「肩もみ用の魔具とかお尻の暖まるクッション程度なら良いけど、魔術回路の効率性とか製造方法が変わる可能性があるなら規模が違うじゃん。
ちゃんときっちり制度が固められる前に魔術回路の方が上手くいってうっかり話が漏れたりしたら、全部ひっくり返されかねないよ。
そうなったら待ち時間が増えるからね~。
大きくなりそうな話は上の方で最初にしっかり利権も含めて決めさせないと」
シャルロが肩を竦めながら言った。
流石貴族のお坊ちゃま。
利権とか影響の大きさとかでどう話を進めるべきかなんて俺じゃあ考え付かないな。
というか、俺だったらそんな利権が入ってくるような問題は面倒で、最初から守るのは無理だと諦める。
アレクだったら・・・どうだろう?
少なくともシャルロみたいに特に力むことなく『上に決めさせる』なんてあっさりとは言えない気がする。
まあ、アレクも40~50年後ぐらいには商業ギルドのトップかトップの補佐位になっているかも知れないから、将来的にはってやつかな?
・・・アレクの長兄氏はそこまで野心がないか?
アレクの母親がどの程度頑張って尻を叩くかと、それにどのくらいまで従うかによるかな?
まあ、それは今はどうでも良い。
まずは学院長に会いに行くか。
とは言え。
「ちょっと魔術回路に魔石の粉を混ぜた銅線や鉄線を使ったらどうなるか、まず実験してみないか?
アイディアだけで話をした場合に、以前の転移箱みたいに誰かにアイディアを盗まれて先に製作されちゃうかもだぞ?」
「流石に何もかも私たちで造るのは無理だから、最初の試行錯誤は他に任せても良いんじゃないか?
最初のちょっとした試行錯誤程度で改善できないぐらい良い出来の物が出来上がってしまうなんて事はないだろう。色々と試行錯誤して徐々に良くなっていくなら後から色々実験しても良いんじゃないか?」
肩を竦めながらアレクが言った。
まあ、確かにね~。
俺たちはちょっと新しくて便利な魔具を造るのが楽しいんであって、何が何でも画期的な技術開発を独占開発してぼろ儲けしたい訳ではないんだし。
ぼろ儲けをしたいなら、海底に眠る沈没船を蒼流や清早に探して持ってきてもらうのが一番手っ取り早い。
でも、あまり楽過ぎると人生楽しくないからね。
欲張らんで良いか。
【後書き】
油性ペンで描ける魔術回路w
0
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる