832 / 1,038
卒業後
831 星暦557年 紫の月 29日 肩凝り対策(22)
しおりを挟む
アスカやサラ君に頼りっきりになるのは良くないということで、まずは自力で手当たり次第に素材を混ぜていく。
色々と可能性を試す為に比較的危険ではない素材は工房に多種集めてあるので、それだけでもかなり時間がかかる。
しかも油や水で溶かしつつみたいな混ぜ方も試すと更に時間がかかるし。
とは言え、現時点ではあまり有効な組み合わせは見つかっていなかった。
油と一緒に石灰と混ぜると微妙に魔力が抜ける速度が遅くなり、温度の低下と固くなる時間が単体の時よりも2割ぐらい長くかかるのだが・・・それでも最終的には石の様に固くなるし、魔力を込めすぎるとあっさり分離してしまうのでこれもまた困る。
そう。
色々実験してみて分かったのだがこの緑熱《ジェイパル》石、砕いて混ぜて魔力を少しだけしか通さずに微妙に暖かい程度にとどめておくなら混ざったままで維持できるのだが、うっかり魔力を通し過ぎるとあっという間に液化して混ぜた素材から分離してしまうのだ。
微妙に暖かい程度の状態でもそれなりに柔らかみがあるのでその状態でマッサージに使うのも悪くはないのだが、魔力を込め過ぎると分離した上にグニャっと液化して柔らかくなりすぎるので困るのだ。
しかもそうなったら袋から取り出して砕き直さないと魔力が抜けても混ざっていた状態に戻らず、次に魔力を通しても普通に単体の時と同じ状態になる。
魔力を通して液化した状態では他の素材とも混ざろうとしないし。
「かなりこの素材って気難しいねぇ」
シャルロがため息をつきながら手袋型の袋から分離してしまった素材を取り出して、睨みつけた。
いい加減、想定以上に頑固な素材にイラついてきたようだ。
「確かに、捨てたくなるのも分かるな。
暖まって柔らくなるなんて色々使い勝手がありそうなものなのに何故・・・と思ったが、こうも気難しいとこちらが負けそうだ」
アレクが立ち上がってお茶セットの方へ向かいながら応じる。
そろそろ、ちょっと甘い物でも食べて気分転換したいな。
クッキーの缶を手に取り、ソファに向かった。
「魔力を込めて液化したら基本的に何と混ぜておいても純化してしまう感じだね。
次は魔力を込めずに高熱にしたら熔けるのか、その状態で他の素材と混ぜたらどうなるかの実験かな?」
湯沸かし器をセットし、茶葉を入れたティーポットをソファの前のローテーブルまで持ってきたアレクにシャルロが言う。
「どれもこれも全部だめだったら、アスカに何か手があるのか聞いてみよう。
まあアスカにとってはそのままの状態が一番使いやすいかもだから、人間みたいな加工をしようと考えてなくて何も知らない可能性も高いが」
というか、土の中を泳ぐ幻獣なのだ。
魔力が抜けて固い石に戻ってもアスカにとっては固くないのかも?
人間と違って微量の魔力を出し続けて暖かくしておくのも難しくないだろうし。
つうか、アスカって熱湯のような温泉でも平気だったから、温度感覚ってかなり人間と違うっぽいんだよなぁ。
「なんかこう、魔力を込めると冷たくなるとかクルクル動くとかいった魔術回路なしでも魔力に直接反応する素材って他にもあるのかな?
難しいけど中々面白そうだよね」
シャルロがテーブルの上に置いたクッキーの缶を開けながら言った。
「まあ、単純な魔術回路だったら発熱効率はそちらの方がいいなんてこともあるようだが。
そう考えると冷やす方の効率も普通に魔術回路を使う方がいいかも知れないよ?」
お湯が沸いたポットを取りに立ち上がったアレクが指摘する。
「魔術回路って言うのは加工に金がかかるしいつかは壊れるからなぁ。
『魔力を流し込む』ってだけの単純な仕組みとスイッチで済むんだったらそちらの方が製造費は少ないだろ。
ただまあ、魔力消費の効率が劣っていたら微妙だし、考えてみたら魔術回路じゃないとしたら魔術院での特許登録が出来ないかもだが」
魔力に反応する素材の製造方法に関する特許なんてあるんかね?
「・・・確かにな。
この素材が上手く使えるようだったら、アンディ・・・いや、学院長経由で魔術院に相談した方が良さそうだ。
もしも新たに魔力反応素材関連の特許制度が出来上がり、それが儲かるとなったら大地系の幻獣と契約している魔術師は他にもいるだろうから、色々と登録されるかもしれないな」
アレクがポットにお湯を注ぎながら言った。
「まあ、実用性があるか否かだよねぇ・・・。
というか、使い勝手のいい魔具に造り上げられるかが問題だね。
現時点ではちょっと見通しが暗いかも~」
ぱくりとクッキーを口に放り込みながらシャルロがため息を吐いた。
考えてみたら、過去の文明とかでそう言う素材って使われてなかったのかな?
遺跡が見つかった際に魔術回路は確認しているって聞くが、素材に魔力を通してみるっていうのは誰もやって無さそうだが・・・そんな遺物があるにしてもどうやって見つけるかは難しそうだ。
明日にでもシェイラに相談しに行こうかな?
【後書き】
デート決定w
色々と可能性を試す為に比較的危険ではない素材は工房に多種集めてあるので、それだけでもかなり時間がかかる。
しかも油や水で溶かしつつみたいな混ぜ方も試すと更に時間がかかるし。
とは言え、現時点ではあまり有効な組み合わせは見つかっていなかった。
油と一緒に石灰と混ぜると微妙に魔力が抜ける速度が遅くなり、温度の低下と固くなる時間が単体の時よりも2割ぐらい長くかかるのだが・・・それでも最終的には石の様に固くなるし、魔力を込めすぎるとあっさり分離してしまうのでこれもまた困る。
そう。
色々実験してみて分かったのだがこの緑熱《ジェイパル》石、砕いて混ぜて魔力を少しだけしか通さずに微妙に暖かい程度にとどめておくなら混ざったままで維持できるのだが、うっかり魔力を通し過ぎるとあっという間に液化して混ぜた素材から分離してしまうのだ。
微妙に暖かい程度の状態でもそれなりに柔らかみがあるのでその状態でマッサージに使うのも悪くはないのだが、魔力を込め過ぎると分離した上にグニャっと液化して柔らかくなりすぎるので困るのだ。
しかもそうなったら袋から取り出して砕き直さないと魔力が抜けても混ざっていた状態に戻らず、次に魔力を通しても普通に単体の時と同じ状態になる。
魔力を通して液化した状態では他の素材とも混ざろうとしないし。
「かなりこの素材って気難しいねぇ」
シャルロがため息をつきながら手袋型の袋から分離してしまった素材を取り出して、睨みつけた。
いい加減、想定以上に頑固な素材にイラついてきたようだ。
「確かに、捨てたくなるのも分かるな。
暖まって柔らくなるなんて色々使い勝手がありそうなものなのに何故・・・と思ったが、こうも気難しいとこちらが負けそうだ」
アレクが立ち上がってお茶セットの方へ向かいながら応じる。
そろそろ、ちょっと甘い物でも食べて気分転換したいな。
クッキーの缶を手に取り、ソファに向かった。
「魔力を込めて液化したら基本的に何と混ぜておいても純化してしまう感じだね。
次は魔力を込めずに高熱にしたら熔けるのか、その状態で他の素材と混ぜたらどうなるかの実験かな?」
湯沸かし器をセットし、茶葉を入れたティーポットをソファの前のローテーブルまで持ってきたアレクにシャルロが言う。
「どれもこれも全部だめだったら、アスカに何か手があるのか聞いてみよう。
まあアスカにとってはそのままの状態が一番使いやすいかもだから、人間みたいな加工をしようと考えてなくて何も知らない可能性も高いが」
というか、土の中を泳ぐ幻獣なのだ。
魔力が抜けて固い石に戻ってもアスカにとっては固くないのかも?
人間と違って微量の魔力を出し続けて暖かくしておくのも難しくないだろうし。
つうか、アスカって熱湯のような温泉でも平気だったから、温度感覚ってかなり人間と違うっぽいんだよなぁ。
「なんかこう、魔力を込めると冷たくなるとかクルクル動くとかいった魔術回路なしでも魔力に直接反応する素材って他にもあるのかな?
難しいけど中々面白そうだよね」
シャルロがテーブルの上に置いたクッキーの缶を開けながら言った。
「まあ、単純な魔術回路だったら発熱効率はそちらの方がいいなんてこともあるようだが。
そう考えると冷やす方の効率も普通に魔術回路を使う方がいいかも知れないよ?」
お湯が沸いたポットを取りに立ち上がったアレクが指摘する。
「魔術回路って言うのは加工に金がかかるしいつかは壊れるからなぁ。
『魔力を流し込む』ってだけの単純な仕組みとスイッチで済むんだったらそちらの方が製造費は少ないだろ。
ただまあ、魔力消費の効率が劣っていたら微妙だし、考えてみたら魔術回路じゃないとしたら魔術院での特許登録が出来ないかもだが」
魔力に反応する素材の製造方法に関する特許なんてあるんかね?
「・・・確かにな。
この素材が上手く使えるようだったら、アンディ・・・いや、学院長経由で魔術院に相談した方が良さそうだ。
もしも新たに魔力反応素材関連の特許制度が出来上がり、それが儲かるとなったら大地系の幻獣と契約している魔術師は他にもいるだろうから、色々と登録されるかもしれないな」
アレクがポットにお湯を注ぎながら言った。
「まあ、実用性があるか否かだよねぇ・・・。
というか、使い勝手のいい魔具に造り上げられるかが問題だね。
現時点ではちょっと見通しが暗いかも~」
ぱくりとクッキーを口に放り込みながらシャルロがため息を吐いた。
考えてみたら、過去の文明とかでそう言う素材って使われてなかったのかな?
遺跡が見つかった際に魔術回路は確認しているって聞くが、素材に魔力を通してみるっていうのは誰もやって無さそうだが・・・そんな遺物があるにしてもどうやって見つけるかは難しそうだ。
明日にでもシェイラに相談しに行こうかな?
【後書き】
デート決定w
0
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる