シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

800 星暦557年 紫の月 4日 人探し(3)

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「3日、ね。
随分と急ぐが・・・こちらも本気で頑張ってみようじゃないか。
ちなみに、お前さんにも協力してもらえるんだよな?」
赤が顎を擦りながらにやりと笑った。

「どさくさ紛れに目障りな組織の隠し金庫探しとかに利用されるのは御免だぞ?」
なんと言っても本職《プロ》の集団なんだから、俺が居なくても特に問題なく隠し金庫を探せるとは思うが。

「最近ちょっと仁義を通さずに阿漕な人身売買モドキな斡旋業をやっている奴らが居るんでね。
下手に大型闘争に発展したらまとめて国から叩き潰されかねないから手を出しにくかったんだが、先日その邪魔な組織の一端が潰されたんで、ついでにまだ生き残ってる枝葉部分も根こそぎ刈り取っておこうと言う話が出ていてな。
そこにお前の探し人がいる可能性も高いんじゃないか?」
湯を沸かして珈琲を淹れながら赤が言う。

基本的に、裏社会のモットーは『目立たず、相互不干渉』だ。

情け容赦なく人の苦しみと血を金に換えるような悪事を働く組織も、賄賂を要求するような役人や貴族を避けて普通に活動する為にそれとなく法の網を搔い潜っている組織も、『違法組織』であることには変わりはなく、基本的に違法組織同士で争っているのが国の治安部隊に気付かれると手当たり次第に目についた奴が投獄されかねない。

酷い場合だと、悪徳役人に賄賂を払っていない比較的まともな裏組織のメンバーの方が死刑になり、平民や没落貴族を食い物にするような悪烈な組織の人間は罰金と『厳重注意』で済まされてしまうことすらある。

なので余程酷い事をやっていて国の注意を引きそうだと裏社会全体で合意できるようなケースでない限り、裏の組織同士での闘争はあまり行われることが無く、それこそ盗賊《シーフ》ギルドが目に余ると思っているような組織でも見て見ぬ振りをする以外選択肢がない事もあるのだ。

が。
どうやらあの人身売買組織はそれなりに大掛かりに色々やっていて、長としては潰したいと思っていたようだ。
相談もせずに赤が協力を呼び掛けてくるという事は、既に潰す手配もかなり進んでいるんだろうな。

・・・これってもしもシャルロの従姉妹がどっかの違法組織に捕まっているなら、この闘争の後まで待っていれば勝手に現れたかも??

まあ、闘争って関係ない傍観者にも被害が及ぶ場合があるからな。
一応協力した方が良いだろう。

「俺が協力した結果としてシャルロの従姉妹が見つかったら成功報酬のうち金貨5枚」
殆ど俺が見つけたような状況になったとしても全部報酬がギルドに行くなんてことになったら腹が立つ。

少しは貢献したんだったら報酬の一部を貰えるように交渉しておこう。

「よかろう」
あっさり赤が頷く。

「ちなみに、何をすれば良いんだ?
ほぼ確実に誘拐されるような丁度いい囮が居てそれを追跡するって言うならまだしも、既に攫われた人間を探すのは得意ではないぞ?」
当局からの捜査が入り、色々と秘密書類とかも見つかって逃げるか隠れるかで大騒ぎしているであろう組織が態々道を歩いている一般人を誘拐しようとするとは思えないから、囮を使うのは無理だろう。

そうでなくても王都は大きいのだ。
囮をふらふら歩かせても、そいつが狙った組織に攫われる保証はない。

「大体の拠点《アジト》は分かっているんだ。
まずは一気に残った拠点《アジト》を叩き、そこで隠し金庫や隠し部屋を漁って知られていなかった協力者がいないかを探すのに協力してくれ」

なるほど。
悪事の実行者側が使っている拠点は大体盗賊シーフギルドに知られているものの、役人や貴族側の協力者を網羅出来ていなければそっちに捕まっている人間がいた場合は救出できないし、今だったら証拠ごと治安部隊の方に突き出せば貴族も役人も、がっつり国が本腰を入れて調べてくれるだろう。

「オレファーニ侯爵家の方にすっぽかされた後の二度目の身代金要求は来ていないんだ。
下手をしたら、オレファーニ侯爵家からも見捨てられたと勘違いして犯罪組織でも毒親よりはましだと思って協力して働いている可能性もゼロではないから、基本的に若い人間は殺さない様にしっかり拘束してから調べてくれ」
確か16歳と言う話だから、服装や体形によっては少年の格好をしている可能性だってある。

救出しようと犯罪組織を叩いて、そこの下っ端だと思って殺した若いのがシャルロの従姉妹だったりしたら目も当てられない。

赤が頷いた。
「確かにな。
露骨におっさんじゃない限り、誰も殺さない様に言っておくよ」

まあ、おっさんでも問答無用に殺すのは良くないとは思うけど、そこら辺は任せよう。


【後書き】
盗賊ギルドは完全に違法組織だけどそこまで悪烈じゃないって感じ。
流石に悪事を全くやっていないとは言えませんw
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