シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

797 星暦557年 紫の月 2日 一斉調査(14)

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【前書き】
ウォレン爺さんの視点からの裏話です

【本文】
>>>サイド ウォレン・ガスラート

「今年は当たり年だったな。
ウォレン卿に推薦してもらった魔術師は素晴らしい。是非ともウチに引き抜きたいところだ」
10日間の年初王都港倉庫一斉調査の初期報告に来た第二騎士団のベルトラン・ファルコス団長が報告書を指しながら言った。

今日は港を含む国境における国防が主たる任務である第2騎士団と情報関連が主たる責務である第3騎士団、及び通関の責任部署である国税局の人間が集まっている。

「まてまて、あいつは国防じゃなくって情報戦にこそ本領を発揮する人間だ。
軍に引き抜けるなら第3騎士団の方が絶対に活用できる!」
慌ててダグロイドが異議を唱える。

「情報収集が得意なら、必要に応じて情報収集部門に出向する形にして通常は国税局の方で税務調査の隠し金庫探しに協力してもらうのが国の財政にとって一番プラスなのでは?」
税務局長のフェリシティ・ハルティーヴが更に口を挟んだ。

どいつもこいつも。
「大前提としてあ奴が国の為に働きたがるかという視点が抜けておるぞ。
臨時に金で雇われるのは吝かではないが、軍も役人も大嫌いだし、仲間とやっている事業も上手く稼いでいるから継続的に国のために働かせるのは無理じゃ」

儂のせいでウィルが引き抜かれたりしたら、シャルロに怒られてしまうではないか!
しかもあの連中はそれなりに面白く役に立つ魔具を開発している。
それを失くすのも惜しい。

「こう・・・事業が失敗して転職を考えたりは?」
ベルトランが希望的観測を口にする。

「軍が大量購入を決めた携帯型通信機や空滑機《グライダー》を開発しているし、新航路発見に関与しているからパストン島の利権も有しているから、まず無理だろう。何より・・・水精霊の加護持ちだぞ?
下手に手を出して怒らせたら不味いだろ」
溜め息を吐きながらダグロイドが勧誘したい側からしたら微妙に残念な事実を明かした。

海路の交易はアファル王国にとっても重要な財源だ。
水精霊を怒らせるのは、不味い。

「水精霊だったらオレファーニ侯爵子息の高位精霊がいるからなんとかならん・・・かな?」
ベルトランが諦めずに続ける。

「一緒に事業をしている仲間の一人がそのシャルロ・オレファーニじゃ。
下手に手を出すと王都が水没するぞ」
シャルロが優しいから王都全部は水没しないかも知れないが・・・彼らの事業を潰すなんて理不尽な事をしたら、それを万が一でも国王が承認していた場合は間違いなく王宮が水で粉砕される。

「まあ、それに下町出身で警備兵に暴力を振るわれてそれなりに苦い思いをさせられて育ってきた男だ。
下手に強制しようとしたら国を捨てる」
溜め息を吐きながらダグロイドが続けた。

「あぁ・・・。
そう言えば、下町改革は上手く行っているのか?」
ベルトランが誰にともなく尋ねた。

「まだ始めたばかりじゃが、少なくとも多少は上手く行っているようじゃの。
このまま改善し続けるよう、しっかり目を光らせておく必要があるが。
ウィルに関しては、心眼《サイト》というのはどの魔術師でもある程度は持っている能力らしいから、港の倉庫区域周辺の結界の下に地下通路が無いかぐらいの調査だったら定期的に軍の魔術師でも出来るのではないか?」
年初の一斉調査は数年おきに本腰を入れると色々と大量に違反が見つかり多額の罰金が国庫に入るのはいつものことなのだが、地下通路は流石に不味かった。

あれは金だけの問題ではなく、国防にも差し支えかねないので地下通路だけは少なくとも監視する必要があるだろう。

「ふむ。
常時万全な状態で何も見逃さないよう監視し続けると他に抜け道を探されるからな。
それとなく見逃しておいて監視し続ける体制の方が効率が良いが・・・本当に見逃すのは困るから、ちょっとそこら辺は工夫が必要だな」
ベルトランが顎を擦りながら言う。

それとなく監視しているつもりでも、引継ぎで失敗すると王宮の様に忘れられた秘密通路が複数出てくるなんて事にもなりかねないので、中々難しい問題ではある。
あちらは第1騎士団の責任下の話なのでここでも例示できないが。

「王都の港にあった地下通路が潰されたことで、他の手段での密入出国をする者が増えるだろう。
それこそ空滑機《グライダー》改で海岸線をパトロールして漁船や海軍船に目につきにくく、それなりに街道にも出やすい場所を調査させるのもありかもしれないな」
ダグロイドが提案する。

「シャルロ殿の精霊にそこら辺の手助けを頼むのは、無理なのだろうか?」
ベルトランがこちらに顔を向ける。

「漁船を含めた全ての船が上陸するのを防ぐといったことは可能だろうが、『怪しげな船』だけを足止めなんて無理じゃろ。
海軍船だけだったら何か印《マーカー》のようなものを載せておけば例外扱い出来るらしいが、他国の商船にもそれを渡していたら密輸業者に流れるのは時間の問題だから、意味が無かろう」
確か、パストン島の方で私掠船に街が襲われた時に何やら条件を付けて敵方の船だけを足止めしたとか警戒対象にしたとかと言った話を聞いた気がする。

戦時中だったら海軍船に印《マーカー》を渡し、小型の漁船は対象外としたらなんとかなるかも知れないが・・・平時中の交易が普通に行われている状態で精霊に国防を頼むのは無理だ。

「残念だな。
諦めて、空からの監視を本格的に試してみるか・・・」
溜め息を吐きながらベルトランが言った。

どうやらウィルの勧誘は諦めてくれたらしい。

助かった。
シャルロに怒られたくないし、あまり執拗に勧誘してウィルに今後の臨時依頼すら受けて貰えなくなっては困る。


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