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卒業後
794 星暦557年 赤の月 25日 一斉調査(11)
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「疲れてるな」
濃厚な隈を目の下に生やしているタルージュを見て思わず声が漏れた。
昨日帰る前に、幾つかの屋敷に軍が今朝行う予定の強制捜査に協力してくれと頼まれてヴェルナスも合意したので良いと言ったのだが・・・寝てないだろ??
「人身売買組織の上層部や権力持ちな顧客を一網打尽にする為に、情報を漏らさないで強制捜査先を絞ろうと思うと迂闊に最初からいた人間以上に人員を増やせなくてな・・・。
今日の捜査で証拠を押収したら、一旦寝る」
目の周りを指でマッサージしながらタルージュが教えてくれた。
なるほど。
関わる人間が多ければ多い程内通者がいる可能性が高まるし、内通者じゃなくてもうっかり口を滑らす粗忽者も増えるだろう。
新しく誰かを加えようにもそいつの背後関係とかを調べている間に強制捜査の日になってしまうから、どうしても最初から調査チームにいて情報を漏らしていない、信頼性に関する確認が既に終わっている元からの人員で頑張らざるを得なくなる。
しかも死ぬ程忙しくすることで余計な外部への接触を難しく出来るし。
お陰で死ぬ程疲れているようだ。
全てが終わった後のボーナスがたっぷり出ると祈っておいてやるよ~。
「取り敢えず、どんどん屋敷を回って隠し場所を暴いていけば良いんだな?」
倉庫調査もまだ終わっていないし、只管隠してある物を暴いて回れば良いと聞いてる。
うっかりへそくりや浮気の証拠とかも見つけてしまいそうだが・・・まあ、へそくりはまだしも、浮気はやる方が悪いし、多分違法行為に関係なければ捜査員の方も見なかったふりをするだろう。
と言うか、浮気の証拠なんぞ残さなきゃいいのに。
なんだってヤバい恋沙汰に関わる人間ってああも恋文を交わしたがるのか、理解を超えるね。
後で脅迫されそうな弱みを他人に渡すなんて、阿呆の極みだろうに。
自分が書いた文を相手が捨ててくれるかなんて何の確証も無いのだ。
危険すぎる。
悪意が無くても『思い出に』なんて自分に言い聞かせて捨てる約束を破って残しておき、後で拗れたら可愛さ余って憎さ百倍なんて事になりかねない。
まあ、実際に脅迫する様な奴は最初から悪用を想定して入手してるとしか思えない数を揃えている事が多いが。
せめて、仲が上手く行っている間に盗賊《シーフ》ギルドにでも依頼を出してヤバい手紙を全部取り返して焼却するべきだが・・・大抵そう言う事を思いつくのって拗れた後で、色々と隠されてプロを雇っても全部回収できないことが多いんだよなぁ。
大体脅迫される側のうっかりな人間って、裏のギルドに伝手も無い事が多いし。
まあ、脅迫の材料になる様な付き合いはしないのが一番だな。
俺たちを乗せた馬車が、何やら立派そうな屋敷の前で止まった。
「ああ。ガンガン隠し場所を暴いてくれ。中身の確認はこちらでやる。
まずはここだ」
「密輸関連強制捜査だ!」
ノックに応じた下男《フットマン》を押しのけて捜査員が中に駈け込んで行く。
最初は書斎かな?
◆◆◆◆
「腹減った・・・」
3軒ほど屋敷を回り隠し引き出しとか隠し金庫とかを暴きまくった俺は、港へ戻る馬車の中で空腹を訴えた。
早朝に食べたサンドイッチの後は只管動き回っていたのでちょっと一息ついてクッキーを楽しむ暇も無かった。
今度から、こういう急ぐ捜査に駆り出される時は鞄にクッキーを入れておくようにしておこう。
クッキーを持っておけばせめて移動中の馬車の中で食べられる。
ちょっと昼食時間を過ぎてしまったので今では港の屋台で売っている肉とかも美味しいのは売り切れているだろうし、残っているのはちょっと火が通りすぎてパサついていそうだ。
「大丈夫だ、ちゃんと昼食は準備してある」
ヴェルナスが言った。
「おお~。
助かる!」
意外だな。
おっさんがそんなに気が利くタイプには見えなかった。
「国軍と動き回ると食事の時間を無視されることが多いんだ。
あいつらは拠点に日中ずっと開いている食堂があるから、ちゃんと昼食時間帯に食べなきゃいけないっていう意識が無いんだよ」
顔をしかめながらヴェルナスが教えてくれた
「なるほど。
ちなみに、なんだってヤバい人身売買の購入者って王都じゃなくってもっと地方の都市とかに被害者を隠さないんだ?」
地方の権力者だったら王都よりも何かがあった時に地元の方が色々と握りつぶしやすいだろうに。
「まあな。
だが、冬の社交シーズンの開始時期に王都に来た際に買った人間だったら、そのまま王都で楽しんで地元に帰る際に荷物に紛れ込ませることが多いんだ。
社交シーズン前に買われた人間は・・・生き残っている可能性が低いし、王都での取り調べが終わった後に人を遣っても状況は変わらないだろう」
マジか。
ヤバい人身売買で買われた連中の生存期間がそんなに短いとは。
一番酷い娼館に売られた女だって5年程度は生き残るって言うのに。
だから、貧困のせいで家族を娼館に売る羽目になった人間は買い戻す気があるなら5年を目安に必死になって金をためようとする。
攫われてきたような人間は元々救われる可能性は低いとは言え・・・なんともやるせない。
濃厚な隈を目の下に生やしているタルージュを見て思わず声が漏れた。
昨日帰る前に、幾つかの屋敷に軍が今朝行う予定の強制捜査に協力してくれと頼まれてヴェルナスも合意したので良いと言ったのだが・・・寝てないだろ??
「人身売買組織の上層部や権力持ちな顧客を一網打尽にする為に、情報を漏らさないで強制捜査先を絞ろうと思うと迂闊に最初からいた人間以上に人員を増やせなくてな・・・。
今日の捜査で証拠を押収したら、一旦寝る」
目の周りを指でマッサージしながらタルージュが教えてくれた。
なるほど。
関わる人間が多ければ多い程内通者がいる可能性が高まるし、内通者じゃなくてもうっかり口を滑らす粗忽者も増えるだろう。
新しく誰かを加えようにもそいつの背後関係とかを調べている間に強制捜査の日になってしまうから、どうしても最初から調査チームにいて情報を漏らしていない、信頼性に関する確認が既に終わっている元からの人員で頑張らざるを得なくなる。
しかも死ぬ程忙しくすることで余計な外部への接触を難しく出来るし。
お陰で死ぬ程疲れているようだ。
全てが終わった後のボーナスがたっぷり出ると祈っておいてやるよ~。
「取り敢えず、どんどん屋敷を回って隠し場所を暴いていけば良いんだな?」
倉庫調査もまだ終わっていないし、只管隠してある物を暴いて回れば良いと聞いてる。
うっかりへそくりや浮気の証拠とかも見つけてしまいそうだが・・・まあ、へそくりはまだしも、浮気はやる方が悪いし、多分違法行為に関係なければ捜査員の方も見なかったふりをするだろう。
と言うか、浮気の証拠なんぞ残さなきゃいいのに。
なんだってヤバい恋沙汰に関わる人間ってああも恋文を交わしたがるのか、理解を超えるね。
後で脅迫されそうな弱みを他人に渡すなんて、阿呆の極みだろうに。
自分が書いた文を相手が捨ててくれるかなんて何の確証も無いのだ。
危険すぎる。
悪意が無くても『思い出に』なんて自分に言い聞かせて捨てる約束を破って残しておき、後で拗れたら可愛さ余って憎さ百倍なんて事になりかねない。
まあ、実際に脅迫する様な奴は最初から悪用を想定して入手してるとしか思えない数を揃えている事が多いが。
せめて、仲が上手く行っている間に盗賊《シーフ》ギルドにでも依頼を出してヤバい手紙を全部取り返して焼却するべきだが・・・大抵そう言う事を思いつくのって拗れた後で、色々と隠されてプロを雇っても全部回収できないことが多いんだよなぁ。
大体脅迫される側のうっかりな人間って、裏のギルドに伝手も無い事が多いし。
まあ、脅迫の材料になる様な付き合いはしないのが一番だな。
俺たちを乗せた馬車が、何やら立派そうな屋敷の前で止まった。
「ああ。ガンガン隠し場所を暴いてくれ。中身の確認はこちらでやる。
まずはここだ」
「密輸関連強制捜査だ!」
ノックに応じた下男《フットマン》を押しのけて捜査員が中に駈け込んで行く。
最初は書斎かな?
◆◆◆◆
「腹減った・・・」
3軒ほど屋敷を回り隠し引き出しとか隠し金庫とかを暴きまくった俺は、港へ戻る馬車の中で空腹を訴えた。
早朝に食べたサンドイッチの後は只管動き回っていたのでちょっと一息ついてクッキーを楽しむ暇も無かった。
今度から、こういう急ぐ捜査に駆り出される時は鞄にクッキーを入れておくようにしておこう。
クッキーを持っておけばせめて移動中の馬車の中で食べられる。
ちょっと昼食時間を過ぎてしまったので今では港の屋台で売っている肉とかも美味しいのは売り切れているだろうし、残っているのはちょっと火が通りすぎてパサついていそうだ。
「大丈夫だ、ちゃんと昼食は準備してある」
ヴェルナスが言った。
「おお~。
助かる!」
意外だな。
おっさんがそんなに気が利くタイプには見えなかった。
「国軍と動き回ると食事の時間を無視されることが多いんだ。
あいつらは拠点に日中ずっと開いている食堂があるから、ちゃんと昼食時間帯に食べなきゃいけないっていう意識が無いんだよ」
顔をしかめながらヴェルナスが教えてくれた
「なるほど。
ちなみに、なんだってヤバい人身売買の購入者って王都じゃなくってもっと地方の都市とかに被害者を隠さないんだ?」
地方の権力者だったら王都よりも何かがあった時に地元の方が色々と握りつぶしやすいだろうに。
「まあな。
だが、冬の社交シーズンの開始時期に王都に来た際に買った人間だったら、そのまま王都で楽しんで地元に帰る際に荷物に紛れ込ませることが多いんだ。
社交シーズン前に買われた人間は・・・生き残っている可能性が低いし、王都での取り調べが終わった後に人を遣っても状況は変わらないだろう」
マジか。
ヤバい人身売買で買われた連中の生存期間がそんなに短いとは。
一番酷い娼館に売られた女だって5年程度は生き残るって言うのに。
だから、貧困のせいで家族を娼館に売る羽目になった人間は買い戻す気があるなら5年を目安に必死になって金をためようとする。
攫われてきたような人間は元々救われる可能性は低いとは言え・・・なんともやるせない。
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