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卒業後
784 星暦557年 赤の月 15日 一斉調査
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「王都の港で10日程、通関業務調査に協力してもらいたいんじゃが」
ウォレン爺が美顔器の微調整をしていた俺たちの工房に突然現れた。
シャルロのお気に入りな焼き菓子をしっかり大量にお土産に持ってきたからシャルロはニコニコだが、アレクは微妙な表情、俺はうんざり顔だ。
「え~っと俺って魔具開発をやっている魔術師なんだけど。
どこをどう転んだら通関業務なんぞに関わることになるんでしょ?」
軍部の呪具や盗聴用魔具探しって言うならまだしも、通関業務って言ったら脱税目的の密輸調査とかだろ?
高関税な贅沢品とか違法な麻薬とかを隠して持ち込むのを見つけたいんだろうけど、基本的に魔術師である俺には関係ない話だろうが。
心眼《サイト》で探しても、麻薬もハーブも紅茶もほぼ同じように視えるから普通に箱詰めされてたら分からないぞ。
贅沢品に関しては見分けすら碌につかないし。
「年末って言うのは棚卸をするからその直前に色々と都合の悪い在庫を出荷する商家が多いんじゃ。
特にザルガ共和国は税金が酷いからな。
違法でなくても高額利益が期待できる積荷や在庫は基本的に年末年始は海の上に居る様に調整している。
それがもうそろそろアファル王国に入港する時期なんじゃ」
ウォレン爺が説明してくれた。
棚卸??
棚の中身なんていつでも確認しているものなんじゃないのか?
まあ、倉庫の中(金庫の中もだが)は色々とちょろまかされることが多いから、定期的にしっかり中身を数えて帳簿と確認する作業は確かに必要かもだが。
それが年末なのか。
何も一年で一番忙しくて気もそぞろになっている時期にやらなくても良いだろうに。
「魔具とか呪具の密輸品探しですか?」
「勿論それもじゃが、細工机の隠し引き出しの仕組みが分かるんじゃ。二重底とか、中身が上部と下部とで違っている箱とかもわかるじゃろ?
通関用の倉庫や通関後の商家用倉庫にある箱でそう言うのを見つけて欲しい」
シャルロが淹れたお茶を受け取り、しれっと自分が持ってきた焼き菓子に手を伸ばしながらウォレン爺が言った。
「まあ、その程度なら吝かじゃあ無いけど・・・それで10日も掛かります?」
港周辺は以前転送箱の魔術回路が盗まれた際にがっつり船の方を探したことはあるが、倉庫が10日も見回りに掛かるほど多かったとは気が付かなかった。
イマイチ港の倉庫って泥棒に入るには向いていないから、ガキの頃の行動範囲外だったんだよなぁ。
だが。
港と言えば、ヤバい密輸入品や密入国したがる人間や誘拐した奴隷モドキな人間を出すための秘密の地下通路があるって話だったが・・・あれってどうなんだろ?
港からの出入国関連の違法行為は盗賊《シーフ》ギルドとはまた別の裏組織が取り仕切っていたから、盗賊《シーフ》の間では半ば都市伝説的な話だったんだが。
まあ、現実的な話として人目が多いし兵が見張っている王都の港を使うよりも適当にどっかの海岸で小舟を使って人を動かす方が安上がりだし安全だから、単なる妄想に毛が生えたような話なんだろうな。
「10日も出ていて、構わないか?」
シャルロとアレクの方に確認する。
もうそろそろ美顔器の改造も終わりそうだし、次の開発に取り掛かろうかって話していたところなんだよね、俺たち。
「まだちょこちょこ細かい微調整のリクエストが来るし、ケレナの冷却コルセットに関しても実際に使った後の調整ももう少し必要だし、アレクにも実家のお手伝いの要請が来ていたようだから、まあ良いんじゃない?」
シャルロが肩を竦めながら言った。
「ああ。
美顔器の売り出しの方で母が張り切り過ぎているせいで兄の方にしわ寄せが行っているんでな。
ちょっと手伝いに来てくれと懇願されていたところだし丁度いいかも知れない」
アレクも小さく溜め息を吐きながら頷いて合意した。
あれなぁ。
すんげえ売れるって滅茶苦茶燃えているっぽいんだよなぁ、アレクのお袋さん。
下手に手を広げすぎると他の商家に恨まれるし、大きくなりすぎるとシェフィート商会に贅肉が付きすぎて動きが鈍くなるから困るって事で、長兄のホルザック氏は美顔器の売り込みを利用して競争相手の商家を食らいつくしそうな勢いの母親を止めるのに頭を抱えているらしい。
そっちに関してもアレクの手伝いが必要なのかも。
と言うか、そっちに関して、手伝いを切実に求めているのかもね~。
まあ、どちらにせよ。
俺はちょっと港で倉庫調査ですかね。
ちなみに報酬は幾らになるんだ?
倉庫に積んである箱を片っ端から確認するなんて面倒な事をやらされるんだ。危険手当は無くても、退屈手当を出してもらうぞ!
【後書き】
どんどん魔術師の仕事から外れていっている気が・・・
ウォレン爺が美顔器の微調整をしていた俺たちの工房に突然現れた。
シャルロのお気に入りな焼き菓子をしっかり大量にお土産に持ってきたからシャルロはニコニコだが、アレクは微妙な表情、俺はうんざり顔だ。
「え~っと俺って魔具開発をやっている魔術師なんだけど。
どこをどう転んだら通関業務なんぞに関わることになるんでしょ?」
軍部の呪具や盗聴用魔具探しって言うならまだしも、通関業務って言ったら脱税目的の密輸調査とかだろ?
高関税な贅沢品とか違法な麻薬とかを隠して持ち込むのを見つけたいんだろうけど、基本的に魔術師である俺には関係ない話だろうが。
心眼《サイト》で探しても、麻薬もハーブも紅茶もほぼ同じように視えるから普通に箱詰めされてたら分からないぞ。
贅沢品に関しては見分けすら碌につかないし。
「年末って言うのは棚卸をするからその直前に色々と都合の悪い在庫を出荷する商家が多いんじゃ。
特にザルガ共和国は税金が酷いからな。
違法でなくても高額利益が期待できる積荷や在庫は基本的に年末年始は海の上に居る様に調整している。
それがもうそろそろアファル王国に入港する時期なんじゃ」
ウォレン爺が説明してくれた。
棚卸??
棚の中身なんていつでも確認しているものなんじゃないのか?
まあ、倉庫の中(金庫の中もだが)は色々とちょろまかされることが多いから、定期的にしっかり中身を数えて帳簿と確認する作業は確かに必要かもだが。
それが年末なのか。
何も一年で一番忙しくて気もそぞろになっている時期にやらなくても良いだろうに。
「魔具とか呪具の密輸品探しですか?」
「勿論それもじゃが、細工机の隠し引き出しの仕組みが分かるんじゃ。二重底とか、中身が上部と下部とで違っている箱とかもわかるじゃろ?
通関用の倉庫や通関後の商家用倉庫にある箱でそう言うのを見つけて欲しい」
シャルロが淹れたお茶を受け取り、しれっと自分が持ってきた焼き菓子に手を伸ばしながらウォレン爺が言った。
「まあ、その程度なら吝かじゃあ無いけど・・・それで10日も掛かります?」
港周辺は以前転送箱の魔術回路が盗まれた際にがっつり船の方を探したことはあるが、倉庫が10日も見回りに掛かるほど多かったとは気が付かなかった。
イマイチ港の倉庫って泥棒に入るには向いていないから、ガキの頃の行動範囲外だったんだよなぁ。
だが。
港と言えば、ヤバい密輸入品や密入国したがる人間や誘拐した奴隷モドキな人間を出すための秘密の地下通路があるって話だったが・・・あれってどうなんだろ?
港からの出入国関連の違法行為は盗賊《シーフ》ギルドとはまた別の裏組織が取り仕切っていたから、盗賊《シーフ》の間では半ば都市伝説的な話だったんだが。
まあ、現実的な話として人目が多いし兵が見張っている王都の港を使うよりも適当にどっかの海岸で小舟を使って人を動かす方が安上がりだし安全だから、単なる妄想に毛が生えたような話なんだろうな。
「10日も出ていて、構わないか?」
シャルロとアレクの方に確認する。
もうそろそろ美顔器の改造も終わりそうだし、次の開発に取り掛かろうかって話していたところなんだよね、俺たち。
「まだちょこちょこ細かい微調整のリクエストが来るし、ケレナの冷却コルセットに関しても実際に使った後の調整ももう少し必要だし、アレクにも実家のお手伝いの要請が来ていたようだから、まあ良いんじゃない?」
シャルロが肩を竦めながら言った。
「ああ。
美顔器の売り出しの方で母が張り切り過ぎているせいで兄の方にしわ寄せが行っているんでな。
ちょっと手伝いに来てくれと懇願されていたところだし丁度いいかも知れない」
アレクも小さく溜め息を吐きながら頷いて合意した。
あれなぁ。
すんげえ売れるって滅茶苦茶燃えているっぽいんだよなぁ、アレクのお袋さん。
下手に手を広げすぎると他の商家に恨まれるし、大きくなりすぎるとシェフィート商会に贅肉が付きすぎて動きが鈍くなるから困るって事で、長兄のホルザック氏は美顔器の売り込みを利用して競争相手の商家を食らいつくしそうな勢いの母親を止めるのに頭を抱えているらしい。
そっちに関してもアレクの手伝いが必要なのかも。
と言うか、そっちに関して、手伝いを切実に求めているのかもね~。
まあ、どちらにせよ。
俺はちょっと港で倉庫調査ですかね。
ちなみに報酬は幾らになるんだ?
倉庫に積んである箱を片っ端から確認するなんて面倒な事をやらされるんだ。危険手当は無くても、退屈手当を出してもらうぞ!
【後書き】
どんどん魔術師の仕事から外れていっている気が・・・
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