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卒業後
771 星暦557年 藤の月 21日 ちょっと方向が違う方が良い?(12)
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「はぁ!」
力を込めつつも振りを小さくナイフを振り下ろす。
が、あっさりダレンに防がれてしまい・・・代わりにスルスルと伸びてきた剣を避けて後ろに飛びのく。
基本的に俺は長剣なんて持ち歩かない(と言うか持っていないし)ので、現実的な話として通常身に着けているナイフでの戦闘を練習している。
最初はナイフ同士でやりあい、俺がばてたらアレクとシャルロがダレンが持ってきた木剣でやりあっていたのだが、最後にさらに現実路線で行こうとダレンが言い出したせいで長剣を持ったダレンに対してナイフで立ち向かう羽目になっている。
ただでさえリーチが短いのに、俺より腕が良い相手に無理~~!!と言ったのだが、意外とナイフ同士での時よりもやり合えている気がする。
とは言え。
ガキン!!
やがてナイフが弾き飛ばされたが。
「ちょっとなまっているが、ナイフの方がマシだな。
騎士団の方に訓練にきたらどうだ?
魔術師だったら従軍命令が下るは可能性があるからな。いつでも訓練に付き合うぞ?」
ダレンが拾ったナイフを返しながら言った。
「あ~。
そう言えば、そんな規定があるんでしたっけ」
アファル王国では戦争状態になった状況などで軍部の魔術師だけで足りなくなった場合、民間の魔術師にも従軍命令が下される。
それに従うのはアファル王国の魔術院に登録する魔術師全員に課された義務なのだが、現実的に言って何か特殊技能があるのでない限り体力のある若い魔術師から指名されていく事が多い。
とは言え、若い魔術師でも身体能力は軍人とは比べるまでもない程ひ弱だ。
なので軍としては常に魔術師が体を鍛えることを推奨しており、その助けとなる事なら何でもすると公言していて・・・その一つが騎士団の訓練所の魔術師への開放だ。
騎士団としては体を鍛えに来た魔術師がついでに攻撃魔術の練習もして、団員との連携の取り方も確かめてくれたら更に嬉しいと思っているらしく、魔術師が訓練に現れると終わった後に中々美味しいお菓子まで出るという話が魔術院や魔術学院で流されている。
アンディによるとシャルロのお気に入りには負けるが、まあまあ美味しいお菓子らしい。
「でも、ガルカ王国が潰れたお蔭で暫くは戦争は無いのでは?」
水の入ったグラスを渡しながらアレクが尋ねる。
「ガルカ王国のようなバカすぎてうっかり戦争に突入するとか、民の注意を飢餓状態から逸らすために開戦するとかっていうのは無いだろうが、今度はザルガ共和国が隣になったからなぁ。
あそこがガルカ王国のせいで垂れ流す羽目になった損失を補填する為に色々やっているのが、うっかり暴発して戦争になる危険性はゼロではないと上は思っているようだぞ?」
礼に軽く頷いきながらグラスを受け取ったダレンが答える。
あ~。
確かに色々と変な問題が起きてるよねぇ。
てっきり俺の便利さがウォレン爺にバレたせいで呼び出しが増えただけなのかと思ったが、ザルガ共和国の商人たちが損失を補填する為に色々頑張っているせいでそのとばっちりが来てるって言うのもあるのか。
「迷惑だねぇ。
そのうち落ち着いてくれると良いんだけど。
あ、そう言えばこれが試作品ね。
こっちの青い方が基本形、赤いのはちょっと一捻り入れてみた方。
使ってみて何か違いに気が付くとか、どっちの方がどんな用途で良いかとか、何かこうなったら更に良いのにって言うような要望とか、聞いて来てね」
シャルロが試作品の入った大きな袋を持って来てダレンに渡した。
「了解。
どうやって使うんだ、これ?」
ダレンが試作品を受け取りながら中を覗き込む。
一応使用方法を書いた紙は中に入っているんだけどね。
「あ、今実験するからちょっと待ってください」
アレクが工房への扉を開けながら声をかける。
皆良い感じに汚れたからな。
早速実験だ。
「じゃあまずは僕ね~」
シャルロが映像用魔具でしっかり手の甲の映像を記録し、更に魔具をアレクに渡して顔と髪の毛の様子も記録する。
「何をやっているんだ?」
入り口の傍に受け取った試作品を降ろしたダレンが覗き込んできて尋ねる。
「試作品ごとにどの程度汚れが落ちるかを検証しようという話になっていて。
目で見た印象の記憶だけよりは、魔具に記録した映像の方が比較しやすいかな?と期待しているんですけど、どうなるかはやってみないと分からないですね」
アレクが応じる。
「で、使う時はこっちに水を入れておいて、あとはここに少し適当な精油を数滴垂らしておくと肌がしっとりするかな?
一応試作品にも何種類か精油を入れてあるけど、後は自分で好きなのを選べばほんのり香りが残って少し肌や髪の毛が艶やかになる・・・かな?
精油を入れすぎても魔力消費量が増えるだけで肌への効果は上がらないから、無駄に多くは入れない様に言っておいてね。
座って使うならこのボタン、立ってするならこっち、服の裾の方だけ汚れ落としたいなんて時はこのボタンで結界の範囲指定が出来ようになっているから。
説明書にも詳しく書いてあるけど、ボタンの所に簡単な図も書いてあるから見てくれれば想像がつくんじゃないかな?
服は薄いシャツ一枚程度にしておくとスッキリ身体まで綺麗になるね。
がっつり服を着こんでいたら服の汚れと露になっている手足とか顔が綺麗になるだけで、服にがっちりカバーされている部分はあまり綺麗にならない」
シャルロが説明しながら試作品に水と精油を垂らして結界の範囲設定を選び、ぽいぽいと上着とズボンを脱いで下着とシャツ一枚になって試作機を動かす。
使用人に世話をされるのに慣れているせいか、此奴って人前で服を脱ぐのを躊躇しないよなぁ。
まあ、俺もこの3人の前で変に恥ずかしがるつもりは無いが。
さて。
今回は普段より大分と汚れている状態だが・・・どの程度汚れが落ちるかな?
【後書き】
卒業して数年経ったので言葉遣いもそこそこカジュアルになりつつある感じ。
特にシャルロはw
力を込めつつも振りを小さくナイフを振り下ろす。
が、あっさりダレンに防がれてしまい・・・代わりにスルスルと伸びてきた剣を避けて後ろに飛びのく。
基本的に俺は長剣なんて持ち歩かない(と言うか持っていないし)ので、現実的な話として通常身に着けているナイフでの戦闘を練習している。
最初はナイフ同士でやりあい、俺がばてたらアレクとシャルロがダレンが持ってきた木剣でやりあっていたのだが、最後にさらに現実路線で行こうとダレンが言い出したせいで長剣を持ったダレンに対してナイフで立ち向かう羽目になっている。
ただでさえリーチが短いのに、俺より腕が良い相手に無理~~!!と言ったのだが、意外とナイフ同士での時よりもやり合えている気がする。
とは言え。
ガキン!!
やがてナイフが弾き飛ばされたが。
「ちょっとなまっているが、ナイフの方がマシだな。
騎士団の方に訓練にきたらどうだ?
魔術師だったら従軍命令が下るは可能性があるからな。いつでも訓練に付き合うぞ?」
ダレンが拾ったナイフを返しながら言った。
「あ~。
そう言えば、そんな規定があるんでしたっけ」
アファル王国では戦争状態になった状況などで軍部の魔術師だけで足りなくなった場合、民間の魔術師にも従軍命令が下される。
それに従うのはアファル王国の魔術院に登録する魔術師全員に課された義務なのだが、現実的に言って何か特殊技能があるのでない限り体力のある若い魔術師から指名されていく事が多い。
とは言え、若い魔術師でも身体能力は軍人とは比べるまでもない程ひ弱だ。
なので軍としては常に魔術師が体を鍛えることを推奨しており、その助けとなる事なら何でもすると公言していて・・・その一つが騎士団の訓練所の魔術師への開放だ。
騎士団としては体を鍛えに来た魔術師がついでに攻撃魔術の練習もして、団員との連携の取り方も確かめてくれたら更に嬉しいと思っているらしく、魔術師が訓練に現れると終わった後に中々美味しいお菓子まで出るという話が魔術院や魔術学院で流されている。
アンディによるとシャルロのお気に入りには負けるが、まあまあ美味しいお菓子らしい。
「でも、ガルカ王国が潰れたお蔭で暫くは戦争は無いのでは?」
水の入ったグラスを渡しながらアレクが尋ねる。
「ガルカ王国のようなバカすぎてうっかり戦争に突入するとか、民の注意を飢餓状態から逸らすために開戦するとかっていうのは無いだろうが、今度はザルガ共和国が隣になったからなぁ。
あそこがガルカ王国のせいで垂れ流す羽目になった損失を補填する為に色々やっているのが、うっかり暴発して戦争になる危険性はゼロではないと上は思っているようだぞ?」
礼に軽く頷いきながらグラスを受け取ったダレンが答える。
あ~。
確かに色々と変な問題が起きてるよねぇ。
てっきり俺の便利さがウォレン爺にバレたせいで呼び出しが増えただけなのかと思ったが、ザルガ共和国の商人たちが損失を補填する為に色々頑張っているせいでそのとばっちりが来てるって言うのもあるのか。
「迷惑だねぇ。
そのうち落ち着いてくれると良いんだけど。
あ、そう言えばこれが試作品ね。
こっちの青い方が基本形、赤いのはちょっと一捻り入れてみた方。
使ってみて何か違いに気が付くとか、どっちの方がどんな用途で良いかとか、何かこうなったら更に良いのにって言うような要望とか、聞いて来てね」
シャルロが試作品の入った大きな袋を持って来てダレンに渡した。
「了解。
どうやって使うんだ、これ?」
ダレンが試作品を受け取りながら中を覗き込む。
一応使用方法を書いた紙は中に入っているんだけどね。
「あ、今実験するからちょっと待ってください」
アレクが工房への扉を開けながら声をかける。
皆良い感じに汚れたからな。
早速実験だ。
「じゃあまずは僕ね~」
シャルロが映像用魔具でしっかり手の甲の映像を記録し、更に魔具をアレクに渡して顔と髪の毛の様子も記録する。
「何をやっているんだ?」
入り口の傍に受け取った試作品を降ろしたダレンが覗き込んできて尋ねる。
「試作品ごとにどの程度汚れが落ちるかを検証しようという話になっていて。
目で見た印象の記憶だけよりは、魔具に記録した映像の方が比較しやすいかな?と期待しているんですけど、どうなるかはやってみないと分からないですね」
アレクが応じる。
「で、使う時はこっちに水を入れておいて、あとはここに少し適当な精油を数滴垂らしておくと肌がしっとりするかな?
一応試作品にも何種類か精油を入れてあるけど、後は自分で好きなのを選べばほんのり香りが残って少し肌や髪の毛が艶やかになる・・・かな?
精油を入れすぎても魔力消費量が増えるだけで肌への効果は上がらないから、無駄に多くは入れない様に言っておいてね。
座って使うならこのボタン、立ってするならこっち、服の裾の方だけ汚れ落としたいなんて時はこのボタンで結界の範囲指定が出来ようになっているから。
説明書にも詳しく書いてあるけど、ボタンの所に簡単な図も書いてあるから見てくれれば想像がつくんじゃないかな?
服は薄いシャツ一枚程度にしておくとスッキリ身体まで綺麗になるね。
がっつり服を着こんでいたら服の汚れと露になっている手足とか顔が綺麗になるだけで、服にがっちりカバーされている部分はあまり綺麗にならない」
シャルロが説明しながら試作品に水と精油を垂らして結界の範囲設定を選び、ぽいぽいと上着とズボンを脱いで下着とシャツ一枚になって試作機を動かす。
使用人に世話をされるのに慣れているせいか、此奴って人前で服を脱ぐのを躊躇しないよなぁ。
まあ、俺もこの3人の前で変に恥ずかしがるつもりは無いが。
さて。
今回は普段より大分と汚れている状態だが・・・どの程度汚れが落ちるかな?
【後書き】
卒業して数年経ったので言葉遣いもそこそこカジュアルになりつつある感じ。
特にシャルロはw
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