シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

761 星暦557年 藤の月 2日 ちょっと方向が違う方が良い?(2)

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「海神神殿に直ぐに使えそうな魔具なんてあったっけ?」

歴史学会の発表は数日にわたる。
なので今日の発表が終わってもまだあと2日程あるので、打ち上げパーティも最終日になる。

最終日についでに今年の予算振り分けの発表があるので、それまでに何とか予算の予備費の割り当てを少しでも受けようとあちこちの発掘チームのトップやその右腕が必死になって発表の合間や発表後に歴史学会のお偉いさんや補助金担当の役人に話しかけているが、シェイラの発掘チームはシェイラとツァレスが海神神殿の遺物の調査協力に発端になった事で報奨金が出て、それが当然のごとくチームの予算に横流しされたので今年は比較的余裕があるらしい。

なのでツァレスもこれ以上の予算は期待できないとさっさと引き上げて歴史学会の倉庫にしけこんでいる。

それを横目に夕食でも食べに行こうと外へ向かいながらシェイラが聞いてきた。

「殆どは壊れていたけど、あの地下にあった宝物庫の扉と壁に彫り込まれていた魔術回路は魔力を補填したら起動したんだ。
気が付いたか知らないけど、神殿の地下室の方から物を運び出し始めた2日目から、ちょっと部屋のべたつきや臭いがマシになっただろ?
だからあの魔術回路は空気清浄っぽい効果のある魔具なんじゃないかとアレクとシャルロは言っていたんだ。
臭い消しの魔具は既にあるが、考えてみたらそういう魔術回路の効果を逆に動かせれば香油とかの香りを分散させるのに良いかもと思ってね」
シェイラに答える。

魔術回路の効果が人に害がない事は蒼流が保証してくれたが、実際の効果に関しては『心なしか清浄効果があるかもといったところだ。
人の出入りで空気が入れ替わったら効果が無くなる程度だな』と身も蓋もない事を言われたので特にそれ以上は深入りしなかったのだ。

だが。比較的今は暇だし、『香り』なんていうはっきりしない物を対象とするならちょっと研究してみる価値もあるかも知れないと思ったのだ。

「うん?
2日目って言ったら、錫が終わって壺を見始めた時よね?
あれって肌がべたつかなくなったっというよりも、湿度か温度が下がったんじゃない?
それまでぼたぼたと汗が垂れてシャツや下着が濡れて気持ち悪かったのが、2日目からマシになったのは覚えているわよ」
ふと足を止めてシェイラが言った。

あれ??
肌のべたつきがマシになった気がしたし、空気清浄っぽい効果だって蒼流が言っていたしでべたつきの元になる何かを除去していくれているんだろうと思っていたけど・・・ちょっと違ったのか?

湿度が下がると確かに汗をだらだらかかなくなる。
乾燥した東大陸のジルダスだとアファル王国よりも気温が高いのに、意外と汗は気にならないのだ。

となると・・・あの地下室の魔術回路は湿度を調整する効果があるのか?
効率が良いなら、現在東大陸で買って船の倉庫に設置している魔具よりも経済的かも知れないから、一度確認してみても良いかも知れない。

とは言え、あの倉庫用湿度調整の魔具も実際に湿度を調べるのではなく、使った際に航海を終えた後の香辛料やお茶の味の劣化具合を比較して買う価値があるってアレクが判断しただけだったからなぁ。

地下室の魔術回路と比べてどちらが良いかを調べるのは難しいかも知れない。
それに魔術回路だったら時代と共に改善している筈。
そう考えると一度完全に断絶している古代文明の魔術回路ならまだしも、一応続いてきているアファル王国地域で過去に知られていた魔術回路が現代の物より優れているかは微妙な気がするが。

まあ、基本的に快適な状態で香を焚く方が、汗がだらだら出やすいような微妙な状況で香を焚くよりもより効果的に気持ちよくなれるだろう。
香の効果成分まで消されてしまっては困るが。

あの地下室にあった魔術回路を魔具化して部屋が快適になるか、試してみよう。
とは言っても、今は暑くて汗をかくような季節じゃないからテストできるか微妙だが・・・。
どうすっかね?



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