761 / 1,038
卒業後
760 星暦557年 藤の月 2日 ちょっと方向が違う方が良い?
しおりを挟む
「何をやっているの?」
歴史学会の発表の手伝いに席を外していたシェイラが戻ってきて、膝の上で魔術回路をこっそり弄っていた俺に尋ねた。
「ちょっと海神の神殿と神殿長の地下室にあった魔術回路を利用できないかと思って色々試している所なんだ」
過去の遺跡に関する発表は時によっては中々面白い発見もあり、ただ聞いているだけでも楽しい事も多々あるし、場合によっては遺跡にあった魔道具や道具の仕組みの話が俺たちの開発に役に立ちそうな閃きを提供してくれることもある。
なのでシェイラと時間を過ごすついでに歴史学会の年初発表に来ているのだが・・・時折、過去のお偉いさんかなんかの名前がやたらと出まくって何の話をしているのか全く分からない退屈な発表もある。
そんな時の為に持って来るのがちょっとした解析中とか改造中な魔術回路なのだが、今回はこないだの緑の月に見つけた海神の神殿にあったやつを利用できないかとそっと試行錯誤している。
あの神殿は海のど真ん中にある小島にあったから当然潮風が毎日吹いていた筈だ。
まあ、潮っぽいべたべたも海神さまの一部ということで神官たちは我慢していたんだろうとは思うが(というか潮風が吹かない場所にある海神の神殿なんて意味ないだろう)、流石に神殿の宝(及び神殿長のネコババした宝)に関しては潮風でべたべたになるのが嫌だったのか、どうも宝物庫として使われた地下室の入り口にそう言ったべたべた成分を防ぐ結界か魔具があったようなのだ。
海水に浸かって動きが無かったことが良かったのか、意外にも魔術回路そのものはほぼどちらの地下室の物も破損せずに残っていた。
しかも神殿の方の地下室は金を掛けてしっかり作ったのか、魔力を通したら起動したのだ!!
とは言え、最初は何をやっているのか分からなかったが。
向こうで遺物を運び出す合間に色々試した結果、多分潮風の臭いやべたつく成分を締め出すか浄化する効果があるのではないかと言うのが俺たちの結論だった。
ただし、臭い消しの魔具なら既に換気用の魔具が既にある。
地下宝物庫魔術回路の利用方法が思いつかなかったので、特に何もするでもなく記録だけして帰って来たのだが・・・今回の香の話で匂いやべたつきを除去する効果があるなら、反対向きに使ったら香の成分を効果的に部屋に分散することが出来るのではないかと思ったのだ。
違法な香なんかだったら素早く残った匂いを消せる効果の方が更に必要とされるだろうけど。
まあ、流石に違法麻薬っぽい物の使用を誤魔化す為に使う魔具を作る気はないが、香を効果的に広められたらシェフィート商会から香油や香を売り出す際に一緒に売れそうだ。
とは言え。
匂いを消す部分が魔術回路のどこであるのかを解明し、それの機能を反対向きにするのにどうやれば良いのかまだ不明だ。
なので暇な時に色々と試行錯誤しているのである。
現時点では臭い消しの部分を特定する為にあちこちを切り離して微量の魔力を通しているだけだが、意外とこれに時間が掛かるのだ。
「べとべとが無くなるのは良いわねぇ。
ついでに手の汚れとか服の汚れも落とせない?」
シェイラが提案してきた。
おっと。
臭い関係ではなくべとべとの方に関する効果の方がシェイラ的には魅力があるらしい。
「潮風の臭いを消す機能を反対向きに香の匂いを分散させる方に使えないかと思って色々試していたんだが・・・潮風のべたつきを防ぐか落とす機能の方が魅力的か?」
俺にとっては汚れも臭いもそれ程重要ではないのだが、シェイラの視点の方が一般的で需要の判断にも役に立つ。
「そりゃそうよ。
強烈な異臭を除去できるっていうなら需要はあるでしょうけど、匂いを分散させるなんて適当に微風で煽れば良いだけじゃない。
それよりもべたつく汚れをすっと落とせたり、べたつかない様に出来たらよっぽどありがたいわよ。
髪の毛がべたついたりすると本当に嫌なのよねぇ」
嫌そうに鼻の頭に皺を寄せながらシェイラが言った。
ふむ。
潮風のべたつき予防効果に関しては『べたつきが少ない・・・かな?』程度で絶対確実にそう言う効果があるという訳ではないのだが・・・もう一度しっかりテストして、どの程度の効果があるかをアレクとシャルロが帰ってくる前に確かめてみるか。
【後書き】
海風は建築物の天敵に近い感じですが、石造りだったら関係ないんですかね?
歴史学会の発表の手伝いに席を外していたシェイラが戻ってきて、膝の上で魔術回路をこっそり弄っていた俺に尋ねた。
「ちょっと海神の神殿と神殿長の地下室にあった魔術回路を利用できないかと思って色々試している所なんだ」
過去の遺跡に関する発表は時によっては中々面白い発見もあり、ただ聞いているだけでも楽しい事も多々あるし、場合によっては遺跡にあった魔道具や道具の仕組みの話が俺たちの開発に役に立ちそうな閃きを提供してくれることもある。
なのでシェイラと時間を過ごすついでに歴史学会の年初発表に来ているのだが・・・時折、過去のお偉いさんかなんかの名前がやたらと出まくって何の話をしているのか全く分からない退屈な発表もある。
そんな時の為に持って来るのがちょっとした解析中とか改造中な魔術回路なのだが、今回はこないだの緑の月に見つけた海神の神殿にあったやつを利用できないかとそっと試行錯誤している。
あの神殿は海のど真ん中にある小島にあったから当然潮風が毎日吹いていた筈だ。
まあ、潮っぽいべたべたも海神さまの一部ということで神官たちは我慢していたんだろうとは思うが(というか潮風が吹かない場所にある海神の神殿なんて意味ないだろう)、流石に神殿の宝(及び神殿長のネコババした宝)に関しては潮風でべたべたになるのが嫌だったのか、どうも宝物庫として使われた地下室の入り口にそう言ったべたべた成分を防ぐ結界か魔具があったようなのだ。
海水に浸かって動きが無かったことが良かったのか、意外にも魔術回路そのものはほぼどちらの地下室の物も破損せずに残っていた。
しかも神殿の方の地下室は金を掛けてしっかり作ったのか、魔力を通したら起動したのだ!!
とは言え、最初は何をやっているのか分からなかったが。
向こうで遺物を運び出す合間に色々試した結果、多分潮風の臭いやべたつく成分を締め出すか浄化する効果があるのではないかと言うのが俺たちの結論だった。
ただし、臭い消しの魔具なら既に換気用の魔具が既にある。
地下宝物庫魔術回路の利用方法が思いつかなかったので、特に何もするでもなく記録だけして帰って来たのだが・・・今回の香の話で匂いやべたつきを除去する効果があるなら、反対向きに使ったら香の成分を効果的に部屋に分散することが出来るのではないかと思ったのだ。
違法な香なんかだったら素早く残った匂いを消せる効果の方が更に必要とされるだろうけど。
まあ、流石に違法麻薬っぽい物の使用を誤魔化す為に使う魔具を作る気はないが、香を効果的に広められたらシェフィート商会から香油や香を売り出す際に一緒に売れそうだ。
とは言え。
匂いを消す部分が魔術回路のどこであるのかを解明し、それの機能を反対向きにするのにどうやれば良いのかまだ不明だ。
なので暇な時に色々と試行錯誤しているのである。
現時点では臭い消しの部分を特定する為にあちこちを切り離して微量の魔力を通しているだけだが、意外とこれに時間が掛かるのだ。
「べとべとが無くなるのは良いわねぇ。
ついでに手の汚れとか服の汚れも落とせない?」
シェイラが提案してきた。
おっと。
臭い関係ではなくべとべとの方に関する効果の方がシェイラ的には魅力があるらしい。
「潮風の臭いを消す機能を反対向きに香の匂いを分散させる方に使えないかと思って色々試していたんだが・・・潮風のべたつきを防ぐか落とす機能の方が魅力的か?」
俺にとっては汚れも臭いもそれ程重要ではないのだが、シェイラの視点の方が一般的で需要の判断にも役に立つ。
「そりゃそうよ。
強烈な異臭を除去できるっていうなら需要はあるでしょうけど、匂いを分散させるなんて適当に微風で煽れば良いだけじゃない。
それよりもべたつく汚れをすっと落とせたり、べたつかない様に出来たらよっぽどありがたいわよ。
髪の毛がべたついたりすると本当に嫌なのよねぇ」
嫌そうに鼻の頭に皺を寄せながらシェイラが言った。
ふむ。
潮風のべたつき予防効果に関しては『べたつきが少ない・・・かな?』程度で絶対確実にそう言う効果があるという訳ではないのだが・・・もう一度しっかりテストして、どの程度の効果があるかをアレクとシャルロが帰ってくる前に確かめてみるか。
【後書き】
海風は建築物の天敵に近い感じですが、石造りだったら関係ないんですかね?
0
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる