748 / 1,038
卒業後
747 星暦556年 桃の月 20日 年末の予定(5)
しおりを挟む
「随分と暖かいのね」
転移門でジルダスのアファル王国領事館にある魔術院支部に出て、シェイラが周りを見回しながら言った。
アファル王国へ直結している転移門がある為、ジルダスでは領事館の中に転移門があり、その周りの部屋幾つかを魔術院が借りて『魔術院支部』としている。
東大陸にアファル王国の魔術師として活動している人間はそれ程いないので、基本的にこの支部の活動は東大陸の魔術師団体と特許に関しての話し合いをすることだ。
まだお互いに特許情報の共有化(と使用料の相互支払い)が完全に終わっていないのでそこをコツコツとやっているところだと来る前に魔術院でアンディに聞いた。
これが終わったら過去の特許切れの魔術回路の情報の交換も考えているらしいが、そこに辿り着くのはいつになるやら・・・という感じらしい。
・・・時間があったらアファル王国の魔術師でもこっちの魔術師団体の特許記録を閲覧できるのか、聞いてみようかな?
全部に目を通して何があるかを記憶するのは無理だが、どんな傾向の物があるのかを知ることが出来たら何か行き詰った時に参考になるかも知れない。
それこそ呪詛や呪詛解除の魔具なんかはこっちの方が絶対に種類が豊富だろうし。
もっともシェイラを長時間放置しておく訳にはいかないから、今回は傾向だけ見て再度来る価値があるかの確認程度だが。
「こっちの方がアファル王国よりもっと南に位置しているらしくて、ザルガ共和国とあまり違いない位らしいぜ。
地形の関係であそこと違ってずっと乾いていて香辛料とかの生産に向いているらしいが」
シェイラの感想に応じる。
「頑張ってしっかり水分補給をすればそれなりに辛くなく過ごせるってことかしら?
そう言えば、以前ウィルがくれたお土産の生地も風通しが良い薄い物だったわね」
お土産?
そう言えば、最初に来た時にスカーフか何か、買って帰ったっけ?
イマイチ覚えていないが。
「俺は以前来た時の涼しい服を持ってきたけど、シェイラはどうする?
こっちで服を一式買った方が過ごしやすいかも?」
アファル王国だって真夏にはかなり暑くなるから薄い夏服はある。
だがこちらの薄くてぴらぴらした服ってちょっと違うんだよなぁ。
元々夏服が必要だなんて思っていなかったから俺は最初に来た時にこっちで服を買ったが、ちゃんと準備していた人でもアファル王国の夏服よりもこっちの地元の服の方が過ごしやすいって言っていたから、機能的にも違うんだろう。
「そうね、蚤市に行く前にまずは買い物ね!」
ウキウキしながらシェイラが合意した。
そう言えば、決めるのは早いけど買い物自体はシェイラも好きなんだったっけ。
「ちなみに、一軒で適当に買うか?
幾つか店を回りたいんだったら現地の案内を出来る奴がいるか聞いてみるが」
バルダンがいなかったら諦める方が良いだろうが、他にも何人か現地案内人を雇っているのかな?
「う~ん、未知の街を歩き回るのも面白いんだけど・・・初日は流石に冒険せずに効率重視で行くべきね。
今日はウィルが知っている店で一通り買って、宿に荷物を置いてから軽く歩き回ることにしない?」
シェイラが荷物を再度手に取りながら言った。
考えてみたら、『どうせ着替えをこっちで買うから』ってことで荷物が少ないって言っていたが、色々買いまくったら帰りの荷物はちゃんと運べるんだろうか?
あまり多すぎると転移門で追加料金が発生するんだが。
まあ、シェイラだったらそこら辺は大丈夫だろう。
多分。
転移門のある部屋から出たら、外に警備兵が立っていた。
「お疲れさん。
王都から来たウィル・ダントールとシェイラ・オスレイダだ。
宿泊は領事館ではなく港寄りの『紅の実』宿を使う。
正確な滞在日程は決めていないが、新年までには帰国予定だ」
警備兵の後ろにある机の所に座っている役人の方に詳細を伝える。
一応、アファル王国人が行方不明になった時なんかの時の為に詳細を聞かれるんだよね。
ある意味、そこら辺を聞かれたくなかったら港から船で入国する方が良い。
まあ、あっちから入ると今度はジルダスの入国管理局に色々説明する羽目になるが。
・・・夜に空滑機《グライダー》で来れば、密入国出来るんかな?
まあ、船で入港してもそこまで真面目に管理していないから適当に袖の下を渡すなり、船から荷物を運び出す人夫に紛れて動けばそのまま街中に出られると思うが。
とは言え、シェイラは無理か。
服装からして目立つし、荷物運びは基本的に男の仕事だ。
密入国なんてする必要はないけど、管理されるとついついそれを逃れる方法を考えちまうんだよなぁ。
そう言えば、顔役のゼブに呪具発見用魔具が無いか、聞こうと思っていたんだった。
ついでに参考までにこっちの世界での女性用密入国手段っていうのを確認しておこう。
【後書き】
シェイラを連れて密出国しなきゃいけない様な冒険の予定はありませんw
転移門でジルダスのアファル王国領事館にある魔術院支部に出て、シェイラが周りを見回しながら言った。
アファル王国へ直結している転移門がある為、ジルダスでは領事館の中に転移門があり、その周りの部屋幾つかを魔術院が借りて『魔術院支部』としている。
東大陸にアファル王国の魔術師として活動している人間はそれ程いないので、基本的にこの支部の活動は東大陸の魔術師団体と特許に関しての話し合いをすることだ。
まだお互いに特許情報の共有化(と使用料の相互支払い)が完全に終わっていないのでそこをコツコツとやっているところだと来る前に魔術院でアンディに聞いた。
これが終わったら過去の特許切れの魔術回路の情報の交換も考えているらしいが、そこに辿り着くのはいつになるやら・・・という感じらしい。
・・・時間があったらアファル王国の魔術師でもこっちの魔術師団体の特許記録を閲覧できるのか、聞いてみようかな?
全部に目を通して何があるかを記憶するのは無理だが、どんな傾向の物があるのかを知ることが出来たら何か行き詰った時に参考になるかも知れない。
それこそ呪詛や呪詛解除の魔具なんかはこっちの方が絶対に種類が豊富だろうし。
もっともシェイラを長時間放置しておく訳にはいかないから、今回は傾向だけ見て再度来る価値があるかの確認程度だが。
「こっちの方がアファル王国よりもっと南に位置しているらしくて、ザルガ共和国とあまり違いない位らしいぜ。
地形の関係であそこと違ってずっと乾いていて香辛料とかの生産に向いているらしいが」
シェイラの感想に応じる。
「頑張ってしっかり水分補給をすればそれなりに辛くなく過ごせるってことかしら?
そう言えば、以前ウィルがくれたお土産の生地も風通しが良い薄い物だったわね」
お土産?
そう言えば、最初に来た時にスカーフか何か、買って帰ったっけ?
イマイチ覚えていないが。
「俺は以前来た時の涼しい服を持ってきたけど、シェイラはどうする?
こっちで服を一式買った方が過ごしやすいかも?」
アファル王国だって真夏にはかなり暑くなるから薄い夏服はある。
だがこちらの薄くてぴらぴらした服ってちょっと違うんだよなぁ。
元々夏服が必要だなんて思っていなかったから俺は最初に来た時にこっちで服を買ったが、ちゃんと準備していた人でもアファル王国の夏服よりもこっちの地元の服の方が過ごしやすいって言っていたから、機能的にも違うんだろう。
「そうね、蚤市に行く前にまずは買い物ね!」
ウキウキしながらシェイラが合意した。
そう言えば、決めるのは早いけど買い物自体はシェイラも好きなんだったっけ。
「ちなみに、一軒で適当に買うか?
幾つか店を回りたいんだったら現地の案内を出来る奴がいるか聞いてみるが」
バルダンがいなかったら諦める方が良いだろうが、他にも何人か現地案内人を雇っているのかな?
「う~ん、未知の街を歩き回るのも面白いんだけど・・・初日は流石に冒険せずに効率重視で行くべきね。
今日はウィルが知っている店で一通り買って、宿に荷物を置いてから軽く歩き回ることにしない?」
シェイラが荷物を再度手に取りながら言った。
考えてみたら、『どうせ着替えをこっちで買うから』ってことで荷物が少ないって言っていたが、色々買いまくったら帰りの荷物はちゃんと運べるんだろうか?
あまり多すぎると転移門で追加料金が発生するんだが。
まあ、シェイラだったらそこら辺は大丈夫だろう。
多分。
転移門のある部屋から出たら、外に警備兵が立っていた。
「お疲れさん。
王都から来たウィル・ダントールとシェイラ・オスレイダだ。
宿泊は領事館ではなく港寄りの『紅の実』宿を使う。
正確な滞在日程は決めていないが、新年までには帰国予定だ」
警備兵の後ろにある机の所に座っている役人の方に詳細を伝える。
一応、アファル王国人が行方不明になった時なんかの時の為に詳細を聞かれるんだよね。
ある意味、そこら辺を聞かれたくなかったら港から船で入国する方が良い。
まあ、あっちから入ると今度はジルダスの入国管理局に色々説明する羽目になるが。
・・・夜に空滑機《グライダー》で来れば、密入国出来るんかな?
まあ、船で入港してもそこまで真面目に管理していないから適当に袖の下を渡すなり、船から荷物を運び出す人夫に紛れて動けばそのまま街中に出られると思うが。
とは言え、シェイラは無理か。
服装からして目立つし、荷物運びは基本的に男の仕事だ。
密入国なんてする必要はないけど、管理されるとついついそれを逃れる方法を考えちまうんだよなぁ。
そう言えば、顔役のゼブに呪具発見用魔具が無いか、聞こうと思っていたんだった。
ついでに参考までにこっちの世界での女性用密入国手段っていうのを確認しておこう。
【後書き】
シェイラを連れて密出国しなきゃいけない様な冒険の予定はありませんw
0
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる