731 / 1,038
卒業後
730 星暦556年 橙の月 12日 確認したら、ヤバかった(8)
しおりを挟む
「ガルバスト男爵ってどんな人物なの?」
ファルナが傍にいた役人に尋ねた。
「豪商だった先代が没落男爵家に婿入りして乗っ取った男爵家の当主で・・・先代はそれなりに一般市民的な感覚を残していたのですが、当代は『成り上がり』と言われるのがコンプレックスだったせいか金貸し業を主にやるようになりました。今では貴族と一般市民両方からエゲツなく金を毟り取って優位に立とうとするので有名ですね」
役人が直ぐに答えた。
周囲に確認するまでもないぐらいこの街では良く知られている人物らしい。
まあ幾ら大きめな港街だとは言え、地方の大都市程度だったらそれ程沢山貴族はいないか。
しっかし。成り上がりなら貴族から忌避されるから、それこそ一般市民を大切にしなくちゃいけないんじゃないのか?
「よくそれで生き残れているわね?」
ファルナも俺と同じことを思ったのか、ちょっと呆れたように尋ねた。
「金貸し業者っていうのはどうせ不評ですから。
資金がどこからきているのかに関して不穏な噂も流れていたのですが・・・どうやら金貸し業だけでなく違法品の密輸入でも稼いでいたようですね」
不機嫌そうに役人が応じる。
裏社会にコネがあり、警備兵も詰め所へ買収した人間を配置しておけば、密輸入の調査が入りそうになったら直ぐにしっぽ切りも出来るしそう簡単には捕まらないんだろうな。
今までも役所側も何度か苦い思いをしたようだ。
警備兵だけでなく、役所の方にも買収された人間がいるんだろう。
上から命じられて動く警備兵が情報を得るのは直前だ。
もっと早い段階から情報漏洩していなければ、しっぽ切りも損失が大きくなる。
「その次男の隠れ家はどこ?」
ファルナが縄に縛られて大人しく待っていた裏社会の男に声をかけた。
「北通り2番の5だ」
あっさり男が答える。
「証拠書類が隠してあるあなたの隠れ家は?」
「北通り5番の4」
暫し考えてから、ファルナが頷いて一緒についてきた軍人の一人に指示を出した。
「パルグ。5人ほど連れてその男と一緒に北通り5番の4とやらに行って、他の人間が証拠書類とかを処分しない様に見張りながら集めておいて。
私たちは先に男爵の次男とやらを捕まえて隠れ家を根こそぎ捜査した後、そっちに行くわ。
親の男爵の方に繋がる情報があったらそっちに先に行くかもしれないから、必要があったら適当に誰かを出して軽食でも食べてなさい」
これって『根こそぎ捜査』は俺の役割なんだろうなぁ。
マジで追加報酬、期待しているぜ?
◆◆◆◆
ガルバスト男爵の次男とやらの隠れ家があったのは中々お上品な住宅街だった。
まあ、お上品と言っても中の上クラスの商家の人間と、貴族の愛人が暮らしているような地域だから本当に超高級という訳ではなかったが。
「ゼネファルト・ガルバスト!
一級禁忌品密輸入及び販売の疑いで逮捕する!!」
大きな声を上げてファルナが飛び込んでいく。
成金地方貴族だったら下手に地方の役人と警備兵が踏み込むより、国軍士官の格好をしたファルナが国軍兵(と警備兵)を連れて踏み込む方が『全部殺してなかったことにしよう』と無駄な抵抗をされないで済むという事らしい。
俺は勿論ドタバタした騒ぎが収まるまで入り口近辺で待ってたけどね。
一応心眼で確認したら地下室はあったし隠し金庫も複数あったが地下通路は無かったので、さっきの裏社会の実務責任者程は用心深くないらしい。
静かになってきたので中に入り、最初に目についた書斎にあった隠し金庫をまず開けて中を覗いてみた。
金と宝石にナイフ。
それこそ強盗や警備兵に押し入られた時用の『見せ』隠し金庫かな?
書類も普通に引き出しや棚に入っているだけだし。
折角高級そうな書斎机があるのに、あまり使っていないようだ。
「何かあった?」
ファルナが首を突っ込んで聞いてきた。
「うんにゃ。
単なる囮用の隠し金庫だな」
そのまま家の中を歩き回り、リビングの奥のサンルームの絨毯をどけて地下室へ向かう。
取り押さえられた次男らしき男が何やら騒いでいたが、ファルナも俺も無視してそのまま下へ。
・・・考えてみたら、こういう時の捜査の申請手続きってどうなんだろ?
明らかに今回はどこにも申請していないよな??
昔、シャルロの親戚の代官が横領していた時は審議官を使ってなんか手続きに従っていたと思うんだが。
禁忌品だと軍が超法的な捜査権でも持つのかね?
まあ、ウォレン爺が後ろにいるんだ。
後で文句が出てこない様にちゃんと抜け道はあるんだろう。
さて。
この地下室は比較的真剣に隠してあるんだ。
必要な書類は全部ここにあると期待してるぜ~。
【後書き】
ファルナは呪具関連の特務捜査官なので何処にでも押し入れます。
期待していた悪行の証拠が見つからないと後で始末書だけどw
ファルナが傍にいた役人に尋ねた。
「豪商だった先代が没落男爵家に婿入りして乗っ取った男爵家の当主で・・・先代はそれなりに一般市民的な感覚を残していたのですが、当代は『成り上がり』と言われるのがコンプレックスだったせいか金貸し業を主にやるようになりました。今では貴族と一般市民両方からエゲツなく金を毟り取って優位に立とうとするので有名ですね」
役人が直ぐに答えた。
周囲に確認するまでもないぐらいこの街では良く知られている人物らしい。
まあ幾ら大きめな港街だとは言え、地方の大都市程度だったらそれ程沢山貴族はいないか。
しっかし。成り上がりなら貴族から忌避されるから、それこそ一般市民を大切にしなくちゃいけないんじゃないのか?
「よくそれで生き残れているわね?」
ファルナも俺と同じことを思ったのか、ちょっと呆れたように尋ねた。
「金貸し業者っていうのはどうせ不評ですから。
資金がどこからきているのかに関して不穏な噂も流れていたのですが・・・どうやら金貸し業だけでなく違法品の密輸入でも稼いでいたようですね」
不機嫌そうに役人が応じる。
裏社会にコネがあり、警備兵も詰め所へ買収した人間を配置しておけば、密輸入の調査が入りそうになったら直ぐにしっぽ切りも出来るしそう簡単には捕まらないんだろうな。
今までも役所側も何度か苦い思いをしたようだ。
警備兵だけでなく、役所の方にも買収された人間がいるんだろう。
上から命じられて動く警備兵が情報を得るのは直前だ。
もっと早い段階から情報漏洩していなければ、しっぽ切りも損失が大きくなる。
「その次男の隠れ家はどこ?」
ファルナが縄に縛られて大人しく待っていた裏社会の男に声をかけた。
「北通り2番の5だ」
あっさり男が答える。
「証拠書類が隠してあるあなたの隠れ家は?」
「北通り5番の4」
暫し考えてから、ファルナが頷いて一緒についてきた軍人の一人に指示を出した。
「パルグ。5人ほど連れてその男と一緒に北通り5番の4とやらに行って、他の人間が証拠書類とかを処分しない様に見張りながら集めておいて。
私たちは先に男爵の次男とやらを捕まえて隠れ家を根こそぎ捜査した後、そっちに行くわ。
親の男爵の方に繋がる情報があったらそっちに先に行くかもしれないから、必要があったら適当に誰かを出して軽食でも食べてなさい」
これって『根こそぎ捜査』は俺の役割なんだろうなぁ。
マジで追加報酬、期待しているぜ?
◆◆◆◆
ガルバスト男爵の次男とやらの隠れ家があったのは中々お上品な住宅街だった。
まあ、お上品と言っても中の上クラスの商家の人間と、貴族の愛人が暮らしているような地域だから本当に超高級という訳ではなかったが。
「ゼネファルト・ガルバスト!
一級禁忌品密輸入及び販売の疑いで逮捕する!!」
大きな声を上げてファルナが飛び込んでいく。
成金地方貴族だったら下手に地方の役人と警備兵が踏み込むより、国軍士官の格好をしたファルナが国軍兵(と警備兵)を連れて踏み込む方が『全部殺してなかったことにしよう』と無駄な抵抗をされないで済むという事らしい。
俺は勿論ドタバタした騒ぎが収まるまで入り口近辺で待ってたけどね。
一応心眼で確認したら地下室はあったし隠し金庫も複数あったが地下通路は無かったので、さっきの裏社会の実務責任者程は用心深くないらしい。
静かになってきたので中に入り、最初に目についた書斎にあった隠し金庫をまず開けて中を覗いてみた。
金と宝石にナイフ。
それこそ強盗や警備兵に押し入られた時用の『見せ』隠し金庫かな?
書類も普通に引き出しや棚に入っているだけだし。
折角高級そうな書斎机があるのに、あまり使っていないようだ。
「何かあった?」
ファルナが首を突っ込んで聞いてきた。
「うんにゃ。
単なる囮用の隠し金庫だな」
そのまま家の中を歩き回り、リビングの奥のサンルームの絨毯をどけて地下室へ向かう。
取り押さえられた次男らしき男が何やら騒いでいたが、ファルナも俺も無視してそのまま下へ。
・・・考えてみたら、こういう時の捜査の申請手続きってどうなんだろ?
明らかに今回はどこにも申請していないよな??
昔、シャルロの親戚の代官が横領していた時は審議官を使ってなんか手続きに従っていたと思うんだが。
禁忌品だと軍が超法的な捜査権でも持つのかね?
まあ、ウォレン爺が後ろにいるんだ。
後で文句が出てこない様にちゃんと抜け道はあるんだろう。
さて。
この地下室は比較的真剣に隠してあるんだ。
必要な書類は全部ここにあると期待してるぜ~。
【後書き】
ファルナは呪具関連の特務捜査官なので何処にでも押し入れます。
期待していた悪行の証拠が見つからないと後で始末書だけどw
0
お気に入りに追加
505
あなたにおすすめの小説
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!
りーさん
ファンタジー
ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。
でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。
こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね!
のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~
紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの?
その答えは私の10歳の誕生日に判明した。
誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。
『魅了の力』
無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。
お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。
魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。
新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。
―――妹のことを忘れて。
私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。
魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。
しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。
なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。
それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。
どうかあの子が救われますようにと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる