シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

724 星暦556年 橙の月 7日 確認したら、ヤバかった(2)

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「お久しぶり。
また会ったわね」

便宜の話とケーキで釣られた仲間に売られて出稼ぎに合意する羽目になった俺がウォレン爺に言われた通り第三騎士団に出頭したところ、去年散々年末にかけてこき使ってくれた女に出迎えられた。

「おう、久しぶり。
今年はちゃんと年末までに仕事が終わると期待したいな」
挨拶している間に相手の名前をしっかり覚えていなかったことに気が付いたが、取り敢えず何気ない顔をして挨拶しておく。

確かファ・・・なんとか大尉だったと思うんだが。
まあ、そのうち同行者の誰かが彼女に呼びかけるだろう。
ダメだったら宿の人間にこっそり聞けば良いだろうし。

「ファルナ少佐!
機体の準備が出来ました!」
そんなことを考えていたら、奥から若い男が現れて女に声をかけた。

「あれ?
大尉じゃなかったっけ?」
大尉でも、まだそこそこ若いのに中々凄いじゃないかと思った記憶があるんだが。

「去年の騒ぎのお蔭で昇進したのよ」
肩を竦めながらファルナが答えた。

「へぇぇ、おめでとう。
感謝の印は美味しい焼き菓子で良いぞ?」

去年の年末は酷かった。
ファルナも大変だったが、俺は契約日数を超えてあちこち引き摺りまわされた挙句、シェイラとの時間もがっつり切られたんだ。
ザルガッドの夕食と多少の追加報酬しか貰えなかった俺と比べると、昇進したとなると給料も上がっただろうし、どう考えてもファルナの方が得たモノは多かったようだ。

「こういう時はお祝いにプレゼントをくれるもんでしょうに。
まあ、確かにあんたのお蔭と言えなくもないから、そのうち美味しい焼き菓子の店の傍に行く機会があって覚えていたら適当に何か買ってくるわ」
苦笑しながらファルナが答え、俺に後をついて来るよう身振りしながら歩き始めた。

「取り敢えず、港町と沿岸地域の領都全て、内陸部の国境街とその地域の領都を見て回って、あとは適当に上層部が選んだ街を回るわよ。
想定外な結果が出てきたら確認する街が変わる可能性があるけど」
裏に停めてあった2機の空滑機《グライダー》改のうちの右の機体に歩み寄って後ろの扉を開けながらファルナが説明した。

空滑機《グライダー》改を3機買ったってジジイが言っていたけど、停めてあった機体の跡を見るに第3騎士団だけで3機買ったのかな?
まあ、考えてみたら軍全部で3機っていうのは少なすぎだよな。
とは言え、まだ本格的に売り出してからそれ程時間も経っていないし、他の騎士団がどれだけ入手したかは知らないが。

普通の軍の移動に使うには搭載人数が全然足りないから、却って情報部みたいに少人数の働きが重要になる第三騎士団が一番空滑機グライダー改を活用するのかも知れないな。

既に他の人間は準備が出来ていたらしく、運転者ともう2人が中に座ってベルトを締めていた。

人数的にギリギリだな。
何かあったら転移門を使うのかね?
まあ、荷物を全部降ろせば重量的な話で言えばもう一人ぐらい載せられるけど。
一応かなりデブな人間が複数乗っても大丈夫な様に積載可能重量は平均的な成人男性4人プラス運転者の重量に更に余裕を持たせて作ってある。
まあ、席が無いので機体が動いた際に体が投げ出されない様、何かにしっかり掴まっておかないと危ないかも知れないが。

「この空滑機《グライダー》改は凄く良いわね。
転移門を使う際の予算申請も魔術院での書類提出もいらないし、大きな街以外に移動する為に馬車や馬に乗る必要もないし。
ウィルの知り合いが開発したって本当なの?」
シートベルトを締めながらファルナが言った。

「俺の『知り合い』じゃなくって、俺の『仲間』!!
俺の本業は魔具の開発者なんだ!!」
軍部に雇われる便利屋だとでも思っているのか??

「冗談よ。
虫除け用魔具を造ったって言っていたのをちゃんと覚えているわ。
こんな便利で大きな魔具をウィルが開発したなんて、信じられないだけよ」
あっさりファルナが笑いながら明かす。

おい。
大きさは関係ないだろうが。
まあ、確かに大きな魔具の開発の方が色々安全対策とかの確認作業が大変だが。

軍部の連絡係の人間が顔なじみで気軽っちゃあ気軽なんだが、あまり気軽に頼まれごとをされるようなことになると困るんだが・・・大丈夫かね?
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